〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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三日限定風紀委員長!折川くん

 

 

 

○月×日、この日は風紀委員会の強化合宿日

 

元より戦闘経験の豊富な二、三年生の戦闘能力を更に高める為の訓練である

 

……というのは建前で、本当は先輩達が留守の間一年生達がどこまでやれるかチェックするのが真の目的

 

 

 

「というわけで!!!三日間だけ風紀委員長に任命された折川酒泉です!!!」

 

「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」

 

「……はぁ」

 

 

 

そんな事も露知らず、ドヤ顔で自信満々オーラを放ちながら〝本日の主役〟と書かれた襷を掛ける酒泉

 

その横でチナツは可哀想なものを見る様な目で溜め息を吐くのだった

 

 

 

 

 

 

 

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「今日から三日間、先輩方が強化合宿で活動を一時中断する事になった!そして……俺達一年生はその穴埋めを任された精鋭部隊だ!分かるか!?期待されてんだぞ!?俺達になら任せてもいいって思われてんだからな!」

 

「今日の酒泉君はやけにテンションが高いですね……」

 

 

それも無理はないか、とチナツは前日の出来事を思い出す

 

突如強化合宿が決まったとヒナから宣告を受ける酒泉、その際に風紀委員長の代理は酒泉に任せると直々に頼まれたのだ

 

誰よりも何よりもヒナを慕っている酒泉にとってはその言葉だけで白飯四合はイケるほど嬉しかっただろう、なんなら各々の尊敬する先輩に期待されてるというだけで他の一年組までテンションが上がっている

 

 

「申し上げます!旧校舎に温泉開発部が現れましたぁ!」

 

「ダニィ!?早速温泉開発部を征伐しに出掛ける!後に続け、チナリー!」

 

「誰がチナリーですか……せめて名前で呼んでくださいよ」

 

 

部屋の扉を開けて声高らかに報告を済ませる風紀委員

早速発生したトラブルに対処すべく、酒泉はヒナから預かった大切な大切なコートを羽織って風紀委員の長として出動────

 

 

「ぐ、ぬぬ……」

 

 

羽織って……出動……

 

 

「ぐぬぬぬぬぬ────ごめん、誰かこれ椅子に掛けといてくれない?」

 

 

流石にサイズが合わなかったので部屋に置いてから出動した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ゲヘナのおおおおおお!!!風紀委員長はああああああ!!!この俺だあああああああ!!!」

 

 

 

ちゃああああああ!!!と謎の奇声を発しながら突撃する酒泉、これで十数人の不良相手に無双出来ているというのだから大したものだろう

 

 

「しゅ、酒泉君に続いてくださ───ひいっ!?」

 

「酒泉!我らが癒し枠の笹木ちゃんが狙われたぁ!」

 

「笹木さん!俺について来ると危ないから遠くから援護してくれ!こっちは一人で平気だから!」

 

「ひゃ、ひゃいぃ……」

 

「うわあ!?お姫様抱っこで助けられた笹木ちゃんが煙吹いて倒れたぁ!」

 

「なんで!?」

 

 

強化合宿の期間中は先輩達が居ない為、その穴を埋めるべく大半の一年生達が前線に駆り出される

 

しかし当然中には戦闘が苦手な者、戦闘こそ可能だが経験の薄い者も混じっている

 

 

「ぎゃーっす!」

 

「うわー!燃やされるー!?」

 

「やばっ、マガジン落とし……ぬああああああっ!?」

 

 

非力な者、現場慣れしていない者、先ずはそういった生徒達から狙われていく

 

少しでも敵戦力を削った後で残された厄介な実力者を数の暴力で押し潰す、それが戦場の基本的なセオリーの一つ────尤も、それが通じるのは戦力差が離れすぎていない場合だけだが

 

 

「な、なんだ!?弾が弾かれ───ぐぅお!?」

 

「お、折川酒泉が来たぞおおおおおおお!!!」

 

「退避!退避いいいいいいいっ!」

 

 

比較的戦闘に向いていないであろう仲間達が狙われる、それを理解していた酒泉は真っ先に非戦闘員組の援護に向かっていた

 

結果的に行動を読まれていた温泉開発部は瞬く間に制圧されていき、逆に風紀委員会による数の暴力を食らうのだった

 

 

「部長!こっち来たよー!」

 

「もうさァッ無理だよ!勝ち方わかんないんだからさァッ!」

 

 

泣きわめきながらも部員の手前裸足で逃げ出す訳にはいかないカスミ、彼女は両腕をグルグルと回しながら果敢に特攻していった

 

 

「私が部長だぁ!ちゃああああああ────ふおおっ!?」

 

「もう終わりかぁ?」

 

 

数秒後、そこには一瞬で制圧されて床に顔を押し付けられるカスミの姿があったとか

 

 

 

 

 

 

 

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「温泉開発部の馬鹿共を牢にぶち込んだら最低でも五人は常に見張りにつけとけよー、じゃないとすぐ脱走するからなー」

 

「あの瓦礫どうすんのー?」

 

「あれはそのままでいい、万魔殿への報告済ませたら皆で片付けるから」

 

「……酒泉は何してんの?」

 

「負傷者の手当て、今日先輩達いなくて火宮さんだけじゃ手が足らんから……ほい、完了っと」

 

「えへへ……酒泉君に絆創膏貰っちゃった……」

 

「よかったねー笹木ちゃん」

 

「おーいクソボケー!不発弾発見したぞー!」

 

「消火器持ってきてから処理してくれ、あとクソボケじゃなくて風紀委員長と呼べ」

 

「クソボケー、なんか鬼怒川カスミ達の帰還を待ってる部下達が他の拠点で待機してるらしいけどどうするー?」

 

「んー……流石に皆に連戦を強いるのはキツいか……?しゃーない、とりあえず俺一人で制圧してくるから皆は事後処理の方頼んだわ」

 

「……なんか悪いね」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

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三日限定風紀委員長・二日目

 

 

 

 

「お、風紀委員長(仮)じゃん」

 

「ほんとだー、おはよー風紀委員長(仮)」

 

「調子はどうだ?風紀委員長(仮)」

 

「おはよう、そして構え風紀委員長(笑)」

 

「今誰か俺を笑ったか?」

 

 

折川酒泉が一時的に風紀委員長に任命された、その噂は不良達の間で一瞬で広まった

 

しかし一方で特に悪いことをしている訳でもないので風紀委員を恐れる必要のない酒泉のクラスメイト達は〝へーそうなんだー〟くらいの感覚だった

 

 

「で?今んとこどうなの?風紀委員長の仕事はさ」

 

「やっぱ疲れたり?」

 

「まあな、戦闘後の書類作成だったり風紀委員長しか触っちゃいけない仕事が多かったりで大変だなーとは思ったよ……まだ一日しか経験してないから空崎さんほど大変な思いはしてないけどな」

 

 

適当に万魔殿からの小言を聞き流しながら仕事に戻り、戦闘が発生すればすぐ現場に駆け付けて戦闘終了後にまた万魔殿からの小言を聞き流す

 

昨日一日の酒泉の行動はこれの繰り返しだった

 

 

「今日の予定はどんな感じ?」

 

「まずはまた問題児共が結託して何か企んでるってタレコミが入ったから怪しそうな現場を巡回して、次は来週万魔殿と有権者のお偉いさんが会議するらしいからその会場を見回って、そんで次は……」

 

「オーケー把握、つまり忙しいのね」

 

「なーんだ、最近出来たタピオカ屋にでも誘おうかと思ってたのに」

 

「ああ、駅近に出来たあれ?開店初日に行ったわ」

 

「はっや」

 

「こいつ絶対女子とのデート中に〝ここ来たことあるわー〟とか言っちゃうタイプでしょ」

 

「しかも他の女と一緒に来てたパターンなんだよね」

 

「それが発覚して修羅場に……」

 

「脳内で勝手に変なストーリー作るんじゃねえ」

 

 

折川酒泉と言えばクソボケ、クソボケと言えば折川酒泉、そんな事など酒泉のクラスメイト達にとっては周知の事実

 

そしてそんな事が分かり切っているが故に彼女達は酒泉にクソボケ対応をされても大して気にしない、だって彼女達は〝折川はないでしょーwww〟ガールだから

 

解説しよう!〝折川はないでしょーwww〟ガールとはクラス内で付き合うなら誰?という話題で酒泉の名前が出る度に〝いやーアイツだけはないわーwww〟と必ず否定してくる女である……だからどうだという話でもないが

 

 

「んで?次はいつ予定が空くのさ」

 

「〝一応〟明後日が休みってことになってる」

 

「一応かぁ……」

 

「いつ呼び出されるか分からないもんね」

 

「そうそう、もしかしたらこうして駄弁っている間にもどっかで誰かが暴れてるかも────」

 

 

 

 

 

 

 

「申し上げます!ゲヘナ自治区の商店街で美食研究会が暴れ出しましたぁ!」

 

「ダニィ!?早速美食研究会を征伐しに出掛ける!後に続け、タキリー!」

 

「はい……」

 

 

 

突如開かれる教室の扉、そして叫ぶ風紀委員

 

早速立てた旗を回収してしまった酒泉は急ぎ足で教室を飛び出し、報告してきた風紀委員と共に現場へと向かっていった

 

因みにタキリーと呼ばれた少女の本当の名前は滝代という、特徴が無いのが特徴である

 

 

 

 

 

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「オラァ!!顔面キック!!」

 

「ぷぎゅっ……もう!相変わらず女性に対しての手加減が───」「できぬぅ!!!」

 

「ふおおっ!?」

 

「今だー!かかれー!」

 

「おー!」

 

 

どこぞの温泉開発部部長と同じように顔を床に押し付けられるハルナ、その隙に多くの一年生達がハルナを取り押さえるべく飛び掛かる

 

まずはリーダー格の確保に成功、これで少しは楽に……ならない

 

 

「うあああああっ!?」

 

「駄目だ!コイツら相変わらず無駄に強い!」

 

 

酒泉が直接相手することによってハルナを下す事はできたものの、その間ハルナ以外の部員は他の一年生達に押し付けられていた

 

アカリが、イズミが、ジュンコが、各々が風紀委員達を各個撃破していく

 

 

「助けにきましたよ、ハルナさん☆」

 

「あれ?今日はすんなりいけたね~!」

 

「風紀委員の二年生と三年生が全員出張ってるって話、本当だったんだ……てっきり問題児達を油断させる為の罠かと思ってた」

 

 

 

「っ!医療班、今すぐハルナさんの身柄を預かって学園の独房に向かってください!彼女だけは奪還させてはいけません!」

 

「りょ、りょうかい……わ~!?」

 

「いたっ!?ジュンコちゃん意外と強い!?」

 

「意外とって何よ!意外とって!」

 

 

先輩達の協力や指示を得られない一年生達が次々と制圧されていく

 

その中でもチナツを筆頭に比較的戦闘慣れしている者達が辛うじて持ちこたえているものの、それでも美食研究会の勢いは止まらず少しずつ戦況が押し返されていく

 

 

「俺が前に出るから全員援護を!残りの三人も俺が仕留める!」

 

「わ、分かった────きゃあっ!?」

 

「な、なになに!?何が起きたの!?」

 

「黒舘ハルナが爆弾を隠し持ってたぞ!」

 

「ヤバい!逃げられる!合流されるぞ!」

 

 

 

 

「────上等!四人纏めて仕留めるぞ!」

 

 

四人纏めて仕留める、それはヤケクソでも無謀でもなく確かに酒泉の実力に見合った発言だった

今の彼ならヒナほどスムーズには行かなくとも美食研究会だろうと便利屋だろうと纏めて相手にできる実力を持っている

 

 

「……っ?」

 

 

その筈なのに、チナツは酒泉に違和感を覚えた

 

それは酒泉のほんの微かな呼吸音に対する疑問

 

おかしい、彼はこんなに早くスタミナが切れるような人間だっただろうか

 

(いつもと違う点があるとすれば最近妙にテンションが高いことくらい……?)

 

 

そういえば、酒泉が騒げば騒ぐほど先輩達の不在によって不安が募っていた一年生達が調子を取り戻していたような

 

そういえば、酒泉が騒げば騒ぐほど戦場での敵の視線が酒泉に集められて結果的に仲間達の負傷が抑えられていたような

 

未熟な一年だけの戦闘、もっと怪我人が続出してもおかしくなかった筈なのにそれを抑えられたのは多分────

 

 

「……いえ、今はそれよりも目の前の敵の対処ですね」

 

 

結局、美食研究会はこの日もヒナが居る時と変わらず風紀委員会によって取り押さえられた

 

ただ、酒泉が一人で戦っている時よりも戦闘終了に時間が掛かってしまったとかなんとか

 

 

 

 

 

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三日限定風紀委員長・最終日

 

 

 

 

「ふわぁ~あ……あー眠────」

 

「申し上げます!ブラックマーケット付近で便利屋が暴れてましたぁ!」

 

「ダニィ!?早速便利屋68を征伐しに出掛ける!後に続け、チナリー!」

 

「……はい」

 

 

特にツッコミを入れることもなく酒泉に付き従うチナツ、その目は酒泉の全体の姿を捉えていた

 

先程の欠伸からも察せられる通り、間違いなく寝不足

 

足取りもそこまで露骨ではないもののほんの少しだけふらついているようにも見える

 

少々乱れた制服にいつの間にか頬に付いていた掠り傷、これは先日か先々日の戦闘中に出来た傷だろうか

 

 

「……酒泉君、もしかして疲れてますか?」

 

「え?俺が?……いや、特に何も感じないけど?なんで?」

 

「いえ、それならいいのですが……」

 

 

(多分嘘は吐いてない、でも……)

 

 

疲れてる自覚が無いか、疲れるような事をした自覚が無いか、或いは両方

 

パフォーマンスの低下量的には極僅か、恐らく戦闘への影響も殆ど感じない程度のものだろう

 

しかしチナツの観察眼はその極僅かを見逃さなかった、何故なら弱く脆かった頃の彼を治療してきたのは彼女自身なのだから

 

 

「あの……酒泉君、今回は一旦他の部員達に前線を任せてみては?」

 

「ん?一旦様子見しろって?……いやー、便利屋相手にそれは逆に危険っていうか……」

 

「……そうですか」

 

 

 

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「ええい!いい加減お縄につきやがれってんだ陸八魔ぁ!」

 

「そう言われて素直に捕まるアウトローがどこの世界に存在するのよ!」

 

「うるせえ!アンタなんか精々ハーフボイルド程度だろうが!」

 

「だ、誰が半人前ですってええええ!?」

 

 

 

(……また最前線で戦ってる)

 

 

無論、それが一番の最善策だとチナツも理解している。学園に残った風紀委員メンバーの中で陸八魔アルに対抗できるのは酒泉しかいないのだから

 

チナツは別に酒泉がアルと戦っている事に対して危機感を抱いている訳ではない、問題は別の方にある

 

 

「アル様の邪魔をする人はみんな消えてください消えてください消えてください消えてください……!!!」

 

「やばっ……こっちに突っ込んで────」

 

「っらあ!俺を無視してんじゃねえぞ雑草マニアぁ!やーい!お前の社長ポンコツアウトロー!」

 

「ア、アル様を馬鹿にしないでください……!」

 

「悔しかったらこっちまで───っ、待て!?そっちに回り込むな!?浅黄さんが仕掛けた爆弾があるぞ!?」

 

「うおっ!?ほ、ほんとだ……」

 

「ちぇー!あと少しで纏めてボンッ!だったのになー」

 

 

ハルカの注意を向けさせるように攻撃と口撃を仕掛けながら、ムツキの罠に気付かず突っ込もうとする仲間達に制止の声を掛ける酒泉

 

彼が次に目にしたのは自身の片耳を片手で塞ぎながら、他の風紀委員の近くで銃口を空に向けるカヨコの姿だった

 

 

「……えっ?な、何を───」

 

「遅い」

 

 

一人の風紀委員が困惑したまま立ち尽くす

 

それも無理はないだろう、カヨコの銃口は自身の方に向けられていないのだから

 

何もない普通の青空、そんな所に弾を放ったところで────

 

 

「っ、笹木さん!耳塞げ!」

 

「え?で、でも────きゃっ!?」

 

 

そんな仲間の耳を酒泉が咄嗟に自身の両手で塞ぐ。すると次の瞬間、酒泉の耳に痛くなる程の轟音が襲い掛かる

 

まるで脳まで響くような、音量がマックスに設定された映画館の音響設備を超至近距離で聞いてもこうはならないであろう音の暴力を酒泉が味わう

 

 

「っ────効かねえんだよ、タコ!」

 

「なっ……っ!?」

 

が、やられたのは耳だけ、彼の武器である〝眼〟は健在

 

未だにキンキンと高鳴る耳の痛みを無視して突進を仕掛けると、捨て身の行動に対して驚愕しているカヨコの両手を掴んで押し倒すような形で拘束する

 

 

「オラ!まず一人目!次は────って、やべぇ!?」

 

 

この調子で次の敵も、そう考えながら酒泉が振り向くとそこにはムツキに良いように翻弄されてハルカに力押しで強引に突破されている仲間達の姿があった

 

 

「すぐ援護に……っとお!?」

 

「どうしたの!?貴方が狙っていたのは私のはずよ!酒泉!」

 

 

酒泉は仲間の元へ駆け付けようとするが、アルが道を塞ぐように立ちはだかる事でそれは叶わなくなる

 

折川酒泉が〝強者〟の領域に足を踏み入れてからは一度も起こり得なかった筈の事態、問題児達への苦戦

 

それがなぜ今更起きてしまったのか

 

 

「ヤバいって!あのムツキって子倒さないと爆弾まみれにされちゃうよ!?」

 

「いやいやいや!それより先にハルカちゃん倒さないとまともに相手できないでしょ!?」

 

「ね、ねえ!鬼方先輩立ち上がっちゃったけどこれ不味くない!?酒泉のやつ二対一だよ!?」

 

「あいつがそのくらいで負けるはずないだろ!?むしろ助けに行ったら足手まとい確定だ!」

 

 

もしこの場にヒナが居ればいとも容易く敵を纏めて制圧していただろう

 

もしこの場にイオリが居ればムツキの爆弾やハルカの猛攻も恐れず果敢に突っ込んだだろう

 

もしこの場にアコが居れば普段からヒナをサポートしているように敵を追い詰めるのに最適な地形や陣形を教えてくれただろう

 

そうでなくとも戦闘経験豊富な他の先輩方が居れば今より何倍もマシな戦況になっていただろう

 

だが、それは全て〝たられば〟でしかない────この場に居るのは未熟な一年生だけだ

 

 

(……なるほど、これが〝ヒナ委員長以外は大したことのない風紀委員会〟ですか)

 

 

どこで聞いたか、誰に言われたか、それはもう思い出せないが確かに記憶に残っている悪評がチナツの脳裏に浮かび上がる

 

なんと情けない、この場で唯一まともに動けているのは鬼方カヨコと陸八魔アルの二人を相手に優勢を貫いている彼だけ

 

そんな彼も隙を伺っては仲間達を援護しているせいでイマイチ決定打に欠けてしまっている

 

 

(ヒナ委員長、やっと貴女の思惑が分かりました。貴女が本当に試したかったのは現時点での一年生の実力だけじゃなく、もっと先の未来まで────)

 

 

結局、便利屋との戦闘は一時間を越えて二時間近くまで長引いたとか

 

また、この日も酒泉が一人で便利屋と戦っている時より制圧に時間が掛かっていたとか

 

 

 

 

 

 

 

 

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四日目

 

折川酒泉、風紀委員長代理終了

 

風紀委員会、二年三年共に帰還

 

 

「それで?どうだった?二.三年の居ない風紀委員会は」

 

「ええ……嫌というほど分からされました、自分自身の不甲斐なさを」

 

 

この日、チナツは一人だけ執務室に呼び出されていた

 

理由は今回の件の感想を聞くため────だけではない

 

 

「それだけですか?チナツ、貴女の賢さなら我々の本当の狙いに気が付いていると思っていたのですが……」

 

「……酒泉君の事ですか?」

 

「なんだ、ちゃんと分かってるじゃないですか」

 

 

挑発するような言い方にチナツがむっとしながら答えると、アコは満足そうに頷いた

 

 

「ねえチナツ、酒泉の行動に何か違和感を覚えなかった?」

 

「その……普段の酒泉君なら危なげなく勝てている相手にも苦戦しているように見えました」

 

「じゃあその原因はなんだと思う?……先に言っておくと、他の一年生達が足を引っ張ってるとかじゃないから」

 

「……はい、分かってます」

 

 

確かに他の一年生は実力不足かもしれない、だがそうだとしても酒泉が仲間を無視して普段通りに戦っていれば便利屋にも美食研究会にもあそこまで苦戦する事はなかったはず

 

そんな彼が苦戦している場面は決まって同じ状況で────

 

 

「恐らく酒泉君は……仲間を守るという行為に固執していたのかと」

 

「正解よ」

 

 

やはり、と

 

チナツの頭の中でパズルのピースが当てはまる

 

先輩達が不在だったこの三日の間に酒泉は温泉開発部・美食研究会・便利屋68といったゲヘナの中でもトップクラスの問題児達と戦闘を行った

 

普段ならたった一人で彼女達を追い詰める事ができる筈の酒泉が大人数で挑んでいるにも関わらず逆に苦戦してしまったのは仲間を気に掛けすぎたからだろう

 

 

「仲間を引っ張らないと、支えないと、守らないと……そんな責任感が無意識のうちに酒泉の中に沸いていたんだと思う」

 

「でも、どうして急に……」

 

「それは……私のせい、だと思う」

 

「……え?」

 

「今まで酒泉の中での〝支える〟の対象は主に風紀委員会のトップである私に向けられていたけど、その私が一時的に風紀委員会から外れたから……その対象が仲間達全員に向けられてしまったんだと思う」

 

 

要するに折川酒泉は他の部員達に対しても空崎ヒナと同じように接してしまっていた

 

ただでさえ心を許した者に尽くしやすい男が責任ある立場に座ってしまった結果、その献身の対象が身内全体に広がってしまった

 

それは酒泉の優しさが原因────などではない

 

 

「酒泉のそれは優しさではなく〝甘さ〟よ、他の子達の肉体は酒泉なんかより圧倒的に頑丈なんだから助けようなんて思わず敵を殲滅する事だけに集中すれば苦戦することもなかったのに」

 

「結構ハッキリ言うんですね……」

 

「当然よ」

 

 

優しさと甘さを履き違えた人間を〝愛してる〟という理由だけで擁護するほどヒナは甘くない、むしろ今のヒナは酒泉に若干の失望さえ覚えている

 

因みに若干がどれくらいかと言うとヒナの〝酒泉すきすきゲージ〟が10000ポイントから9999ポイントに下がった程度だ、この後〝でもやっぱり酒泉は優しいわね〟でプラス100ポイントされる予定である

 

 

「でも、他の人達と一緒に行動してる時はあそこまで露骨に仲間を守ったりはしてなかったのに……やはり私達一年生が頼りないからじゃ……」

 

「違う、それだけは絶対にあり得ない」

 

 

チナツの卑屈じみた言葉を即座に否定するヒナ

 

折川酒泉は仲間を軽んじる男などでは断じてない、彼の事を疑ってしまったとチナツは己の疑心暗鬼な心を恥じた

 

 

「……多分、一番の原因は酒泉の成長速度が早すぎる事にあると思う」

 

「……成長速度、ですか」

 

「あんのクソボケは毎回何かしらの事件に巻き込まれましたからね……ついでのように女も引っ掛けてましたけど」

 

「一年の内から幾度も修羅場を掻い潜ってきた酒泉はかなり実力を伸ばした筈よ、でもそれは酒泉の手の届く範囲が〝広がってしまった〟ってことでもあるの」

 

「手が届きそうなら伸ばしてしまうのが酒泉の〝悪いところ〟ですからね……多分、貴女達を舐めているとか当てにしてないとかではなく単純に反射的に助けてしまうのかと」

 

 

もし戦闘中にどこかで誰かが危機に陥っていたとして、助けるのが間に合わなそうなら酒泉はその誰かを見捨ててすぐに目の前の敵に向き直るだろう

 

それが出来る程度には酒泉の状況判断能力は成長しており、だからこそ今日まで生き延びる事ができたと言えるだろう

 

だが、今の酒泉なら大抵の危機的状況ならどうにかできる……否、できてしまう

 

つまり目の前で仲間が命の危機に陥っていたとしてそれを助けられる程の実力を手にしてしまった、そんな彼が敢えてピンチの仲間を見捨てるなんて事ができるだろうか?

 

「二年生や三年生はある程度自分達だけでも考えて戦うことができていたから、酒泉にとってはそこまで気に掛けすぎる存在でもなかったんだと思う。でも今回みたいに周りが風紀委員に成りたての子達ばかりだと……」

 

「守るものが増えたというより……守れるものが増えてしまったという感じなんですね」

 

 

仲間が大切だからこそ、一人で抱え込み、一人で戦い、一人で守ろうとしてしまう

 

それを実現できる程の実力が、酒泉の決意を助長させてしまう

 

まるで、嘗て広大な砂漠を一人で守ろうとした生徒の様に

 

 

「これは私の予想だけど……これから先、酒泉はもっと強くなっていくと思う。二年生に上がる頃には私と同じぐらい……ううん、下手すれば一年生の段階で私より強くなるかもしれない」

 

「そ、それは流石に……」

 

「無いって言い切れる?」

 

「……いえ」

 

 

現在進行形でヒナの実力に迫ろうとしている酒泉、その驚異の成長率を間近で目撃しているチナツは言葉を詰まらせる

 

 

「ゲヘナ学園の風紀委員長は誰よりも恐れられるべき存在でなければならない」

 

「分かってます、じゃないと無限に沸き続ける不良生徒達への抑止力になれませんもんね」

 

 

暴動が日常と化したこの学園が未だに崩壊していないのは空崎ヒナという〝最強〟が多くの生徒達に恐れられているから、つまり彼女自身が歩く抑止力である

 

だが、その抑止力ももうじきゲヘナ学園から卒業する。そうなると今までヒナの圧によって押さえ付けられていた不良達が嬉々として暴れ始めるだろう

 

「今の一年生の中で一番強いのは酒泉、二年後風紀委員長になる可能性が高いのは間違いなく彼よ」

 

「一応、これは酒泉が三年になっても風紀委員を続けていたらの話ですが……まあ責任感の強い彼の事ですし余程の事情でもない限り卒業まで続けることでしょう」

 

 

他にも戦闘が困難になる程の負傷を抱えてしまってやむを得ず風紀委員を辞める等の理由も考えられるが、流石にその考えを口に出すのは場の雰囲気を悪くすると思ったのかアコもヒナもそれ以上は話を広げなかった

 

そもそも、今の折川酒泉にそんな負傷を与えられる人間などヒナと同等かそれ以上の強者ぐらいなので変に思い悩む必要も無いが

 

 

「酒泉が風紀委員長になればきっと今回以上に部下達を守ろうとすると思う、でも今のままだといずれ敵にその〝甘さ〟を突かれてしまうわ」

 

「そこで必要になるのが彼の尻を引っぱたける存在なんですよ、本当は私がその役目を担ってもよかったのですが……私も委員長も来年には卒業しているので」

 

「ひ、引っぱたく……?」

 

「だからチナツ、その役目は貴女に任せるわ」

 

「わ、私ですか!?」

 

確かに酒泉が三年生になる頃にはヒナやアコだけじゃなく、イオリまでゲヘナから卒業しているだろう

 

となると残された人物の中で酒泉と最も親しかったチナツがその役を任せられるというのは極普通の考えなのかもしれない

 

 

「何も難しく考える必要はないんです、風紀委員長になっても酒泉が今と変わらぬまま一人で問題を抱え込もうとしていたら一発ぶん殴って〝ヒーローにでもなったつもりですか?大した風紀委員長様ですね〟って嫌味の一言でも二言でもぶつけてやればいいんですよ」

 

「尻を叩くから悪化してませんか……?」

 

「当然ですよ!自己犠牲癖が多少は改善されてきたかと思えば無駄に強くなってしまったせいで出来る事が増えて全部自分でやろうとして結果的にまた自己犠牲癖が悪化しそうになって……!」

 

「あ、あはは……」

 

 

ぐちぐちぐちぐちと酒泉への愚痴が止まらないアコ、チナツはその姿にぎゃおおおおん!!!と火を吹く怪獣の姿を幻視したとか

 

 

「それにしてもお二人とも遠征中だったのに妙に酒泉君の動向に詳しかったですね……報告書を読んだだけとはとても思えません」

 

「ええ、だって此方から一人スパイを送っていましたから」

 

「え」

 

「一年生の中に滝代って子がいるでしょ?あの子から私達がいない間の風紀委員の様子を逐一報告してもらってたのよ」

 

 

突然のカミングアウトに驚愕するチナツ、まさか裏でそんな事が行われていたとは知る由もなかった

 

 

「その、驚きました……まさかそこまで酒泉君の事を考えて行動していたとは」

 

「当然よ……酒泉が押し潰されちゃわないか心配だもの」

 

 

先程までほぼ無表情だったヒナが物憂げに呟くと、懐かしき記憶に思いを馳せるかのように天井を見上げる

 

 

「風紀委員会の仕事は自他共に認められるほど苛烈で険しい内容よ、そんな職場に今の一年生が進級しても残ってくれるかなんて誰にも分からないわ」

 

「……もしかしたら辞める人も出てくるかもしれませんね」

 

「私だって本当はこんな仕事漬けの生活なんて続けたくなかった、出来れば誰かと普通に遊んだり仮眠時間なんて気にせずずっと寝てたりしたかった、でも……私の場合は酒泉が来てくれたお陰で大分仕事量が減ったから途中で泣き出さずに済んだの」

 

 

何年も前の〝支えてほしい〟という言葉を有言実行してみせたどころか、今じゃ横に並ばれる勢いで成長を遂げている少年の姿を思い浮かべる

 

便利屋や美食研究会が暴れ出した時にヒナが直接現場に向かわなくてもよくなったというのはかなり大きな変化で、その間にヒナが心置きなく内勤に専念できるというのは彼女自身の負担を大きく軽減していた

 

 

「だけど酒泉にはそういう人がいない……〝私にとっての酒泉〟と同じような立場になってくれる人が存在しないの、だからチナツには可能な限り酒泉を助けてあげてほしい。酒泉が来る前の昔の私みたいに、勝手に抱え込んで勝手に折れそうになったら背中を支えてあげられるような……そんな存在に」

 

「無論、言われずとも最初からそのつもりです。今回の件で自身の実力不足を痛感しましたから……酒泉君が風紀委員長になる頃には彼のお尻をおもいっきり蹴り飛ばしてあげられるような、そんな存在になってみせます!」

 

 

いつの間にか〝支える〟から〝尻を蹴り飛ばす〟まで変わってしまったが、それで良いとヒナとアコが満足そうに頷いているのできっとチナツの決意は正しいのだろう

 

「……ところで、その……ずっと聞きたかったことがあるのですが……」

 

「なに?」

 

「さっきからずっとそこのソファでグッタリしているイオリは一体……」

 

「きくの……おそいよ……」

 

 

場の空気的に敢えて触れようとしなかったチナツが漸く疑問を口にする

 

制服はボロボロ、尻尾はへにょへにょ、髪の毛は結ぶ体力すら残っていないのかいつものツインテではなくロングに

 

実はチナツ達の会話の途中で小さく〝あー〟とか〝うー〟とか呻く程度には身体が限界だった

 

 

「さっき委員長が〝風紀委員長は恐れられるべき存在でなければならない〟って言ったの覚えてます?」

 

「は、はい……」

 

「ですから次期委員長候補であるイオリのことをヒナ委員長が直々に鍛えたのですよ」

 

 

ヒナ委員長が直々に、の言葉だけで地獄を想像できてしまったチナツは心の中でイオリに黙祷を捧げる「まだしんでない……」

 

一方で次期委員長として期待されているであろう事も同時に察して微笑ましそうな笑みでイオリを見つめる

 

 

「因みに鍛えたというのは具体的にはどの様に……」

 

「本気モードのヒナ委員長の頭に巻かれた鉢巻を奪い取る〝地獄の50本チャレンジ〟を行いました」

 

 

そう言いながらアコが取り出したのは〝あいあむ最強〟と書かれたデフォルメヒナの絵付き鉢巻(アコお手製)だった

 

それ以外に鉢巻が無かったので渋々それを使用していたが、そのせいでヒナはこんな鉢巻さっさと外してしまおうと本気を越えた本気でイオリに襲い掛かり50本チャレンジを終わらせようとしたのだとか

 

 

「つ、つまり50回分も委員長の本気を味わったんですね……それはイオリだってこうもなりますよ……」

 

「……38回よ」

 

「……え?」

 

「イオリは38回目で本気の私から鉢巻を奪ったわ」

 

 

瞬間、チナツの口が開いたまま塞がらなくなる

 

てっきり限界まで痛め付けられているものだと思っていたイオリは、限界に達する前に見事チャレンジを成功させてヒナから勝ち星を奪い取っていた

 

 

「本当は最初から最後まで一切鉢巻には触れさせないつもりだったけど……まさかここまで強くなってるなんてね」

 

「うん……いっぱいがんばった……」

 

「これなら当初の予定通り100本チャレンジにしてもよかったかもしれませんね」

 

「あこちゃんおに……あくま……よこちち……」

「私は横乳ではありません!!!」

 

「え?」

 

「……い、委員長?今の反応は一体……?」

 

「……ふふっ」

 

 

ぶつぶつと力無げに愚痴を吐き続けるイオリに近づくと、チナツはヒナとアコには聞こえないようにひそひそと耳打ちをした

 

 

「酒泉君に追い付くためにこっそり鍛えといてよかったですね」

 

「……しらない」

 

「酒泉君もきっと褒めてくれますよ?」

 

「……じゃあ、とことんほめさせる」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「えい!」

「ほいさ」

 

「きゃっ……」

 

「てい」

 

「あうっ」

 

 

ゲヘナ学園、放課後の体育館内にて

 

慣れない回し蹴りを放つチナツの足を受け流すと、酒泉はチナツのもう片足に自分の足を引っ掛けて転ばせる

 

そして尻餅をついたチナツの額にデコピンを軽く一発当てた

 

 

「また俺の勝ちっすね」

 

「うぅ……も、もう一回お願いします!」

 

「え?また?」

 

 

二人が戦っているのはチナツが酒泉に〝戦闘訓練をつけてほしい〟と頼んだから、たったそれだけだ

 

急に先生役を頼まれた酒泉は困惑こそしたものの、別段断る理由もなかったので快く受け入れた

 

 

「あの、これでもう十回は越えてますしそろそろ帰宅の準備をした方がいいのでは……火宮さんだって疲れてるだろうし」

 

「……いえ、私はまだいけます!」

 

 

一年生達が頑張ったご褒美として今日明日は一年生だけ風紀委員会の活動を休みにする、そう言われたというのにチナツはそれを拒んで校内に残り続けている

 

舐めるなと言わんばかりに差し伸べられる酒泉の手を振り払い、ファイティングポーズを取るチナツ

 

その明らかに慣れていないし見慣れてもいない姿に酒泉はより困惑を強める

 

はて、目の前の少女はこんな強さを追い求めるような性格をしていただろうか

 

 

(なんか心変わりでもあったかなぁ……)

 

 

酒泉を一人にしないため、酒泉を隣で支え続けるため、酒泉を守るため

 

いつか酒泉が一人で悩み事を抱え込もうとした時、その顔をぶん殴って尻を蹴り飛ばすため

 

そんな様々な理由でチナツが己を鍛えていることなど露知らず、酒泉はやる気に満ちた顔で木製ナイフを振りかざしてくるチナツを適当にいなすのだった

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