「急っすね……なんかありました?」
「別に?ただなんとなく気になっただけ」
仕事を中断して昼休憩中、市販で買ったであろうサンドイッチを食べながら銀鏡さんが尋ねてきた
そんな気になる程の事か?と思ったけどどうやら意外にも興味を集めたらしく、銀鏡さん以外の三人からも僅かな好奇の混じった眼差しを向けられた
「そうですね、名前には大抵意味が込められるものですが……」
「酒泉……酒と泉……この二つには一体どんな意味が込められているのでしょうか」
「……まあ、確かに〝なんとなく〟で付けるような名前じゃないのは確かですね」
適当に付けるにしてもそれこそもっとテンプレっぽい名前を選ぶだろ、例えば……やめておこう、これで名前をあげたらその名前を名付けられた人達に失礼な気がするし
どんな単純な名前でもその文字一つ一つに願いが込められているのなら唯一無二の個性と化すのだから
「一般的な名前じゃないかもしれないけど別に特殊すぎるって訳でもないよね、初見だとちょっと呼び方悩むけど」
「〝さかいずみ〟とか〝さけいずみ〟って呼ばれそうですよね」
「途端に名字っぽくなりますね……おりかわさかいずみ」
「名字名字だ……」
天雨さんが声に出して言うと改めて違和感ある名前だと感じてしまった
まあ〝おりかわ〟も〝さかいずみ〟もどちらとも名字感強い言葉だし、初対面の人にはそう呼ばれてもしゃーない
「……で?結局名前の由来はあるんですか?」
「あるにはありますけど……聞きたいですか?」
「俺の武勇伝?」
「イオリ、今のは全員思っても声に出さなかった言葉ですよ」
「ごめん……」
「……言わなくてよかった」
「……委員長?」
銀鏡さんのせいで微妙な空気が流れたところで一呼吸し、皆の注目を集める為にわざとらしく咳払いをする
これより語られるは折川酒泉の出生秘話……前世の方でいいよね?今世でどうやって生まれたのかは俺だって知らないんだし
ということで……
「お前達にも教えよう、酒泉誕生の秘密を……」
「いや、名前の由来だけでいいよ」
「あ、はい」
「……私は酒泉の事を知れるならなんでもいいけど」
「駄目ですよ委員長、この男を甘やかしたら調子に乗って仕事中でもベラベラ語り続けるに違いありません」
「……どうしよう、容易に想像できちゃった」
「嘘だ……空崎さんが俺を裏切るなんて……」
最近俺に向かってゲヘナイキリアルコールって吐いてくる奴が増えてきたんだけど俺ってそんなに調子に乗りやすいかな……少なくとも戦闘中の妙に高いテンションに関しては敵のペースを乱すための演技なんだけどな……
「仕方ないですね……じゃあ軽くパパっと説明しますよ。まず生まれた病院と生まれた時の身長と生まれた時の体重から────」
「軽くって言いましたよね?」
「冗談じゃあん……こほん、えーまず俺が生まれた頃には既に幾つか名前の候補がありまして、その中のどれを採用するかの議論が父さんと母さんの間で始まりました」
「議論?二人とも別々の意見だったの?」
「そうそう、普段は母さんの尻に敷かれている父さんもこればっかりは譲れんって言ったらしくてな」
子供に名を付けるというのはそれほど大きいイベントだという事だろう、俺はあんまパッとしないけど誰かと結婚して子供が生まれたらその感動を理解出来るようになるかもしれないな
……子供かぁ……カイナ、元気にしてるかなぁ
「……酒泉、多分だけど大丈夫だと思うよ」
「……ですね、信じましょうか」
「なーに二人だけ分かり合った様な雰囲気醸し出してるんですか」
「アコちゃんには教えないもーん、ねー」
「ねー」
「くっ……風紀委員の中でも特に頭の悪そうな二人のくせに……!」
遺憾である、俺も銀鏡さんも決して頭が悪いわけではない
銀鏡さんは単純に罠に引っ掛かりやすいだけだし、俺だって学園のテストで平均点以上は出せる……英語だけちょっと苦手だけど
少なくとも頭の悪そうな服を着ている天雨さんに比べたら俺達は遥かにマシだろう
「……な、なんですか人の胸をジロジロと見つめて!触らせませんからね!」
「話を戻しますよ……そうしてどっちが俺の名前を決めるか議論していた時、丁度その場にはじいちゃんとばあちゃんも出産祝いに来てたんですよね」
「無視された……!?」
「んで、何故かそこからじいちゃんとばあちゃんも名前付け議論に参戦して四人で名前を決める事になったらしいです」
一般的には妊娠中に名前を既に決めてあるって夫婦が多いらしいけど、うちの場合は父さんと母さんの間で最後まで互いに納得のいく名前が付けられなかったらしく、そのせいでじいちゃんばあちゃんが参戦する隙を与えてしまい、折川家は混沌を極めていた
「まず父さんの付けたかった名前が〝雄介〟なんですけどこの名前は父さんが好きだった特撮作品の主人公の名前で、その人みたいに笑顔の似合う男に育ってほしいからって理由で付けようとした……らしいです」
「へぇー……良い理由じゃん」
「でも〝酒泉〟の名前を付けたのはお義父さんじゃないんだ」
「……委員長?今なんか呼び方が……」
「気のせいよ」
「じゃあ酒泉君の名付け親はお母さんの方なんですか?」
「いや、母さんが付けようとしたのは〝まみず〟って名前だ、〝真〟に〝水〟で真水。意味は確か……いつまでも透き通る様な純粋な心を忘れないでほしいとかそんな感じだったと思う」
残念な事に純粋な心ではなくなってしまったしこの世界に来てからより他人に対して怒りだのを覚えるようになってしまったので結果的にはこの名前にならなくて良かったのかもしれない
特に原作開始時期はこっちもアリウス絡みのあれこれで感情がぐっちゃぐちゃだったし純粋からは程遠いだろう
「両親は〝酒泉〟とは名付けなかったんだね……じゃあ誰?酒泉のおじいちゃん?」
「……デッドヴォルケイノ」
「……え?」
「デッドヴォルケイノ、これがじいちゃんが付けようとした名前です」
「……嘘」
「ガチです。うちのじいちゃんはとにかく〝俺はまだ若い〟アピールしたがる人でしてね、意味もなく横文字を使いまくるような人だったんですよ」
「そ、それはまあ……なんとも……」
「ちなみに他にも候補が幾つもあったらしいですよ、〝アルティメイト〟だの〝プレーンシュガー〟だの〝デッドネーダー〟だの〝キトカロス〟だの〝エクレシア〟だの〝トーリスリッター〟だの〝キャバリアー〟だの〝ナラムシン〟だの〝ニンニクマシマシアブラカラメ〟だの〝オーレギオン〟だの……」
「もういいです!もういいですから!」
ばあちゃんが言うには〝じいちゃんだけには誰も絶対に名付けさせるつもりはなかった〟らしいので父さんと母さんもそこだけは同意してたのだろう
「……で、最後にばあちゃんが出した名前なんですけど……ここで〝酒泉〟が登場する訳ですね」
「やっと来た……」
「……それで?結局どういう意味で付けられた名前なの?」
「……女を……」
「……女を?」
「沢山の女を酔わせて溺れさせる男らしい男に育つようにって……酒の泉って名前にしたとか……」
「「「「…………」」」」
名前の由来を出した瞬間、俺以外の全員が絶句した
分かってる、皆が今考えている事は分かってる、どうせ〝こんなモブに女を酔わせられるはずないだろ〟とか言いたいんだろ?別にいいさ、少なくともゲヘナ以外の生徒は二名ほど酔わせた事あるし
まあ、どっちも自分からフッたんだけどな!……本当にごめんなさい
「そんでまあ、色んな名前を出したは良いものの結局誰一人として意見を譲ろうとはしなかったらしく……最後はもう俺に決めてもらおうとそれぞれの名前が書かれた紙を用意したとか」
「えぇ……それでどうやって決めたのさ……」
「いや、なんか……〝酒泉〟って名前の書かれた紙が掲げられた時だけ俺が大はしゃぎしてたらしくて、それ以外の時は大号泣していたとか……」
「へぇ?赤子の頃も今も落ち着きがないのは大して変わらないんですねぇ……」
「天雨さんこそもう少し落ち着きのある服を着てくださいよ」
「はい!?どういう意味ですかそれ!?」
さて、これにて折川酒泉誕生秘話はおしまい
なんか最終的に滅茶苦茶チャラい意味の名前になってしまったが赤子の俺が望んだ事なので文句は言えまい……まあ、別に名前絡みの事で困った事なんて一度も無いし嫌な名前だったって訳でもないけど
それに前世から何も持ち越せなかった俺からすればこの名前は唯一残された前世との繋がりだしな、名前なんてそこら中にありふれたものを大事にしていこうと思えるようになったのは間違いなく良い事だろう
「言葉には力があると言いますが……まさかこれ程とは」
「まるで言霊ですね……」
「はい?なんです?まさか俺が〝沢山〟の女性を酔わせてるって?……ははっ!まっさかー!」
「……皆、そろそろ仕事を再開するわよ」
「はーい」
「あれ?どうして皆無視するんですか?おーい?天雨さーん?」
「話しかけないでください、クソボケが移ります」
「火宮さーん?」
「馬鹿に付ける薬はありませんがクソボケを治す薬はもっとありません」
「……銀鏡さーん?」
「ばーか」
「…………そ、空崎さん!」
「……」
「無視!?」
まさか今更例のウイルスにかかるとは思ってもみませんでした、今は無事治りました
あ、次に大大大好きの方に投稿する話なんですが本編では酒泉君と絡みの無かった人の話にしようと思ってます