〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

328 / 514
ホワイトデーに遅れた男、スパイダーマッ!!!

ヒナちゃの服装はローソンコラボの私服をイメージしてます


ホワイトデーのデート、略してホワイトデート

 

 

 

 

「肌良し!歯磨き良し!服装良し!髪の毛良し!待ち合わせ場所も合ってる!」

 

 

手鏡を見て重要箇所を一個一個丁寧にチェックしていく……うん、今日もいつも通りの折川酒泉君だ

 

本日はホワイトデー、つまりバレンタインの日に交わした空崎さんとの約束を果たす日

 

「……人集まってきたなー」

 

 

デート場所に選んだのはショッピングモール、今日が日曜というのもあって一般客が多い

 

ちなみに俺が女の子と二人で出掛ける際のレパートリーは遊園地かスイーツ店かショッピングモールぐらいしかない、必死に知恵を振り絞った結果がこれです

 

ま、まあ……変に気合い入れてズレた場所選ぶよりは断然良いだろうからセーフだろ

 

 

「さて、この後の予定はっと……」

 

 

今回の外出は一応〝デート〟という事になっているので俺なりにプランを立ててきた

 

まずは適当にショッピングモールを回りながらお買い物!次は空崎さんが行きたい店で昼食!次はこのショッピングモール内にある映画館で最近話題の恋愛映画を観る!それでちょっとだけ適当にブラブラしながら最後は……

 

 

「……うん、最後はやっぱ────ん?」

 

 

恋愛初心者丸出しのテンプレプランを頭の中で思い浮かべていると、前方から空崎さん特有の刺々しい紫色のヘイローが接近してくるのが見えた

 

身体の小ささ故に数人のお客さん達の後ろに姿が隠れていたが、空崎さんの前を歩いているお客さん達が散らばるとその全体像が明らかとなった

 

 

「おーい!空崎さーん!こっちで────」

 

俺の言葉はそこで止まった、何故なら目の前の少女に心奪われたからだ

 

黄色いリボンと一体になった青色のワンピース、ちっちゃな手で持っているちっちゃな水色ポーチ

 

特に変わった衣装という訳でもないのに、俺の視線は釘付けに────

 

 

「居た……ごめん酒泉、待った?」

 

「────は!?い、いえ!さっき来たばかりです!」

 

 

俺の姿を見つけた途端にとてとてと小走りで駆け寄り、下から俺の顔を覗いてくる空崎さん

 

その一連の行動全てが愛らしすぎて思わず声が上擦ってしまう、単純すぎる男ですまない

 

 

「そう?ならいいけど……」

 

「はい……あ、あの!空崎さん!」

 

「?」

 

「今日の私服……ににににににに似合ってますな!」

 

「ますな?」

 

「失礼!かみまみた!」

 

 

よく分からん緊張感のせいで噛んでしまい、それを訂正しようとしてまた噛んでしまう

 

あかん、なんかもうドチャクソに胸が痛い、つーか心臓がさっきからずっとうるさい、止めてやろうかな

 

 

「ふふっ……何をそんなに慌ててるのよ、でも……ありがとう」

 

 

空崎さんは照れくさそうに笑うと人差し指で自らの前髪をくるくると弄り始めた、え?照れ隠し?かわいっ

 

待って、空崎さんってこんなに可愛いの?いや可愛いのは元々なんだけどさ、でも可愛さに磨きが掛かって更に可愛くなってる気がする

 

ちげーよ磨きが掛かってとかじゃねーよ元々ピカピカだわ空崎さんは、ふざけたこと言ってんじゃねえぞ折川酒泉

 

 

「ああ、ありがたやありがたや……」

 

「な、なに?どうして急に拝み出したの……?」

 

「気にしないでください、ただ目の前の天使に祈りを捧げているだけですから」

 

「天使?……そんなのどこにもいないけど」

 

 

は?なんだこの人?自分が天使である自覚を持ってないとか舐めてんのか?さては自分の可愛さを一つも理解してないな?

 

あーあ、完全に世の空崎ヒナファンを敵に回したな……空崎ヒナ本人でありながら空崎ヒナの可愛さが分からないとか勿体なさすぎる

 

 

「すみません、大天使と見間違えてました……じゃあそろそろデート開始といきましょうか」

 

「う、うん……」

 

 

空崎さんは困惑しつつも俺の横に並んで一緒に歩き始めた、あと然り気無く手を握られた

 

大天使で小悪魔ってなんだよ、バルカディアスか?

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

────────

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

適当に駄弁りながら歩いていると一番最初に辿り着いたのはファンシーグッズの販売店だった、やはりファンシーというだけあって熊やら兎やらのデフォルメ人形が沢山置かれている

 

そんな可愛らしいキャラクター達の中でも特に一際目立つ存在が光を放ちながら堂々と台座に居座っていた

 

 

「……ねえ酒泉、あれって……」

 

「あれは等身大スカルマンぬいぐるみっすね、モモフレで一番可愛いキャラクターです」

 

 

異論は認める……が、俺の中での一位は絶対に揺るがない

 

最初は白洲さんに布教されてなんとなく部屋に飾っていただけのマスコットの筈が、いつの間にか俺が個人的に可愛いと思っているキャラクターランキング全作品部門でも上位の存在になっていた

 

現在俺の脳内で一位の座をシマエナガくんと奪い合っている最中である、ちなみにこのランキングに人間は入っていない

 

「〝ご自由におさわりください〟か……空崎さん、ちょっと行ってきてもいいですか?行ってきますね」

 

「返事する前に行ってる……」

 

 

両腕で思いっきり抱き締めてみるとスカルマンの顔に俺の腕が埋め込まれた、柔らかすぎるだろコイツ

 

こんなにも愛らしい生き物を教えてくれた白洲さんには感謝しなければ……あ、ペロロ様は別に布教しなくていいです

 

「やーらけー……」

 

「……可愛い」

 

「お?空崎さんもスカルマンの魅力に気づいちゃいました?」

 

「そっちじゃない」

 

「?」

 

 

そっちじゃない……別のぬいぐるみの事か?なんだ、空崎さんにもスカルマンを布教しようと思ったのに……

 

 

「酒泉ってぬいぐるみが好きなの?」

 

「ぬいぐるみに限らずモフモフした奴とかちっこい奴とかは全体的に好きですね……まあ、自分のこういう一面を自覚したのってつい最近ですけど」

 

 

シマエナガくんにスカルマンの着ぐるみを着せてみたいと思ってる、どうも折川酒泉です

 

かわいい×かわいい=最強、かわいいだけで良いに決まってんだろ上等だろ

 

「……」

 

「あっ……俺のスカルマンが……」

 

 

自分の中でかんぺき~な数式を浮かべていると突如空崎さんが等身大スカルマンぬいぐるみを奪い取ってしまった

 

空崎さんもモフモフしたかったのか……なんて思ってたらそのままスカルマンを元々置いてあった場所に戻してしまった

 

一体何がしたいのか尋ねようとしたが、それより先に空崎さんは俺に背を向けて全身を預ける様にポスリと凭れ掛かってきた

 

 

「っと……空崎さん?どうしたんですか?」

 

「…………」

 

「どこか具合でも……」

 

「……わ、私も」

 

「……はい?」

 

「私も小さくて髪の毛とかふわふわしてるけど……抱き締めなくていいの……?」

 

 

上目遣いで此方の顔をチラチラと窺ってくる空崎さん、照れやら不安やらが混じったその表情が一瞬で赤く染まる

 

これはなんだ、つまりあれか?空崎さんなりの可愛いイタズラか?でもこのソワソワしてる感じ、実は普通に抱き締められ待ちしてないか?

 

……おいおいおい、おいおいおいおいおいおい

 

 

抱き締めたいなぁ!!!空崎さん!!!

 

 

「この気持ち、正しく────ん゛ん゛!」

 

「しゅ、酒泉?どうしたの?」

 

「気にしないでください、ちょっと己を律しただけなんで」

 

セーフ……危うく感情のまま空崎さんを抱き締めてとんでもない発言をしてしまうところだったぜ

 

今のは空崎さんの〝じゃれあいたい〟ムーブに決まっている、それを本気で受け取ってしまえば通報されて一瞬で牢獄という名の人生の墓場にぶち込まれていただろう

 

人の感情を正確に感じ取れるミスターニュータイプですまない、これには樋口もニッコリ

 

 

「ははっ、空崎さんもそういう冗談言えるようになったんですね。なんか安心しましたよ」

 

「……別に冗談のつもりはなかったけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

────────

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

「ここは……プリクラコーナー?」

 

「ご丁寧に化粧台まで設置されてますね……」

 

 

次に目に付いたのはプリクラコーナー、それもゲーセンとかによく置かれているシンプルなのではなくヘアアイロンやらドライヤーやらも用意されてる本格的なやつだった

 

プリクラ一つ撮るのにここまで気合い入れるのか……どんな物にでも需要って生まれるんだなーとちょっと感心した、まあ価値観なんて人それぞれだからな

 

 

「……どうする?酒泉が撮りたいなら撮ってもいいけど」

 

「そうですね……せっかくなんで思い出残していきましょうか」

 

「そう、じゃあまずは身嗜みから整えましょう」

 

 

そう言うと空崎さんは空いている化粧台の前に立ってヘアアイロンを手に持ち、慣れた手付きで自分の髪の毛をクルクルと巻き始めた

 

正直意外だな……空崎さんはあまりこういう店には来ないと思ってたから……

 

 

「なんか妙に手慣れてますね」

 

「うん、キラキラ部の二人と似たようなお店に行ったことあるから」

 

「ああ、あの二人と……いつの間にそんな仲良くなってたんです?」

 

「……いつだろ?」

 

「えぇ……」

 

 

どうやら空崎さん自身気付かぬうちに距離が縮まっていたらしい、流石は陽のオーラを纏う者達だ……やっぱりオタクに優しいギャルは実在したんだ!

 

 

「それより酒泉も身嗜み整えなくていいの?一応軽いコスプレグッズも用意されてるみたいだけど……」

 

「んー……じゃあ俺はこのネズミの耳でも着けましょうかね……ハハッ!」

 

「変な笑い方……」

 

 

黒い丸が二つ付いたネズミ耳、見れば見るほどどこかの夢の国のキャラクターを想起させてくる

 

一応他にも犬耳とか兎耳とか猫耳とか用意されてたけど野郎が着けるには流石にキツい気がするのでやめておいた

 

「……酒泉はこっちの方が似合ってる」

 

「にゃに!?」

 

 

……が、そんな俺の気も知らず空崎さんは俺ならネズミの耳をぶんどって代わりに猫耳を装着させてきた

 

何をするだァーッ!と心の中で叫びながら振り向いてみれば空崎さんが悪戯っ子の様な笑みでクスクスと笑っていた……は?かわいい罪で逮捕だろこれ

 

可愛すぎる……可愛すぎるんですよ空崎さんは……!未来のキヴォトスに折川酒泉は存在していない!今日ここで空崎さんに尊死させられるからだ!

 

 

「うん、やっぱり似合ってる」

 

「……そういう空崎さんも似合ってます────よっ!」

 

「きゃっ……もう、酒泉の意地悪……」

 

 

油断して微笑んだ隙に俺と全く同じ猫耳を空崎さんにも着けさせる、一矢報いたり

部下である俺に反撃されるとは思っていなかったのか、空崎さんは少しだけ目を見開いて驚愕した後、頬をぷくりと膨らませて怒りを露に……露に……

 

「……酒泉?何を呆けてるの?」

 

 

ぎゃわい゛いい゛い゛いぃい゛い゛い!!!!

 

猫崎さんが可愛すぎる。このバチクソに可愛い生き物は猫崎ヒニャといい、自分の可愛さを自覚できていないあざとい生き物です(オールアルコールラボ)

 

酒泉、やめろ!猫崎さんの可愛さに踊らされている!お前も!この猫崎さん凄いよぉ!!!流石俺の推し────

 

 

「────は!?す、すみません!ちょっと自分の猫耳姿にドン引きしてました!」

 

「そう?可愛いと思うけど」

 

「男に対してそれは褒め言葉にはならねーっすよぉ……」

 

 

咄嗟に軌道修正し、会話を自然な流れに引き戻す

 

危ない危ない、あと少しで変態みたいになるところだった……ていうか今日の俺、なんか天雨さんみたいな興奮の仕方してるな

 

これも全部空崎ヒナっていう可愛すぎる奴の仕業なんだ!なんだって!?それは本当かい!?……駄目だ、興奮しすぎてテンションが狂ってる

 

果たしてデート終了まで俺の理性は持つのか……もう持ちません!(通信)撃破されました!(覚醒落ち)

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

────────

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 

「……ど、どう?」

 

「控えめに言って宇宙一可愛いです」

 

「かわっ……も、もう……大袈裟すぎよ」

 

 

真っ白なワンピースで身を包む空崎さん、その姿は大天使なんて言葉が生温く感じるほど神々しかった

 

はい、つーわけで我々お次は洋服屋に来ました

 

 

「こっちの服は?」

 

「さっきのが宇宙一だとすればこっちのダボ袖パーカーは全次元一ですね」

 

「……表現が大袈裟すぎてちゃんと褒めてもらってる気がしないのだけれど」

 

「逆に細かいポイントまで褒めちゃっていいんですか?明日になっちゃいますよ?」

 

「もう……そういうのいいから」

 

 

俺の本心からの言葉を聞いた空崎さんは何故か呆れ顔で溜め息を吐いてしまった、ジト目が心に突き刺さる

 

馬鹿な……自分の感情を素直に伝えただけなのにどうして……

 

 

「酒泉は何か着てみたい服とかないの?」

 

「俺?俺は別に……あ、朝ラン用のジャージとかはちょっと気になりますね」

 

「そういう運動性能を求めたのじゃなくて、その……オシャレな服とか……」

 

「……オシャレ?」

 

 

オシャレ、俺には全く縁の無い言葉

 

今日の格好だって上は白Tで下は黒ズボンといった何の面白味も拘りも無い一般ピーポースタイルだ

 

どうせ一週間の内の大半は学園で過ごしてるしゲヘナじゃいつ戦闘に巻き込まれるか分かったもんじゃないから、自宅でゴロゴロしてる時や休日に外出する時以外は基本的に制服で過ごしている

 

ゲヘナで気合い入れてオシャレなんてしようものなら数時間後には不良生徒との戦闘でボロボロに……なんて十二分にあり得る話だ

 

 

「んー、あんま興味は無いですかね……」

 

「……なんて強がってるけど本当は興味あるんでしょ?遠慮しなくていいのよ」

 

「いや、別に遠慮は────」

 

「私が見繕ってあげるから心配しないで。そうね……先に試着室の中で待ってて、すぐに合いそうなの持ってくるから」

 

「ちょっ……空崎さん!?どこに行くつもりですか!?俺本当に遠慮なんてしてませんよ!?」

 

「~~~♪」

 

「聞こえてます!?なんでそんな楽しそうなんですか!?空崎さん!?空崎さーん!?」

 

この後めちゃくちゃ着せ替え人形にされた、あと写真撮られまくった

 

 

 

 

 

──────────

 

 

────────

 

 

──────

 

 

 

 

「────では出来上がりましたらお呼びしますのでこちらの呼び出しベルを持ってお待ちくださーい」

 

 

良い感じにショッピングモール巡りを楽しんだところでそろそろ腹が減ってきた……という事でショッピングモール内のフードコートに来ました

 

俺が注文したのは少年心を燻るクソデカチーズバーガー、空崎さんも同じのを注文してたけど果たして食べ切れるのか

 

 

「さて、とりあえず空いてる席に座って待ってましょうか」

 

「そうね」

 

 

昼時というのもあって友人連れやら家族連れやらのお客さんでフードコートが混んでいたが、運良く二人用のテーブル席が空いているのを発見したのでそちらに座る事にした

 

鞄を床に置き、店中を歩き回った足を休めてやる。本当は鞄もテーブルの上に置きたかったが、どうせチーズバーガーを持ってきたら二人分のトレーでテーブルが埋まるので最初から諦めた

 

せめて空崎さんの手荷物だけでも汚さない為に俺の鞄をシート代わりにしようとする……が、空崎さんは何故か床に置いた俺の鞄を拾い上げ、自分の手荷物と一緒にもう一つの席に置いてしまった

 

 

「何してるんですか?それだとどっちかの座る席……が……」

 

 

俺が言葉を全て言い終える前に膝に重みが掛かる、重みと言っても別にそこまで重い訳じゃないけど

 

具体的に例えるなら人間一人分、更に細かく言うなら小学校低学年程度の重さだった

 

 

「……」

 

 

視線を下ろすとちょこんと無言で俺の膝に座っている白いモフモフが……これはつまり────空崎さんが、俺に座ってる?

 

 

「……その、これなら待ってる間なら荷物も汚れないから」

 

 

零距離の俺ですら辛うじて聞き取れる程度の小声でボソボソと呟く空崎さん、しかし声が小さかろうと大きかろうと今の俺には大して変わらなかった、だってそれどころじゃないし

 

空崎さんが俺に乗ってるだと?それはつまり体温も匂いも直に感じるという事であって、見慣れた風紀委員姿ならともかくこんな新鮮な私服姿でこの距離まで詰められると理性ががががががががが────

 

 

「えっと……勝手に座っちゃったけど……重く、ない……?」

 

 

 

貴女を詐欺罪と器物損壊罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?貴女が自らの可愛さを隠して俺のハートを破壊したからです!

 

覚悟の準備をしておいてください!近いうちに求婚します、式も挙げます、神父さんにも問答無用で来てもらいます!ドレスの準備もしておいてください!

 

貴女は努力家です!幸せになる楽しみにしておいてください!いいですね!

 

…………はっ!?危ない危ない、俺に乗ったは良いものの後から体重が気になりだしちゃった空崎さんの姿が可愛すぎてつい身の程を弁えない行為に走るところだったぜ……

 

もし俺が空崎さんに恋愛的な意味で好かれてると勘違いして今の感情を言葉にしていたらきっと……

 

 

『ご、ごめんなさい……気持ちは嬉しいけど……私、そういうつもりはなかったの……』

 

 

みたいな気まずい空気になっていたに違いない、変な勘違いしないでよかったー

 

だから静まってくれ俺の両手よ。俺に座る空崎さんをおもいっきり抱き締めたい気持ちは理解できるがワキワキと勝手に動くんじゃない

 

 

「……もしかして重かった?」

 

「い、いやいやいや全然!ぜんっぜん軽いですよ空崎さん!むしろちゃんと飯食ってるのか心配になるぐらいですよ」

 

 

徐々に不安気な表情に変わっていく空崎さんを見て咄嗟に返事をすると、空崎さんは〝よかった〟と小声で呟いて胸を撫で下ろした

 

……しかし、注文したのが出来上がるまでこの状態を維持しないといけないのか……持って後三分ってところだな

 

 

下川酒泉(お?出番か?)

 

 

お前じゃねえ座ってろ

 

よし、ここは落ち着く為に素数でも数えようか……ひっひっふー、ひっひっふー、ひっひっふー、ヒッフッ↑ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ヒッ↓フッ→ミ……ちげえや、これラマーズ法か

 

素数ってなんだっけ、確か……7…11…13…螺旋階段…カブトムシ…秘密のカブトムシ…螺旋カブトムシ…カブトムシ…カブトムシ…カブトムシ…

 

駄目だ全然落ち着かねえ、それどころかハートが震えてるし燃え尽きるほどヒートしてる

 

ああもうなんでこの人こんなに無防備なんだ?こんな事されたら誰だってその気になっちゃいますよ?俺のことガチ恋勢にしたいんですか?

 

 

「……酒泉?」

 

 

キョトンとしてんじゃねえよ可愛いなちくしょう、誰のせいで考え込んでると思ってんですか可愛いなちくしょう

 

どうする?いっそのこと開き直ってマジで抱き締めちまうか?思いっきり抱き締めた後で全力でヒナ吸いしてから〝好きでもない奴に気安くくっつくとこんな事されますよ〟って注意するか?

 

よしやろう、今すぐやろう、俺は悪くねえ!俺は悪くねえ!全部俺の理性を壊そうとしてくる空崎さんが悪いんだ!

 

 

「折川酒泉、心火を燃やして抱かせていただき────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピピピピピピピピピッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────わっぴぃ!?」

 

「……私達のベルじゃないわね」

 

 

俺の手が空崎さんの前に回された瞬間、先程店員さんから渡された呼び出しベルが振動と共に音を鳴らした……って思ってたらお隣のテーブル席の呼び出しベルだった

 

フードコートで渡される呼び出しベルってめちゃくちゃ大音量だよね……まあ、その方が騒音の中でも気付きやすいしありがたいけど。それに今回はこいつのお陰で犯罪者になる一歩手前で引き下がれたからな

 

その代わりお隣のテーブル席の人がベルを持って移動する際にめっちゃチラチラ視線を向けられた、だって空崎さん膝に乗せてるからねそりゃ目立つよね

 

 

「そういえば酒泉、今何か言いかけてたけど……」

 

「いえ!?なんにも言ってませんが!?」

 

「……〝抱かせて〟って聞こえた気がするけど」

 

「た、多分気のせいじゃないですかね……」

 

「……」

 

 

顔を少しだけ振り向かせて此方をじっと見つめてくる空崎さん、距離感が近すぎるのもあって普段不良を相手にしている時以上の圧を感じる

 

その後、辛うじて先程の発言を誤魔化す事に成功したものの俺達の呼び出しベルが鳴るまでひたすら無言の圧を食らい続けた

 

あとついでにクソデカチーズバーガーをちっちゃな口でモキュモキュしてる空崎さんがバチクソ可愛かった、3000回愛してる

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

────────

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 

《センシュ……私、寝たくない》

 

《……ノシマイさん》

 

 

昼食後、予定通りモール内にある映画館で恋愛映画を堪能中

 

俺達が観ているのは〝クソボケとメンヘラの一年間〟という映画で、主人公である鈍感系クソボケ少年センシュがひょんな事から自傷癖持ちメンヘラ少女のノシマイと暮らしを共にするという内容である

 

 

《……ねえ、しないの?》

 

《……》

 

 

上映開始してからそろそろ中盤の展開に入る頃合いか、ぱさりと服を脱いだノシマイがセンシュに覆い被さり、そのままセンシュがノシマイを抱き締める直前で画面がブラックアウトした

 

まさか濡れ場を仄めかすようなシーンがあるとは……映画選び失敗したかもしれん、この後空崎さんと気まずくならないか心配だ

 

 

(って流石に考えすぎか……空崎さんだってそこまで初って訳じゃないんだし別に────ん?)

 

 

二人用のポップコーンでも食べようかと手を動かそうとすると、俺の右手に誰かの手が重ねられる……まあ、右に座ってるの空崎さんしか居ないし空崎さんに決まってるんだけど

 

 

「空崎さん空崎さん、それポップコーンじゃなくて俺の手ですよ」

 

「あ……うん……」

 

 

映画を観ながらポップコーンを取ろうとしたせいで手を置く位置を間違えてしまったのか、そう思って他のお客さんの迷惑にならないように小声で話しかけると空崎さんはそっと手を退かした

 

……実は一瞬手を握られるのかと思ってドキッとしてしまったが、これは恐らく恋愛映画を観ている事によるなんちゃら効果的なアレだろう

 

そうじゃないと俺が推しに触れただけで興奮してしまう様な恋愛よわよわ酒泉という事になってしまう、よわよわなのは先生の肉体だけで十分だ

 

 

《ん……ふぁ~あ……》

 

《……おはよう、センシュ》

 

《あ、ノシマイさん……そうだ、昨日は確か……》

 

《……しちゃったね》

 

 

シーンが切り替わると同時にシーツ一枚を覆っただけのノシマイとセンシュが映し出される、完全に事後です本当にありがとうございました

 

空崎さんはどんな反応をしているのだろうと隣の席をチラ見してみると空崎さんの頬が少々赤みを帯びており、目立つ程ではないが手の動きもふるふると挙動不審に震えて……あ、また俺の手に重なった

 

 

「空崎さんまた間違えてますよ、ポップコーンこっちですって」

 

「……酒泉ってこの映画の主人公と似てるよね」

 

 

え?マジ?あの俳優さん相当イケメンだけど……俺もそのレベルってコト!?わァ……ぁ……!(感涙)

 

「ありがとうございます……!」

 

「褒めてない」

 

「え?」

 

 

 

 

 

──────────

 

 

────────

 

 

──────

 

 

 

 

 

「いやー映画面白かったですねー、結構ドロドロしてる展開多かったですけど」

 

「そうね、面白い映画だったわ……私的にはセンシュがシナサキよりノシマイを選んだのが理解できなかったけど」

 

「そこはほら、男って〝守ってあげなきゃ〟みたいなか弱い雰囲気の女の子が大好きですから」

 

「酒泉もそうなの?」

 

「俺?俺はまあ……好きっちゃ好きですけど……」

 

 

映画を見終わり、互いに感想を言いながらショッピングモールを出る

 

終盤で主人公が二人の女の間で板挟みになるシーンがあったけど俺からすればこの映画の主人公がクソボケすぎて〝どっちも娶れや、それとくたばれクソボケ〟という感想しか出てこなかった

 

ハーレム物のラブコメでハッピーエンドを迎える方法って全員に対して責任を取る事しかないと思うんですよね、つーわけで世のハーレム男子諸君は是非とも無責任に惚れさせた女の子全員に搾り取られてください

 

 

「そっか、酒泉もそういう雰囲気の子の方が……じゃあ私は一生酒泉に守ってもらえなさそうね」

 

「はい?空崎さんの事だって当然守りますよ?」

 

「でも酒泉は弱い子が好きなんでしょ?」

 

「大切な人の場合は強い弱い関係なく守りたくなるもんでしょう」

 

「大切な人……それって私の事?」

 

「それ以外誰が居るっていうんですか」

 

 

実力的に何言ってんだお前感がするが弱い人間が自分より強い人間を守っちゃいけないなんてルールは存在しないし別に問題無いだろ

 

まあ?行く行くは?空崎さんすら越える予定ですけど?俺は最強だー!

 

 

「……そう、じゃあお言葉に甘えて一生守ってもらおうかしら」

 

「任せてください……と言いたいところですけど、空崎さんが誰かと結婚したらその役割はその人の物になりますけどね」

 

 

俺としては一生だろうと死後だろうと構わないが、もしその一生の中で空崎さんが誰かと結婚していた場合はその旦那さんに申し訳ないからな

 

旦那さんだって自分以外の男が妻の周りをうろちょろしてるのは面白くないだろうしな

 

……空崎さんの結婚相手かぁ、空崎さんが惚れるくらいだしきっと先生みたいに優しくて頼りがいのある人なんだろうなぁ

 

子供も空崎さんに似て可愛いに違いない、うん

 

 

「……大丈夫、私が結婚したとしても酒泉と離れる事はないだろうから」

 

「いやー分かりませんよ?旦那さんの束縛が強かったってパターンもあり得ますからね、そうなったら絶対他の男とは関わらせてくれませんよ」

 

「束縛系酒泉……そういうのもあるのね」

 

「ありませんよ、なんで俺の話になってるんですか」

 

 

もし結婚した相手が束縛系だったらって話なのにどうして俺が束縛するみたいになってるんだ、美少年のヤンデレならともかく俺みたいな泥臭い汗臭い野郎のヤンデレなんて流行りませんよ

 

 

「そういえば、特に目的もなくふらふら歩いちゃってるけどこの後はどうするの?……私は、その……帰るにはまだちょっと早いと思うけど」

 

「あーっと……実はですね、ちょっと寄りたい所がありまして……出来れば空崎さんにも付き合ってもらいたいなーって……」

 

「私は構わないわ……もう少し一緒に居たいし」

 

 

いよいよ本日最後のイベント、これを持ってデートは完成される

 

……今思えば今日の俺のテンションがおかしかったのってデートだと変に意識していたからでは?はいそこ〝いつもテンションおかしいだろ〟とか言わない

 

 

 

 

 

──────────

 

 

────────

 

 

──────

 

 

 

 

「……キッチン?」

 

「レンタルキッチンっすね、料理動画アップしてる人達がよく借りる場所です」

 

「撮影用?……撮るの?」

 

「いえ、今日は料理する為だけに借りました」

 

 

店頭でオーナーさんから借りた鍵で部屋の扉を開けると、一軒家のリビングとそう変わらぬ空間にやって来た

 

キッチンに置かれている調理器具は全て新品で揃えられており、シンクやコンロ周りも他の人達が借りているとは思えないくらいぴっかぴかだった

 

 

「料理?それって酒泉の自宅じゃ作れない物なの?」

 

「いえ、作れはするんですけど……せっかくだから空崎さんと二人きりで作りたいなと思いまして────ホワイトデーのお返し」

 

「……え?」

 

 

気合いを入れてバレンタインのお返しをする、そう意気込んだは良いものの空崎さんの分だけどんなお菓子にするのか全く決められなかった

 

勿論他の人に渡すお返しもちゃんと俺なりに考えて選んだ……が、やはり人間というのは個人的な感情に支配されやすい生き物な様で、空崎さんに渡すお菓子を選ぶ時だけ妙に気合いが入り悩みまくってしまった

 

そこで俺は考えた……〝いっそ空崎さんが好きなお菓子を空崎さんと一緒に作ればよくね?〟と

 

 

「ミルク、ビター、ホワイトのチョコレート、卵、小麦粉、薄力粉、砂糖、バター、牛乳……まあ、とにかく色んな材料を前日ここの冷蔵庫に入れておきました」

 

「……」

 

「だから、その……空崎さん本人に言うのも変な話ですけど……一緒に空崎さんへのお返し作りませんか────っとぉ!?」

 

 

空崎さんが腰に飛び付いてくると同時に身体全体に衝撃が走り、後ろに突き飛ばされないようになんとか踏ん張る

 

辛うじて体勢を保つ事に成功した俺は急に突進してきた空崎さんに理由を尋ねる為に視線を下ろすが、こちらが口を開くより先に空崎さんが顔を俺の腹に押し付けたまま喋りだした

 

 

「……ありがとう」

 

「は、はい……どういたしまして……ところで空崎さん、一旦離れてもらえると……」

 

「ありがとう」

 

「あ、はい……それより空崎さん、ちょっと離れて────」

 

「ありがとう、酒泉」

 

「い、いや……それはもう聞いたんで────」

 

「ありがとう、ありがとう、酒泉、ありがとう、酒泉、酒泉」

 

「なんてこった!オラの空崎さんがロボットになっちまっただ!」

 

 

空崎さんは壊れた機械の様に同じ言葉を繰り返しながら俺の腹部に顔をぐりぐりと痛い痛い痛い

 

このまま放置していると摩擦熱が発生してしまう勢いというかなんか俺の腹から煙出てね?え?マジ?

 

 

「離れてください空崎さん!顔が燃えちゃいますよ!?」

 

「酒泉、酒泉、酒泉、酒泉、酒泉、酒泉、酒泉」

 

「ついに〝ありがとう〟すら無くなった!?」

 

 

ただひたすら俺の名前を連呼するだけの機械と化した空崎さん

 

一体何が起きたのか、何が空崎さんの脳にダメージを与えてバグらせたのか、結局俺は何も分からぬまま空崎さんにされるがままにされた

 

その後はチョコレートとかクッキーとかホットケーキとかとにかく甘いもんを作りまくったのだが、料理中何故かずっと空崎さんの羽が俺の腰に回されていた

 

……それとめっちゃ羽がパタパタしてた、そのせいで何回か薄力粉吹き飛んだ

 

 

 




ちなみにゲヘナと色彩組以外のチョコくれた人達には15日にお返しに行ったってよ、スケジュール詰め詰めになっちゃうからねしょうがないね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。