学園祭、それは人によって一生忘れられない思い出になったり黒歴史的な意味で忘れられなくなったりと様々だろうが少なくとも前世の中学三年の学園祭は俺にとっちゃ間違いなく大成功だった
クラスの野郎仲間と素人なりにギターを必死こいて練習し、途中で練習が行き詰まって気分転換にポジションチェンジしたり、それが偶々上手くいったり……いつの間にか俺がボーカルをやる事になってたり
〝この中で一番カラオケの平均点が高いから〟というシンプルな理由で半ば押し付けられたボーカル役だが、なんやかんやで歌うのは嫌いじゃないしむしろ好きな方だったので〝しゃーねーな〟と素直じゃない態度で引き受けたのは未だ記憶に残ってる、男のツンデレとは誰得か
放課後は防音素材で作られた音楽室を先生に借りて皆で練習、あの日々は俺の中学時代の中で最も充実していた時だっただろう
そんな汗水流す日々を繰り返してついにやってきた文化祭、体育館の壇上で熱唱した〝Can Do〟はかなり好評だったらしく、中学の連中から保護者の人達まで惜しみない拍手を俺達に浴びせてくれた
「……はぁ~」
「どうした酒泉、悩みか?」
「……まあ、な」
「そうか、お前は相変わらず大変そうだな……構え」
「話の流れおかしくね?どう考えても深堀しようとするか相談に乗ってくれる流れだったろ今のは」
「知るか、私を優先しろ」
「やっぱすげーよお前」
ここまで遠慮が無いと一周回って清々しいな。逆に遠慮がちなコイツとか、それはそれで不気味だけど
「……仕方ない、暇潰し程度に聞いてやる」
「さんきゅ……と言っても悩みの種は現在進行形で拡大していってるんだがな」
「……?」
「ほら、黒板見ろ」
黒板に書かれた〝多数決〟の文字、その下に学園祭で出店する様々な店の名前が書かれている
お化け屋敷、占い、射的、漫才、それらより多くの票を集めているのが……
「……なんでメイド&執事カフェなんだよ」
「だって……ねえ?」
「折角の男子生徒を活用しない手はないよねー」
「私達だって可愛い服着たいしねー」
「じゃあせめて執事役を変えてくれ、俺は裏方で料理するから────」
「「「「「「「「却下」」」」」」」」
前世の父さん母さんへ、俺のクラスはとても仲の良いクラスですちくしょう
こうなると多数決じゃ絶対に勝てなくなってしまう、俺達少数派はいつも数という名の暴力によって声を掻き消されてしまう
「そう嫌がるな、私のメイド姿が見られるんだぞ……ほら構えご主人様、Fカップの巨乳メイドだぞ」
「まだメイド服着てねーだろ」
「そうよ、それにメイド服の数だって限りがあるんだからちゃんと公平にメイド役を決めないと」
「でも私お前よりおっぱい大きいぞ」
「おう表出ろや」
「女の価値は胸だけじゃ決まらないんだよ~?」
「でもお前私よりおっぱい小さいじゃん」
「殺すね」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。どうせこいつの事だし悪気は無いだろうから……」
「お前最近ブラ変えた?不自然に盛り上がってるけど」
「上等よ小娘」
「私こっちの腕持つ~」
「じゃあ私はこっちね」
「なぬっ!?」
おっぱいが大きければ何を言っても許されると思っているのかコイツは
大体男の前でおっぱいおっぱい連呼するんじゃない、俺がおっぱい星人になったらどう責任を取るつもりだおっぱい
「なっ!何をするだァーッ!」
「そんなの……こうするに決まってるでしょ!おらぁ!」モミィ
「ひゃうん!?」
「からのぉ!!!」
「「「こちょこちょこちょ~!」」」
「や、やめ……ひぅ!?ず、ずるいぞきさまら……ひゃあ!?い、揉む……なぁ……あぁ!?ん……うぅ……!」
あーあーまた始まったよ、いくらなんでも野郎が居る環境に慣れすぎだろコイツら
しかし俺は特に何も反応したりなんかしない、俺の存在を無視して女子特有の絡みが発生するなんて事は今更だしな
ついでにコイツらに触発されて他のグループでも〝私がメイドになる!〟〝私だって着たいのに!〟〝駄目だ!譲らん!〟〝酒泉にメイド服着せて嫌そうな顔でご主人様って言わせたい!〟だのと争いが発生している、そのおかげかこっち側のピンクなやり取りは特に注目されたりはしていない
それと最後の奴は暫く近寄らないでくれ
「コイツか!コイツがいけないのか!?」モミモミ
「ひっ……や、ぁ……んっ……く……ひゃ……ぁん!」
「ほらほら、何か言うことはないのー?」
「謝るなら今のうちだよー?」
「くっ……私が可愛くておっぱいも大きい完璧美少女なばかりに……すまない……!」
「もう許さねえからなぁ?」
「「「こちょこちょー!」」」
「ふあ……や、やらっ!く……んぁ……ひぅ……!」
全く……一体いつまでこんな下らないやり取りを見せつけられなければならないのか、結局誰がメイド役をやるんだ?それを決める為の会議だったはずだろ?
収拾がつくまで暫くこの調子か、やれやれ……さてと────
「あれ?酒泉どこ行くの?」
「ちょっとジュース買いに行ってくるわ」
「おー行ってらー……なんか歩き方変じゃない?」
「なんでそんな前屈みなの?」
「男にはな、前屈みになりたくなる時があるんだ」
「変なのー」
「しゅ、しゅしぇん……にげりゅにゃ……かまえぇ……」
「後でな」
そして己自身と対話をする時でもある、その対話の果てには賢者の様な思考が待ち受けているだろう……そうだ、ついでにトイレにも寄ろっかな
いや、特に理由はないけどな?なんとなーく小便がしたくなってきただけだ
他意はない、うん、ただ俺って小便の出が遅いタイプだしちょーっとだけ戻るの遅くなるかもな?うん
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「えー……マジで執事服着るのかよぉ……」
今更ながら既に決定してしまった出し物への愚痴を溢しながら廊下を歩く、トイレはとっくに済ませた……別に何もしてませんが?なんですかその目やめてくださいよ
それとこれはクッソどうでも余談だが本来女子生徒しか存在しない筈の学園にも男子トイレはちゃんと存在します、搬入業者のあんちゃん(獣人)とかめっちゃ偉い客人とか来る場合もあるし当然っちゃ当然である
「あんま着たくねーなー」
執事カフェってことはあれだろ?俺もそれっぽいムーブしないといけないんだろ?せめて格好だけとかならマシだったが、それに加えて……
「お帰りなさいませ、お嬢様…………ヴォエッ!!!」
似合わない(確信)
もうさ、俺の代わりに適当に一人見繕って終わりでいいんじゃない?男装女子とか普通に人気ジャンルだし全然アリだろ、俺みたいなモブなんかより戒野さんとか鬼方さんみたいな可愛いだけじゃなくカッコイイも兼ね備えてる女の子を執事役にした方が良いだろ絶対
あーあ、学園祭中止……は皆悲しむから出し物だけ変わったりしないかなー
「……浮かない顔してる」
「ん?……あ、空崎さん」
さっき買ったコーラの蓋を開けようとしていたところで隣から声を掛けられ、視線を下ろしてみれば空崎さんがいつの間にか俺の横を歩いていた
特に会う約束もしてないのでここで会ったのは完全に偶然だろう
「こんにちは……いや、ちょっと学園祭の事でね」
「奇遇ね、私もちょうどその事で話があったの」
「話?なんです?」
そう尋ねてみると空崎さんは非常に申し訳無さそうに眉を垂らしながら〝実は〟と語り始めた
「学園祭当日なんだけど────」
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「戻ったか、構え」
「何度も何度も構えとばかり、他の言葉を知らな……ん?」
「あへぇ……♡」
「らめぇ……♡」
「こ、このこ……てくにしゃんすぎぃ……♡」
「……なんだアレ」
「復讐完了」
何があったと尋ねてみれば目の前の構えガールはぶいっ!と勝利のピースサインを向けてきた、恐らく俺がトイ……ジュースを買いに行ってる間にまたチョメチョメな展開が起きたのだろう
周囲をよく見渡してみれば幾つか話し合いが終わってそうなグループが幾つか、黒板にもメイド役に選ばれたクラスメイトの名前が書かれている
「あ、クソボケ帰ってきた」
「のこのこ戻ってきたという事は……覚悟が出来たのかな?」
「ひゃっはああああああ!着せ替えタイムだああああああ!」
「駄目だ、お前らには触れさせん。私が着替えさせる、だから私を構え」
「私達モブにはフラグなんて立たない!だったらクソボケのメイド姿で満足するしかねぇ!」
「奴を普通に拘束せよ!」
「離せええええええええ!!!」
俺が執事になること前提で勝手に話を進めるクラスメイト達、なんならメイド服を着せようとしてくるヤバい奴までいる
そんな彼女達にこれから残念なお知らせをしなければならないとは……ココロガイタムナー
「あー、その事なんだけどさ……悪い!俺学園祭参加できねーわ!」
「「「「「「「「……ぱーどぅん?」」」」」」」」
「ハモるな……いや、実は風紀委員会の仕事で学園祭当日は見回りしないといけない事になってさ。一応自由行動の時間もあるんだけど〝何が起きてもすぐに対応できるように〟って事で常に制服姿じゃないといけないんだよ」
これは嘘ではない、先程空崎さんに言われた内容をそのまま伝えているだけだ
学園祭当日は浮かれすぎて自制が効かなくなる連中だって出てくるだろうし、そういう奴等の相手をする事を考えると妥当な判断だろう
「……マ?」
「マです、マ・クベです」
「……うそぉん」
「こんなオチかよぉ……」
「おい酒泉、この券やるから今すぐ風紀委員長を説得してこい」
「……なんだこれ?」
構えガールから渡されたのは五枚綴りになっている手書きの券、これは……あれか?よく子供がお母さんにプレゼントしたりする肩叩き券とかお手伝い券みたいなやつか?
「それは一日中私を構える券だ」
「俺に一ミリも得ねーじゃん、なんでこれで買収できると思ったんだよ」
「構うついでに大好きな私と一日中遊べるんだぞ」
「……まあ、確かに得だな」
「だろう?」
「でも駄目」
「ぐぬぬ」
もしこれが一生手作りクッキーを食べさせてくれる券とかだったら説得に向かっただろうが、これだけじゃ俺の心はほんの僅かにしか揺れ動かんぞ
いや本当は俺もカフェの手伝いしたかったんだけどね?でも自分の上司に命令されちゃ仕方ないよなー、空崎さんの命令を無視する訳にはいかないもんなー
いやー着たかったなー執事服、マジでめっちゃ着たかったわー残念残念
「くそぅ……執事クソボケの写真を売りまくる計画が……!」
「あっぶねぇ、危うく大量に売れ残った自分の写真を前に心が折られるところだったぜ……どうせ学園祭終了後の廊下に大量に捨てられてるのがオチなんだから資源の無駄遣いはすんなよ」
「こっちまで悲しくなるようなこと言わないでよ……大丈夫大丈夫、需要はきっとあるはずだから!例えば後ろの風紀委員……長……とか…………?」
「……え?空崎さん?」
「………………」
少しずつ声色が低くなっていくクラスメイト、そのあまりの怯えっぷりに咄嗟に後ろを振り向く
するとさっき別れた筈の空崎さんが無言で教室の扉前に立っていた
「さっきぶり、酒泉」
「あ、はい……あの、どうしてここに?」
「実はさっきの会話で伝え忘れてた事があったから直接教えにきたんだけど……そっちの話の方が重要そうね」
空崎さんがジロリと睨んだのは俺───の後ろのクラスメイト、空崎さんが来る前まで話していた相手だ
一年生の教室に空崎さんがツカツカと容赦なく踏み込めばそれだけで俺以外のクラスメイトが震えあがって……いやよく見たらこの構ってちゃんだけ威嚇してんな、なんでだ?
「ねえ、そこの貴女」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「さっき〝執事クソボケ〟って言ってたけど……それって酒泉の事で合ってる?」
「は、はい……(あ、委員長から見てもクソボケなんだ)」
「……着るの?」
「……え?」
「酒泉が、執事服を」
「えっと……さ、最初はそのつもりだったんですけど……でででででででも風紀委員会のお仕事があるのならそれを邪魔してまで着替えさせるつもりはありませんのででででででで!!!」
空崎さんが放つ紫の眼光、それに威圧されてか身体だけでなく受け答えまで震えてしまっている
……この圧は他の連中には耐えられないだろう、そろそろ助け船を出してやらないと「予定変更よ」……ん?
「……空崎さん?予定変更って何を────」
「学園祭当日は仕事しなくていいから、酒泉はクラスの手伝いをしてあげなさい」
「えっ」
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「酒泉、この〝ふわとろおむらいす♡愛のおまじないを込めて♡〟をお願い……ああ、勿論貴方が運んできてちょうだい」
「調月さん、何でここに居るんです?それと出来れば別のメニューにしていただきたい」
「何でって……他校の生徒も入場の許可が出てる筈だけど?それとメニューを変更する権利は貴方には無いわ」
「そ、そりゃそうですけどぉ……!」
「酒泉、酒泉、こっち向いて」
「あ、はい……いやなんで秤さんまで────」
「〝いえーい、ミサキみてるー?酒泉はアツコ姫の執事様になっちゃいましたー〟……送信っと」
「────ちょっと?誤解されそうなメッセージを送らないでくれません?てかなんで自由に出歩いてんです?」
「ちゃんと監視の人達もついてきてるよ……ほら、あそこ」
「おい!このクッキーめちゃくちゃ美味くないか!?」
「分かる!形は不揃いなのに味が完璧すぎる!」
「どうだ、酒泉のお墨付きだぞ」
「この美味しいクッキー、貴女が作ったんだ」
「本当はアリウスなんかに食べさせるつもりはなかったけどな」
「正直だね、そういう人は嫌いじゃないよ」
「私はお前ら嫌いだけどな……気分悪くなった、酒泉構え」
「いやいやいや、お前何急にお客様に喧嘩売ってんだよ」
「知るか、それより私の姿を見て何か言うことないのか、Fカップの美少女巨乳メイドだぞ」フリフリ
「……はいはい、可愛いよ」
「えへへへへへ……」
「酒泉くーん!次のお客様の対応おねがーい!」
「はーい!いらっしゃいま────」
「ぶっはははははははは!酒泉君似合ってなさすぎ!」
「きたねぇ笑い声あげてんじゃねえぞピンクゴリラァ!つーか何でテメェがいんだよぉ!?」
「本当はこの姿を独占したかったけど、こうでもしないと酒泉は自分から着替えてくれなそうだし我慢するしかないわね……酒泉、私はこの〝ASMR付きあまとろプリンアラモード~あーんを添えて♡〟をお願い、それとついでに空崎さんじゃなくてお嬢様って呼んでくれないかしら」
「それ一番キツいやつううううう!俺が担当するメニューの中で一番本人がキツいやつううううう!!!」
「お、おいおい!風紀委員長にティーパーティー、それにミレニアムの会長からアリウスの生徒までいるぞ!?」
「な、何が始まるってんだ……!?今度はミレニアムも混ぜて第二次エデン条約でも結ぶつもりか……!?」
「ああ……執事服の貴方様も素敵です……♡」
「……な、なあ、あそこにいるのって……」
「き、気のせいだろ……流石のクソボケでも七囚人は堕としてないって……はは……」