その日、俺は天使に出会った
ゲヘナという悪魔の巣窟には似合わぬ純白の髪を靡かせ、紫とピンクで構成されたドレスを纏う小さな天使に……いや、これは天使というよりも────
「魔法少女・ぷりてぃー♡ヒナだああああああああああああああああ!!!」
「……酒泉、朝からうるさい」
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「そういや今日はハロウィンでしたね……だからコスプレしてたんすね」
「私は別にするつもりはなかったんだけど……でも私が〝今日はちょっとくらい羽を伸ばしても構わない〟って伝えたら皆が〝委員長が休んでくれないと私達も休めないです〟って」
「……なるほど」
これは上手い手を使ったな、空崎さんの事だろうし皆に少しでもハロウィンを楽しませる為に自分だけ気を引き締めて仕事をするつもりだった筈だ
そこを空崎さんも巻き込んで強制的に休ませるという……これが風紀委員会の友情パパワーだ!
「しかしまあ……」
「ん?なに?」
「どうかされましたか?」
「……ジロジロ見ないでくれません?」
上から順に銀鏡さん、火宮さん、天雨さんの格好をチェックする
まずは銀鏡さん。頭には赤い角の装飾品を装備しており、赤と黒のタータンチェックワンピースの上には赤いマントととにかく赤を中心としたファッションをしている
次に火宮さん。顔に切り傷を模した線と恐らく偽物であろう血の跡、そして服装は自身の身体を包帯でぐるぐる巻きにしただけというシンプルなファッション
最後に天雨さん。狼の着け耳を頭に着け、手、足、腰回りにそれぞれ狼の毛皮を纏い、両手の爪先には狼の爪を装着、やはりと言うべきか、胸部の毛皮には横乳部分に穴が空いている
それと〝いつもより髪が長いな〟と思ってよく見てみれば、天雨さんの綺麗な青髪にも負けず劣らずなエクステがつけられていた
「天雨さんが狼女で火宮さんがミイラ女ってところですか、そんで銀鏡さんが…………シンプルに可愛いアイドル?」
「かわっ……ち、違うって!悪魔っぽいコスプレがしたくて後輩の子に服を選んでもらったら、何故か小悪魔系っぽいのに持ってこられて……」
「まあ、悪魔っちゃ悪魔ですけど……」
「…………に、似合ってないか?」
「いや?めちゃくちゃ似合ってると思いますよ」
「ほ、本当?」
「ええ、皆さん素敵ですよ」
「…………ありがと」
褒め言葉がシンプルすぎたせいで世辞だと思われてしまったのか、銀鏡さんはほんの一瞬だけ不機嫌そうな顔をしてから礼を行ってきた
これは嘘でも世辞でも無い本心だ、先程も言ったが銀鏡さんはシンプルに王道系な可愛さだし火宮さんのコスプレも本人の役職的にかなりピッタリはまっている
天雨さんのコスプレも……その……悔しいけど、青い長髪を見た時に不覚にもドキッとしてしまった
「ふふっ、ありがとうございます……でも意外でしたね、酒泉君だけ何も着てこないなんて」
「だね、こういうの一番乗ってきそうなのにさ」
「あー……正直に言いますと完全に忘れてました」
「おや、とうとうボケてしまいましたか?……まあ、貴方はクソボケなのでそれも仕方ないですね」
「はー?何時何分何秒いつどこで誰がクソボケって言ったんですかー?」
「今日、今、この瞬間にも世界中の何処かで誰かが貴方をクソボケって言ってますよ、だって貴方のクソボケ具合は世界中で有名なんですから!」
口に手を当てながらぷぷーと笑ってくるゲヘナ学園七不思議の一つ・妖怪ハミチチ女
俺はこんな人にさっきドキッとさせられたのか……ちょっと髪が伸びただけの痴女に
「でも天雨さんだって最近地上波デビューして有名になったじゃないですか」
「はい?私が?……そんな事ありましたっけ」
「ほら、この前〝ぬき○し〟ってアニメに出てたじゃないですか、青い髪の女の子役で」
「はっ倒しますよ」
「アンタが先に失礼なこと言ってきたんだルルォ!?人のことボケボケ言いやがってよぉ!」
「私は事実を言ったまでですぅ!ていうか貴方こそ私をあんなイかれた作品のキャラクター扱いしないでくれます!?」
「服がイかれてんだから実質同一人物だろうが!」
「はあ!?」
「ああ!?」
「ああもう……また始まった……」
「こんな日でもお二人の関係は変わりませんね……」
「…………二人とも子供みたいな喧嘩しないで」
銀鏡さんと火宮さんから呆れられようと構わずぐぬぬと睨み合いを続けていたが、空崎さんに咎められたので同時に渋々引き下がる
このまま喧嘩を続けて空崎さんを怒らせてしまうと魔法少女ならぬ魔砲少女による本気の一撃を受けてしまうだろう
「……そういや空崎さん、どうしてハロウィンに魔法少女のコスプレを選んだんですか?実は魔法少女物に興味があるとか?それならオススメの作品を紹介しますよ。俺も最近友達に紹介されたんですけど〝魔法少女ヘヴィキャリバー〟という作品がありましてね、これがなんとも奥深くてストーリーもキャラクター設定も全て俺好みすぎて気づいたら二徹して三期まで視ちゃいましたよ。特にかっこよかったのが三期で主人公がパワーアップするシーンがあるんですけどそこで主人公陣営だけじゃなくそのクールのライバルポジションまで新形態を手に入れて簡単には終わらなそうな感じがああこれ全部言ったらネタバレになっちゃいますね続きは是非御自分の目で確かめてみてください単なる勧善懲悪物としても奥深い哲学的な作品としてもどちらの目でも観られるので因みに俺の推し魔法少女はピンクの子なんですけどこの子がもう本当に抱きしめたくなるくらい健気で可愛くていや勿論ホワイトも好きなんですけどていうか二人とも愛してるんですけどね別に二人の間に挟まりたいとかそんな願望は無いんですけどでも一度でいいからあの子達の尊い絡みを間近で見てみたいという百合好きの本能とそこは黙って見守っとれという紳士としての本能がせめぎあってああでも単純にバトル物としても面白すぎるんだよな二期の強敵なんて戦闘中にオープニングが流れるっていう勝ち確フラグを普通にへし折ってそのままオープニング中断させたんすよこういう逆転要素潰してくる敵の絶望感って凄いですよねまあそこは俺の愛するピンクとホワイトなんで激闘の末勝利しましたけどでもあそこで力の断片が目覚めてなければ危なかった────」
「違うから」
「あっはい」
……失礼、ほんの少しだけ早口になってしまったようだ
でもあの作品本当に面白くてだな、宇沢さんにオススメされて興味本意で軽く観てみるつもりだったのに、今ではすっかり今世で俺が沼った〝マスクヒーロー〟シリーズと同じくらい好きになってしまった
来週の金曜日なんて宇沢さん家に泊まってヘヴィキャリバー一緒に一気見する約束しちゃったもんねー!総集編とスペシャルエディションもあるらしいからお菓子とエナドリをたっぷり買っておこっと
「この服はアコが勝手に持ってきた衣装の中から一番露出が少なかったから選んだだけ」
「……天雨さん」
「……なんですか」
「ナイスッ!!!」
「当然ですよ!!!」
「急に仲良くなりましたね……」
「仕方ないよ、アホちゃんはアコだしクソボケは酒泉だから」
「そんな大袈裟に喜ばなくても……酒泉がお願いすればいくらでも着てあげるのに」
天雨さんとハイタッチし、ビシバシグッグと拳を合わせる
なんて完璧なコーディネートセンスなんだ!流石はチーム風紀委員会の行政官だ!勲章ものだな!
いやマジで偉いよこれは、魔法少女・ぷりてぃー♡ヒナのご本人様なんて一生に一度見れるかどうかの希少性だぜ?こんなん俺のソウルジェムが浄化されちまうよ
「ヒナ委員長が嫌がりそうな露出度高めの服を多く混ぜる事でヒナ委員長の選択を誘導させる……どうですか!私の完璧な作戦は!」
「流石は天雨行政官!サスガダァ…」
確かに、空崎さんの性格なら自ら露出度高めの服を選ぶ事はないだろうし────
「……ん?」
ここで今更ながらある事が気になって再びこの場に居る全員の格好をチェックする
まず空崎さん、確かにこの面子だと一番布面積は多いがそれでもスカート部分が短すぎる
銀鏡さんもよく見ればスカート部分が際どいし、さっきは気づかなかったけど改めて見ると尻尾が動く度にちょっとだけスカートの中身が……これ以上は止そう、目を逸らしておこう
次に天雨さんは……横乳はいつも通りだとしてもそれ以外がデンジャラスビーストばりに出まくっているのでヤバすぎる
最後に火宮さん、実はこの人が一番ヤバい。〝まさかそんな筈はない〟と思って触れないでいたけどこの人もしかして包帯の下何も着けてない?局部と胸部はガッチリ巻かれてるけどそれでも流石に下着くらいは着けてるよね?
俺の眼で〝凝視〟すれば判明するだろうが……そんな失礼の事をするつもりはないし、そもそもそんな事をすれば墓場送りにされるだろうから止めておこう
「あー……えっと……なんつーか、その……皆さん肌見せすぎじゃありません?あんま他の人には見せない方が良いというか……」
「「「「……」」」」
ハッキリ言ってしまうとセクハラ発言に成りかねないのでそれとなく伝えようとしたが、上手い具合に言葉が思い付かなかったので結局ど直球な物言いになってしまった
すると四人は俺の方を見たまま集まってひそひそと何かを喋り始めた
「見てください、あのクソボケ急に独占欲出してきましたよ……普段からあれぐらい素直でいれば少しは可愛気があるものを」
「ふ、ふーん……そっか、酒泉は私達に肌露出してほしくないんだー……」
「こ、これは……〝俺以外に見せるな〟とか、そういう意味で言われているのでしょうか」
「……言われなくても、こんな間近で見せる相手なんて酒泉以外居ないのに」
俺も男だし魅力的な皆に視線が集まるのは理解できるけど……それでも仲間が邪な視線に晒されるのはあんま気分良くないしな
四人とも優秀な人達だしそういう視線とかカメラでの隠し撮りとかはすぐに気付けるだろうけど、それでも心配なもんは心配だ
「大丈夫だよ、酒泉。この格好してるのは午前まで、午後からはいつもの制服に着替えて巡回するから」
「えっ!?委員長、着替えてしまわれるのですか!?」
「当然でしょ、ずっとこの格好のままだと示しがつかないもの」
「そ、そんな……折角委員長の為に貯金の大半をはたいて用意しましたのに……」
「何してるの……」
「……まあ、そういう訳だからそんな心配しなくても大丈夫だよ」
「そうですね、あの酒泉君がそこまで大切に想ってくれているのでしたら……」
「え?あの……俺が何か────」
「いいよ照れなくて、私達も……まあ……嫌な気はしないからさ、面倒とか思ったりしないから」
何故か照れ臭そうに、そして嬉しそうに背中を叩いてくる銀鏡さん
四人の中で何か変な誤解をされてる様な気がしてならないが、その正体を突き止める前に空崎さんが先に口を開いた
「それよりも酒泉、今日はハロウィンだけど……何か言う事はない?」
「言う事?……あっ!?トリック・オア・トリート!」
「ふふっ……はい、どうぞ」
「ありがとうございま────す?」
思い出したかの様に叫べば空崎さんが微笑みながらキューブ型のチョコが入った包み紙をポケットから取り出した
それを受け取ろうと手を前に出す……が、空崎さんは何故か手を引き戻し、チョコの包み紙を剥いて剥き出しになったチョコを俺の口元に近づけてきた
「はい、あーん」
「……うぇ?あ、あの……空崎さん?」
「どうして驚いてるの?別に初めてって訳じゃないでしょ?」
「そ、そりゃそうですけど……でも皆の前は流石に────」
「じゃあいらないんだ」
「……欲しいです」
「お利口さんね」
猫の前で猫じゃらしを揺らすが如くチョコを指で摘まんで見せびらかしてくる空崎さん
ひっっっっっじょうに恥ずかしい事ではあるのだが、糖分を目の前にしておきながらそれを見過ごすのは全ての甘味に対して失礼なので恥ずかしさを押し殺しながら口を開けた
口の中に優しく投げ込まれるチョコレートをころんと舌の上で転がすと優しいミルクの風味が口内に広がった
「はい、あーん」
「あ、あーん……」
「美味しい?」
「美味しい……です」
「よかった」
にっこりと微笑みながら未だに〝あーん〟を続けてくる空崎さん
すると唖然としていた銀鏡さんが我に返った様にハッとして急に俺と空崎さんの間に立ち塞がった
「い、委員長ずるい!私が先にやろうとしてたのに!」
「早い者勝ちよ」
「うぅ~……!しゅ、酒泉!ほら!私にもトリック・オア・トリートは!?」
「え?ト、トリック・オア・トリート……?」
銀鏡さんに急かされながら要求すると銀鏡さんはいつの間にかクッキーが入った透明の袋を取り出していた
その中からクッキーを一つ摘まんで取り出すと、それを俺の口に押し当ててこれまた急かす様に言ってきた
「ほ、ほら!あーん!」
「わ、わかりましたから!そんな押し付けないでくださいよ!……あむっ」
「……ど、どう?美味しい?」
「これは……チョコチップですかね?すっげー美味いです」
「ふ、ふーん……じゃあもう少しだけあげるよ。ほら、あーん」
「んぐっ……」
大好きな糖分は出来るだけ自分のペースで食べたいものだが、銀鏡さんの様子を見るにそうはいかなそうだった
まあ、口の中が幸せな味でいっぱいだしこれはこれで悪くないかもしれん……ちょっと、いやかなり恥ずかしいけど
「はぁ……イオリ、そんなに急かすと喉を詰まらせてしまうでしょう?」
「あっ……ご、ごめん!大丈夫?」
「だ、大丈夫っす……」
天雨さんが銀鏡さんを制止してくれたお陰でやっと口元が解放される
その事の礼を言おうと天雨さんの方を向いたが、彼女は何故か意地の悪い笑みを浮かべながら俺を見つめていた
「ところで酒泉、ここに有名店で買ってきたトリュフチョコがあるのですが……私にお手をした後、三回回って〝ワン!〟と鳴けば特別に食べさせてあげますよ?」
「ワン!!!ワン!!!(迫真)」
「貴方にプライドは無いのですか?」
即座に天雨さんの手に(勝手に)タッチし、三回回って二回鳴き声をあげた、一回多いのはオマケだ
甘味を手に入れる為ならば頭だって下げるし、靴だろうと脚だろうと舐めてみせよう。プライド?そこになければちょっとない……ですかね……(スーパーの店員感)
「それより約束通りトリュフチョコくださいよ!あの天雨さんなんかに頭下げてやったんですから!」
「〝天雨さんなんかに〟が非常に気になるところではありますが……まあ、貴方の痴体をこの目に収める事が出来たのでよしとしましょう」
「ほら!早く早く!」
「ええい!散歩をせがむ犬じゃないんですから落ち着きなさい!それとも本当に犬になってしまったんですか!?」
何とでも言え、私とて糖分を入手しなければならん……!
それに漸く自分のペースで食べる事が出来そうだしな、あの天雨さんが俺に〝あーん〟なんてする訳がないし────
「こほん!……では、口を開けなさい」
……あぽ?
「えっと……天雨さん?俺、自分で食えますよ?」
「黙って口を開けなさい、今の貴方は犬なんですからごちゃごちゃ考えず私に言われた通りに従えばいいんです」
「はあ?さっきのはトリュフチョコが欲しくて犬の真似をしただけであって、誰も天雨さんの犬になるなんて一言も────」
「ああもう!!!黙って口を開けろと言ってるでしょう!!?」
「メメタァ!?」
此方の意見なんて知らんとばかりに俺の口にトリュフチョコを押し込む天雨さん、銀鏡さんの時とは違って完全に口を押さえられてるので息苦しい
「ほら!味の感想は!?美味しいですか!?美味しい以外の感想は聞き入れませんが!」
「アコちゃん!照れ隠しにしても言ってる事がめちゃくちゃすぎるよ!」
「はあ!?何も照れてませんが!?」
「……さっきイオリに〝急かすと喉を詰まらせちゃう〟って注意してたのに」
天雨さんが銀鏡さんとワイワイキャーキャーしてる間にしっかりと咀嚼して味を確かめる
甘味の中に隠されたほんのりとした苦味、ガトーショコラの様な大人の甘さが口に広がった
流石は有名店と言うべきか味はかなりのものだった……だけに、天雨さんに無理矢理口にぶちこまれたのはちょっぴり残念だって、次からは一個ずつ丁寧に口に運んでほしい
……いや、次もまた〝あーん〟してほしい訳じゃないけど
「今日は災難ですね、酒泉君」
「火宮さん……いや、俺からしたらプラスな出来事の方が多いけどな」
「それはお菓子が貰えたからですか?」
「勿論」
それに〝あーん〟だってこんな魅力的な人達にやってもらえたと考えたら恥ずかしさより嬉しさの方が……いやそっちはまだ恥ずかしさの方が勝つな
「ところで酒泉君、私にもあの言葉を言ってくれませんか?」
「火宮さんも?えっと……トリック・オア・トリート?」
「ありがとうございます……でも困りましたね。実は私、今日はお菓子を用意していないんですよね」
「え?じゃあなんで言わせて────」
「なので…………イタズラするしかありませんね?」
「っ、火宮さん」
包帯を纏っただけの身体が俺に近づき、下から小悪魔的な笑みと瞳を俺にぶつけてくる
その薄布の下がただの裸体であると想像してしまった俺は慌てた様に一歩後ろに下がってしまい、それを見た火宮さんはイタズラが成功した少女の様にうふふと笑った
「ふふ……ごめんなさい、少々戯れが過ぎてしまいました。お菓子ならちゃんと用意してますのでご安心ください」
「……イタズラだけじゃなくお菓子もくれるなんて、贅沢なハロウィンだな」
「酒泉君が望むのでしたらイタズラでも構いませんよ?」
「勘弁してくれ」
火宮さんは俺をからかいながら紙袋の中からプラスチック製のドリンクカップを取り出す、中身は多分チョコとミルクを混ぜたであろう色合いの飲み物だった
濡れている紙袋を見る限り、おそらく保冷剤と一緒に入っていたのだろう
「はい、こちらをどうぞ」
「……なあ、そのカップさ」
「いけませんよ?」
「だよな」
ドリンクカップを持ったままストローを俺の口元に持ってくる火宮さん、一応〝自分で飲ませてくれ〟と伝えようとしたのだが全て言い切る前に即座に拒否られてしまった
しかしまあ、他者の手で飲み食いさせられるのも今日だけで四回目。これだけ辱しめを受けてしまえば流石に慣れてきたもので、火宮さんに差し出されたストローに渋々と顔を近づけた俺はそのままストローを口に含んで中の甘味を吸い始めた
味は予想通りチョコミルク、氷が入っているのもあってキンキンに冷えていた
「んくっ……っはあ……美味しいです、火宮さん」
「それはよかったです、一番酒泉君が好みそうなのを選んできたので……結果として四連続チョコレート類になってしまいましたが」
「……確かに?」
空崎さんの時はシンプルな四角いチョコ、銀鏡さんの時はチョコチップクッキーで天雨さんはトリュフチョコ、そして火宮さんはチョコミルク
今日は何かとチョコレートと縁のある日だな
「でも……そのチョコミルクはただのチョコで作られたものじゃないんですよ?」
「え?そうなの?」
「はい、その中には────」
バレンタインじゃなくてハロウィンの筈なんだけどなーとか考えていると火宮さんが俺の耳元に口を近づけ、ボソリと小声で囁いてきた
「────私の血も、少々含まれているんですよ……?」
凍る空気、固まる一同、間抜け面で口を半開きにする俺
唯一火宮さんだけが何でもなさそうな顔で一番に声を出した
「────というのは冗談で……先程のイタズラの続きです♪」
「……え?」
「もう……飲料に血を混ぜるなんて、そんな不衛生な事を私がする筈ないじゃないですか」
「な、なんだ……冗談だったんだ……」
「珍しいですね、チナツがそんな冗談を口にするなんて……」
「声のトーンが本気だったから……私も信じちゃった」
火宮さんの気合いを入れた演技に騙される一同、あの空崎さんですら嵌められるとは流石としか言えない
あまりにも本気すぎた演技に未だに背筋が凍って動けないでいる、そんな俺を置いて四人が顔を合わせた
「では、一通り餌付けも終わったところでそろそろ……」
「うん、やろっか」
「今度は私達の番ですからね?」
「覚悟しろよー」
「……ん?」
視線を合わせ、何かを示し合わせた様に頷く四人
何をするつもりだと問う前に全員が俺に近寄り、同時にあの言葉を口にした
「「「「トリック・オア・トリート」」」」
「……あ、そうか」
いつの間にか俺を餌付けする会みたいになってたけどそりゃ俺だって菓子をねだられるよな
「はい、ハッピーハロウィン。えーっと……確か鞄の中にいつも入れてる飴ちゃんが……ん?」
常に何かしらの甘味を持ち歩いている俺は鞄の中に入っている筈のコーラ飴を取り出そうとする
しかし飴の入った袋が見当たらず、代わりに入っていたのは一枚の紙だった
どれどれ?〝酒泉へ、小腹が空いたので貰っていくね。by強い方のシロコ〟かぁ……
「言えよ!!!」
「酒泉、どうしたの?」
「あ、いや……なんか持ち合わせが無いっぽくて……後でなんか買ってくるんでとりあえずここは見逃してくれませんかね?」
両手を合わせて〝この通り!〟と頼み込む……が、四人は何かしらのアイコンタクトを取ったかと思えば俺を四方から囲み始めた
「あの……皆さん……?」
「酒泉、私達は〝今〟お菓子が欲しいの。後から渡されたとしても、それはハロウィンのイベントで貰ったお菓子には成り得ないわ」
「そういう訳で……悪いな!酒泉!」
「なぬっ!?」
仲間の前だからと完全に油断していた俺は突如背後から銀鏡さんに抵抗も出来ぬまま羽交い締めされてしまった
……背中に感じる小さな感触には気付いていないフリをしよう、うん
「こ、このっ……いきなり何を……!」
「ほら、大人しくしていなさい。私達四人に勝てる筈が無いんですから」
「そうですよ……大丈夫です、悪いようにはしませんから」
天雨さんが(何故か)持っている犬の首輪を首に掛けられ、更に火宮さんの包帯によって視界も塞がれ……ねえ待って!?その包帯って火宮さんが身体に巻いてたやつじゃないよねぇ!?
「酒泉、これが何かわかる?」
「ふひっ!?」
視界を塞ぐ包帯の出所に困惑していると突如柔らかい何かに頬をこしょこしょと擽られる
感触的にこれは……何かの羽、か?空崎さんの羽とは違う、トリニティ生によく生えてるタイプの方だろうが
空崎さんからの質問に答えようと口を開くも、足元に感じる違和感に口を閉ざしてしまう
「それで酒泉、私達からのイタズラなんだけど……」
これは靴を脱がされ……いや、靴下も?一体何を────あ、まさか
「これから72秒間、貴方をくすぐり続ける」
やめろォ!
「ただいまー」
「ん……お帰り酒泉、それとトリック・オア・トリート」
「いやいきなりっ!?もうちょい間を空けてから言ってくれよ!?……まあいいや、今朝みたいな事が起きても大丈夫なように丁度色々買ってきたところだから。プレナパテスにお供えしたらシロコさんとプラナにも分けてやるからさ」
「ありがとう……でも、イタズラしたかった」
「そりゃ残念だったな……あっ!そういやシロコさん!今朝俺が用意してた飴勝手に持っていって────」
「まあいい、お菓子があってもイタズラすればいいだけ」
「えっ」
「ん、このくすぐり棒で酒泉を襲う」
「ちょっ……それずる────」