その従者、最強につき
登場から僅か数ヶ月、既に戦場は天童ケイによって支配されていた
全ての旗が、全ての民が、全ての金銀財宝名誉名声が天童ケイの名の下に集まった
多くの者が恋い焦がれ、そして待ちに待ち続けてきた
何月、何年掛かるかも分からぬ生徒の実装を───多くの者達が追い続けてきた幻が、ついに現実となった
現世へと降臨した彼女を、人々は皆〝叡知〟な瞳で見つめ「見ないでください!!!」
「きゃっ……もー、急に耳元で叫ばないでよー!」
「それは此方の台詞です!急に変なナレーション入れないでくれませんか!?」
モモイの肩を掴みぐわんぐわんと揺らすケイ、ミドリとユズはそれを苦笑しながら眺めているがアリスだけはどこか嬉しそうに笑っていた
アリスの周囲には大量の〝エッチなのは駄目!〟な本が並べられており、更にその本の周りを多くの客達が囲んでいる
中でも自分の半身とも言える存在であるケイの〝叡知な本〟は大人気であり、彼女を好く者が多い事はアリスにとっても喜ばしい事だった
「ケイは凄いです!登場して一年も経っていないのにもうこんなに沢山えっちな本が出ているなんて……ケイは人気者ですね!」
「そんな事で人気になれても嬉しくありません!大体、アリスだって去年よりも確実に……ん?」
そこでケイは一つの事実に気付く
今年のブルアカは間違いなく〝ミレニアムの年だ〟と言っても可笑しくない程に自分達が活躍していた事に
ともなれば、その活躍したキャラクターの〝叡知な本〟も当然増える訳で、つまりは自分だけではなくアリス達ゲーム開発部にも邪な目を向ける者が増えて────
「この会場を……破壊します!」
「「「「ケイ!?」」」」
ユウカ同様、ゲーム開発部に対して保護者的な面を向けることもある彼女は全ての穢れを排除するべく己の銃を天井に向ける
すると唐突に破壊衝動に目覚めた彼女を止めるべく、仲間達が必死にその腕を抑え込んだ
「落ち着いてってば!!先週酒泉にも一緒に出掛けないかって誘った時に〝悪い、その日はちょっと用事が……〟って言葉を濁されながら断られたからってそんな引きずらなくても!」
「そ、そうだよ!この前ユズちゃんと酒泉が深夜から朝まで通話しながらずっとゲームしてたからって変に関係邪推しないでも!」
「うぇえええええ!?な、なんで知ってるの!?」
「うわーん!ユズだけズルいです!アリスが酒泉と夜更かしでゲームしようとしたらユウカとケイに見つかって怒られてしまうのに!」
「それはほら、アリスちゃんってちょっと元気すぎるところがあるから……」
「ユズの件は後で詳しく話を聞かせてもらうとして、モモイの言った事は私が怒ってる件とは何ら関係ありません!私が怒っているのは……その……こ、こんな本が多く出回ってしまっている事に対してです!」
「ひ、ひいぃ……」
然り気無く尋問が確定した事でどこからともなく取り出したダンボールを被り、中でカタカタ震えるユズ
そんな彼女を置いて益々怒りがヒートアップしていくケイを静めるべく、モモイは少々ずれた擁護を始めた
「で、でもさぁ……これだけエッチな本が沢山描かれてるって事はつまりそれだけ愛されてるって事じゃない?よかったじゃん!これだけ色んな人に愛されてるなら酒泉の事なんかどうでもいいよね!うんうん!」
「お姉ちゃん……そうやって卑怯な手でライバルを落とそうとするなんて……だから負けヒロインにしかなれないんだよ」
「そ、そもそもヒロインレースに参加してるのかも怪しいというか……」
「つまりモモイは負けヒロインになる事すらできないという事ですね!」
「ぐふぇ!?」
「ですからっ!彼の事は関係無いと言ってるでしょう!?私が気に入らないのはこの光景です!」
ケイを静めるついでにと余計な事を口走ったせいか、突然三人からナイフを突き立てられるモモイ
隣でガクリと項垂れるそんなモモイを一切気にも留めず、ケイは怒りながら周囲を見渡す
白、白、白、見渡す限りの白
彼女の見知らぬ所で、全ての人間がいつの間にか天童ケイという〝白〟に魅了されていた
世の全ての者が、彼女の誕生を待ちわびていたからこそ────
(……全ての)
瞬間、ある可能性が彼女の脳裏に浮かび上がる
これだけ多くの者が愛してくれているのなら、その〝多く〟の中にもしかしたら〝彼〟も入っているかもしれない
聞けば彼は白髪が好きだと、ならばこれだけ大規模なイベントで自身の〝叡知な本〟がサークルの大半を埋めた事を彼が知れば、彼も少しくらいは自分を意識してくれるかもしれないと
そしてあわよくばその本を購入しにここまで────
「───って!何を考えてるんですか私は!?」
「ひいっ!?」
「ま、また怒った……ユズちゃん、もしかして今度酒泉と二人で格ゲーのフィギュア取りに行こうとしてる事がバレちゃったんじゃ……」
「もしかして先週出た新作のフィギュアの事でしょうか?それなら確かモモイが三千円程UFOキャッチャーに吸われた上に電車賃まで使っても取れなかったので徒歩で帰宅していたのを覚えてます!」
「……だから私にお小遣い前借りしようとしてきたんだ?」
「あ、あれは店が遠隔してたから負けたの!全部あの悪徳業者のせいなんだから!」
「お姉ちゃん、家のアルミホイル無駄遣いしないでよ」
「巻いてない!」
いつの間にか自分の思考がピンク色になりかけていた事にギリギリで気づいたケイは首を横に振って余計な思考を振り払う
だが、案外初なところもある彼女はそれでも僅かな期待まで振り払う事はできなかった
ネットで大きく話題になった上、ここまで大規模なサークルが現地で築かれているのだ
全く目に留まらずの全くの無関心なんて事は無いだろう────
「……あれ?」
「ん?どうしたの?」
「……ねえお姉ちゃん、あれって……」
「どれどれ……えっ!?嘘っ!?」
「むむっ!ランダムエンカウントです!」
「しゅ、酒泉はモンスターじゃないよ……?」
「……は?酒泉」
────そんな彼女の願いを、天は叶えた
ユズの口から知った名が聞こえてきたケイは、ゆったりと振り向いて視線を皆が向ける方へスライドさせる
その先では見知った顔の少年が何かを探しているようにキョロキョロしながら会場を歩いていた
「な、なななななっ……」
〝何故〟という言葉が出る前に、少年は───折川酒泉は探し物が見つかったかの様にとあるサークルへと足早に近付く
「……へ?」
そのサークルの看板をよく見てみれば、描かれているのは天童ケイの新刊の表紙……つまり、彼女が望んでいた通り折川酒泉は天童ケイを意識していた
否!意識しているどころではない、明確に〝そういう目〟で見ているのだ!そうでなければ誰がわざわざ現地に行ってまで〝過酷な本〟を買おうというのか!
お前ら笑うな!酒泉はこれから誰も見てないところでケイちゃんで過酷しようとしてんだよ!ケイちゃんで過酷してない奴は笑うな!
「な……なんですか!誘った時は〝予定があるから〟と興味の無さそうな顔で断っておきながら、結局は彼も他の者達と変わらず私のことをそういう目で見てるんじゃないですか!」
「ケ、ケイ……笑顔隠せてないよ……?」
「は、はぁ?全っ然笑顔なんかじゃありませんけど?むしろ不愉快です!」ニマニマ
「めっちゃニマニマしてる……」
「口元がキリッとしたりゆるっとしたりしてる……」
「アリスも!アリスの本も買ってほしいです!」
「……あっ!?アリス、待ちなさい!?」
酒泉を見つけた瞬間、娘が父に抱きつきに行くように突撃するアリス
一々説明する必要は無いだろうが、如何わしい物を買っている場面を知り合いに目撃されるというのは非常に気まずい出来事であり、それが異性相手となるとより顕著になってしまう
だが、今のケイにはそれを優しく包み込むだけの包容力がある
何故なら彼女は、男児とはそういう生き物である事を身を持って知ったからだ
きっと彼も他の大勢と同様に私の〝白〟に惹かれてしまったのだろう、ならば仕方なく渋々と本当に仕方なく温かい目で見守ってあげなければ────
「すみませーん!旧刊の空崎さん純愛本くださーい!」
「貴方を殺して私も死にます!!!」
「どうしてエッチな目で見てくれないんですか!?」
「なんだこの白いの!?」
「そ、そうだ!本編軸の酒泉はまだこの状態のケイと会ってないんだった!?」
「これも全部投稿が遅い作者の仕業なんだって」
「アリス知ってます!本編完結から露骨に投稿ペースが落ちてます!」
「さ、最近またモチベ上がってきたから本編進め始めたらしいよ……?」