〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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もしも風紀委員が全員退学したらルート


【悲報】風紀委員会、ガチで全員自主退学する

 

 

「その施設の警備計画書でしたら先日完成致しましたので後程資料を……はい?はい……はい……成る程、つまり交通誘導も任せたいと。増員の必要性がある場合、お見積もりが変わってしまう可能性が……」

 

 

空崎警備保障、それはキヴォトスの警備業界に突如として現れた期待の大型新人

 

設立当初からのメンバーに社員募集で募った新人を合わせても社員数は数百と、会社自体が成長途中なのもあって規模はまだまだ控えめな方だった

 

 

「───分かりました、では来週御伺いした際に改めて調整するという事で……はい、よろしくお願いします」

 

 

────にも関わらず業界成績はその月の分だけで競えばいきなりトップ5に食い込む程に好調、その理由としてはやはりあの〝ゲヘナ最強〟である空崎ヒナが代表取締役社長を務めているのが大きいだろう

 

その大きすぎるネームバリューは保安業務において絶大な効力を発揮し、更には社員の大半が苛烈なゲヘナで戦い抜いてきた〝元〟風紀委員である事も相まってその防衛力は開業前から注目されていた

 

そこになんと〝折川酒泉が慈愛の怪盗からターゲットを守り抜いた〟やら〝取引先の組織の門主を狙っていた五塵の獼猴を捕えた〟やら〝海辺で大騒動を起こした伝説のスケバンを下した〟やら、空崎警備保障社員の大活躍も加わった事で信頼は確固たる物に

 

尚本人は〝こんだけ大物に出会すとか俺って疫病神では?〟と一時期本気で悩み、結果退職を考えるまでに追い詰められたとか

 

……まあ、いざ辞めようとしたところで彼の周りの者や空崎警備保障の〝取引先〟があらゆる手段を使って止めに来るだろうが

 

 

「これで午前の分は完了……後は────あ」

 

取引先との連絡を終えて電話を切るヒナ、しかしその直後に再び着信音が鳴った事で視線が再び受話器の方に向けられる

 

ヒナはそれを無視してやろうかとも思ったが渋々と……心の底から面倒臭そうな顔をしながら電話に出る事にした

 

 

『やっほー☆ヒナちゃん元気ー?今暇ー?酒泉君もう休憩入ったー?』

 

「仕事の話じゃないなら切るわよ」

 

『ちょっ……冗談だから!ちゃんとお仕事の話もあるから!』

 

「〝も〟って何よ……雑談する気満々じゃない……」

 

 

聞こえてきたのは少々喧しすぎる程明るい少女の声

 

過去にとある理由から激しく激突し、結果同じ男を求める好敵手ライバルとして何故か仲良くなってしまった不思議な関係の相手である

 

 

『もー余裕ないなぁ……そんなにお仕事大変なの?相変わらず社畜って感じ?』

 

「確かに仕事は大変だけど、誰かさんの下らない嫌がらせがないお陰でどれも順調に進んでいるわ。あの頃に比べたら仕事量もストレスも遥かにマシよ」

 

『ふーん、結果的に辞めて正解だったね』

 

「ゲヘナに残してきちゃった一般生徒には申し訳ないけどね……それで?仕事の話は?」

 

『あっ!そうそう!実は五日後ティーパーティーでプライベートビーチに行く事になったんだけどそのビーチ周辺の警備頼めないかなーって』

 

「来週……流石に唐突すぎるわよ、そんな言われてすぐに人員を用意できるはずないでしょう?」

 

『ああ、大丈夫大丈夫!必要なのは一人だけだから!』

 

「一人?」

 

『うん!酒泉君だけ貸してくれたら十ぶ「却下よ」そんなっ!?』

 

 

何を言おうとしたのか察したヒナはミカの言葉を待たずに途中で両断した

 

するとミカは何がいけなかったのか理解しようとしない幼児ばりに〝どうして〟だの〝ケチ〟だの〝意地悪〟だのと電話越しに喚き散らした

 

 

「〝誘導が得意な人が欲しい〟とか〝緊急時の対応に慣れている人が欲しい〟とかの要望なら聞いてあげなくもないけど、特定個人の指名だけは無しよ」

 

『なんでよ~!?折角酒泉君に可愛い水着見せたり酒泉君と海でキャッキャウフフできると思ったのに~!』

 

「……残念だけど、酒泉はあまり泳ぎたがらないと思う」

 

『え?どうして?酒泉君こういうイベント好きそうなのに』

 

「……身体の傷痕を他人に見せたくないのよ」

 

『つまり酒泉君の傷痕を私の存在で埋めるチャンスってコト?』

 

「貴女も大分吹っ切れてきたみたいね殺すわよ」

 

『殺意を隠し切れてないじゃんね』

 

 

すっかり好意を隠さなくなったミカの目的を聞いて〝暫くトリニティから離れた現場に酒泉を向かわせよう〟と決意するヒナ

 

しかしその直後にミカの口から発せられた言葉は、意図も簡単にその決意を揺さぶってきた

 

 

『なーんだ、一緒に泳ぐのは無理にしてもせめて〝パラソルの下で灰色パーカーを羽織って体育座りで読書している可愛くてえっちな酒泉君〟を見る事くらいはできると思ってたのになぁ……』

 

「……っ」

 

 

ピクッ

 

 

『酒泉君一人に仕事押し付けちゃうのは大変そうだしやっぱりもう一人くらい〝最強クラス〟の隊員さん借りようかと思ってたんだけどなー』

 

「…………」

 

 

ピクピクッ

 

 

『……そういえば私ぃ、来月のどっかで酒泉君と二人で映画観に行く事になったんだよねー。でも私って意外と抜けてるところあるから?もしかしたら……間違えてチケット〝三人分〟予約しちゃうかもしれないなー』

 

「………………」

 

『もしそうなったらそのチケット誰かにプレゼントしよっかなー、具体的には直近で酒泉君とのデート枠を仕事の都合で仕方なく譲ってくれた心優しい誰かにぃ?』

 

 

ピクピクピクッ

 

耳に甘い言葉が垂れ流される度に反応してしまうヒナの耳、受話器を持ったまま暫く考え込んだ後にヒナはボソリと小声で答えた

 

 

「…………見積もりは後で送るわ」

 

『ナイス酒泉☆』

 

「ナイス酒泉……ふう」

 

 

謎のやり取りを終えたヒナはそのまま通話を切り、受話器を再びセットし直した

 

これは決して誘惑に負けた訳ではない、ティーパーティーが相手ならそれなりに金払いも良い筈だ、つまり大して人件費も掛けずに私と酒泉の二人だけでガッポリ稼ぐチャンスだと判断しただけだ

 

そんな言い訳を心の中で(僅か三回程度)繰り返し(た後、頭の中をすぐパーカー姿の酒泉で埋めつくし)たヒナは一先ず落ち着く為にお茶でも飲もうかとデスク端のペットボトルに手を伸ばしたところで

 

 

「……はぁ」

 

 

────今度は別の番号から着信が届き、その手が受話器の方へと引き戻された

 

ミカの時同様再び面倒臭そうな顔をしながら受話器を手に取るヒナ、もしもしと訊ねてみればやはり予想通りの声が返ってきた

 

 

『どう?調子はどうかしら?』

 

「ええ、貴女から学んだノウハウのお陰で今のところは順調よ────リオ」

 

『そう、なら良かったわ。賃金の低い会社で働くなんて彼が可哀想だもの』

 

「……煽り?」

 

『……?』

 

「答えなくていい、その反応で大体分かったから……貴女が割と天然だってこと、すっかり忘れていたわ」

 

 

空崎警備保障を立ち上げるにあたり、ヒナが必要な知識を得る為に教えを乞うたのは意外にも調月リオだった

 

付いてきてくれた同志達を食べてさせていく為なら恋敵に頭を下げる事すら厭わない、その覚悟を汲み取ったリオは快くヒナからの頼みを了承した

 

……が、流石は合理的な判断力の持ち主と言うべきか。それを機にヒナは定期的にリオからその時の〝借り〟の返礼を求められる事になる

 

 

『それよりも仕事の話があるのだけれど……時間を頂いてもいいかしら?』

 

「勿論、仕事の話ならいつでも歓迎よ」

 

『それなら早速……実は来月、とある事象の調査の為に氷海に行く事になったのだけれど、その調査の護衛として二十人程送ってもらう事はできないかしら』

 

「それは別に構わないけど……でも、引き受けるのはあくまで護衛の仕事やその範囲に収まる付帯業務だけよ?荷物を運ぶのを手伝うだけなら大丈夫だけど〝調査に協力してほしい〟とかの専門的な知識が必要な仕事はできないと思うから」

 

『ええ、分かっているわ。護衛以外の仕事を頼むつもりはないし、その仕事だって〝もしかしたら戦闘になるかもしれない〟程度の可能性を考慮してお願いするだけだから』

 

 

誰かさんの時と違ってスムーズに進んでいく会話、誰かさんと違って特定個人を指名している訳でもない

 

これなら引き受けても問題無いだろう

 

 

『それで、護衛を送ってもらうにあたって幾つか要望があるのだけど……そうね、やっぱり人員の半分以上は修羅場慣れしている人が好ましいわ。それと非常事態に陥った時に船の整備を手伝ってもらう必要があるかもしれないから手先が器用な人も、ああそれと調査の際に少しでも異変を感じ取った場合はすぐに撤退するつもりだからそれを察知できるくらい〝視力〟が良い人も欲しいわ、後は戦闘能力もあれば────』

 

「最初から〝酒泉を狙ってる〟って素直に言いなさい」

 

『違うわ、あくまで上記の条件に当てはまる人が一人くらい欲しいってだけよ』

 

「それはもう実質折川酒泉なのよ」

 

そんな風に安心していたヒナが心の中で前言撤回したのは僅か三秒後の事であった

 

〝折川酒泉を呼ぶのが一番合理的である〟という結論を無理矢理自分の頭の中で作り上げ、それを押し付けようとしてくる色々とビッグなシスターに思わずピキりそうになるヒナ

 

しかし、彼女が依頼を拒否しようか検討し始めるよりも先にリオの方からとある提案をされた

 

 

『……今開発中の防犯機能特化型のAMAS、もし量産体制が整ったら真っ先に貴女の会社に提供してもいいと考えているわ。当然特別価格で』

 

「……」

 

『人感センサーは当然として熱感知も振動感知もお手の物、段差だって隠し脚で簡単に乗り越えられる。内蔵されているカメラの映像は防災センターに繋がっているし、もしモニター越しに不審者を発見した場合は遠隔操作で戦闘形態に移行する事だって出来るわ。もし警備用AMASが普及すれば間違いなく現場の負担は軽減されるでしょうね』

 

「貴女、いつからセールスウーマンに転職したの?……でも、悪くない提案ね」

 

 

某国もビックリするレベルで銃社会なキヴォトス、そこの警備員と〝外〟の世界の警備員では業務内用がまるで違ってくる

 

〝外〟の世界の警備員は危険防止の為に配置される事が多く、実際に不審者と遭遇した際の戦闘まで想定して配置される事はほぼ無い

 

しかしキヴォトスの警備員に限っては不審者からのあらゆる襲撃パターンを予測した上でそこに適した人員を配置する必要がある

 

銃や爆弾が簡単に手に入る、ただの喧嘩で銃が持ち出される、子供が絶対的な力を持つ、不審者が一切の躊躇いもなく当然の様に発砲してくる

 

そんな世界だからこそ防犯にも戦闘にも使えるAMASは〝痛みを感じる事の無い訓練要らずの戦闘員〟として需要がそれなりに高かった

 

 

「そうね、前向きに検討するだけの価値はある提案だと────」

 

『それに、現場に直接人員を割く機会が減れば貴女も酒泉と一緒に居られる時間が増えるかもしれないわね』

 

「っ───」

 

『……そういえば仕事の話に戻るけど、氷海でアクシデントに見舞われた時の事を考えたらやっぱり二人くらいは戦闘慣れした強者が必要かもしれないわね』

 

「……」

 

『……氷海で寒さを凌ぐ為にモコモコを着る酒泉の姿、間近で見たくないかしら?』

 

「採用」

 

 

ここまでのやり取りは何だったのかという勢いでリオからの提案を即決するヒナ

 

それらしい理屈をべらべらと並べたところで、結局〝折川酒泉〟の存在を出されてしまえば彼女の頭はそれ一色に染め上げられてしまう

 

 

『貴女ならそう言ってくれると信じていたわ……ナイス酒泉』

 

「ナイス酒泉」

 

 

謎の言葉を交わして再び通話を切るヒナ、色々と思うところはある様だが、一先ず彼女の中ではギリギリでメリットが勝ったらしい

 

それに氷海での任務となればワンチャン同じマフラーを共有して二人で暖まるなんてイベントもあるかもしれない……とは決して思ってなどいない

 

元ゲヘナ最強の風紀委員長にして現警備業界最強社長である彼女がそんなピンク色の思考に負ける筈がないのだから

 

 

「そう、だからこれは全部私欲ではなくメリットと比較した上で───」

 

 

ジリリリリリッ!

 

 

「…………」

 

 

見るからに〝またか〟といった表情で再び受話器を取るヒナ、薄々そんな予感を感じ取りながら番号を確認すればこれまた知人だった

 

 

「……もしもし、何か用?無いなら切るわよ」

 

『お客さん相手なのにちょっと冷たくないかな、ヒナさん』

 

「物理的に冷たくしてあげようとした事だってあるんだから今更でしょう?───秤アツコ」

 

『それゲヘナジョーク?だとしたらあまりセンスないね』

 

「貴女のところのリーダーのギャグセンスよりはマシよ」

 

『取り消してよ……今の言葉……!』

 

秤アツコ───それは嘗て折川酒泉の命を奪いかけた組織の一人にして、空崎ヒナに命を奪われかけた少女の名……というのも過去の話

 

勿論ヒナとしては当時の出来事は未だに許せていないのだが、今は彼女達に〝借り〟を作ってしまっている立場でもある為、最低限の義理を通す為に即切りだけはしなかった

 

 

『まあ、サッちゃんの笑いのツボが終わってる事は置いといて……急で悪いんだけどさ、ちょっと仕事の相談があって』

 

「(認めた……)本当は他に優先しないといけない仕事があるけど……貴女達ETOにはゲヘナの事でお世話になってるし、話だけならすぐに聞けるけど」

 

『本当?そう言ってくれると助かるかな』

 

 

〝空崎ヒナ〟というゲヘナ最強の少女が自主退学の道を選んだ事で、彼女によって押さえつけられてきた不良生徒や問題児達は噴火を抑えてきた火山の様に一気に暴れ始めた

 

その中には当然他校の生徒に絡んだり他校の敷地で暴れたりする様な暴徒も存在し、特にトリニティの生徒は過去の遺恨もあって特に標的にされやすかった

 

勿論、そうなる事を退学前から予測していたヒナは〝本当に今のゲヘナを放置して辞めていいのか〟と最後まで悩み続けた、だが

 

 

 

 

 

───何も心配する必要は無い、ゲヘナの生徒がトリニティに害を加える様なら私達が相手をしよう……酒泉にもお前にも数え切れない借りがあるんだ、これくらいはさせてくれ───

 

───わ、私達も頑張りますけど……と、時々酒泉さんにも様子を見にきてもらいたいなぁって……そ、それで褒めてくれたりしたらもっと頑張れる気が……ひ、ひいいいいいっ!?な、なななな何でもないですぅぅぅぅ!?───

 

───……アイツに伝えといて、〝自分のメンタルも管理できない奴が道具の管理をこなせると思わないで〟って……は?違うから、別に休んでほしいとかじゃなくて……何皆でにやにやしてんの、ムカつくんだけど───

 

───もし今のゲヘナがただ酒泉を傷付けるだけの存在だって言うなら……やめちゃいなよ、そんな学園なんか。責任なんて気にしなくていいよ、ていうか本来ヒナさんが感じてる責任って暴れてる生徒本人やもっと上の組織の人が感じなきゃいけないやつじゃないの?……ああ、上があれじゃ無理か───

 

 

 

 

最後の一押しをしたのは意外にもアリウスの面々だった

 

勿論〝折川酒泉〟の存在があってこその言葉だろうが、彼女達がETOとしてトリニティに危害を加えようとしているゲヘナ生達を抑えている事でヒナの罪悪感が多少軽減されているのも事実

 

本来であればアリウスの復興作業にだけ注力していればいい彼女達が、日替わりでトリニティに向かってETOの仕事までこなしている

 

嘗て彼女達の命を手に掛ける直前にまで至ったヒナでも、それだけの恩を受けてしまえば〝恨み〟以外の感情が芽生えてくるもの

 

 

「それで?その仕事の相談っていうのは?」

 

『実は来月アリウス自治区で植樹イベントをやるんだけど、外部からの一般参加も受け付けるつもりだから交通整理をお願いしたいんだ』

 

「アリウスで植樹……そう」

 

 

ヒナが最後に見たアリウスは全体的に灰色な瓦礫と廃墟の街だった、そんな場所についに彩りが生まれるとは……なんて感慨深いのだろう

 

……なんて思える様になったのも、自分が最低限の恩義を彼女達に感じているからかもしれないという答えにたどり着いたヒナは自然と穏やかな笑みを浮かべ───

 

 

『それでね、もしかしたら素直に指示に従ってくれない人も出てくるかもしれないから出来るだけ〝強い人〟を送ってほしいんだ』

 

「……ん?」

 

『且つ迷子の子供や体調の悪そうな人が居てもすぐに見つけられるくらい〝眼〟が良くて、細かいところにも気配りが利いて、現場慣れしてる、出来れば人間の男の子の……』

 

「結局酒泉じゃない今度こそ殺してやるから覚悟しておきなさい」

 

 

前言撤回、やはりこいつに慈悲は必要無かった

 

そう再確認したヒナは〝どいつもこいつも酒泉ばっかり〟と愚痴を吐きながらも、アツコの〝ほっぺたに土を付けながら優しい笑顔で花を植える酒泉の横顔見たくない?〟という誘惑に負け、結局彼女からの依頼を引き受ける事になってしまった

 

ナイス酒泉

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『もしもーし?ヒナちゃーん?そそ、お仕事の話。今度砂祭りやるからさー、警備の為に酒泉君貸してほしいんだよねー……うへっ?酒泉君じゃなきゃ駄目な理由?それは……えっと……まあ、色々?で、でもほらっ!顔見知りの方が話しやすいし……』

 

『空崎ヒナアアアアアアアアッ!貴様っ、貴様良くもっ!貴様が急に全てを放り出したせいでゲヘナの治安は底の底の底まで落ちてしまったでは───待てっ!?まだ話は終わってな───』

 

『あ、あの……今度アリウスで植樹イベントを開くのですが、交通整理の為に折川酒泉を派遣していただきたく……わ、私は別に誰が来ようと構わないのですが、でも彼を呼べばマイア達が……後輩が喜ぶといいますか……へ?既にアツコから連絡があった?………………すみません、全て忘れてください。それと今のは決して私欲などではないので勘違いなさらぬように』

 

『今度祭の準備があるからアンタのとこのクソボケ貸してくれない?……理由?また妙な連中に邪魔されたりするとたまったもんじゃないから出来るだけ強い人員が欲しいってだけ、それとついでにナグサ先輩が妙にソワソワして鬱陶しいから……私?………………妙な勘違いしな『おお!キキョウ!ついに酒泉を誘ったのか!?いやーお前最近ずっとソワソワして──』……』ブツン,ツー,ツー,ツー

 

『貴様ぁ!よくも途中で切ってくれたなぁ!?私は知っているからな!そうやって全てを切り捨てたつもりでも心の底では───待て!?まさかまた切るつもりでは───』

 

『621、仕事のじか……何?番号が違う?……すまない、忘れてくれ』

 

『47、準備は一任す……ごめんなさい、掛け間違えたみたい』

 

『あ、あの……実は今度ハイランダーでレールの点検作業があるんですけど、作業中誰も立ち入らないように周辺の巡回をお願いしたくて……あ、それと……あの……運行時間外の夜間作業になりますので、出来れば夜でも眼の利く方が……その……お、オススメと言いますか───ああっ!?私のスマホが!?』

『やっほー!そっちの冴えないお兄さん元気ー?』

『しゅせんぷり~ず、しゅせんぷり~ず』

 

『くっ……悔しいが貴様等という抑止力を軽んじていた事実は認めざるを得ん……!風紀委員会という組織が無くなってから奴等は歯止めが利かなくなり、ついには万魔殿の生徒にすら被害が出るように───』

 

『皆と観光施設の査察に行く事になってのう……まあ、そうは言うが〝夏になると体調を崩しやすい妾の為に避暑地まで連れていこう〟という魂胆が透けて見える訳じゃが……門主として周りからの厚意を無下にする訳にもいくまい?皆が用意してくれた折角の夏休み、一切の事故災難なく終える為に折川酒泉の力を貸してほしい。……何、出来るだけ強き者に護衛を頼みたいというだけの事。それ程可笑しな話でもあるまい?』

 

『明後日の12時頃、折川酒泉を盗みに参ります♡』

 

『明後日の12時頃、私の貴方様を奪おうとする雌猫をぶち壊しに参ります♡』

 

『わ、分かった!悪かった!正直に白状しよう!万魔殿のメンバーの顔から疲労が隠せなくなってきた!既に何人か過労で倒れ始めている!それを見たイブキも酷く悲しそうにしている!幾らなんでも奴等は自由すぎた!私のネームドバリューでは奴等を抑えきれん!頼む───』

 

『ちょっ……空崎ヒナァ!話くらい───』

 

『貴様っ、本気で───』

 

『いいかげ───』

 

『すまな───』

 

 

それからもヒナの元には多くの依頼が舞い込み、その度に〝どうして今日に限って〟と頭を悩ませた

 

その原因は間違いなく折川酒泉、なんやかんや傷心したままでも相変わらずな脳焼き性能であちこち駆け回ってきたせいである

 

 

「つまりこの心労は酒泉が原因であり……酒泉はその責任を取る為に沢山私を甘やかさなくちゃならない」

 

 

そんな屁がつく理屈を平然と口から吐き出した空崎警備保障の社長さんはお昼のチャイムが鳴ると同時に、恐らく食堂に来るであろうクソボケを待ち構えるべくその座から立ち上がった

 

 

《高校卒業認定試験の受付は本日19時までです、試験を受ける方は忘れずに書類を事務までお持ちください》

 

《また、復学支援の書類は土日祝を除いた平日7時から19時まで毎日受け付けております。復学支援をお求めの方は必要書類に復学先の学園名を記入した上で事務までお持ちください》

 

 

完全防音の社長室から出れば社内放送が耳に届き、〝そういえばそんな時期か〟と一瞬頭に浮かぶヒナだったが、既に試験に合格している上に復学するつもりもないヒナにはあまり関係の無い事だった

 

今の彼女の頭は酒泉に責任を取らせる事でいっぱい、具体的に何をしてもらうのかと聞けば、ただ膝の上に座って頭を撫でてもらいながら〝あーん〟してもらうだけだが

 

当然、食堂に居る全社員の前で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

五十嵐ショウコは焦り倒していた

 

彼女はとある事情で嘗てのゲヘナを取り戻す為、我慢という言葉を知らぬゲヘナ生達に秩序を敷こうとしていた

 

例えば列に割り込まない、例えば街中で銃を乱射しない、例えば他校の物を勝手に燃やそうとしない……冷静に考えればいずれも当たり前の事ばかりなのだが、ゲヘナ生の一部は気性が荒すぎるが故にそれすら守れない者がいる

 

そんな者達の為にショウコはまず〝自由に銃を撃っていい場所〟を作り、彼女達の内に溜まるフラストレーションを解放する事から考えた

 

 

『はあ?トリガーハッピーゾーン?……別に好きな場所で撃てばよくね?』

 

『そーそー!風紀委員会だってもうゲヘナには存在しないんだしさ!』

 

『万魔殿が止めに来る?……うーん、でも万魔殿って優秀だけどそこまで強い人居なくない?』

 

『折川や空崎クラスの奴もいないし……それにトップがアイツだろ?えっと……羽……羽……』

 

『羽川?』

 

『そうそう!羽川だ!羽川なんて全然怖くないし!』

 

『つーか誰?って感じ!』

 

 

───結論から言えば、時既にお寿司だった

 

彼女等の暴走を抑圧してフラストレーションを溜めさせていた〝風紀委員会〟は既に学園を去った後、つまり何時何処で何発銃をぶっぱなそうと風紀委員がゲヘナの治安を守る為に駆け付ける事はもう二度と有り得ないのだ

 

唯一外部から介入してきそうなシャーレもゲヘナの事件ばかり解決している訳にはいかず、現トップの羽沼マコトはそれほど脅威ではない

 

これは不味い、これ以上秩序が崩壊すれば今後何をしようと全て手遅れになる可能性がある

 

そう考えたショウコは自身の計画が予想もせぬ方向から崩された事に動揺しながら次の手を考える

 

 

(ゲヘナ崩壊の原因は風紀委員が全員ゲヘナを去ったから、そのゲヘナを去った理由は……風紀委員の皆が、折川酒泉を守ろうと決意したから)

 

 

風紀委員達は皆、不良生徒が暴れる事で生じる理不尽から〝罪なき生徒達を守る事〟と〝折川酒泉を守る事〟を天秤に掛け、結果全員が後者を選んだ

 

彼女等を〝責任から逃げた者〟として捉えるか、はたまた〝愛に負けた女〟として捉えるかは人によるだろう

 

どちらにせよ、確かに言えるのは

 

 

(……風紀委員会が帰ってくれば、再びゲヘナの秩序をある程度の水準にまで戻す事ができるかもしれません。その為にも先ずは───)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「折川酒泉を手に入れましょう」

 

 

彼の存在は、風紀委員の心の大半を占めているという事

 

今、五十嵐ショウコによるハードを越えたインフェルノを越えたルナティックを越えた難易度ヘルライズな折川酒泉攻略ゲームが幕を開けた

 

尚、道中ボスには各組織の首脳陣や最強格が立ちはだかる可能性大な模様

 

頑張れショウコ!原作以上のスピードで秩序崩壊していってるせいで計画を早めざるを得ないけどとにかく頑張れ!

 

 

 

 






アコちゃん→秘書

チナツ→事務

イオリ→現場隊長

酒泉→本人の希望によりただの隊員
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