現在折川酒泉が寝床としているトリニティの病室、そこに三人の生徒が座っていた
一人は折川酒泉、入院中の彼はしばらくはこの部屋の世話になるだろう
二人目は空崎ヒナ、折川酒泉の世話をしようとこの部屋によく在室している…………異常なぐらいに
そして三人目は───────
白洲アズサ、酒泉と話をしようと訪ねてきた少女だ─────
……………
「………………」
「………………」
静かな病室にカチッ、カチッ、と時計の音だけがひたすら響く
き、気まずい………!
とりあえず白洲さんに部屋に入ってもらったけどさっきからずっと口を開かない
それと…………
空崎さん…………なんか近くない?
「………気のせい」
そっかぁ、気のせいかぁ
………いやおかしいって
「………そんなに離れたいの?」
そんな事無いですマジでありえませんですからどうか目を潤ませないでくださいお願いします天雨さんに殺されます
「…………」
にしても白洲さんマジで喋らねえな………
こちらから話しかけようと思い口を開こうとした瞬間、
「その………」
先程までずっと口を閉じていた白洲さんが話しかけてきた
「貴方の事はなんて呼べばいい?」
折川でも酒泉でも好きな方で呼んでいいですよ
「そう…………それじゃあ酒泉って呼ぶ、まずは……」
そう言うと白洲さんは椅子から立ち上がり、俺に視線を合わせて
「サオリ達を止めてくれてありがとう」
深々と頭を下げた
「………どういうこと?」
白洲さんの言葉に空崎さんの眉間が僅かに動く
「私は……………」
─────元々アリウスの生徒だった
その言葉を聞いた瞬間、空崎さんは愛銃のデストロイヤーを構えようとする
しかしそれを手で静止させる
空崎さん、ストップです
「酒泉、この子はアリウスよ」
もし本当にそうなら態々こんな正直に言ってくるはずないですよ、何か事情があるはずです
「でも………」
お願いします
「……………」
渋々と銃を下ろす空崎さん
…………まあ、白洲さんの事情は知ってるんだけどね
話がややこしくなるから知らないフリするけど
「その人が警戒するのも無理はない………だって本来私はトリニティに潜入する為に送り込まれ、さらにはティーパーティーの一人、百合園セイアの殺害を命じられていたから」
「それなら何故百合園セイアは生きているの?」
「それは…………私がアリウスを裏切ったから」
オンドゥルルラギッタンディスカ!!!
「………ごめん、何て言ったの?」
ごめんなさい気にしないでください、シリアスな空気が続くもんでつい………
「そ、そう………」
「………それで、貴女は何故アリウスを裏切ったの?」
「それは………」
補習授業部が
─────私の友達が大切だったから
「元々はセイアに私自身の心の迷いを揺さぶられ、彼女の言葉に乗って裏切っただけだった」
でも
「補習授業部の皆と出会い、過ごしていく内に皆のことが大切になっていって、離れたくなくなって」
「それでアリウスから離れたのね」
「………うん」
「…………後悔してるの?」
「後悔はしていない………けど、私が直接アリウススクワッドと向かい合うべきだったと今でも思ってる。実際に止められるかどうかは別として」
白洲さん………
「でも、あの日………アリウスの襲撃が起きた日、私はスクワッドの所にたどり着けなかった。補習授業部の皆と一緒に他のアリウス生達やユスティナ達と戦っていてスクワッドが退くよりも早く間に合う事が出来なかった」
そう言うと白洲さんは顔を伏せる
「サオリ達と話したかった、この世界にも希望はある事、この世界は決して虚しくなんかない事、そして先生の様な子供を助けてくれる大人もいるんだという事を皆に教えたかった。けど………」
表情は見えないけど、今の白洲さんの姿は哀しそうに見えた
「結局私は何も出来なかった、アリウススクワッドと話す事もアリウススクワッドを止める事も。このまま何も出来ずにゲヘナやトリニティの人達を傷つけられ、サオリ達の罪が重なるのを待っていることしか出来ないのかと絶望していた」
でも、と白洲さんは続けると同時に顔を上げ、俺に近づいてくる
「酒泉がサオリ達を止めてくれたと先生から聞いた………アリウスを裏切っておいて今更だけど、やっぱり私はサオリ達のことも大切だ」
そのまま俺の目を見続け、話しかけてくる
「サオリ達が………大切な人達が手を汚すのを止める事すら出来ないのかと自分の無力さに打ち拉がれていた。でも…………酒泉がサオリ達を踏みとどまらせてくれた、サオリ達を助けてくれた」
…………俺はただ無謀に戦いを挑んで無様に敗けただけですよ、それにアリウススクワッドを助ける為に戦った訳じゃないです
「うん、助けるつもりで戦った訳じゃないのは分かってる。けど酒泉の行動は間違いなく私にとっての希望になった、だからこうして直接お礼を言いたくて会いにきた」
…………
「それと、貴女にもお礼を言いたい、空崎ヒナ」
「………私に?」
「うん、貴女が一人でアリウススクワッドを全員倒したと聞いてる」
「……………私がやった事なんて、怒りに任せてアリウススクワッドを全員殺そうとしただけ。礼なら私を止めた酒泉に言って」
「勿論その事についても感謝してる、でも、貴女がサオリ達を倒さなかったら被害はもっと広がってた。だから………ありがとう」
…………
「…………白洲アズサ」
「……何?」
「貴女の行動、少なくとも私は間違ってないと思うわ」
「え……?」
「アリウスを裏切った事、今でも引きずってるんでしょ?」
「………うん」
「でもそれは貴女がアリウススクワッドも友達の事もどっちも護りたくて選んだ答え、ならその行動を誇りなさい」
「………ありがとう」
空崎さん………よかった、何とか白洲さんの事を信じてくれたか……
「それと酒泉……ごめん」
そう言うと白洲さんは突然俺の手を握ってきた
…………え?何で?
「私が間に合わなかったばかりにこんなにボロボロになるまで戦わせてしまって……」
包帯で巻かれた俺の手を、そしてまだ傷の癒えていない俺の顔を片手で撫でてくる
…………気にしないでください、白洲さんのせいじゃないんで
「でも………」
そんな事よりも、その…………
顔、近いです
「あ……ごめん」
いつの間にか立ち上がっていた白洲さんが椅子に座り直す
………この世界美少女ばっかりだから顔を近づけられると心臓に悪いいいい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
突然の痛覚の覚醒に思わず痛みの原因の方を見ると、空崎さんが俺の頬をつねっていた
「……………ふん」
怒り方まで可愛いかよ
でもキヴォトス人のパワーでつねられると普通に痛いんで出来るだけ手加減してほしい
………てか何でつねられたの?
「………酒泉が悪い」
そんなっ!?
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「ちょっと長居しすぎた………今日は時間を作ってくれてありがとう」
別にこのくらい構わないですよ
「………それと、迷惑じゃなければ時々お見舞いに来てもいい?」
全然大丈夫っすよ!まあ、ずっとこの病室にいるわけじゃないですけど……
「今度は私の友達も連れてくる」
白洲さんの友達………伝説の犯罪王〝ファウスト〟のことか………
銀行ごと爆破されないように気をつけないとな……
なんて冗談を考えていると、部屋を出る直前に白洲さんがこちらを向き一言
「それと、セイアも酒泉に会いたがってた」
………え?
「色々と話したい事があるらしい」
それじゃあ、と部屋を出ていく白洲さん
後に残ったのは俺と………
「何でトリニティのティーパーティーが酒泉と?」
やけに恐ろしいオーラを放つ空崎さんだけだった