場の空気が一気に凍りつく、まるで獲物を取り囲むかのように冷気と殺気が広がる
百合園さんも同じ空気を感じてるのか、冷や汗をかいて………いや冷や汗どころじゃねぇめっちゃ汗ダラダラだ
…………やべえ、何かミスったか………!?
「……………………………………………ねえ酒泉」
ひぃ!?声が低い!?
は、はい………何でしょうか………?
「なんで私だけ席を外さないといけないの?」
いや~……それは……その………は、はははは……
「二人きりで何の話をするの?」
えーっと………まあ…………なんと言いますか…………ねぇ?百合園さん
「いきなり爆弾を投げないでくれ」
やべえよやべえよ……
「誤魔化さないで答えて」
そろそろ限界か………?
大人しく白状しようと口を開きかけた時────
「まあ、待ちたまえ」
救いの手が差し伸べられた
ゆ、百合園さん………!あんた天使だよ………!
「彼にも知られたくな「貴女には訊いてない」そうだなうんすまない」
百合園さん!?
「ははははは、諦めたまえ。私達はここで終わりだ」
駄目だ………!これは〝死〟を覚悟した目だ………!
「楽園の存在証明とは私自身が魂となり楽園を探しに行く事だったのか」
百合園さんは当てにならん……こうなれば最後の手段だ………!
空崎さん!!!
「なに」
一生のお願いです!少しだけでもいいので百合園さんと話す時間をください!
「駄目」
後で何でも言うこと聞きますから!!!
そう叫ぶと、空崎さんの動きがピタリと止まる………これはいけるか………!?
────どんな仕事でもどんな雑用でもするのでどうかお慈悲を!!!
一瞬の隙を見逃さずに連撃を仕掛ける
────どんな命令だって従いますから!!!
「…………………………」
どうだ…………!?
「……………少しだけ」
へ?
「少しの間だけだから」
空崎さんっ……!ありがとうございますっ………!
良かった………無事生き残れた………!
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「いやぁ、怪我人と会話しに来たのに危うく私自身が怪我人にされるところだったよ」
貴女途中から諦めてましたよね?
「それは君が何とかしてくれると信じていたからさ」
俺とあんた初対面だろ
「…………まあ、そうだね」
…………?
「私達は〝完全に〟初対面だ、君の事は予知夢ですら視たことがないのだからね」
予知夢………
「あまり驚いていない、疑う様子もない、むしろ違和感なく受け入れている。ということは私の〝予知夢〟というお伽噺のような力を信じてくれている………という認識で合っているかい?」
………はい
「おや、素直に認めるんだね」
そう言うと百合園さんは確信めいた表情でこちらに視線を向け、そのままベッドに腰掛ける俺の瞳を見る………いや、〝視る〟
「ならまどろっこしい話は無しだ、単刀直入に訊かせてもらうが…………」
────君は未来が視えているね?
……………はい
「やはりか」
………ちなみにですけど何故判ったんですか?
「………そうだな、まず一つ目の理由としては私が視た予知夢ではエデン条約周りの事件に─────」
─────君の存在は一切無かった
「初めてだったよ、予知夢を外したのは」
そのまま百合園さんが語り始める
「予知夢は視れるのにも関わらず、現実の展開が夢と大幅にずれている。それに加え君はエデン条約調印式の際、〝何が起きるのか解っている〟かのような行動をとっていた」
それなら君を疑うのは当然の事だと続ける
「先生は撃たれず、白洲アズサも爆弾を使わず、補習授業部もあまり前線に出ていない」
「アリウススクワッドに関しては先生を殺害しようとするどころか全員が空崎ヒナに殺されかけた」
「………まあ、そもそもの話、ユスティナ聖徒会を止める方法を知っていた時点で怪しいんだがね。長い間目を覚まさなかった君にユスティナを止める方法がすぐに見つけられるとは思えない」
…………
「それに調印式の日に君が運転していた車からおそらくミレニアム製であろう防御装置が沢山出て来た…………過剰な程に」
「まるで強力な兵器による攻撃─────巡航ミサイルによる攻撃を想定しているかのように」
「調印式当日に巡航ミサイルによる攻撃が来るのが判っていて、尚且つユスティナ聖徒会の静止方法まで理解しているのだとしたらそれはもう事前に全て調べていたに違いない」
だから消去法的に俺が未来を視ていると………
「そういうことだ」
………大体百合園さんの言うとおりです
ただ少しだけ細かく言うと俺は未来が〝視える〟のではなくて、未来を〝知ってる〟だけです
「………道筋が変わった先の出来事までは解らないということかい?」
はい、例え俺が自分の知っている未来を変える事が出来たとしてもそこから先がより良い未来になるかどうか判らないんです
それどころかむしろ…………
バッドエンドに繋がる可能性だってあります
「成る程………それでも君は未来を変えることを選んだと」
…………はい
「少し意地悪な問い掛けになってしまうが、君は自分の行動の結果、その〝バッドエンド〟とやらに繋がってしまう可能性が怖くなかったのか?」
………もちろん俺も悩みました
正直な話、俺の知っている未来とこの世界が同じ展開なら俺が何もしなくてもこの事件は解決できたんです
先生が撃たれても空崎さんが巡航ミサイルを食らっても白洲さんが爆弾を持ち出しても………
最終的には誰も死なずに解決するはずなんです
でも………それでも怖かった
俺という〝異物〟が存在するせいで未来が変わり、その結果俺の大切な人達が死んでしまうかもしれないのが
でも、動いても動かなくても悩むことになるのなら俺なりに色々しようと思って行動することにしたんです
…………その結果、空崎さんが俺のせいで殺意に飲まれてアリウススクワッドを全員殺しかけてしまったんですけど
そう…………俺のせいで………
「………酒泉、君は強いよ」
………え?
「未来を知るという事は良いことだけではない、当然その先に起こる悲劇も知ることになる」
…………
「悲劇を防ぐ為に動こうとしても自分の行動が正しいのか、本当に最善の手段を取れているのかという葛藤が襲いくる」
「誰かに話したところでそんな夢物語、誰も信じてくれない」
「そんな悩みと葛藤を抱えたまま、誰かを護る為に動くことが出来た君は間違いなく強い」
「私が視た未来で重症を負ってしまった者達が現実では無事だった時、どれほど私が安堵したのか分かるかい?」
「君の行動は私に勇気を与えてくれた、確かに私は君に救われたんだ」
………そんな、こと
「君が自分の事を認められないのなら、君と同じで未来を〝知ってしまった〟私が認めてあげよう」
「君は間違いなく大切な人達を護った」
「君は間違いなく未来を良い方に変えた」
「酒泉、君は本当に────」
──────よく頑張ったね
あっ………っ……………
瞳から涙が流れる
自分では止められないそれは少しずつ床にこぼれていく
そうか……俺、ずっと悩んでたのか………
本当にこれで良かったのか、ただの自分のエゴなんじゃないのかと
「ふふ…………全部吐き出すと良い」
そう言いながら立ち上がり、百合園さんが俺の頭を抱き寄せる
………今だけは、全部瞳から流してしまおう
そのまま俺は静かに泣き出した
セイアが実装されるまで俺は躍り続けるセイアセイアセイアセイアセイアセイアセイアセイアセイアセイアセイア!!!