夜じゃなくても焼き肉っしょおおおお!
「こっ……これ全部食べてもいいんですか!?」
ああ!おかわりもあるぞ!
「で、では……いただきます……!」
網の上から既に焼き終えている牛カルビを米と一緒に口に入れる槌永さん
ブクブクに太るまで堪能させてやるからな……!覚悟しておけ……!
「……いいの?」
何を暗い顔してるんですか、秤さん!折角の焼き肉ですよ!?
「でも───」
もう………じゃあ、自分の発言に罪悪感を感じてるんならその罪滅ぼしとして俺に奢られてください
「何の罪滅ぼしにもなってないと思うけど……でも、ありがとう」
じゃんじゃん食べてください!注文したいものがあったら勝手に注文しちゃっていいんで!
「で、デザートでもいいんですか……?」
関係ない、行け
「う、うぅぅぅ……幸せすぎてこの後が怖いです……!」
「……お金とか大丈夫なの?」
心配そうな目で見てくる戒野さん
しかし心配には及ばない、何故なら俺には臨時収入があるからだ
………ジャンク屋の店長さんに無理矢理渡された給料が
俺が断り続けていると〝もう二度と手伝わせねえぞ〟っていう善意丸出しの謎の脅しをされた、そこまで言われたなら断る訳にはいかない
どうやら俺が無給で手伝っていた分の給料を貯めていたらしく、手渡された封筒の中には数万円入っていた
普通に働いていた頃の給料も多少残っているし、ここで使わなきゃいつ使うって話よ
……できればこの辺りに食べ放題があれば良かったんだけどな
「……酒泉、これはどうすればいいの?」
白洲さんの好きなタイミングで好きな肉を焼けばいいんですよ!
無くなってもすぐ注文すればいいんで!
「……焼き肉は戦争だって聞いてたけど、思ってたより自由なんだ」
若干偏った知識を披露する白洲さん、どこで調べたんだそんなこと……
………実は聖園さんも誘ったんだが、何やら予定があるらしく時間が合わなかった
代わりに帰りにロールケーキでも……いや、ロールケーキは桐藤さんにいっぱい食べさせてもらってるだろうし、ここはシンプルにショートケーキでも買っていこうか
皆に迷惑を掛けた分、ここでお詫びさせてもらおうか
────つーわけで錠前さん、モジモジしてないで何か頼んじゃってくださいよ
「うっ……だが……これ以上借りを作るのも……」
じゃあ勝手に決めちゃいますねー、塩ホルモンとタンと牛ハラミと……
「ま、待ってくれ!本当にいいのか?」
俺がいいって言ってるんだからいいんですよ……お、じゃがバターあるじゃん
「……ありがとう」
やっと素直に受け取ってくれたな……
俺も適当に焼いちゃおっと………この店の網ってそこそこ大きいから俺達全員で数枚ずつ肉を焼いてもスペースは問題ないんだよな
さて、待っている間にテレビでも────ん?
「どうしたの?酒泉」
………いや、もうそんな時期かって思っただけですよ
「……何かあるの?」
んー……これから色々起こると思いますけど、俺達にはもう関係ないですよ
「……?」
白洲さんは小首を傾げながら店内の壁に設置されているテレビを見る
《キヴォトスにやってきてすぐに大活躍!噂のシャーレ特集!》
「あっ……わたひこれひってまふ、さいひんやっへきたへんへいのこほれすよね?」
……飲み込んでからもう一度
「んぐ……私これ知ってます、最近やって来た先生のことですよね?」
そう言うとまた肉を頬張り出す槌永さん、忙しい人だな……
「なんか活躍してるらしいね」
「小さないざこざから大きな事件まで解決してるんだってね」
「なんでも酒泉さんと同じでヘイローを持たない人間だとか……そんな身体で色んな事件に介入するなんて大丈夫なんでしょうか……?」
「……まあ、何かしらの対策はしてるんじゃない?」
戒野さんは興味なさそうに答える
……まあ、確かに俺達が関わる事はもうなさそうだし、深く掘り下げる必要もないんだろうけどさ
でも……本来ならこの場には先生がいるはずだったんだよなぁ
アリスクと先生が関わる機会を一つ奪ってしまったことに対して若干の申し訳なさを感じる………後悔はしてないけどな
………そういえば、今後のこの世界ってどうなるんだろうな
色彩がキヴォトスに襲来したのはあのババアが余計な儀式をして居場所を特定されたからだ、それを未然に防いだのならばその心配はないはずだ
その場合、この世界はどんな未来を歩むのだろうか
何事もなく平和に?なんやかんやで大規模な事件が起きる?
……ゲマトリアとかカイザーがいるせいで後者の可能性の方が高そうだな
まあ、先生が来たからにはもう安心だろう。少なくとも俺の戦いは終わったのだから、余計な事は考えずにこの青春を楽しむとしよう
《~~~♪~~~♪》
「あれ?アズサちゃん、携帯鳴ってますよ?」
「あっ……ごめん、マナーモードにするの忘れてた」
「出なくていいのか?」
「うん、メッセージだけ送って後でかけなおすから」
そういってぎこちない手つきでスマホの画面をタップし、鞄にしまう白洲さん
そんな彼女に秤さんは笑みを浮かべながら尋ねる
「もしかして……前に話してた友達?」
「うん、明後日の放課後、一緒にモモフレのイベントに行かないかって……」
「もうお友達が出来たんですか!?」
「酒泉に貰ったスカルマンのぬいぐるみの掃除をしてた時に声をかけられて………」
……思っていた何倍も早かったな、出会うの
「……お前達、学園生活はどうだ?」
なんて事を考えていると錠前さんが突然〝入学したばかりの子供達を心配する母親〟みたいなことを言い出した
「わ、私は普通と言いますか……」
「こっちも特に何も……」
「あれ?ミサキも友達出来てなかった?」
「友達じゃないって………転んだ時に出来た傷をそのまま放置してたら、無理矢理治療されただけ」
「でも、学校だとよくあの子と一緒に行動してるよね?」
「……古傷のことを尋ねられた時に〝怪我の手当てが面倒で放置してる〟って答えたら何故か付きまとわれるようになったってだけ、警戒してても突然背後から出てくるし………ほんと訳分かんない、瞬間移動でもしてるの?」
「そ、そんな子がいるんですね……」
なにそれ……こわ……
……って思ったけど、一人だけ心当たりがあるな
まあ、とりあえずクラスで浮いてるような事はなくて良かった
「……そういうアツコの方はどうなの?」
「私?私は……うん、面白い子と出会ったよ」
「面白い子?」
キヴォトスの生徒って大体〝おもしれー奴〟枠ばっかだと思うんだけど……
「ちょっと声が大きくて元気すぎるところもあるけど………でも、とても親切で優しかったよ。校内の案内もしてくれたし、流石はスーパースターだね」
「……スーパースター?」
「うあぁ……私ばっかり取り残されてますぅ……もうおしまいです、このまま一生学園生活をぼっちのまま終えるんですうううううう!」
泣きながら肉を焼き続ける槌永さん、しかし口の中に入れた瞬間に一瞬で泣き顔から至福の表情に変わる
その切り替えっぷりを見習いたい
「でも、ヒヨリもこの前誰かと一緒に雑誌読んでたよね」
「え?」
「ほら、登校中に通る川沿いの所でさ……」
「み、見てたんですか!?あれは……その……アリウス時代の癖でつい拾ってしまいまして………でも、その時にその子に没収されそうになったんですよね……」
「没収?なんで?」
「………表紙がボロボロで私は気づかなかったんですけど、その……実はそれ、えっ……えっちな本だったんですよね」
「……えっちな本?」
「はい、私も読んでから気づいたんですけど……」
「返してもらえたんだ」
「いえ、雑誌の中身を知らなかった私が必死に食い下がった結果………何故か二人で読むことになりまして……」
「……本当にどうしてそうなったの」
「縁が出来て良かったね、今度会ったら話しかけてみれば?」
「奇妙すぎる縁ですね……」
「……でも、なんで没収されそうになったの?」
「中身が……その……あまりよろしくないからでは?」
「それっておかしくない?ヒヨリから没収する前から本の内容を知ってたってことになるじゃん」
「た、確かに……」
………あれ?もしかして………
友達……というか、全く新しい出会いがないのって俺だけじゃね?
錠前さんは聖園さんとちょくちょく会ってるっぽいし……
……やばい、一人だけ孤独な灰色の学生生活を送るのは流石に寂しい
「……そんな深刻そうな顔してどうしたの?」
いや、友達でも作ろっかなーって……あれ?でも友達ってどうやって作るんだっけ?今までは何となく遊んでたら何となく仲良くなってたし……
……意識して作るの難しいな
「……そんなに友達が欲しいの?」
んー……どうしてもって程じゃないですけど……
ほら、学校にも新しい居場所がほしいじゃないですか、その方がメンタル的にも─────
「……は?」
背筋を凍らせるような冷たい声が聞こえる
戒野さんの発した一言だけで箸を持つ手が止まる
え?なになになに?何が起きた?
いきなり空気が悪くなったんだが?戒野さんの目がめちゃくちゃ怖くなってんだけど
「〝新しい居場所〟ってなに?それってどういう意味?」
「しゅ、酒泉さん……またいなくなっちゃうんですか……?」
槌永さんに関してはあんだけ夢中に食ってたのにピタリと止まっている
え?俺、何か変なこと言った?
「………酒泉の居場所はここじゃないの?」
いつの間にか鞄から出していたスカルマンのぬいぐるみを抱きしめながら、何かを訴えるような目で見つめてくる白洲さん
やだ照れちゃう……なんて冗談を言ってる場合ではない
「……やっぱり私のせい?私が酒泉の怒りを抑えさせるようなことを言ったから?」
秤さんも何故か戒野さんみたいに目のハイライトが消えてる、皆目が死んでる~(現実逃避)
「……落ち着け、最後まで酒泉の話を聞け」
お、おお……ここで錠前さんからの助け船が……!
「さっきの言葉……新しい居場所が欲しいとはどういう意図で言ったんだ?」
え?単純に学園内の友達が欲しいなー……的な?
その方が楽しめますし……
「……あっ」
「び、びっくりしました……」
「……なんだ、そういうことか」
「……ごめん、早とちりしすぎた」
何か知らんが誤解は解けたみたいだ……
「お待たせしましたー!こちら特上カルビ二人前でーす!」
重くなった場の空気を振り払うように店員さんが大きな声で肉をとどける
お、これは誰だ?
「あ、それ私です、遠慮しなくてもいいと言っていたので……」
…………………槌永さん
「さ、流石に厚かましすぎましたかね……?」
もう四人前ぐらい頼んどいてくれよおおお~!!!
「い、いいんですかぁ!?」
──────────
────────
──────
俺の名前は折川酒泉!この学園の全員とダチになる男だ!………違うな
ただの生徒には興味ありません、この中に色彩、デカグラマトン、ゲマトリア、テラーがいたら俺のところに来てください、以上…………これは絶対に違うな
再来週の月曜から俺も学校に通うことになるんだが……自己紹介はどうしようか
………いや、普通にやればいっか
なんて自室で考えていると、部屋の扉がノックされる
どうぞと返すと、少し間を空けてからゆっくりと扉が開かれる
────ん?錠前さん?
「……酒泉、少しいいか?」
別にいいですけど……明日の準備とかしなくて大丈夫ですか?もうすぐ日付変わりますよ?
「それはもう済ませてある………それよりも聞きたいことがある」
聞きたいこと?
「昼頃に〝新しい居場所がほしい〟と話していただろう」
ああ……それがなにか?
「その……お前は〝友達が欲しいから〟と言っていたが……」
錠前さんは何かを恐れるかのように黙り込んでしまう
目を伏せたかと思えば、すぐに上げ、また目を伏せる
そんな事を繰り返してから意を決したように喋り始める
「…………本当にそれだけか?」
うぇ?
「その……私と共に暮らすのが嫌になったから……とかではないか?」
ええ……さっき理由を教えたじゃないですか
「それでも不安になってしまって……な」
そう言って震える彼女の視線は俺の右目に向いていた
……そういう事か
────錠前さん……前にも言った通り、俺は簡単に感情を抑えられるほど大人じゃありません
一緒に暮らしてく内にまた憎悪が膨れ上がるかもしれません
「…………」
でも、今度はそれを隠したりはしません
「……え?」
もし気に入らないことがあれば全部錠前さんにぶつけます、またあの時みたいに喧嘩を吹っ掛けて………
………それで、また戻りますから
「……ああ……ああ!それでいい!そうしてくれ!」
自分でも理不尽な事を言ってるつもりだが、錠前さんの方は歓喜に包まれたような表情で俺の両手を握る
「……ところで、確か明日の午後はアパートの荷物を纏めるんだったよな?」
ええ、あのアパートも解約しましたし、そろそろ全部片さないといけないんで
「……放課後になるが、私も手伝いに行こう」
いや、大した量じゃないんで大丈夫ですよ
「いいや、必ず行く」
遠慮しようとしたが錠前さんの表情を見る限り意地でも来そうだった為、ここは素直に甘えることにした
……まさか俺と錠前さんがこうやって穏やかに話せる日が来るなんてな、人生何が起こるか分からないもんだ
「……なあ、酒泉」
はい?
「ありがとう、こんな私に手を差し伸べてくれて。そして─────」
「─────私の手を取ってくれて」
人間という生き物は簡単に感情を抑えることはできないし、簡単に誰かと分かり合うこともできない
争いもするし突き放しもする
誰かを傷つけ、誰かに傷つけられ、その度に互いの憎悪が深まっていく
どう足掻いても争いからは逃れられない、それが人間という生き物だ
……でも、悪いことばかりじゃない
例え最後まで分かり合えなくても、例え相手に対する悪感情を抑えられなくても、それでも手を繋ぐことはできるのだから
だから、人間は理解し合えなくてもそのまま共に進むことだって──────
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別の日
「聞いてよ酒泉君!ナギちゃんもセイアちゃんもゲヘナと和解しようって言うんだよ!?しかも私に内緒で話を進めてたし!あり得なくない!?絶対裏切られるに決まってんじゃんね!酒泉君もそう思うよね!?」
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また別の日
「キキキキッ!見つけたぞアリウス………早速本題に入らせてもらうが、貴様らアリウス生はトリニティに深い恨みがあるのではないか?実は近いうちにとある条約を結ぶことになったのだが、その際に貴様らの力を────」
「マコト先輩、彼の顔をよく見た方がいいですよ。間違いなく警戒されてます」
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─────前言撤回、少しは歩み寄る努力をした方がいいのかもしれない