日が沈み出し、少しずつ暗くなっていく街の景色を眺めながら思考する
生徒達の悩みを聴き、抱えている問題を解決し、時には戦闘の指揮を取る
それが私の────先生としての仕事だ
…………いや、『時には』どころではないな、うん
挨拶代わりに銃弾やミサイルが飛んでくるこの街では、日常的に争いがそこら中を歩き回っている
不良同士の肩がぶつかればお互いに銃を抜き、気に入らない店があれば爆弾を仕掛け、バーゲンセール争奪戦では戦争が起きる
そんな街では生身の人間が普通に出歩くだけで常に死に至る危険がある、それは当然ヘイローを持たない私もだ
しかしだからといって生徒達の喧嘩を大人しく眺めているわけにはいかない、いくらヘイロー持ちといっても怪我はする、何か事件が起きれば彼女達が無茶しすぎないように早めに問題を解決しなければならない
………だけどヘイローが無くても無茶な事をする子もいる
脳裏に浮かぶのは、持ち前の眼の良さを生かし銃弾を避けながらよく敵陣に突っ込むという無茶苦茶な戦い方をするこのキヴォトス唯一の〝人間の男子生徒〟の顔
彼は………折川酒泉は何かを背負っている
彼はエデン条約の調印式の際、最初から何が起こるのか分かっていたかの様に行動し、命を掛けてまで自分の事を護ってくれた
しかし、その情報源が不明だ
彼はどこでエデン条約襲撃を知った?何故ユスティナの止め方を?なぜマコトとアリウスの繋がりを知っていた?
考えれば考える程謎は深まっていく
「………まったく、もう少し頼ってくれてもいいんだけどね」
一人で無茶をする酒泉の事を憂う
彼は何故相談してくれないのだろうか、人に話せないような内容だから?一人で解決したい問題なのか?それとも────
────信じられないような超常現象の話だからか?
そもそもの話、私にとってはこのキヴォトスで起きた出来事の大半が超常現象だ
今さら生半可な事では驚かないんだけど………
「………そんな簡単な話じゃないか」
彼も私も〝ヘイローを持たない人間の男〟というこのキヴォトスでは強い共通点を持つ、そんな彼が誰にも相談しないという事は………
「かなり重い話なんだろうね………」
だけど、それでも彼の力になりたい
何か手がかりは無いか、自分に出来る事は無いか
己の力不足を悔やみながら、今度彼と面談しようと考えていると─────
──────仕事用の携帯に『折川酒泉』の名前が浮かぶと同時に着信音が鳴り響いた
「っ!もしもし、酒泉?」
意識をすぐに切り替え、通話ボタンをスワイプさせる
基本的に生徒との日常会話や雑談などはプライベート用の携帯のモモトークで行うため、仕事用に掛けてくる時は何らかの作戦会議や指示を出す時、そして緊急時等だ
『あ~……先生………その~………』
携帯の向こうから何故か言い淀む酒泉の声が聞こえてくる
………何か遠慮しているのだろうか?生徒が先生を頼るのに理由なんていらないんだから遠慮せずに言ってくれても構わないのに
「……酒泉」
『えーっと………』
「────大丈夫」
『え?』
「私なら大丈夫だよ」
『先生………』
しばらく無言の時間が続くが、意を決したのか酒泉が電話越しでも伝わるほど勢いよく話しかけてくる
『先生、協力してほしい事があります』
「うん、どんな頼みでもいいよ…………やっと頼ってくれたね」
『う゛っ、その……心配掛けてすいません』
「気にしないで、それよりも私は何をすればいいのかな?」
『………その前にまず話しておきたい事があります』
「話しておきたいこと?」
『実は俺、今…………アリウススクワッドの錠前サオリと一緒にいます』
────どうやら私の生徒はまたとんでもない事をやらかしそうだ
「………なるほど、そのアツコって子を救出するために戦力が足りないと」
『はい』
「………私が戦力になってくれる子達を集め終えるまで待つ事は?」
『下手したらこうして会話してる間にも儀式が進んでるかもしれないのであまり得策ではないかと……』
「なるほど………とりあえず調印式の事件に関わった組織には片っ端から声を掛けてみるよ。準備が出来次第突入するね」
『お願いします、案内役として一人だけアリウススクワッドを置いて行きますのでその時になったら合流してください………それと、全部終わった時のアリウススクワッドの処遇も先生にお願いしてもいいですか?』
「もちろんだよ、私自身も彼女達の事は気がかりだったからね」
『…………あと、風紀委員には連絡しなくてもいいです』
「………ヒナとちゃんと話し合わなきゃ駄目だよ?」
『分かってます………空崎さんには俺から直接電話をかけます』
「………」
そして通話が切れた
………さて、私も動くとしようか
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ふぅ………先生への連絡はこれで終わった、先生の人望なら味方を集める事は容易いだろう
あとは…………風紀委員会────空崎さんだけだ
錠前さん、ちょっと離れててください
多分アリウスの人にとって聞いてて気分のいい話ではないと思うんで
「…………分かった」
錠前さんが俺から離れ、路地裏に入っていく
…………喧嘩別れみたいになったせいで通話ボタンを押すだけでも緊張する
しかし勇気を出して通話ボタンをタップする
そのまま数コール鳴り─────
『………………酒泉?』
聞き慣れた声が聞こえた
あ………その、こんな時間にすいません
『……………別に構わない』
電話越しから聞こえる声はどこか悲しそうで寂しそうだ
『それで、何のよう』
………空崎さんに頼みたい事があります
『─────え?』
空崎さんの声に少しだけ驚きが混じる
『………頼ってくれるの?』
どうしても空崎さんの力が必要なんです、今朝の出来事があったにも関わらず都合の良い事を言ってるのは自覚しています
………それでも、力をお借りしたいんです、お願いします
『……………何をするつもりなの?』
それは………………
─────アリウススクワッドを救出します
『…………え?』
空崎さんが小さく声をもらす
『何で…………』
アリウススクワッドのメンバーの一人、秤アツコがアリウスの支配者である〝マダム〟に捕らわれました、〝マダム〟はある儀式の為に秤アツコを生け贄にして自身を上位存在へと進化させようとしています
『そんな事は私達には関係ない』
………当然の意見です、彼女達は敵対組織ですから
ですがアリウススクワッドはアリウス分校から離反しています、今は敵ではありません
『…………でも、わざわざ私達が助ける必要はない』
巨大な力を手に入れた者は何をやらかすのか分かりません、エデン条約襲撃の計画を邪魔したゲヘナを襲う可能性だって十分にあります
『………だから力を手に入れるよりも前に計画を阻止しようって事?』
そういう事です、ですからどうか──────
『駄目』
………………
『今朝言ったはずよ、私の許可なく戦わないでって』
でも緊急事態なんです!どうしてもやむを得ない事情が…………
『とにかくこの話は終わり。それと酒泉は今すぐ執務室に来て、私も今から向かうから』
………すいません、そんな時間はないんです
『委員長命令よ』
もうマダムが儀式を始めてるとしたら今もタイムリミットは迫ってるんです!そちらに向かってる暇は………
『………何で助けようとするの』
…………え?
『何でアリウススクワッドなんか助けようとするの!!?』
っ!?
突然耳元に叫び声が響き、一瞬顔をしかめる
『何で酒泉の事を殺そうとした奴らの事を助けようとするの!?』
『何でまた貴方が戦う事になるの!?』
『何で自分の事を心配しないの!?』
『どうして…………っ!』
『どうしてまた酒泉が傷つかないといけないの……っ!』
空崎さん……………
…………俺、やっと気づいたんです、空崎さんに大切にしてもらってる事に。
『………っ…………』
でも、今ここで目の前の問題から逃げたら一生引きずる事になると思うんです
俺はそんな後悔したくない
俺はアリウスの為に戦ってるんじゃありません、自分の為に戦っているだけです
『………っ、でも結果的にアリウススクワッドを救うことに変わりない』
………それでも、このままマダムの計画を止められなかったせいでゲヘナの皆が傷つけられる事の方がもっと嫌だ
『…………』
…………俺はマダムの所に向かいます、あの女を放っておく訳にはいきません
『………待って、そもそもどうして秤アツコが捕らわれた事を貴方が知ってるの?』
それは……………
────────錠前サオリと接触したからです
『……………は?』