瓦礫が散らばり、まるで戦争の跡地を思わせるような場所に三人の少女と一人の男が潜伏していた
………よし、ここらで一旦作戦を整理するぞ
「確かカタコンベ入り口付近で私達の内誰かが待機するんでしたよね………?」
ああ、この後に駆けつけてくる増援達の案内をしてもらう
「だが、私達が通るルートは謎の力によって毎回出口が変わる。それまでに増援が間に合わなければ我々だけで進むしかない」
「………でもそうなった場合、戦力が足りなすぎる」
…………ユスティナみたいな命令を聞く手下も居ないしヒエロニムスの様な超兵器も無い、エデン条約の時と違って使える奴らは全部アンタ等の敵として襲ってくる
「…………」
それでも、やるしかない
「………ああ、私達は必ずアツコを救い出す。そして…………四人全員で罪を償う」
…………先生はアリウスの事すら気に掛けていた、きっと悪い様にはしないはずだ
「酒泉………」
………まあ、と言っても裁判にはトリニティやゲヘナも関わってくる以上、全てを先生が決められる訳じゃないけど
「ああ、どんな罰だろうと受け入れよう」
「………それで、誰が入り口付近に残るの?戦闘力的に考えるとリーダーが適任だけど………」
いや、ここに辿り着く道中、敵の数は此方の予想を遥かに上回ってた
アリウス自治区内部の戦力もかなり増強されている可能性がある、そう考えると錠前さんの力が必要になる
「逆に内部の戦力をこっちに送ってきてるから侵入しやすいって考え方は?」
秤さんを儀式に使う以上、警備を手薄にするとは思えない
「………結局どうするの?」
そうだな………
おめえの出番だぞ、槌永さん!!
「へ……………?」
「私ですか!?」
はい、私です
「ななななな………何故私なんかが!?」
目に見えて狼狽える槌永さん、
いや、何故って聞かれても………
ほら、槌永さんって狙撃手じゃん
「そ、それとどんな関係が………?」
何か……こう……敵に見つからない位置取りが分かる的な………
「理由が雑すぎませんか!?」
あとなんか性格的にも立場的にも増援の人達と会うのに一番無難っていうか………
「それだけで選ばれたんですか!?」
うるさいな…………ほら、スニッ◯ーズやるから
「うわぁぁん!!どうせ最後の晩餐になるならそのポケットに入ってる栄養バーも欲しいですぅ!!」
厚かましっ、厚かましいし目敏いな………
「…………その、すまない」
「ヒヨリ、食べるなら全部終わってからにして」
「うぅ………甘くて美味しいです………」
泣きながらお菓子を食べる槌永さんに目を遣りながら申し訳なさそうにしてくる錠前さん
戒野さんは呑気に食事をする槌永さんに注意を促している
………多分これがこの人達の素の姿なんだろうな
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百合園セイアは夢を見ていた
(確か私は………ミカと話していて………)
〝先生が錠前サオリと接触する〟という危険な予知夢を視たセイアは、ミカに夢の内容を話している途中で気を失ってしまった
(君が、先生を連れてきたから……!)
…………最悪のタイミングで
(ミカ………私は君に謝らなければならない。感情を制御できず、君に強く当たってしまった事を………)
己の未熟さを痛感するセイア、しかし夢の世界はセイアを待ってはくれない
突然場面が変わる、そこにはまるで円卓の様に中央に光帯が広がっていた
「………話が違うのでは?」
周囲の光景を記憶しようと辺りを見渡そうとしていたセイアの耳に、男性の声が聞こえた
声の主を確かめようとその方向に視線を向けると、そこには────
────頭部が二つある、木人形の様な男が立っていた
………いや、性別が有るのかすら判らない。彼が男性用のスーツを着ていたからセイアは男として判断しただけに過ぎない
「………事情が変わったのです」
先程とは別に女性の声が響く、そちらの方を向くとそこには赤い肌をした怪物の様な女性が立っていた
更に他にも数人の気配を感じ取り、辺りを見回すと───
顔がひび割れ、眼の奥を光らせている黒いスーツを着た異形の存在
顔が存在せず、男性の後ろ姿が写った写真を持つ幽霊のような存在
明らかに常識を逸脱している者達がいた
(………どうやら怪物達のお茶会に迷い込んでしまったみたいだね)
あまりの光景に一瞬身体が動かなくなるものの、セイアはすぐに冷静さを取り戻し、彼らの言葉に耳を澄ませる
「事情が変わった、ですか…………私の作品を勝手に〝兵器〟などという下らない物に成り下がらせる事が必要な程の理由があると?」
「貴方の芸術など私には関係ありません、ただ必要だったからそうしたまでです」
「…………」
二人の間に険悪な空気が流れる、どうやら異形の者同士にも人間関係の様なものが存在するらしい
「…………御二人とも、落ち着いて下さい」
その空気を払うように、黒いスーツを着た男が自らの手を叩く
「マエストロ、貴方の芸術に対する思想は知っています。ですが我々は争う為に此処に集まっている訳ではないのです」
男が赤い怪物に向き直る
「ベアトリーチェ、貴女も不必要に挑発するような言動は控えて頂きたい。我々ゲマトリアは各々の目的の為に集まっているだけです、それぞれにそれぞれの信念や思想がある事をお忘れなく」
「なら私は私の思想の為に行動しただけの話です」
一切譲歩しない赤い怪物────ベアトリーチェと呼ばれた女の態度に、黒いスーツの男は溜め息を吐く
「………それでは、貴女がマエストロとの契約を破ってまで行動した理由とは何でしょうか、ゲマトリアに不和を生んでまで成し遂げたかった〝事情〟があるのでしょう?」
「そういうこった!」
突如写真の男から声が聞こえ、更には口どころか顔その物が存在しない男からも声が聞こえてきた
「最初、私はシャーレの先生を始末しようとしました」
「………ベアトリーチェ、彼は敵ではないと───」
「しかしあの男を殺す事よりも気になる問題が出てきました」
「気になる問題?」
「ええ、貴方達も気になっているはずです」
──────折川酒泉の存在を
「調印式襲撃の時、アリウススクワッドと折川酒泉の会話は全て通信機越しに聞いていました…………スクワッドのメンバー達には知らせずに」
「彼は私の存在を完全に認知していました、一度も出会った事のない私の存在を」
「更に彼は我々の計画に気づき、事前にシャーレの先生やゲヘナの風紀委員長の囮として行動していました」
「そして最初から強大な攻撃が………巡航ミサイルによる攻撃が分かっていたかのように防御を備えていました」
「それと………これは私が手下達に調べさせた情報なのですが、シャーレの先生がETOを成立させた時間と折川酒泉がトリニティの病院を抜け出した時間にそこまで差がないのです」
「先生は戦闘中に〝シッテムの箱〟と呼ばれる端末や特殊な通信機によって指示を出していましたが、一度だけ〝普通の携帯機器〟で連絡を取っている姿が確認されています」
「〝普通の携帯機器〟で連絡を終えてから少し経った後、先生はETOを成立させました」
「もしこの時の連絡が折川酒泉からの連絡だとしたら彼はユスティナの止め方すら分かっていた事になります」
「そう考えると、まるで──────未来を知っているかのような行動に見えてきませんか?」
「…………」
ベアトリーチェの推測に全員が沈黙するものの、少し間が空いてから黒服が口を開く
「………仮に彼が未来を知っていたとして、それが今回の問題とどう関係するのですか?」
「…………知りたくないのですか?」
────────色彩の力とその力がもたらす事象を
「…………」
「折川酒泉の記憶を探れば色彩を〝完全に〟呼び寄せる事が出来るかもしれない。いや、色彩の力を〝完全に〟制御する術だって見つかるかもしれない………!」
赤い怪物はまるで新しい玩具を与えられた子供の様に気を昂らせる
「いや、それどころか…………これから発見される全ての超常的な力を知る事だって可能なはずです………!」
「私が目指しているのは〝神のような上位存在〟………しかし、折川酒泉さえ手に入ればその〝神のような上位存在〟すら越えた存在になれるかもしれないのです!!!」
「色彩を超越し、神すらも見下せる力…………」
「私には折川酒泉が必要なのです!!!」
一息つき、冷静さを取り戻すベアトリーチェ
「………とにかく私は自分の計画を曲げるつもりはありません、邪魔さえしなければ貴方達にも手に入れた力の一部を分け与えましょう」
(何て事だ………彼女の今の狙いは先生ではなく酒泉なのか……!)
夢から覚めたらすぐに彼に伝えようと考えるセイア、しかし次の瞬間─────
「さて、少し喋りすぎましたしそろそろ邪魔物を排除するとしましょうか」
また突然周囲の景色が変わった
(っ!ここは一体………?)
目の前に巨大なステンドグラスの様な物が見える、それは美しく感じられ、神秘的にも感じられ、何より─────
──────恐怖的にも感じられた
「っが!?」
突然何者かがセイアの首を絞める、自身を苦しめる腕を辿っていくと、そこにはベアトリーチェがいた
「貴女ごとき、泳がせておいても何も問題はありませんが………あまりうろちょろされても鬱陶しいので少々眠ってもらいましょう」
(此方を認識出来るのか………っ!)
そのまま意識が薄くなっていくセイア、その最中にまた景色が切り替わる
彼女が気絶する前に見た最後の光景は──────
──────錠前サオリと秤アツコを突き飛ばし、怪物の触手の様な物に貫かれている酒泉の姿だった
ペジラ、お前の装甲貫通属性になれ