明日の分も先に出しちゃいます
キヴォトスにおいて「最も強い生徒は誰か」と話題が上がる度、真っ先に名前が挙がるのは《空崎ヒナ》と《剣先ツルギ》の二名だろう
また、近接戦に絞れば《美甘ネル》もこの中に入ってくる
今はアビドスの人口が少ないため、そこまで有名ではないが《小鳥遊ホシノ》も昔はかなりの実力者だったと噂がある
中には何度も牢から脱出し、長期間の逃亡生活を続けている《狐坂ワカモ》が最強と言う者もいる
………話は変わるが、折川酒泉は学園最強クラスの人間と〝本気の戦い〟をした事がない
模擬戦などの訓練で空崎ヒナと戦う事はあっても、それらは所詮、決められた範囲での戦いだ
仮に上記に挙げた人物達と一対一で真正面から〝本気の戦闘〟を行ったらほぼ確実に負けるだろう…………いや、真正面ではなく小細工ありでも勝利をもぎ取るのは厳しい
………一応補足しておくと折川酒泉が弱いわけではない、彼自身も実力者だ
空崎ヒナを除けば風紀委員の中で一番強く、実際に一対一の戦闘ならアリウススクワッドのリーダー・錠前サオリを打ち負かしている
更には日頃の業務でも一人で便利屋68とほぼ互角に渡り合い、美食研究会の暴走を止めたりしている………まあ、五分五分よりも酒泉側がほんの少しだけ不利といった戦力差だが
それでも彼が実力者である事実は変わらない
………しかし、折川酒泉と学園最強クラスの生徒の間には越えられない差があるのもまた事実だ
そして現在、折川酒泉が戦っている相手─────聖園ミカも学園最強クラスの実力を持つ者だった
彼はこれから、その埋められない実力差を思い知らされる
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酒泉がゆっくりと瓦礫から身を起こす、今だに頭にガンガンと衝撃が鳴り響く
────っ、嘘……だ、ろ……
思わず言葉がこぼれるが、先程殴られた衝撃で酒泉は上手く喋れない
確実に全弾当てきった、追い討ちもした、なのに………
平然とカウンターしてきやがった………!
「あはは☆ヘイローを持ってないのに思ってたより頑丈だね?それとも………殴られる瞬間、ほんの一瞬だけ後ろに下がれたのが辛うじて功を奏したのかな?」
…………しかも行動までバレている
「お前の相手は私だっ!」
ミカの左側からサオリがアサルトライフルを放つ、ミカはそれを全て左腕で防ぐ
しかし最初からその行動を分かっていたのか、サオリはそのまま前に進みミカの左腕を自身の腕と絡ませる
「こ、これで終わってください………!」
その隙を突き、ヒヨリはスナイパーを構え、ミカの額に向かって狙撃する
その衝撃でミカは思わず頭を後ろに倒し────
「もー!いったいなぁ………」
平然と頭を起こした
「そ、そんな………!」
額に傷は付いている、ダメージは確実にある
………それでも彼女は止まらない
「いつまでくっついてるのかな?」
腕を絡ませるサオリを力ずくで振りほどき、サブマシンガンで攻撃する
「くっ!」
サオリはそれを屈むことで回避するが、ミカが足を振りそのまま蹴り飛ばす
「がっ………」
「リーダー!」
ミサキが咄嗟にサオリを左腕で受け止め、右手の銃でミカに発砲するが………
「あはは!無理無理~☆」
何も無い平坦な道を普通に歩くかの様に近づいてくる
「せー………っの!」
「っ!」
………っ戒野さん!
そのまま拳を振り抜くミカ、それをサオリとミサキを後ろから酒泉が引っ張る事で回避させる
しかしミカはそのまま足を踏み直し、今度は酒泉に向かって拳を振るってくる
駄目だ、避けられ─────
酒泉が直撃を覚悟した瞬間、何者かに腕を引っ張られ、ギリギリの所で拳を回避する
そのまま先程落としたアサルトライフルとスナイパーライフルを拾い上げ、後ろに下がり距離を取る
…………戒野さんか、悪い、助かった
「さっきのお礼………って訳じゃないけど、気にしないで」
しっかし、どうしたもんか………
「………確か酒泉って眼が凄くいいんでしょ、それで何とかならないの」
そんなアバウトな………そもそも相性が悪いっすよ
「相性?」
…………仮に俺の〝眼〟で隙を見つけたり敵の攻撃を見切ったとしても、ダメージを一切気にせずに突っ込んで来たら隙も何もないです
ダメージを無視して体当たりされるだけで一気に態勢を崩されます
「ど、どうするんですか………?」
「………私が時間を稼ぐ、その間に皆でアツコを助けてくれ」
「…………流石に無茶だと思う」
………プランBだ
「何か作戦があるのか?」
酒泉が後ろを向く
「………背中を見せるなんて、そんなに撃ち抜かれたいのかな?」
脚に力を入れる
「そっかそっか………本当に撃たれたいんだね?」
そのまま走り出す
「………へ?」
「………は?」
「………ふぇ?」
「…………ああ、そういうこと」
─────逃げるんだよォ!アリスクーーーッ!!
「行くよ!」
呆ける様に立ち尽くしていた三人だが、ミサキの言葉にサオリとヒヨリも走り出す
「…………フフ、アハハハ!」
「これはちょっと舐めすぎかな?」
ミカが一気に走り出す、唯でさえ身体能力の高いミカは当然酒泉達に追い付く
「ひぃぃぃぃ!追い付かれちゃいますぅぅぅ!」
少しずつ距離が縮まっていき、そして────
突如、聖園ミカの目の前に丸い何かが投げ込まれる
「っ手榴弾!?こんな物………!」
爆発する寸前に距離を取る、ミカにとっては大したダメージではないものの、咄嗟に下がってしまったせいで距離が空いてしまった
「でもこの程度の距離じゃ………!」
逃げ切ったとは言えない─────そう続けようとした瞬間
天井が一気に崩れだした
暗闇の中から四人の人影が出てくる
酒泉達はカタコンベを抜け出していた
────ざまあみろってんだ!
「おもいっきり崩れましたねぇ………」
「さっきアイツがロケットランチャーで随分ボロボロにしてくれたからね」
「………カタコンベの出口が近かったお陰だな」
勝てない相手に馬鹿正直に戦ってやる必要はないんですよ
「でも……カタコンベ壊れちゃいましたねぇ………」
「引き返すのに多少時間が掛かりそうだね」
「………最短ルートは使えなさそうだ」
…………槌永さん、カタコンベの入口に戻る時は瓦礫撤去頑張ってくれよな
「わ、私一人でやるんですか!?」
いやだって案内役は槌永さんだけだし、この後引き返すのも槌永さんだけだし………
「そんなぁ………」
槌永さんが早く戻れば早く戻る程俺達の生存率が上がるからな!
「プレッシャーを掛けないで下さいぃぃぃぃ!!!
うるせぇ!!!テメーのへそほじくるぞ!!!
「うわぁぁん!!!どうせ皆に笑われるようなおへそなら好きにして下さいぃぃぃぃ!!!」
いや………やっぱいいです
「なんで毎回このタイミングで断るんですかぁ!!?」
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瓦礫が散らばり、明らかに爆発物を食らったかの様な建物
更にその建物の地下室に酒泉達は身を隠していた
………こんな都合の良い隠れ家があったのか
「えへへ………時々皆でここに隠れてましたよねぇ………」
「何も無さすぎて、逆にマダムの目に付かなかったからね」
「任務中に拾ったお菓子などをこっそり皆で分けたりしましたよね………」
「小さすぎて一口くらいしか食べられなかったけどね」
少々気が抜けたのか、昔話に花を咲かせるヒヨリ
「ちっちゃい菓子パンを五人で分けあいましたよね!私とミサキちゃんとアズサちゃ………あ………」
アズサの名前が出た瞬間、装備の点検をしながら話を聞いていたサオリが一瞬ビクッと反応する
「その………ごめんなさい………」
「………いや、気にするな」
「…………」
三人の間に気まずい空気が流れる
………ああー………その、エデン条約の事件が終わった後、入院中に白洲さんと話す機会があったんですよ
「………アズサと?」
「ど、どんな内容ですか?やっぱり………その………」
「…………どんな恨み言だろうと受け入れよう」
…………いや、アンタ等の事を「大切な人達」って言ってましたよ
「何……?」
大切な人達が罪を重ねるのを止めてくれてありがとうとか、そんな感じの内容でしたね
「大切な人………」
「アズサちゃん、まだそんな風に思ってくれてるんですね………」
まあ、全部終わった後でも面会くらいは出来ると思いますし、その時にゆっくりと話せばいいんじゃないですか?
「………折川酒泉」
……なんすか
「お前には何から何まで世話になりっぱなしだな」
……………似合わない事言ってないで全員で生き残る事だけを考えて下さいよ
「ああ、分かっている」
装備点検を終えたサオリは廃墟の一番高い場所から軍用双眼鏡を覗き、敵の位置を確認していた
しかし、背後からの気配を感じとり後ろを振り向くと─────
………ども
──────どこか気まずそうな酒泉がいた
……………錠前さん、その………
「………どうした?」
マダムの所に乗り込みに行く前にこれだけは伝えておこうと思いまして………
「私に?」
………すいませんでした
「……何の事だ?私から謝罪する様な事をした覚えはいくらでもあるが、お前から謝罪される様な事をされた覚えは無いぞ」
初めて出会った時の事です
「初めて出会った時?」
あの時俺は、錠前さん達の事情を詳しく知らないのにアンタ等の事を糾弾しました
………でも、ここに辿り着くまで一緒に戦ってく内に、錠前さん達にも色々抱えてる物があったんだなって
もちろん俺の大切な人達を殺そうとした事は許せないです………けど、そっちの事情も考えずに一方的に悪だの加害者だの言いたい放題言ってしまって………すいませんでした
「………酒泉、お前は─────」
「リーダー、私とヒヨリも準備出来たよ」
サオリが何か喋ろうとした瞬間、ミサキが下から声を掛ける
「………ああ、分かった。」
短く返事すると、サオリは下に降りていった
「───────お前は優しいな」
そう小さく呟いて
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「ねえ、サオリ姉さんと何話してたの」
……別に大した内容じゃないっすよ?
「…………………………………………ふーん」