サオリとミカ、互いの拳が互いの顔にクリーンヒットし、しばらく間を置いてから同時に倒れる
「サオリ……姉……さん」
どうなった………?
身体を引きずりながら倒れたサオリに近づくミサキと酒泉
「サオリ姉さん……しっかりして……」
「……っ……大丈夫……だ………」
ミサキがサオリの名を呼びながら身体を揺すると、若干掠れた声で返事をしながらサオリが目を開ける
二人に肩を支えられながらサオリは立ち上がる
「………っ、すまない……先を急ごう……」
「………うん、姫を助けに─────」
瞬間、背後から何か物音が聞こえる
………っおいおい、まだやる気かよ……
酒泉の視線の先、そこには────
────無言で笑みを浮かべながら、虚ろな瞳で此方を見つめてくるミカの姿が
「嘘でしょ………もう人間じゃない……」
「……………ミカ」
次の瞬間、ミカが無言のままサオリに襲いかかる
「………っ!」
───させるかぁ!
酒泉は咄嗟に横からミカに飛びかかり、そのまま二人で勢いのまま転がる
即座に起き上がったミカは酒泉に馬乗りになり、連続で拳を殴り付けてくる
両腕でガードしても伝わってくる痛みに顔をしかめるが、ガードを止めれば更に悲惨な目に遭う事が分かっている以上、耐え続けるしかない
数発目の拳を振り下ろそうとした時、今度はミサキがミカに体当たりをし、酒泉の上から無理やり退かす
いっ………づぅ……!
「大丈夫!?」
多分………大丈夫……
酒泉を庇いながら前に立つミサキ、するとミカは酒泉達を見つめながら呟いた
「ずるいよ」
………は?
「貴女達だけやり直せるなんてずるいよ」
「私はもう幸せな未来もやり直す機会も残ってないのに」
「貴女達だけまだ取り戻せるものがあるなんて不平等だよ」
「私だって………貴女達みたいに贖罪できる機会を待っていたのに」
「私も………幸せになりたかった」
次の瞬間、酒泉の前世の記憶が目の前の光景に重なる
『私もあなたのように……先生にもう少し早く会っていたら。そうしたら……過ちを取り返せたのかな……って思ってた……』
「それなのにどうして貴女達は幸せになるチャンスが残されているの?」
酒泉が前世で画面越しに見た〝セリフ〟と、今実際に聞いている〝言葉〟が食い違う
………本来ならば、この場に居るのは先生だった。 先生が居たからこそ聖園ミカも救われたんだ
だが、調印式の時に俺が自分のやりたい事を優先したせいで錠前さんは先生ではなく俺に接触してきた
その影響で先生はこの場に立ち会わせていない
もちろんあの時の自分の行動を後悔してはいない
…………でも、俺の行動のせいで聖園さんの未来を奪ってしまったのも事実だ
俺が原作を変えてしまったせいでバシリカに着くのが遅れてしまった
俺が原作を変えてしまったせいで先生がこの場にいない
俺が原作を変えてしまったせいで───────
────────聖園さんが救われないまま終わってしまう
………何かないのか?俺に出来る事は………何か………
酒泉は心の中で己の無力を恨み、このまま何も出来ないのかと唇を噛み締めると
「そうか…………ミカ、お前は私だったんだな」
ボロボロの身体のサオリが立ち上がる
「…………え?」
「旧校舎到着前に戦闘した時、お前の言葉を聞いた時からずっと既視感を感じていたんだ」
そしてそのまま語り始める
「救われたくても誰も救ってくれない、それでも希望を捨てきれない」
「でも救いの手が差し伸べられる事はない、それを理解していたからこそ周りを壊す事しか出来なかった」
「…………そうすれば、皆平等に傷つくから」
「私とお前は同じだ、だからこそお前は私達の事を赦せなかったんだ………自分が不幸なのに、同じ立場である私達が幸せになる事が」
「…………だが、お前は元々はそんな人間ではなかった。本来のお前は本気でアリウスとの和解を考えるほどのお人好しだった」
「…………そしてそんなお前を歪めてしまったのは私だ、お前から多くの物を奪ってしまったのも………」
「本当にすまないと思っている。だが、私がお前にしてしまった事は謝った程度じゃ償い切れない…………いや、謝るという考えそのものが烏滸がましいのだろう」
「だから、ミカ─────」
「─────私がお前から奪い取ってしまった分だけ、お前が私から奪ってくれ」
「サオリ…………」
己の罪を吐きながらミカに向かうサオリ、ミカはそんなサオリの言葉に顔を上げ─────
「わ……私は……」
「私には………出来ない……」
「そんなこと、出来ない……だって……」
「私が、貴女の結末をこんな風に決めてしまったら………」
「私に救いなど無いと、自ら証明する事になってしまう……!」
─────涙を流しながら答えた
「ミカ…………」
「………私は、ただ、元に戻りたかっただけなの……セイアちゃんと口喧嘩して、ナギちゃんをからかって………」
でも、とミカは続ける
「もうそんな未来は訪れないんだね………結局私は自分の罪を認められなかっただけなんだ」
「…………」
「……………今まで散々邪魔しちゃってごめんね、もう二度と貴女達の前に現れるつもりは─────」
『──────つまらない三文芝居が終わったと思えば今度はくだらない友情ごっこですか』
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俺達の耳に、突如女性の声が届く
その声はアリウス生にとっては聞きなれた声で、そして────
「ベアトリーチェ………!」
────恐怖と支配の象徴だった
『多少は楽しめるかと思って見逃していましたが………どうやら時間の無駄だったようですね』
「マダム……いや、ベアトリーチェ!アツコを返してもらおうか!」
『ならばさっさと取り返しに来ればいいでしょう?まあ、もっとも………たどり着ければ、の話ですが』
そう言うと、ベアトリーチェが指を鳴らすと同時に無数の人影が現れる
………そして、人とは言えない化物も
「………っ!ユスティナ………それに、あれは」
『───聖女バルバラ、ユスティナ聖徒会において最も偉大な存在です』
「………それに、アンブロジウスまで」
『貴女達は見逃されていただけに過ぎません。それとも、まさか本当に〝大人〟に勝てると思っていたのですか?』
「くっ…………!」
「相変わらずムカつく………」
『さて、貴女達の無様な醜態を見物しながら儀式でも始めましょうか』
「そんな……まだ時間はあるはず……!」
『………ああ、それともうひとつ。アンブロジウスはそこにいる個体だけではありません』
「なにっ!?」
『あと三体、アリウス自治区に放ちました、それに残ったユスティナとアリウス生達も』
「馬鹿な……そんな数を保有しているとは聞いていないぞ!」
『折川酒泉、貴方の存在を確認した日から念入りに準備しました…………それともこんな状況、〝記憶〟にはありませんでしたか?』
…………
『これで貴女達の待ち望む援軍とやらは───』
───なんだ、たったの三体か、それなら先生達が何とかしてくれるな
『………ずいぶんとあの〝大人〟を過大評価しているのですね、確かにあの者は様々な事件を解決してきましたが、いくらあの男でもこの状況をそう簡単に解決出来るとでも?』
………なあ、ベアトリーチェ
『………何ですか、折川酒泉。命乞いでもするつもりですか?もしそうならば貴方だけは見逃してあげましょう、貴方の記憶には価値が────』
────お前、ほんとムカつくな
『…………はい?』
そんなに俺達が怖いのか?
『何を言って───』
逆らわないように必死に子供に痛みを与え、恐怖で縛り付け、確実に支配する
そこまでしないといけない程、俺達子供の事が恐ろしいのか?
『………私はただ、〝嚮導者〟として当然の手段を────』
────嚮導者?
俺の知ってる〝嚮導者〟は痛みで生徒を支配なんてしない、むしろ自分が傷ついてでも護りにいく
俺の知ってる〝嚮導者〟は恐怖で生徒を縛り付けたりしない、むしろ生徒の意思を尊重する
俺の知ってる〝嚮導者〟は──────
自分がズタボロになってでも、次元を越えてでも、たった一人の生徒の為に戦う存在なんだ!!!
テメーみてえな小物が〝嚮導者〟を名乗ってんじゃねえ!!!
『………くだらない価値観ですね、いいでしょう、貴方は直接私の手で叩きのめしてあげましょう』
そう言い残すと、ベアトリーチェの声が途切れる
「………啖呵を切ったは良いけど、この状況どうするの?」
「全員倒してでも進むしか────」
「────あいつらは私に任せて」
そう言うと聖園さんが俺達の前に立つ
「ミカ!?」
「………どういう風の吹き回し?」
聖園さんが顔を伏せながら答える
「………私にはもう何もない、だけど貴女達はまだ間に合う。貴女達には────」
─────私みたいになってほしくないから
聖園さんが顔を上げ、敵の方を睨む
「だから………行って」
おそらく原作以上にダメージを受けているであろう聖園さんが覚悟を決める
こんな状態で挑めば間違いなく先生が来る前に殺されるだろう
…………なら良い作戦がある、さっきの戦闘で使用したスティンガーミサイルや手榴弾のお陰で建物はボロボロだ
残り二個の手榴弾を使い敵と俺達を分断する
「…………どのみち敵が回り道するかもしれないから私が食い止めるよ」
ああ、分かっている、俺の合図でやるぞ
敵がゆっくりと近づいてくる
…………どうせベアトリーチェが「ゆっくりとなぶり殺しにしろ」とか命令出してるんだろうな
………いきますよ
3
「………」
2
「ミカ………すまない、必ずすぐ戻る」
1
「貴女達の仲間の事………必ず助け出してね」
手榴弾を二つ上に向けて投擲する。そのまま手榴弾の爆発で辺りの柱が崩れ去り、天井が崩れだす
そして巨大な瓦礫と化した天井が降り注ぐ───────
───────瞬間、聖園さんを錠前さん達の方へ蹴り飛ばす
「…………え?」
「酒泉!?」
「あいつ……何をやって……!」
そのまま瓦礫が降り注ぎ、作戦通り分断される
…………俺一人と錠前さん達三人に
「な……何で………」
「酒泉……っ、一体何故………!」
俺達を分断させている瓦礫の向こうから声が聞こえる
………あー、なんかあのババアに直接会うの嫌になってきたなー(棒)
「何を言って……!」
あんなおばさんに会っても何も得しないしなー(棒)
なんか態度もムカつくしー、話してるだけでストレス溜まる的なー?(棒)
だったらユスティナの相手してる方がマシかなー(棒)
「だからってこんな事を………」
だからさあ………聖園さん連れてあのオバサン倒してきてくれよ。あのオバサンの狙いが俺である以上、ユスティナに殺される事はないだろうしむしろ俺が相手した方がいいだろ
「………貴方一人で戦うのは無茶だと思うけど、今からでも私が───」
あーもう………だからぁ………
こっちはいいから聖園さん達があのババア倒してきてくれよ!!!
全ての元凶ぶっ倒せば、ほんのちょっっっっっとぐらいはアンタの聴聞会もカッコつくかもしれねえだろ!!!
「…………っ!」
「酒泉、お前………」
「…………馬鹿なんじゃないの」
いいか、これはアンタの為じゃない、勝手に未来を変えた俺自身の罪滅ぼしだ!
だから何も気にせずさっさと行け!
「………はぁ、貴方って一体何なの?ナギちゃんみたいに真面目なわけじゃないしセイアちゃんみたいに頭が良いわけでもない。先生みたいに優しいってわけでもないし………よく分かんない」
うっせーなゴリラ
「………酒泉君、これだけは伝えておくね」
………なんだよ
「私は貴方の事が嫌い」
あっそ
「本っ当に大っ嫌い」
奇遇だな、俺もだ
「一発思いっきりぶん殴らないと気が済まないくらい、だから………」
「絶対に死なないでね」
………結局この場は助かっても死ぬじゃん、俺
「………サオリ、ミサキ、行くよ」
「………ああ!」
「…………命令しないで」
瓦礫の向こうから走り去る音が聞こえる、おそらく三人共ベアトリーチェの所に向かったのだろう
………さて、向こうが俺の事を生け捕りしようとしても不慮の事故でポックリ逝ってしまう可能性だってある
油断は出来ないぞ………
あれ?これってもしかして俺が〝お姫様〟ポジションになってる?