「それでねー、小学生ぐらいの子達がアビドスに興味を持ってくれてね!」
それじゃあ、その子達が高校生になる前にアビドスを復興させないといけませんね
「そうそう!益々やる気が出てきたわ!」
「…………」
いつも通り仕事をこなしながら雑談するユメと酒泉、普段ならホシノがそんな二人を咎めるはずだが……
「……あれ?ホシノちゃん?」
もしもーし?
「………」
「……ホシノちゃん?」
「っ!何ですか、先輩」
「いや、いつもなら〝喋ってないで仕事してください!〟って言うはずなのに今日は言わないんだって思って……」
「………そ、そうですよ!お喋りしてる暇があるならさっさと終わらせてください!」
ユメや酒泉に怪しまれたホシノはすぐに普段通りの態度に戻るが、それでも誤魔化しきれずに二人からより怪訝な目を向けられる
「酒泉君の次はホシノちゃんまで様子が変になっちゃった……」
俺ってそんなに変でしたか……?
「……私の事はどうでもいいので大人しく手を動かしてください」
二人の視線を鬱陶しく感じたホシノが無理やり無視しようとして─────
まさか何か隠してるんじゃ………
─────その瞬間、ホシノの手がピタリと止まった
「隠してるのはそっちでしょ………」
………?
「……へ?ホシノちゃん何か言った?」
「………いえ、何でもありません」
その後、気まずい空気の中仕事は続いた
それじゃお疲れ様でしたー
「今日もありがとね~酒泉君~」
「………お疲れ」
少しだけ日が沈みだす頃に仕事が終わった酒泉は、手荷物を持ち部室を出た
ホシノもその後に続くかの様に席を立とうとして───
「ホシノちゃん、二人で話そっか」
───ユメに止められた
「……特に話す事はありませんが」
「今日悩んでいたのって酒泉君の事でしょ?」
「………っ!」
「普段から真面目なホシノちゃんが仕事中にも関わらず何度も酒泉君の方をチラ見してたんだもん、分かりやすかったわよ?」
まさか見抜かれているとは思わなかったホシノが驚愕する
そんなホシノの表情を見てユメは「私って探偵になれるかも!」と場の空気を和ます様に一人で盛り上がる
「ねえ、ホシノちゃん、私に相談してみない?」
「………」
「酒泉君もホシノちゃんも私の可愛い後輩だから二人には仲良くしてほしいのよ」
ホシノは俯くが、少しずつ顔を上げて話し出す
「………先輩は酒泉の正体が気にならないんですか?」
「……正体?」
「だって酒泉はこのキヴォトスで唯一の人間の男子生徒なんですよ?何処から生まれたのかも何処から来たのかも分からないのに………」
「それは、気にならないと言えば嘘になるけど……」
「誰と繋がっているのかも、何が目的なのかも、何も本当の事を明かしてくれないじゃないですか!」
「ホシノちゃん………」
「アビドスを立て直すのを手伝ってくれてるのだって何か裏があるに決まって────!」
「────なるほど、ホシノちゃんは酒泉君と仲良くなりたかったのね!」
「………は?」
突拍子もない事を言い出すユメに、ホシノが固まる
「酒泉君の本心が知りたかったんでしょ?つまり、もっと仲良くしたいって事だー!」
「なっ……!どうしてそうなるんですか!」
「もう、それなら最初から酒泉君に『貴方の事を教えてください』って言えばいいのにー!」
「だから違うって……!」
必死に否定しようとするが、ユメは全く聞く耳を持たない
「ふふっ……ごめんごめん、ホシノちゃんの焦ってる様子が面白くてつい♪」
「はぁ……もういいです、先輩に相談したのが間違いでした」
席を立ち今度こそ帰ろうとするホシノに、 ユメが背後から話しかける
「……ねえ、ホシノちゃん。確かに私達は酒泉君の事をあまり知らないわ、彼が何を抱えているのかも、どうしてこんなにアビドスの事を気に掛けてくれるのかも」
「……やっぱり怪しいじゃないですか」
「でもこれだけは分かるわ、彼は────酒泉君は決して悪人なんかじゃない、水族館でサメを見てはしゃいで、結構負けず嫌いなところがあって、私達の為に一緒に歩んでくれるただの優しい男の子よ」
「…………」
「だからホシノちゃんも、もうちょっとだけ酒泉君の事を信じてあげて?」
「………分かりました」
ユメの言葉を聞いたホシノは少しだけ考え込み、返事をしてから部室を後にした
帰路を歩みながらホシノは酒泉の事について考える
(酒泉がカイザーと繋がってるならわざわざアビドス復興の手伝いなんかする必要が無い、信用を得る為だったとしても自分の体調が悪い時まで無理して仕事を手伝いに来るなんて流石に入れ込みすぎてる)
(………そうだ、今思えばあんな馬鹿な奴にスパイ活動なんて出来るはずがない)
(あの日カイザーの人間と話していたのだって、きっと何かの間違いだ)
(………もう少し、もう少しだけ信じてみても………)
……んで……る……よ
「…定が……更……れた……」
「………え?」
───ホシノの耳に聞き慣れた声が聞こえてくる
その方向に少しずつ、そして足音を立てない様に近づいていく
路地裏の辺りに着いた時、そこには────
……そういう事を聞いてるんじゃねえ、アビドスの近くでは接触しないって約束だろ
「別にそこまで契約書に書いた訳ではない、それに何より〝あの男〟からの依頼だ、緊急で連れて来いとの事だ」
〝あいつ〟が………
「どうやら余程面白い実験を思い付いたらしいな」
………ったく、事情は分かったけど次からは場所に気をつけてくれ────
────こんな所をアビドスの人達に見られたら色々と問い詰められそうだからな
「ふむ、次からは善処しよう」
……それよりもヘルメット団とアビドスの借金の利子の事、分かってるんだろうな?
「前にも言っただろう『心配するな』と、〝手筈通り〟だ」
…………
「それにしても……君がアビドスの廃校委員会に〝接触〟してくれて本当に助かったぞ、お陰で私の会社の利益がうなぎ上りだ」
……アンタ等の為じゃない、俺の〝目的〟の為だ
「そう睨むな、私は〝取引相手〟を簡単に切り捨てはしないさ」
どうだかな……〝あいつ〟が関わってるから切り捨てられないだけだろ
「そんな事はない………さて、そろそろ時間だな、そろそろ行くとしようか」
…………
「これからもご贔屓に頼むよ、〝我々の利益の為にね〟」
「───────」
だめだ、ことばが、でない
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本日の中学の授業を終えた酒泉は、友人達に適当に挨拶を交わして駅に向かう
暫く電車に揺られてく内に砂だらけの駅に到着し、酒泉はそこで降りる
当然と言うべきか、酒泉以外に降りる人物は誰もいない
その様子に少し寂しさを感じながらも、すぐに気を取り直して歩を進める
ん……あれは……
「………」
改札を出た酒泉は駅の外で佇んでいるホシノを見つける、もしや自分を待ってくれていたのかと少し歩く速度を上げてホシノの元へ向かう
こんにちは小鳥遊さん、こんな所で何して────「どういう事」
………え?
「どうして………」
「どうして酒泉がカイザーと繋がってるの!?」
酒泉の胸ぐらを掴み、叫ぶホシノ
「〝取引相手〟って何!?〝カイザーの利益の為〟って!?」
………っ
「何で酒泉がヘルメット団とアビドスの借金の利子の事まで関わってるの!?何で私達アビドスに聞かれたら困るの!?」
それは………
「全部っ……全部演技だったの!?」
なっ……!
「私達の為に頑張ってくれたのも!ユメ先輩の事を庇ったのも!水族館での思い出も!全部………!全部嘘だったの……!?」
違いますっ!俺は……!
「信じてたのに……っ!」
「本気で信じてたのにっ!!!」
………っ!待ってください小鳥遊さん!
愕然とする酒泉を置いて走り去るホシノ、そんなホシノを追おうと酒泉も走りだそうとし────
………っ……ぁ………
────突如、激しい頭痛に襲われて気を失った
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うーっす………
「おかえりー………あれ?確かシロコちゃんとロードバイク対決してくるって……」
あー……その、今日は〝調子の良い日〟だと思ってたんですけど………
「けど?」
道中で少し体調が悪くなってきて、嫌な予感がしたので砂狼さんに謝って帰ってきたんですよ…………後日ラーメンを奢る約束で
「ありゃりゃ……」
砂狼さんは「気にしなくていい」って言ってくれたんですけど、ドタキャンは流石に申し訳ないのでこっちから頼み込んでお礼する事にしました
「………それで、今は?」
………案の定です
「………」
ここ最近、〝調子の良い日〟が続いていたので油断しました
「……よし、それじゃおじさんが保健室まで連れていってあげよう!」
いや、俺の油断のせいでそこまで迷惑を掛ける訳には………
「いいからいいから、気にしないの~」
………じゃあお願いします
「お任せ~♪」
「いや~、昔は寂しく感じたこの廊下も今じゃすっかり慣れたね~」
昔と何も変わりませんからね………あ、生徒の数は減ってるんだった
「借金もその利子も確実に減ってるんだけどねー」
………そういえば小鳥遊さん知ってます?今度外の世界からキヴォトスに〝先生〟が来る事
「……先生?」
はい、その人に頼ればアビドスの借金問題もより解決に─────
「────駄目」
…………
「酒泉の身体をボロボロにした〝大人〟なんかには絶対頼らないから」
……あれは俺が勝手に行動した結果ですよ
「……とにかく〝先生〟には頼らないよ、〝大人〟なんか居なくてもアビドスの問題は私達の力で少しずつ解決出来てるんだから」
……でも、〝いい大人〟の可能性も……
「………やだ」
……小鳥遊さん?
「やだ、〝大人〟なんかより私の事を頼ってよ、なんで酒泉の事を傷つけた奴らの仲間を当てにするの」
いや、先生はその人達とは違────
「────変わらないよ、〝大人〟は全員敵だよ」
………
「〝大人〟なんて信じなくていい」
「酒泉は私達アビドスだけを頼ってくれればそれでいいの」
「ね?ここに居る皆とユメ先輩だけで静かに暮らしていこうよ」
「酒泉だけなの、私とユメ先輩の事を本気で助けてくれたのは」
「ここに居れば酒泉を護れる、〝大人〟の魔の手から酒泉を遠ざける事ができる」
「だからさ、外の事なんてどうでもいいからアビドスの────私達の事だけを考えよ?」
………小鳥遊……さん
「……保健室に着いたね………そうだ!折角ならおじさんのお気に入りの枕を持ってくるよー」
………ありがとうございます
「それじゃあ待っててねー……………戻ってきたら一緒に寝ようね?」
ははっ………
行ったか……………
……今日はいつもよりやけに苦しいな
…………………………ゴホッ