「すまない、包帯を取ってくれないか」
「思っていたより怪我人が多いな……消毒液が足りないかもしれない」
「あ、それなら此方をどうぞ!」
「トリニティの救護騎士団の……すまない、助かる」
もはや天井が存在せずバシリカと呼べない程ボロボロになった空間を抜け、酒泉達はゲヘナとトリニティの生徒達が集まる仮拠点に移動した
戦闘終了後に到着した医療班も突入し、負傷者達を助ける
そこではゲヘナもトリニティも───そしてアリウスも関係なく全員が手当てを受けていた
あいででででで!すっげえ痛え!
「我慢してください………もう、無茶しすぎですよ」
すまん火宮さん……
「まさか身体をぶっ刺された後も戦うなんてな……」
銀鏡さんもよく敵の罠に掛かった後も普通に突っ込んだりするじゃないですか
「それとこれとは別の話でしょ!?」
「確かに無茶をするという点では同じですね」
「アコちゃんまで……」
ほら、天雨さんだってこう───「それはそれとしてさっきヒナ委員長に抱えられてここまで来てましたよね、酒泉?」───うわめんどくせーなこの人
「……酒泉は怪我人だから仕方ない」
風紀委員のメンバーに手当てされながら会話する酒泉、その横に既に手当てを受け終わった者達が近づいてくる
……しかしその者達の姿を見たヒナは酒泉を庇う様に立ち上がる
「………アリウススクワッド」
「その反応は当然だよね……少し話がしたいだけだから」
そう言うとヒナの目の前の少女───秤アツコは酒泉に頭を下げる
「まずは……調印式の時、貴方の事を傷つけてしまってごめんなさい。謝って済む話じゃないのは理解しているけど、これだけはどうしても伝えたくて。それと────」
「────皆の事を……そして私の事を助けてくれてありがとう」
「貴方に助けられるのはこれで二回目だね」
……二回?
「うん、調印式襲撃の時と………さっき庇ってくれたので二回」
……あー、いや、それは……
「……あっ、スクワッドの皆の事も助けてくれたから三回だね」
………別に自分の目的の為に助けただけだ
「…………」
……………なんだよ、ジッと見つめてきて
「……ふふっ、素直じゃないんだね」
はぁ?俺ぐらいピュアなボーイはそうそういないが?
「可愛いところあるんだね」
………くっそ……調子狂う……勝てない……
「………いつまで話してんの、姫」
酒泉に微笑みかけるアツコの肩をトンッと叩き、今度はミサキが話しかける
「別に何か特別話したい事があるわけじゃないけど………一応世話になったから一言だけ交わしとこうと思って」
はあ………
「私達がこれからどんな罰を受ける事になるのかは分からないけど、もしまた会う機会があるなら………その時はまた〝道具〟として使われてあげるから」
「珍しいね、ミサキ」
「………別に、借りを作りたくないだけ」
「あ、あれ?でもその話って確かこの戦いが終わるまでの間だけじゃ………」
「ヒヨリうるさい」
「うええ!?」
いや、槌永さんの言う通りだぞ?
「………え?」
元々この戦い限りの話だったし………
「……………は?何それ、持ち主なんだから最後まで道具の責任持ってよ」
いや何で!?解放されるなら良いことじゃん!?
「要するに面倒になったから逃げ出したいだけでしょ」
突然ジメッとしだすミサキの周りの空気に困惑する酒泉、少し怯えて一歩下がる
「お前達、あまり迷惑を掛けるな………と言っても今更か」
そこに後からやって来たサオリが助け船を出す
「………酒泉、改めて礼を言いたい、何から何まで世話になってしまったな」
あー……いいっすよ、別に
「だが………私自身の手で怪我を負わせただけでなく、ベアトリーチェの攻撃までお前に庇わせてしまった」
あれに関しては俺が勝手にやっただけなんで、まあ
「それにしてもその身体ではもう一つの約束は無理そうだな……」
もう一つの………ああ、全員一発ずつ殴るっていうあれか
別に今更そんな気はありませんよ
「だが…………」
それでも食い下がるサオリにヒナが近づき────
─────思いっきりサオリを殴り飛ばした
……………
「……………」
…………えええええええええ!!?
ちょっ………なにしてんすか空崎さん!?
「……?酒泉の代わりに殴っただけだけど……」
いやいやいや、俺はもう気にしな───
「………あと、私の怒りの分」
………
「全員じゃなく錠前サオリ一人にしかぶつけなかっただけまだ温情よ…………私は大切な人を傷つけた人を簡単に赦せるほど優しくはない」
「………いや、むしろ有難い」
起き上がりながら礼を言うサオリ
「このまま何もされずに終わっていたら悔やんでも悔やみきれない」
「……本人もこう言ってる」
………ならまあ、空崎さんも俺の為に怒ってくれたんですし……
でもこれ以上はやらなくていいですからね?
「しかし、それでは納得が…………っ!?」
何かを言おうとしたサオリ、しかし酒泉の身体を見ると突然言葉が詰まる
「………酒泉、一つ聞きたい。その身体にある複数の傷痕、そして手術痕、もしかしてそれは───」
「───そう、貴女達アリウスがやった痕よ」
ヒナが酒泉の代わりに答える
「あの日、貴女達が全員で寄って集って酒泉を殺そうとした時に出来た傷痕よ」
「……やはり………そうなのか………」
あー………特に後遺症はないっすよ?
「しかし…………」
生活に影響が出るレベルの後遺症が残っていたら恨んでましたけど、常に裸で過ごすって訳じゃないんですから痕ぐらいなら別に………
「…………」
あーもう、辛気臭い空気はやめやめっ!
一気に雰囲気が暗くなるのを感じた酒泉は無理やり場の空気を変えようと手を叩く
しかしサオリは何かを考え込んだ後、顔を上げる
「……………酒泉、私達スクワッドはこの後トリニティに連行される。私達の処遇が決まるのはしばらく後になるだろう」
「勿論どんな罰でも受け入れるつもりだ、だが場合によっては二度とお前と会えなくなるかもしれない」
「…………だが、もしまた会う事が許されたのならその時は一生を掛けてでも償おう………お前の身体に消えない傷痕を残してしまった罪を」
………一生?なんか嫌な予感が………
「酒泉、私は────────」
「一生を捧げてでもお前の事を護り抜くと誓おう」
まるで時間が止まったかの様に全員が固まる
その中で真っ先に動き出したのが酒泉だった
……………あ、これ多分自分が何を言ってるのか理解してないな
「……?別にそんな事は………いや、確かに酒泉の言う通りだな」
でしょ?特に深い意味は────
「───言い方が悪かったな、私ごときが誓うなどと軽々しく口に出すのが間違っていた」
ゑ?
「頼む酒泉、お前の事を一生護らせてくれ!」
お願いだから黙ってて!?
「リーダー……何言ってんの?」
「サッちゃん……」
「サオリ姉さんがおかしくなっちゃいました……」
己の言葉の意味をよく理解せず当然の事の様に言い放つサオリ
そんなサオリに全員が目を見開く
さっきとは別の方向に空気が変わるのを感じ取り、ヒナ以外の風紀委員に助けを求める様な視線を送るが、全員目を逸らす
…………ちなみに酒泉がヒナの方を見ないのはドス黒いオーラを感じたからだ
「………わーお、サオリってば大胆だね」
そんな中、後ろからミカが声を掛ける────そしてティーパーティーの百合園セイアと桐藤ナギサ、補修授業部の白洲アズサも一緒に居た
「酒泉、アツコ達の事を助けてくれてありがとう………これでまた皆と話せる」
白洲さん………
「アズサ………」
「………皆、ごめん」
白洲さんはアリウススクワッドの前に立つと突然頭を下げる
「あ、アズサちゃん!?」
「アズサ……」
「皆がアリウスでマダムの支配に苦しんでいたのに、その時私は………補修授業部に……新しい友達に囲まれて幸せになっていた」
「………」
「皆がアリウスに縛り付けられているのを知っていたのに私一人だけ────」
「────ありがとう、アズサ」
「………っ、サオリ?」
アズサの言葉を途中で止め、サオリがアズサと同じように頭を下げる
「酒泉から聞いた……私達の事をまだ〝大切な人達〟だと思っていると」
「……うん」
「………私はお前に手を汚させようとした、それなのに私達の身を案じてくれていたのだろう?」
「だって、私が今こうして生きていられるのはあの時サオリ達が助けてくれたから」
「………初めて出会った時か」
「そう、あの時みたいにまた皆で一緒にいられるといいね」
「…………ああ」
「またまた大活躍だったみたいだね、酒泉」
途中から寝てましたけどね
………クズノハさんと会いましたか?
「………まあ君なら知っているか、彼女には世話になったよ」
「………酒泉、また百合園セイアと私の知らない話してるの?」
いや、これは伝える暇がなかっただけなんです本当です信じてください頬っぺたつねらないで痛い痛い痛い
…………っと、すいませんでした百合園さん、本来なら百合園さんが夢の中に囚われる事を伝えるはずだったんですけど
まさかこんなに早く事件が起きるとは思わなくて……
「未来は決まっているわけではないからね、仕方ないさ。むしろ君には感謝しても感謝しきれないよ」
感謝?
「ああ、ミカの事も色々と気を利かせてくれたんだろう?」
「はあ!?全然そんな事ないんだけど────」
「大人しくしてください、ロールケーキぶちこみますよ?」
「ごめんなさい」
何か口答えしようとしたミカを黙らせ、ナギサが酒泉の前に立つ
「初めまして、折川酒泉さん。私はティーパーティー所属の桐藤ナギサと申します。今回の事件ではミカさんが貴方にご迷惑をおかけしてしまい大変………」
「ちょっとナギちゃん!?」
「ロールケーキ」
「はい」
………ちょっと見てみたかったな、ロールケーキぶちこまれるシーン
なんて事を酒泉が考えているとナギサが頭を下げ直して再び謝罪する
「………ミカさんが貴方に攻撃を加えたと耳に入れました、本当に申し訳ありません────」
────ん?何の事っすか?
「………はい?」
いや、俺達むしろ助けられた側なんですけど………
「で、ですが………」
道中のアリウス生を倒してくれましたしユスティナの数も減らしてくれました
なんなら気絶してる俺の事護ってくれてたらしいんで
「………」
そもそも、確か百合園さんの予知夢の内容を聞かされて咄嗟に助けに行くように百合園さんに頼まれたんですよね?
「………ふふっ、ああ、その通りだ。すまないナギサ、伝えるのが遅くなってしまったね」
しかも事件の元凶であるベアトリーチェを倒すのにも協力してくれましたし
ねえ、錠前さん
「ああ、あの時の助力は本当に助かった」
「セイアちゃん、サオリ………」
「はぁ………良かったですね、ミカさん」
「うん………ねえ、酒泉君、ありが───」
いやぁ、ゴリラに相応しい暴れっぷりでしたね!あれはもうキングコングレベルでしたよ!
「────バーカ!」
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今後の動向の話し合いをする為に先生とティーパーティー、そしてヒナがテントの中に入っていく
それとは別にミカが正義実現委員会の生徒達と共に車に乗り込み、アリウススクワッド達もそれに続くように連れていかれる
しかしサオリが乗り込む直前、酒泉が「少しだけ待ってくれ」と手で止める
「えっと……直ぐに連れて行くように命令されていまして……」
そこを何とか……あんま時間は取らせないんで!
「そう言われましても………」
「………構わない」
「え……良いんですか?」
さっすが!ありがとうございます剣先さん!
「先に行ってるね、サッちゃん……酒泉も、ばいばい」
「えへへ……差し入れ待ってますね酒泉さん……」
「リーダーと二人だけで何の話するの?…………………まあ、別に私には関係ないけど」
正義実現委員会の生徒達はサオリを車から下ろし、少し離れた場所で見張る
実は錠前さんに少し聞きたい事がありまして………
「私に?構わないが………」
その内容なんですけど……
羽沼マコトについて色々とお話が──────
そろそろマコっちゃんとバチります