「キキキキキッ!どうやらアリウススクワッドはトリニティに捕まったようだな!」
ゲヘナ学園の生徒会・万魔殿、その一室に悪魔じみた笑い声が響く
その笑い声の主は……
「これで我々の具体的な証拠が風紀委員にバレる事はない!」
万魔殿の議長、羽沼マコトだ
「ちょっと楽観視しすぎじゃないですか先輩……」
「マコト先輩何か楽しい事があったのー!?」
自分の上司の能天気さを危ぶむ棗イロハ、その様子を勘違いしたイブキがテーブルから身を乗り出す
「フッ……あったとも!とても爽快で痛快で今後我々万魔殿の未来を安定させる程の出来事がなぁ!?」
「えらく上機嫌ですね……」
「喜べイブキ、今日はプリンを四つも食べていいぞ!」
「わーい!マコト先輩だいすきー!」
「キキキキキッ!」
「ここまで調子が良いと大体後で何か悪い事が起こるんですよね……」
イロハは無邪気に喜び回るイブキに暖かい視線を送るが、その隣で調子に乗っている様な笑みを浮かべるマコトを見てすぐに冷えた視線に変わる
一通り笑い終えたマコトはコートを整えて扉に向かう
「よーし、イブキ!イロハ!今からプリンを買いに行くぞ!好きなだけ買っても──────」
─────パンデモなんちゃらの皆様!!!おはようございまああああっす!!!
マコトが出掛けようとした時、バンッ!という音と同時に突如扉が勢いよく開かれる
突然の訪問者の姿を見ようと開かれた扉の位置に視線を向けると、そこには大量の資料を抱えながら、おそらく足で扉を開けたであろう折川酒泉の姿があった
「………朝からずいぶんと騒がしいな、折川酒泉」
マコトは不躾な行動を取る酒泉を睨み付けるが、酒泉はそんな事は関係なしにずかずかとマコトに近づいていく
「人の話を────」
────はいこれ、万魔殿が風紀委員会に出したよく分からないクレームとよく分からない要望とよく分からない命令書!
「は?」
それとそちらで処理出来そうな書類とそちらの方がスムーズに行えそうな書類も置いときますねー
「………何のつもりだ」
あっ、あとこれも………ゲヘナ学園全体の施設点検や巡回の為の書類もお願いしまーす!
「質問に答えろ」
あ、イブキちゃん、飴ちゃんあげるからちょっと棗さんと一緒にあっちで遊んでてくれるかな~?
「うん!分かった!」
「……はぁ、あまり事を荒立てないでくださいね」
「おい、話を聞け!大体そんな物を我々がやるとでも────」
────アンタさぁ……断れる立場だと思ってんの?
「何……?」
声を低くしてマコトを威圧する酒泉、そんな酒泉に怯まずマコトも睨み返すが、酒泉はそんな事などお構い無しに喋りだす
今回の事件でさぁ……アリウススクワッドのとある方から色々と面白い情報を貰ったんですよねぇ……
その人の話によるとゲヘナのとある人物とその人が繋がっていたとか何とか
「キキキッ!所詮は証拠も何も無い戯言だ!」
証拠ならありますよ
「何っ……?」
偶然アリウススクワッドのリーダーである錠前サオリから情報を得る事が出来ましてねぇ………
どうやらアリウス分校は取引相手を爆弾で処理する事が出来なかった場合は録音データや隠しカメラの映像を利用してゲヘナの裏切り者を手駒にするつもりだったとか……
「馬鹿な……!」
そりゃあ一世一代の大勝負なんですから、念入りに準備するに決まってるでしょう?
……あと、これは余談なんですけどこの前の事件で偶然トリニティのトップとも縁が出来ましてね……ある程度アリウスとの面会も融通を利かせてもらえるんですよ、俺
「貴様……っ!私を脅しているのか……っ!」
いや?別に脅してないですよ?
「何だと……?」
俺はただ新たに得たアリウス関連の情報をゲヘナのトップである貴女に伝えに来ただけです
「…………」
一部の者達は「羽沼マコトが風紀委員会の誰かを殺す為にアリウスと手を組んだ」だとか、「羽沼マコトが調印式を破綻させる為の計画を立てた」だとか失礼な事を言っていますけど、俺はそんな事これっぽっちも思っていません!
……ですが噂というものは怖いですねぇ、もしもその下らない噂話が真実として捉えられてしまったら万魔殿という組織その物に多大な被害が出てしまいます
「………その程度、何の問題も───」
───もしそうなれば万魔殿のメンバー全員にも被害が及ぶでしょうね
「………っ!」
貴女の様に強い心を持つ者は簡単に耐えられるでしょう、でも自分以外が被害を受けるのを貴女は許容出来ますか?イブキさんの様な純粋な子が下らない政治争いに巻き込まれるのを許せますか?
「貴様ぁ……!」
おっと、そう睨まないでくださいよ!あくまでも可能性の話ですよ!
さっきも言いましたけど俺は羽沼さんの事を信じていますから!
「くっ………」
歯をギリッと鳴らしながら酒泉を睨み付けるマコト、しかし酒泉はわざとらしい笑顔で返してくる
………これまで風紀委員会と万魔殿は何度も争ってきました、でも元々は同じゲヘナのはずです
俺は羽沼さん達の事を助けたいんですよ!
「何を白々しい事を……!」
そんな事はないですよ………って言ってもいきなり信用出来ないのは当然ですよね
ただ、トップがいきなり居なくなるのは風紀委員会としても困るんですよ
「………」
まあ、これから少しずつ仲良くなっていけばいいですから
とりあえずその書類全部やっといてくださいね!
………これからもよろしくお願いしますね、羽沼さん?
あ、そうそう、因みに今回の件は全部俺個人の判断なんで
笑みを浮かべながらポンッとマコトの肩に手を置く酒泉、そのまま万魔殿を後にする
一人立ち尽くしたマコトにイロハが声をかける
「……ずいぶんとやられましたね、先輩」
「………」
「……先輩?」
「………して………い………」
「………はい?」
「今すぐ折川酒泉を籠絡してこい!イロハァァァァァ!!!」
「うるさ………」
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はぁ………後悔はしていないけど、棗さんやイブキさんには少し申し訳ないな……
さっきはあんな脅しをしたけど、勿論無関係な人間を巻き込んでまで事を荒立てるつもりはない
にしても俺の演技バレなくてよかったぁ………多分イブキさんの名前を出したのが効いたんだな………
……何か改めて罪悪感を感じてきたな……今度棗さんとイブキさんにスイーツ店のプリンでも持っていくか
「………あれ、酒泉?」
あ、空崎さん、お疲れ様です
「どうしてこんな所にいるの?………まさか、万魔殿に用が?」
まあそんな感じです、万魔殿の方で処理出来る仕事は全部向こうでやってもらおうかと思って書類を持っていったんですよ
「………素直に言うことを聞いてくれるとは思えないけど」
いえ、了承してくれましたよ?
「へ?」
エデン条約の時の風紀委員会の活躍に免じて特別にやってくれるみたいです
「……怪しい」
まあまあ、そんな事よりも空崎さんはどうしてここに?
「万魔殿絡みの書類が幾つか無くなっていたから何か知らないか話を聞こうと……」
ああ、それならちょうどさっき全部向こうに渡しましたよ
潔く受け入れてくれましたよ!
「………本当に?」
空崎さんがジト目で睨んでくる
「………まさか何かしたんじゃ───」
───いやいやいや!本当に何もしてないですよ!とにかく万魔殿絡みの仕事はもう無いんで風紀委員室に帰りましょうよ!
「そうね、ちょっと怪しいけど……そうしよっか」
ギュッ
……あの、空崎さん?どうして手を握る必要が?
「勝手に動き回らないようにするため」
俺は囚人か何かですか?
「囚人……手錠……そういうのも……」
……はい?
「何でもない、それよりも早く戻ろう」
あの、これじゃ歩きにくいです、ちょっと離してくれませんか?
おーい、ちょっとー?なんでより強く握るんですかー?なんで指を絡める必要があるんですかー?
聞こえてま……痛い痛い痛い痛い!そんな強く握らなくても逃げませんから!
ちょ──足早───
「ねぇ、美食研究会の起こした爆発事件の報告書、どうなった?」
被害額や各地への事情聴取、今後の対策など全て書き終えました
後は空崎さんが判子を押すだけです
「そう、ありがとう」
……あ、空崎さん、この前取っ捕まえた温泉開発部なんですけど、またやらかさないか暫く見張っていたところ、何やら怪しい動きが……
「怪しい動き?」
はい、最近ゲヘナ学園周辺の道路や近くの公園等を見回りながら地図に印をつけてまして……
「……今度一緒に直接問いただしに行く」
了解っす
「………あの、少しよろしいでしょうか」
いつも通り仕事をする風紀委員達、そんな中アコが恐る恐るヒナに話しかける
「なに?」
「ずっと気になっていたのですが───」
「───なぜ酒泉が委員長の隣に座っているのですか!?」
そう、酒泉はヒナの隣に椅子を置き、座っていた
よく見ると普段から酒泉が使用している机の上に置いてある道具も全て移動している
「大体何故他の人達も疑問に思わないのですか!明らかにおかしいですよ!ねえ、チナツ!イオリ!」
「えっと……ノーコメントでお願いします」
「私も………」
「んなっ………」
周りからの助けを得られないと判断したアコは酒泉にターゲットを変え、問い詰める
「酒泉!貴方も何故さりげなく座っているんですか!?」
いや、だって拒否っても無理やり椅子ごと移動させられたし……
「……アコ、これは仕方ない事なの」
「し、仕方ない……?」
「酒泉は目を離すとすぐに居なくなる………それにいつの間にか誰かと仲良くなるし……」
顔を少し不機嫌にしながらボソッと呟くヒナ、それを聞いたアコはキリッとしながら言い放つ
「委員長、実は私も目を離すとすぐに居なくなるんです」
「そう」
「私もよく色んな人といつの間にか仲良くなります」
「よかったじゃない」
「おのれ酒泉んんんんんんん!!!」
うわあ!?突然暴れるな!
酒泉の胸ぐらを掴みながらグラグラと揺らすアコ、ヒナはそんな彼女を真顔で見つめて言う
「アコ、仕事して」
「ごめんなさい」
「アコちゃん……流石に空気読もうよ……」
「あはは……今はそっとしておきましょう」
一瞬で元の席に戻るアコ、それを確認したヒナは隣の酒泉に小声で話しかける
「ねぇ酒泉………実は今日、自分のお弁当作って来るの忘れちゃって……」
まあ、ここ最近忙しかったですもんね、空崎さん
「えっと……だから……その……」
……その?
「その……一緒に……食堂に行かない……?」
お、いいっすね!最近気になるメニューあったんですよー
「……!そ、それじゃあ……いいの?」
はい、とりあえずパパッと仕事を終わらせますか!
「……………ありがとう」
「チクショウッッッ!!!!!」
「うわあ!?いきなり叫ばないでよアコちゃん!」