シャーレのオフィス、そこに設置されているソファに一人の生徒が座っている
その生徒は両手を組み、眼を閉じて静かに誰かを待っていた
それから暫くしてドアの開く音が聞こえ、そちらの方へと視線を向ける
「ごめん、遅くなってしまったね───酒泉」
そこには白い背広を、その内側に黒いシャツを着ている、大人でありながらどこか若々しさを感じさせる眼鏡をかけた男性が居た
その男性に「いえ、気にしないでください、先生」と、酒泉と呼ばれた生徒が一言入れると、早速本題に入ろうと姿勢を正した
お忙しい中時間を作って頂きありがとうございます、今日は直接お話したい事がありまして……
「……この前、電話で言ってた事だね?」
はい、俺の記憶について─────
─────この世界の未来についてです
あ、あとクッキー買ってきたんで摘まみながら話しません?
「じゃあ私はコーヒーを入れてくるよ、それともお茶がいい?」
コーヒーで、砂糖もお願いします
「角砂糖でいい?」
あざっす!
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「このクッキー、丁度いい甘さでコーヒーと結構合うね」
ゲヘナのあまり有名じゃない店のなんですけど、中々良いでしょ?
「……そういえば酒泉ってよく色んなお菓子とかスイーツとか買ってくるよね」
単純にケーキとかそういう甘いのが大好きなんですよ、ゲヘナにも〝放課後スイーツ部〟できないかなって思うレベルでね
「美食研究会は?」
あれはただのテロリストなんで
「……ちなみにスイーツ部があった場合、風紀委員会はどうするの?」
………めちゃくちゃ悩んだ末、風紀委員会を選びます
「あ、やっぱりそうなんだ」
一通り本題を話し終えた二人はソファにもたれて休憩している
雑談しながらクッキーを摘まむ二人、ある程度減ってきた所で手が止まる
「それにしても未来の記憶、か………アリウス関連の事件からして酒泉の言ってる事は本当なんだろうし、仮に証拠が無くても生徒の事は信じてあげたいけど……」
……まあ、信じられない………というより、あまり〝信じたくない〟ですよね
「まあ……ね」
だって俺の言うことをそのまま信じるなら、それはあの二人─────尾刃カンナさんや調月リオさんを疑うって事になりますからね
まだ会った事がないとしても、先生としては生徒の事は全員信じていたいですもんね
「ごめんね……」
大丈夫ですよ、むしろそんな先生だからこそ皆に好かれてるんですから
それに俺の知ってる未来から変わってるんだとしたら、俺の言ってる事なんてただ冤罪吹っ掛けてるだけですからね
ですから今のところは、俺の話は頭の片隅に入れておく程度でいいです
まあ、取り敢えず尾刃さんと調月さんの話は置いといて、一番の問題は……
「………色彩、そしてもう一人のシロコ、だね?」
酒泉が顔をしかめながら溜め息を吐く、その脳裏にはベアトリーチェの姿が浮かんでいた
あのおばさん………ベアトリーチェが余計な事をしてくれたお陰で〝色彩〟に此方の居場所が特定されました、更にはその騒ぎに乗じてカイザー……そして不知火カヤが暗躍し始めます
「酒泉の話だとカヤとカンナは繋がってるらしいけど……」
いえ、この事件に関しては尾刃さんは関係ないです、むしろ先生の事を助ける為に行動してました
色々あって自身の信念に基づいて行動するようになりますから
「ずいぶんと大雑把な説明だね………でも、良かったよ」
まあ、あくまで俺の知ってる未来の話ですが……
「……所で、カヤはどうして裏切るのかな?」
ああー……なんか超人になりたいらしいっすよ?
「超人?」
はい、超人
「………英雄願望的な?」
さあ?俺の記憶では「平和の為に」みたいな事言ってガッチガチに規則を縛ったりしてましたけど………支配欲でもあるんじゃないですか?
「………難しい事だらけだね」
SRT絡みの事件で忙しいのにすみません……
「気にしないでいいよ、生徒の為に働くのは当たり前の事だから。それに酒泉が抱えていた物を私にさらけ出してくれて嬉しかったよ」
先生……
「カイザーにアリスの暴走、そして色彩。今後に備えておかないとね」
そうですね、本当はこっちの世界の砂狼さんが拐われるのも阻止したいんですが………事件が起こる具体的な日が分からない以上どうしようも無いですね
一応、色彩が襲撃してくる〝大雑把な〟合図は分かるんですけど……
「そうだね……取り敢えずアリスの事を解決した後はアビドス辺りの事件を警戒しておくよ」
あとアリウススクワッドと聖園さんの事もよろしくお願いします、彼女達の力は絶対に必要になりますから
「任せて、ミカもアリウススクワッドの事もようやく落とし所が見えてきたんだ」
お、流石っすね!
「……そういえば酒泉はミカの面会には行かないの?」
聖園さんの?
「アリウススクワッドにはちょくちょく会いに行ってるって聞くけど、ミカの所には行かないのかなって思ってね」
いやぁ……あの人俺の事嫌いですし、会いに行っても不快な思いさせるだけでしょ
行った所でお互いに真正面から悪口言い合うだけっすよ
「………因みにだけど、私がミカの面会に行く度に、毎回酒泉に対する愚痴を聞くよ」
ほらね?
「………〝毎回〟だよ?」
それほど俺の事が嫌いなんでしょ
「………そういう事じゃないと思うんだけどなぁ」
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今日は本当にありがとうございました
「うん、事件とか関係なくてもいつでも遊びに来ていいからね」
シャーレを出て酒泉を見送る先生、酒泉は頭を下げた後自宅に戻ろうと歩き出すが────
…………あの、先生
────途中で足を止めて後ろを向き、先生に話しかける
「………?どうしたの?」
……その、さっきの話なんですけど、俺の知ってる展開通りになるとしたら調月さんは天童さん達と敵対する事になります
「……うん」
尾刃さんは最終的に自分の信念を貫き通す強さを取り戻せますが……調月さんはその辺は不安定なままなんです
「……………」
これから先、調月さんが〝計画〟を始めたら調月さんは天童さんにヒドイ事をいっぱいするでしょう、友達との仲を裂こうとしたり、周りの人達を力で押さえつけたり
…………でも、それは決して自己満足やただの暴力じゃないんです
調月さんには頼れる〝大人〟や選べる〝選択肢〟が無かっただけなんです…………アリウススクワッドの様に
「酒泉……」
俺は初めてアリウススクワッドに出会った時、彼女達の事を糾弾する事しかしませんでした
でも、直接アリウスの現状を見てようやく分かったんです、彼女達は確かに加害者です。でも、それと同時に被害者でもありました………そしてそれは調月さんも同じです
調月さんのキヴォトスを守りたい心は本物です、そしてその目的も間違っていません………ただ、少し手段が強引すぎたんです
綺麗事を貫き通せる力も、その為の手段もない、だから他人から恨まれてでも天童さんを犠牲にキヴォトスを救おうとしたんです…………良いか悪いかはともかく
ですから………その………何て言うか………お願いします────
────調月さんの事、助けてあげてください
「……うん、任せて。もしその時が来てしまったのなら全力で助けるよ」
………すいません、勝手なお願いばかりしてしまって、俺に出来ることがあれば何でも言ってください
「そうだね、その時はお願いするよ」
………あ、それとヴェリタスには───
「分かってる、〝謎の機械〟を見つけたら真っ先に私に連絡するように伝えておくよ………それと、他の誰にも教えないようにもね」
───はい、お願いします
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どれほど事前に対策した所で重要なイベントが必ず起きてしまう、そんな風にこの世界は出来ているのかもしれない
その証拠にアリウス自治区での戦いも結果的に何もベアトリーチェを回収され、更には色彩の接近も許してしまった
だとしたら仮に先生がヴェリタスから〝謎の機械〟を回収したとしても、なんやかんやあって天童さんが〝謎の機械〟に触れる事になるのかもしれない
………でも、過程は変えられる
原作ではアリウススクワッドは逃亡生活を送っていたが、この世界ではトリニティに捕まっている
……ただ、逆に言うと悪い方にも過程は変わる
秤アツコがベアトリーチェに捕らえられたのが原作より早まってしまった様に、バルバラがパワーアップした様に
……………駄目だ駄目だ!思考がどんどんマイナスな方向に向かっていく!
どうせ俺がミレニアムに出来る事なんてほとんどない、ならあとは先生を信じるだけだ
………よし、ここは気分転換にゲーセンでも行くか!
「ジーーー……レアキャラを発見しました!アリス、追跡します!」