廃墟の中で一人の女性が溜め息を吐く
彼女はシャーレとして日々問題解決に勤しむキヴォトスの先生である
……そんな彼女が縄で縛られ、行動を封じられている
「うーん……まずったかなぁ……」
何故このような事態になっているのか、それは数日前に遡る
その日、先生はヴァルキューレと協力して子ウサギ公園を占拠してデモを行っている生徒達を拘束した
そのデモ犯の部隊名はRABBIT小隊、SRT特殊学園の生徒達である…………とはいえ、そのSRT特殊学園もいずれ閉校してヴァルキューレの警備局に転校する予定なのだが
そして、彼女達のデモの目的はそのSRT特殊学園の閉校を取り消させることだった
〝意地でもここから動かないぞ〟と強い意志を表明し、子ウサギ公園で彼女達は戦い続け…………先程も述べたように先生とヴァルキューレに敗北した
だが、幸いにも彼女達の処分は制圧作戦に大きく貢献したシャーレが決める事となり、その身柄は何事もなくアッサリと解放された
そうしてすぐに自由の身となったRABBIT小隊は再び公園でデモ活動を行うことを決めたのだが………それから暫くしてとある問題が発生した
それは食料問題だ
まともな補給方法を持たず、かといって助けてくれる協力者もいないRABBIT小隊は空腹に悩まされる事となった
それを不憫に思った先生がRABBIT小隊に(最初は彼女達の警戒心やプライドからか断られていたが)食料を渡し、それ以降も自分達の力で食料を得られるようにする為にとある場所や集合時間が書かれたメモも一緒に渡した
メモに書かれていた場所は〝エンジェル24〟というシャーレの一階に存在するコンビニだった
〝自分が直接手渡した食料では彼女達は受け取ってくれないだろう〟と判断した先生は〝弁当の廃棄の手伝い〟という形で彼女達の食料問題を解決しようとした
先生の思惑通りRABBIT小隊はこれを受け入れ、その日から彼女達の食料問題は大幅に改善された
─────が、今度は別の問題が発生した
それは………以前からエンジェル24の廃棄弁当を当てにしていた一部の者達から怒りを買ってしまったことだ
RABBIT小隊が多くの食料を独占したことで自分達の分の食料が無くなってしまった彼等………〝所確幸〟という組織の者達は自分達の食料を取り戻そうと先生を人質に取ってRABBIT小隊と取引を行うことにした
その為に先生が一人になったところを狙い、そのまま麻酔で眠らせた
………ちなみにだが彼等はRABBIT小隊と違って正式に弁当の廃棄を依頼されている訳ではないため、逆恨みとまではいかなくとも見当違いな恨みではある
……………そして彼等の計画通り見事に拉致された先生は、たかが弁当の奪い合いの為だけに狙われてしまったことをまだ知らない
「うんしょ……っと!」
先生が両手を縛る縄をどうにか解こうとするが、ギッチギチに固定されているせいでどうにもならない
なんとか身を捩らせてズボンのポケットからスマホを落とし、後ろ手で操作して助けを求めようとする
通話ボタンを押して着信履歴が表示され、手っ取り早く一番上の人物に連絡しようとする
「…………っ」
だが、一番最後の通話相手の名前を見た瞬間、指がピタリと止まる
相手の名前は〝酒泉〟と表示されていた
折川酒泉………自分を助ける為に重傷を負い、その身体に痛々しい傷痕を残してしまった一人の少年
「酒泉……」
ポツリと名前を呟き、スマホを操作する指の動きを止める
再び彼を自分の為に戦わせる事への罪悪感に苛まれ、他の人物の連絡画面へと指を滑らせる
全ては調印式の時のような事件を二度と起こさない為に、これ以上酒泉を傷つけない為に
次に目についたのは最近出会ったばかりのRABBIT小隊・月雪ミヤコの名前
出会って間もなく〝私達は貴女のような大人が一番嫌いです〟とまで言ってのけた彼女達が助けてくれるとは思えなかったが、それでもと駄目元で連絡しようとし─────
「そこまでですっ!!!」
「………っ!」
─────ヘンテコな格好をしたロボットに止められた
「ふぅ、危なかった……まさかもう目を覚ますとは……あの麻酔ではあまり効果がありませんでしたか……」
「えっと……貴方はさっきの……」
「私の名はデカルト………所有せずとも確かな幸せを探す集い、通称〝所確幸〟のリーダーです!」
「そ、そうなんだ………それで?私を捕まえてどうするつもりなの?何が目的?」
フフン!と自慢気に自己紹介するデカルトに対し、自分を狙った理由を尋ねる先生
するとデカルトは突然表情を変えて怒り出した
「決まっているじゃないですか!私達の〝エデン〟を取り戻すんですよ!」
「エデン……?まさか………貴方はアリウス分校の関係者─────」
「あのウサ耳の少女達のせいで私達の貴重な食料が全て持っていかれてしまってるんですよっ!あのコンビニは………エンジェル24は私達にとっての楽園だったのに………!」
「─────あっ、エデンってそういうことね」
「私の仲間が貴女とウサ耳の少女達が仲良くしているのを目撃しました!貴女と彼女達が何かしらの深い関係であることは間違いないでしょう!」
「RABBIT小隊のこと?うーん………むしろ嫌われてるんだけどね」
「つまり!貴女を人質に取ればRABBIT小隊とやらと交渉することが可能だということです!」
「聞いてる?無視?」
勢いのまま自分の目的をペラペラと全て語ったデカルトは通話画面を開く前のスマホを奪い取り、そのまま履歴画面を調べる
「〝ミヤコ〟ですか………確か、仲間の情報によると弁当泥棒の少女の一人の名前でしたね」
「別に泥棒じゃないんだけどね……」
先生の言葉を無視して電話をかけるデカルト
暫くコール音が鳴ってから電話越しにミヤコの声が聞こえる
『……何の用ですか?私達は今、食事の準備で忙しいんですが』
「ああ、貴女がRABBIT小隊のリーダーですか?私達は真の幸せを追求する都市の求道者〝所有せずとも確かな幸せを探す集い〟………略して〝所確幸〟の────」
ピッ!という音と共に会話が途切れ、唖然とするデカルト
そんな彼に先生が気まずそうに話しかける
「き、切られた……?」
「えっと……詐欺と勘違いされた……とか?」
「こ、これだから真理を知らない凡人達は……!」
ワナワナと震えながらも再び電話をかけるデカルト
すると、今度はサキと呼ばれる少女の声が聞こえてきた
『……なんだ?ミヤコも言ってた通り、私達は忙しいんだが……』
「み、皆さん?どうやらイタズラ電話か何かだと誤解されてるようですが………貴女達の先生は捕らえました、こちらの要求に素直に応じなければ今から先生に残酷な仕打ちを────」
『好きにすれば?』
再びピッ!と音が鳴る
「………また切れた!?」
「うん、だろうね……」
「どういうことだ!?貴女は本当に先生なのか!?これっぽっちも心配されてないじゃないか!?」
あまりにも冷たすぎる生徒達の対応に思わず大声を上げてしまうデカルト
先生も最初からこの事が分かっていたのか、大して反応もせず苦笑するのみ
(嫌われてるのは分かってたけど、まさかこれ程とはね………いや、最初は皆こんな感じだったっけ?)
先生が思い浮かべるのはキヴォトスで出会ってきた少女達
アビドスのお昼寝少女だって最初は〝大人〟である自分のことを疑っていたし、トリニティのティーパーティーの一人とも敵対したことがある
各々の思惑が交差するこのキヴォトスで、疑われたり利用されそうになったりする事なんていくらでもあった
…………そして、命を狙われたことも
そう考えると嫌われる程度ならまだ優しい方なのかもしれない
(…………そういえば、酒泉は私がキヴォトスに来たばかりの時からずっと私のことを信じてくれてたな)
「くそっ!シャーレの先生を人質にしたというのに………これでは高級弁当が……!」
「……もう諦めない?」
無条件に信頼を寄せてくれた少年の事を考えながら、デカルトを止める言葉を吐く先生
目的を達成することが不可能だと分かったデカルトが一人で愚痴るのを眺めながら、先生は今後の流れについて考える
(あまり助けは期待してなかったけど、このまま捕まりっぱなしってのもマズイよね………〝ここに和牛ステーキ弁当が置いてある〟って伝えれば来てくれるかな?)
なんとかRABBIT小隊を説得しようと色々考えていると、何かを決意したデカルトが再び通話画面を開く
「こ、こうなったら他の者達と交渉して、彼女達を説得するように伝えるしか………まずは一番上の〝酒泉〟という名前から………!」
「────っ!?」
捕まっているのにも関わらず、ずっと余裕の態度だった先生
そんな彼女が初めて焦りの表情を見せる
「まっ………待って!その子だけは巻き込まないで!」
「……むっ?その反応……どうやらこの〝酒泉〟という人物は貴女にとって特別な存在のようですね!?ならば〝酒泉〟とやらにとっても貴女が特別な存在だという可能性も……!」
「本当に止めて!これ以上迷惑をかけたくないの!」
さっきまでと変わり必死に止めてくる先生、そんな彼女を見てこのチャンスを逃すまいとデカルトが酒泉に電話をかける
先生は必死に叫ぶが、デカルトの頭の中は既に弁当のことで頭がいっぱいになっている為、彼女の言葉を一切聞き入れない
そして〝もしもし〟という少年の声が聞こえると先生の表情が絶望したかのように変わる
『どうしたんですか、先生?確かRABBIT小隊の所に行ってたんじゃ………』
「ふっふっふっ………貴方が〝酒泉〟さんですか?先生の身柄は我々〝所確幸〟が預かりました!彼女を返してほしければ今すぐRABBIT小隊の説得を────」
『────OK、デカルトだな?』
「………えっ?あの、どうして私の名前を……」
『説得ってのは弁当の件か?今すぐRABBIT小隊と話し合ってくるから待ってろ………それと、先生には何もするなよ?』
「いや……え?な、なんか随分と物分かりが良いですね……?その、少しは疑ったり考え込んだりとか……」
『とにかくそっちの要求は全部呑むからそこで待ってろ………手土産は高級焼肉弁当でいいか?』
「な、なんか話が早すぎますが………まあ、此方の要求を呑んでくれるのならばそれで構いません!手土産の方も忘れずにお願いしますね!」
何の躊躇いもなく言う事に従ってきた電話越しの少年に困惑するも、目的を達成できたことに歓喜するデカルト
一方で先生は目を伏せて歯を食いしばる
「よ、よく分かりませんが……まあ、これで弁当の件は解決できたので良しとしましょう!後は彼がRABBIT小隊を説得してくるのを待つだけです!」
「……酒泉、私はまた……」
──────────
────────
──────
─────で?アンタの仲間は全員おねんねしてるけど………アンタ自身はどうすんだ?そのボロボロの身体でまだ立ち向かうか?デカルトさんよぉ?
「う、うぅ……!こ、こんな一人の少年に……!」
────言葉遣いには気をつけろよ?今際の際だぞ?
「ひっ……!」
─────たくっ……コンビニ弁当の為だけにくだらねえ真似しやがって……てか、RABBIT小隊のイベント潰してね?俺
「な、なんでここが………!」
─────あ?ああ……ミレニアムの優秀なハッカーさん達に頼んで特定してもらったんだよ、先生がピンチだって伝えたら皆喜んで協力してくれたぜ?
……お喋りは終わりだ、とりあえず気絶しとけオラァ!
「いきなりっ!!?」
数時間後、そこには壊滅状態の所確幸の姿が
デカルトに雇われたであろう傭兵や元より所確幸のメンバーであろう者達は全員倒れ伏し、デカルト自身もたった今気絶させられた
周囲に敵の気配がないことを確認すると、酒泉は急いで先生を縛っている縄をナイフで切った
─────っと……大丈夫ですか先生!遅れてすいませんでした!
「う、ううん………全然早かったし、むしろ謝りたいのは私の方だよ………ごめんね?また迷惑かけちゃって」
─────いえ、先生のサポートが俺の仕事なんで………っと、これでもう動けますよ
「ありがとう─────っ!?」
自由の身となった先生はゆっくりと立ち上がり、そのまま酒泉と共に廃墟から脱出しようとする
………が、拘束されていた状態でずっと地面に座らせられ続けた影響か、先生は歩きだした瞬間に足を挫いてしまう
倒れそうになる先生の身体を即座に酒泉が肩で支える
「きゃっ………」
────っ!大丈夫ですか、先生!
「うん、ちょっと挫いちゃっただけだから………っ!」
────もしかして……痛めました?
「大丈夫、外傷はないから……つぅ……」
────どうしようか………敵の増援が来るかもしれない可能性を考えると、早いとこ抜け出したいんだけど………この調子だと歩くのキツそうっすね
「わ、私は後から追いつくから……先に行ってて……」
────…………先生、一つ聞いてもいいですか?
「……うん?」
おんぶとお姫様抱っこ、どっちが良いですか?
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「……大丈夫?背中、重くない?」
余裕っす
「………本当にごめん、心配かけちゃって」
いえ、無事で何よりでしたよ
「今度、手伝ってくれたミレニアムの子達にもお礼を言わないとね………」
ですね………あっ、そういえば所確幸に関してはどうします?今度釘刺しに行きます?
「うーん……とりあえず私から話をつけに行くよ」
じゃあ、そん時は俺も一緒に行きます
「え?いや、私だけで十分────」
────そしてまた今回と同じ事件が起きる……と
「うっ……ごめんなさい……」
とにかく!絶対に俺に声かけてくださいね?もしかしたらまた先生が狙われるかもしれないんですから………
「うん………ねえ、酒泉」
なんですか?
「…………ごめんね、重い物をいっぱい背負わせちゃって」
……?いや、先生は別に重くないっすよ?むしろ羽のように軽いっていうか……
「そういう意味で言ったんじゃないけど………でも、ありがと」
よく分かんないっすけど………まあ、どういたしまして?
「………酒泉」
ん?
「背中、おっきいね」
そう……ですかね?