「初めまして……いえ、貴方にとっては違うかもしれないわね、でも一応自己紹介はしておきましょう」
「私は調月リオ、ミレニアムサイエンススクールの生徒会長を務めさせてもらってるわ」
「さて、貴方が私と直接会いたがっているとヒマリから聞いたのだけど………実はそろそろ私からも接触しようと思っていたところなの」
「内容は勿論〝名もなき神々の王女〟のことについてよ、貴方も彼女が……天童アリスが危険な存在だって事は理解しているでしょう?」
「このままではミレニアムどころかキヴォトス全体が危険に晒される事になるわ、………いえ、キヴォトスだけで済めばまだマシな方よ」
「私はこれまでにあらゆる手を尽くしてきたわ、全ては〝名もなき神々の王女〟のもたらす破滅の未来を回避する為に」
「貴方だって私と同じはず、何故なら貴方も最悪の未来を回避しようと足掻いてきたのだから」
「………ねえ、貴方なら理解してくれるでしょう?───」
「───折川酒泉」
あ、この紅茶旨いっすね、おかわり良いですか?
「………トキ」
「かしこまりました」
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調月さんとは自分でも驚く程あっさり会えた
ミレニアムで明星さんと会話した数日後に此方に連絡がかかってきた、非通知で
その電話で指定された場所に向かうと調月さんの専属メイド兼ボディーガードの飛鳥馬トキという女性が待っていた
彼女に案内されるままついていくと、ミレニアム学園のセミナー執務室にたどり着いた
そこでは調月さんが此方を鋭く見つめながら座っていた
飛鳥馬さんの「どうぞ」という言葉に甘えて此方も椅子に座り、それから少し経って今に至る
「………それで、私に話したい事って一体何かしら?」
………じゃあ単刀直入に言いますね
天童さんに手を出すのを止めていただきたい
「駄目よ」
あっハイ
───────完───────
………じゃなくて、即答すぎません?
「当然よ、だって彼女は遥か昔の記録に存在するオーパーツ───」
───世界を終焉に導く存在、ですよね?
「………あら、意外ね、否定してくると思っていたのだけど」
俺自身は天童さんのことは人間だと思っていますし、優しい人だとも思ってますけど………
でもそれとこれとは話が別です、天童さんが危険な物を抱えている事実に変わりはないですからね
「そう、それじゃあ───」
───けど、だからといって一方的に事を進めるのはどうかと思いますよ?
「じゃあどうするの?………時間がないのは貴方も知っているはずよ」
……何とか暴走しない方法を
「そんな方法が都合良くあるのかしら?」
………やってみなければ分かりませんよ?
「その〝やってみる時間〟が無いわ」
さっきも言いましたけど俺は天童さんのことは人間だと思ってます、人間を一方的に殺すのはどうかと思いますよ?
「彼女は兵器よ、世界を滅ぼす力を持つ最悪のね」
………もしその世界を滅ぼす力がこの先必要になるって言ったら信じてくれます?
「貴方が彼女の力を個人的に欲しているだけの可能性だってあるでしょう?」
………
「だから貴方には〝記憶〟だけ貸してもらって後は事が済むまで私の下に居てほしいの、そうすれば貴方は余計な行動を取れないし私も貴方を疑わなくて済む」
別に〝記憶〟については良いんですけどねぇ……
「……天童アリスに危害を加えない事を約束しない限りは手を貸さない、と?」
調月さんは俺の方を見ると聞き分けの悪い子供を見る様な視線を向けてくる
少しだけ溜め息を吐いた後、コーヒーを一口飲んでから語りだす
「理解出来ないわね………何故そこまで彼女に拘るのかしら、彼女一人の犠牲でキヴォトスが救われるのよ?」
……だから、それはさっきも言った様に────
「────天童アリスの力が必要になるから?だとすれば尚更貴方が私に知識を渡せば良いだけの話よ」
……俺の知識の中に天童さん無しで未来の脅威に対抗する術はありません
「それこそ、先程貴方が言っていた〝やってみなければ分からない〟じゃないかしら?」
っ………そう、ですね………何も反論出来ません
「大を救うために小を切り捨てるのは当然のことでしょう」
………
「………酒泉、貴方はトロッコ問題を知っているかしら?」
二つに別れている線路の上で作業中の人達がいて、その奥からトロッコが迫ってきている
片方の線路には一人だけ、もう片方には五人が、そして貴方の目の前にはトロッコの進路を変えるレバーが
さて、どっちの線路に繋げる?
一人を助けるか複数人を助けるか……みたいな問題ですよね?
「知っているなら話は早いわね、貴方は一人と大勢の人間、どちらを助ける?」
………一人の方を切り捨てます
「…………『大勢を助ける』ではなく『一人を切り捨てる』という答え方をする辺り、貴方も私と同じ様な思考みたいね」
……
「そう、これは誰を救うかだとか誰を護るかだとかそんな綺麗な話では無いわ。結局のところ、どちらを見捨てるかなの」
……でも、それはあくまで全員が他人だった場合の話です
「………」
もし線路にいる一人が俺の知人だったら俺は大勢の他人を切り捨てます、全く知らない人間から恨まれようが関係ないですから
「……その一人が天童アリスだと?」
……それに、俺達のトロッコ問題は二択じゃないと思いますよ?
「……どういう事かしら」
怪訝な目で睨んでくる調月さんを正面から見つめ返す
「彼女はいずれ必ず暴走を引き起こすわ、結局は彼女を破壊するか我々が滅ぼされるかの二択しかないのよ」
だったら両方選んじゃいましょうよ
「………それが出来ないからこうして────」
────それが出来ないのは調月さんが誰も信じないからでは?
「……なんですって?」
そりゃ、俺達だけじゃ取れる選択肢なんて一つぐらいしかないですけど、他の人達に頼ればもっと選択肢が増えるんじゃないですか?
例えば調月さんと明星さんが協力して天童さんの暴走の原因を突き止めるとか
「簡単に言わないで、それが分かれば苦労はしない」
……それが簡単なんですよ
「………はい?」
だって俺は未来の記憶があるから
「………」
ようするに調月さん次第なんですよ、この問題をどう解決するかなんて
でも例え俺がその記憶を話したところで、調月さんはさっきみたいに信じてくれないでしょ?
………いや、未来の事については信じてるけど俺が悪用しないかが信じられないって感じですね
「ええ、貴方には怪しい繋がりが多すぎる、権力者達と縁を深めて何をするつもりなのかしら?」
全部意図してやった訳じゃないんですけどねぇ……
本来ならゲヘナの問題にだけ介入して終わるつもりでしたし………まあ、強いて言うなら俺の浅はかな考えが悪かったってところですね
「つまり偶然だと?」
………まあ、これについては調月さんじゃなくても信じられませんよね
「当然よ」
……なら一つ提案があります
「……提案?」
何を今更、といった様な表情でピクリと眉を動かす
「………いいでしょう、取り敢えず内容を聞かせてちょうだい」
はい…………被害が出ない場所で、一度天童さんを暴走させませんか?
「……それは何の為に?」
そりゃ、調月さんに見せる為ですよ………天童さんの中にいる存在を
「中にいる存在………?」
一度天童さんの中の存在を見てもらって、その上で本当に対策は無いのか考えるんですよ
本当に壊すしかないのか、その中にいる存在と手を取り合う事は出来ないのかを
俺が何を言ったところで無駄なら、直接見てもらった方が早いでしょ
………まあ、この案は天童さんの了承がないと出来ないけど
「………いいでしょう、彼女の危険性を改めて確認出来たら貴方も意見が変わるかもしれないでしょうし」
じゃあ……
「ただし、もし最終的に彼女の危険性を抑える方法が見つからなかった場合は私が彼女を─────」
─────いえ、俺が天童さんを破壊します
「………なんですって?」
自分でも都合の良い事ばかり言ってるのは自覚してるんで、それぐらいの事は俺がやりますよ
ゲヘナ学園を退学して、全ての組織の生徒や先生と繋がりを完全に絶って、誰の責任でもない完全に俺個人の意思で破壊します
「………」
調月さん、俺は別にあんたに「俺を信じてくれ」なんて言葉を吐くつもりはないです
………でも、せめて俺の事を〝共犯者〟にはしてくれませんか?
「貴方は………」
調月さんは何かを言いかけたがすぐに口を閉ざす。暫くそのままだったが、意を決した様に口を開く
「……ならそれだけは〝頼らせて〟もらうわ」
礼を言おうとしたが、「ただし」と続けられる
「貴方の情が邪魔して天童アリスを破壊する事が出来なかった場合は私がやるわ」
……分かりました
「………それよりも良いのかしら?勝手にこんな約束をして」
勿論天童さんが断ればやりませんよ…………それにどの道、天童さんがこの試練を乗り越えないと天童さんも俺もラスボスに辿り着けずに死にますし
「……そう」
じゃあ今日のところはこの辺で…………あ、最後に少しだけ
「何かしら」
………俺は調月さんの事、間違ってないと思います
「………え?」
ただ俺にとっての〝正解〟が別にあるだけで、調月さんの行動もキヴォトスを救う為の立派なものだと思いますよ
俺も調月さんも未来を変える為に戦ってきました………でも、ある程度未来の知識を持ってる俺よりも手探りで答えを探してた調月さんの方がよっぽど大変でしたでしょう
「………」
少し前の会話で「貴方なら理解してくれるでしょう?」って問いかけてきましたよね…………ええ、〝理解〟なら出来ます
………ただ〝納得〟する訳にはいかないんですよ
「……残念ね、ようやく私の事を理解してくれる人が現れたと思ったのに」
………天童さんには俺から説明しておきます、今日はお忙しい中お時間を作っていただいてありがとうございました
「……本当に残念」
荷物を全て持ち、椅子から立ち上がる
「トキ、彼を送って」
「……かしこまりました」
「……どうかしたの?」
「別に存在を忘れられていた事に対して拗ねている訳ではありませんので、どうかお気になさらないでください」
「………」
……そういえば居たわ