「実験内容を説明します、全員が所定の位置についた瞬間から実験開始です」
「まず最初にアリスにはこのディスプレイに映っている機械………〝不可解な軍隊〟と呼称するこの機械に触れてもらいます」
「情報によればその瞬間からアリスの暴走が始まり、更にはアリスの元に集まるかの様に〝不可解な軍隊〟が襲撃してきます」
「その〝不可解な軍隊〟に関しては破壊してもらって構いません、ですがその時点ではまだ暴走状態のアリスを止めはしません」
「暫く戦闘を続けてください、その間に私とリオでデータを取ります」
「そのデータを基に暴走状態のアリスの思考プログラムや行動パターン、人格データの観測、………そして暴走前と暴走後の全内部データの比較を行います」
「下手に相手を傷付けずに戦闘を続けるなど至難の技だと思いますが……ですが、この場にいる皆さんの実力は私が一番理解しています」
「貴女方なら必ずこの作戦を成し遂げられると信じています、そして何より………」
「ミレニアムが誇る超天才清楚系病弱美少女ハッカーのこの私がいる以上、失敗はありえません!」
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「先生、酒泉とリオは?」
「さっき連絡が来たけどほんの少しだけ遅れるみたい」
「そうですか……」
アリスを意図的に暴走させる実験、それは二つのチームの援護で成り立つ
「チーちゃん、そちらはどうですか?」
「特に問題ないよ、ヒマリ」
「こちらも特に異常ありません」
「全部良好だね」
「準備オッケー……あ、やっぱ待って!ペイント弾の確認だけするから!」
データ解析の担当を務めるのはミレニアムの非公認ハッカー集団・《ヴェリタス》
部長である明星ヒマリを筆頭に副部長の各務チヒロ、部員の小塗マキ、音瀬コタマ、小鈎ハレが所属している
……とはいえ、現在ヒマリはリオの要請で《特異現象捜査部》の部長を務めているが
「そちらの方はどうですか?」
「……ああ、問題ねーよ」
「何だかドキドキしちゃうね~!」
「アスナ先輩……」
「あまり油断しすぎないでくださいね?」
戦闘の担当を務めるのはミレニアムのエージェント集団・《Cleaning&Clearing》
C&Cと呼ばれる彼女達はリーダーである美甘ネルを筆頭に一之瀬アスナ、角楯カリン、室笠アカネの四人が所属している
……実はこの四人だけではなく正体不明の幻の五人目が存在するのだが、その人物は調月リオと共に行動している飛鳥馬トキだ
「………アリス、本当に大丈夫ですか?」
「はい!アリス頑張ります!」
アリスを気遣う様に話しかけるヒマリ、しかしアリスは臆するどころかむしろ元気に言い放つ
「それにしても私達が発見したあの変な機械がアリスに関係していたなんてね!」
「アリスの正体にも驚きましたけど……まさかリオ会長があんな事を考えていたとは」
「まあ、実験を成功させればいいだけだから」
「簡単に言ってくれるね………」
着々と準備を進めるヴェリタス、しかしその一方でC&Cのリーダー、ネルは誰かを待っていた
「おいヒマリ、リオとその部下ってのはいつ来るんだ?」
「正確に言うと部下ではないのですが……多分そろそろ到着する頃でしょう」
「そうか……ちょっと問い詰めたい事があってな、そいつが来たら─────っと、噂をすればってやつか?」
会話の途中で視線をヒマリの斜め後ろに向けるネル、その先からは二つの人影が近づいてきた
「……待たせてしまって申し訳ないわ、少しスケジュールが遅れてしまったの」
ホントすいません……
「社長出勤ですか……随分な御身分ですね、リオ?」
「まあまあ落ち着いてヒマリ、リオも忙しい身だから、ね?」
いやマジでごめんなさい、土下座でいいですか?
「いえ、酒泉に言った訳ではなくてですね………ぐぬぬ……酒泉を盾にするとは!汚いですよリオ!」
「別にそんなつもりはないわ」
「ちょっとした冗談じゃないですか、そんな真顔で返さないでください」
えっと……とりあえず土下座する前に有り金全部出した方が良いですかね……?
「酒泉もいつまで勘違いしてるんですか!?」
へ、へへ……あ、肩でも揉みましょうか?
「酒泉、小物臭いよ……」
「……おい、ちょっといいか?」
……ん?俺っすか?
何やら言い合う四人の流れを無視してネルが酒泉に話しかける
「ああ、お前が折川酒泉か?」
はい、そうですけど……
「………へぇ?じゃあつまり───」
「───てめぇがあのチビを直接ぶっ殺すっつった奴か」
その瞬間、激しい殺気が酒泉を襲う
何事かと思った周りの者達も作業を止め、酒泉とネルの方に注目を集める
「ネル、酒泉は別にアリスの事を恐れてるから壊そうとしてる訳じゃ───」
酒泉を庇う様に立つ先生、しかしネルは先生に視線を向けず、その後ろにいる酒泉を睨み付ける
「───わりぃけど先生、あたしはそいつと直接話がしてぇんだ」
……大丈夫ですよ、先生
「……分かった」
そう言うと酒泉の前からずれる先生、そして二人は対面した
「さてと……さっきあたしが言った事に間違いねえんだな?」
はい、確かに俺は「暴走を止める手段が無かったら俺が天童さんを殺す」と、そう宣言しました
そこに何の間違いもありません
「それは本気か?」
はい、本気です
「なら────あたしの眼を視てもう一度言ってみろ」
ネルの殺気が更に強まる
周りが冷や汗を掻く中、酒泉はネルの眼を真っ直ぐ見つめて再び宣言する
暴走を制御する手段は全力で探します………でも、もしそれが最後まで見つけられなかったら俺が天童さんを殺します
例えC&Cや先生が立ちはだかろうと────絶対に成し遂げます
「………覚悟は出来てんだろうなぁ?」
はい
「そうか………よく言ったな」
はい………えっ?
突然殺気を収めたネルに困惑する酒泉、それも当然だろう
酒泉本人は何を言われようと何をされようと全て受け止めるつもりでいたのだから
「何呆けてんだよ、さっさと準備しろよ」
………良いんですか?
「……あたしが確認したかったのはお前に覚悟があるかどうかだけだ、もしお前が中途半端な気持ちであのチビを傷つけようとしてたんなら容赦なくお前の事をぶっ飛ばしてただろうよ」
……
「事情は先生から聞いてる、お前はお前なりにそいつを………リオを説得しようとしたんだろ?そしてリオの説得は出来なかったものの妥協案を通すことには成功した、そのお陰でチビが傷つけられる前にこうして色々試す事ができてんだ」
……ありがとうございます
「ああ……だがなリオ、気に入らねぇのはてめぇの方だ」
「………」
「てめぇは何の躊躇も無く最初からあのチビに犠牲を強いるつもりだった、それが気に入らねぇ」
「別に気に入られなくても構わないわ」
「……本当にあいつを犠牲にするしか方法が無かったのかよ」
「それを今から考えようと………」
「────そうじゃねえ、誰かに言われる前に他の方法を考えようとしなかったのかって聞いてるんだよ」
「………勿論他の方法も考えたわ、その結果が天童アリスを犠牲にした方が確実だし効率的だと判断したまでよ」
「………ああそうかよ、やっぱりてめぇは────」
「喧嘩はいけませんっ!」
一触即発の空気を変えるようにアリスがリオとネルの間に割り込んでくる
頬を膨らませながら怒るアリスに毒気を抜かれてしまう
「アリス達は仲間です!パーティーメンバー同士の喧嘩はアリスが許しません!」
「お前なぁ……」
「……私は貴女の仲間になった覚えはないわ」
「一緒に戦ってくれるのなら仲間です!」
「貴女は勇者にでもなったつもりなのかしら?だとしたらそれは勘違いよ、貴女は世界を滅ぼす力を持つ魔王よ……アリス」
「はい!ですからアリスは魔王の力を持つ真の勇者を目指します!」
「……そんな事は不可能よ」
「そんな事ありません!だって酒泉が教えてくれました、魔王の中にも優しい人達がいることを!」
「へえ……やっぱりお前なりに何とかしようとしてたんだな、チビのこと」
結局具体的なことは何もできませんでしたけどね
「……口でなら何とでも言えるわ」
「はい!ですからアリスはリオ先輩に証明します!」
「……証明?」
「アリス、アリスの中のもう一人の自分とも仲間になって世界を救います!そしたらリオ先輩も認めてくれますよね?」
「……そう、なら期待しないで待っておくわ」
「任せてください!アリス、リオ先輩も仲間にします!」
リオも作戦の準備をしようとアリスに背を向けて歩き出す、そして酒泉もその後をついていく
「………酒泉、貴方は天童アリスを信じているのかしら?」
はい、信じています……といっても俺は未来を知っているから信じることが出来るんですけどね
何も知らない状態でしたら多分俺も調月さんと同じ様に懸念していたと思いますよ
「……私は自分が正しいと思った道を突き進むだけよ、例え周りに〝悪〟と断じられようとも」
キヴォトスを救いたいって願いが〝悪〟なわけないじゃないですか
「元々貴方の事を危険視していた相手の擁護をするなんて………貴方はそれでいいの?少し考えが甘いんじゃないかしら」
大丈夫ですよ、調月さん個人の目的の為に俺や天童さん達と敵対しようとした訳じゃないってちゃんと理解してるんで
「………そう」
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先生、ゲーム開発部は?
「大丈夫、ヴェリタスに謎の機械を見つけても誰にも教えないように念入りに伝えておいたから」
「勿論誰にも言ってないよー!実物も目につかない様な場所にずっと隠しておいたからね!」
なら安心ですね、才羽さん……姉の方の才羽さんがいればゲーム開発部のメンタル面は大丈夫そうですからね
「モモイの知り合いなの?」
いや?一度も会ったことないですよ
「じゃあなんで………」
「えっと……酒泉はちょっと訳ありでね、あまり詮索しないであげると有難いな」
まあそういう事なんで……
「どういうこと?………まあ、いいけど」
「……さて、雑談も程々にしてそろそろ始めましょうか」
「そうだね……部長、もういい?」
「ええC&Cの面々も所定の位置につきましたし、早速実験スタートといきましょうか………聞こえますか、アリス」
『はい!聞こえています!』
通信機越しにアリスに話しかけるヒマリ、そのままモニターでアリスの様子を確認しながら指示を出す
「それでは……アリスから数メートル離れた所に丸い機械が置いてあるのが見えますよね、それにゆっくりと触れてください」
『それだけでいいんですか?』
「ええ、その後は私達で何とかしますので……信じてくれますか?アリス」
『当然です!』
「ふふっ……ではお願いしますね」
『はい!アリス、対象に接近します!』
アリスは地面に置かれている機械まで接近すると、その機械に向けてゆっくりと手を伸ばす
そして指先が触れた瞬間─────
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(あ………れ………?)
アリスの意識が突然揺れ出す
(アリスは………この機械を知って………)
上手く思考を纏められない
《私の………》
(声が………聞こえ………)
そのままゆっくりと沈んでいく
《私の大切な………》
「………起動開始」
「……コードネーム《AL-1S》起動完了」
実は内心ビビってた酒泉君