………不知火さん
「ま、待ってください!今回は本当に何もやってませんよ!!?カイザーとはもう手を組んでませんしカンナさんやFOX小隊だって貴方に解放するように脅された日から一度も再接触してませんし先生を狙うよう誰かに命令した訳でもありませんし────」
いや、今日来たのは別の用件ですけど………てか〝今回は〟ってなんですか?
別の日に何かやらかそうとしてたんですか?
「えっ!?い、いえ……それは言い間違いというか言葉の綾というか……」
ピンク髪の少女が目を泳がせてアホ毛をピコピコさせながら焦っている、それどうなってんの?
……この人、人を騙す演技が上手いけど一度本性がバレたら一気に素を出して言い訳してくるんだよな
カルバノグ二章で悪事がバレた時の小物感満載な命乞いムーブを思い出すなぁ……
「そ、それで?貴方の用件とはなんですか?」
ほら、例の調査ですよ
「調査………ああ、アリウス絡みですか。貴方に言われた通り、トリニティやその付近の過去の地形図は一通り調べておきましたよ……ほら」
不知火さんは面倒そうにデスクの中からUSBメモリを取り出し、そのまま雑に手渡してくる
この中に……俺の求めてるデータが……
「貴方の言う〝カタコンベ〟の居場所は見つかりませんでしたけど、鼠が隠れるのに丁度良さそうな廃施設や地下道などの情報は大体そのUSBに入れておきましたので…………全く、何故私がトリニティに頭を下げなければいけないんですか!」
いやー流石は超人っすね!俺ならもっと時間が掛かってたはずなのに、もう目星を付けるなんて!
「……ま、まあ?私は他の凡人共とは違いますから?この程度の仕事でしたらいくらでも引き受けますけど?」
不知火さんのアホ毛が今度は嬉しそうに揺れる
だからどうなってんだよそれ………これこそキヴォトスで一番の神秘だろ
「……と、とにかく!貴方に頼まれていたことは全てやっておきましたから!」
ありがとうございま────あ、そういえばまだ聞きたいことあるんだった
「ま、まだ頼み事をするつもりですか……」
いや、そういう訳じゃないですけど………FOX小隊が解放されたのにも関わらず、未だにRABBIT小隊と合流しようとしないのはどうしてかなーって
「さあ………何も言わず姿を消したことに対して負い目でもあるんじゃないですか?」
ああ、そういう事か……なんか七度さんらしいな
話によると不知火さんから提供された訓練施設も使っていないみたいだけど………それとかも〝後輩が野宿しているのに自分達だけが楽をするのは申し訳ない〟とかそんな感じの理由だろうな
………普通に謝ってから一緒に暮らせば?って思うんだけど、七度さん達がそう決めたんなら余計な口は出さないようにしておこう
「はあ……貴方と関わってからロクな事が起きませんね、弱みを握られますし戦力は削がれますし使いっぱしりにされますし……」
なんか不知火さんに睨まれてるけどその辺は自業自得なので恨まないでほしい
他人を利用しようとしたんだから自分が利用されたくらいで文句を言わないでくれ
「……で?私はあと何回タダ働きしたら解放してもらえるんですか?」
ん?ああ、別にこれ以上頼み事をするつもりはありませんよ?
「…………はい?」
もう望む物は手に入りましたし、何か悪巧みさえしなければ後は自由にしても良いですよ
「……意外ですね、もっと絞り取られると思っていたのですが」
不知火さんが目を丸くしながら呟く
失礼だな……俺はそんな鬼畜じゃないぞ、脅すにしても必要最低限の物しか要求しない
今回の場合はアリウスの出現地点、その候補さえ分かれば後は自分で探すさ
因みにだが調印式の事件の後、こっそり白洲さんに連絡を取ってアリウス自治区に繋がっているであろうカタコンベの居場所を教えてもらった事があるのだが、そこには………………何もありませんでした、はい
これに関してはベアトリーチェが何らかの小細工をしたのだろうと考えている
原作でも不思議な力によってカタコンベ内を迷路みたいにしていたしな
………え?カタコンベを見つけたらアリウス自治区に攻め込むのかって?それは………時と場合によるな
もし秤アツコが捕まっていたらベアトリーチェが色彩に触れる前に救出しに行かないといけないし、それ以外なら………どうしよっか
その場合は先生に相談だな……うん
まあ………とりあえず不知火さんのお陰である程度調査が楽になったし、後はそれらしい場所を探して小型の人感センサーとカメラを仕掛けるだけだな
もしどっかの建物から外に出てくるアリウス生を発見することが出来れば、それを辿ってカタコンベを発見できるかもしれない
カタコンベ内の迷路の正解ルートは分からないだろうが、それでも秤アツコを連行しているところを襲撃してアリウス自治区に行かずとも救出できるかもしれない
これがIQ53万の俺の脳内CPUがハジき出した結論だ
有能酒泉君ですまない……
「なんかムカつく顔してますね………どうせ下らないことでも考えてるんでしょうけど」
うわっ、あの不知火さんにムカつく顔って言われた……
「はあ!?私の顔がムカつくと!?」
超人に相応しい美少女フェイスですよー
「……そんな当たり前の事実を言われたところで嬉しくも何ともないですけど?」
チョッッッッッロ
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──────
さて……貰うもん貰ったし、後はいつ人感センサーとか設置しに行くかだけど……
んー……今週の土曜日とかでいっかなー、どうせ暇だし
一応、その場で出会した際に戦闘になることも想定して万全に準備してくか
「そうか、それで?人手は足りるのか?」
え?
「色んな所を回るんだろう?それなら手分けした方が効率が良いだろう?」
まあ、そうですけど………でも、人手って言われてもなー
先生にはあんま迷惑掛けたくないけど、かといってアリウス関連のことを気軽に頼める人なんて………
「ならば私達の出番だな」
んー………ただでさえ自分達のことで大変なはずなのに、七度さん達に頼むのも───────待って、俺今なんて言った?
………七度さん!?
「やっと気づいたか……久しぶりだな、酒泉」
な、なんでこんな所に………?
「不知火防衛室長に話があってな………私達が彼女に提供された訓練施設を代わりにRABBIT小隊の皆に譲ってもらえないか頼みにきたんだ」
あ、そうなんですか………
「それで?いつ行くんだ?私も手を貸そう」
………えっと、なんで協力してくれるんですか?SRTの問題とは完全に関係ないことですけど……
「………?何を言っているんだ?私は酒泉の〝武器〟なのだから酒泉と共に行動するのは当然のことだろう?」
………ん?
「………何かおかしな事を言ったか?」
……???
「………?」
??????
「???」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やっほー」
「……あっ、先生」
「どう?元気?何か困ってる事とかない?」
朝食の準備を進めるRABBIT小隊の前に先生が現れる
自身の嫌う大人と朝っぱらから顔を合わせてしまった事によって月雪ミヤコは不機嫌そうな表情に─────変わることなく、笑顔で出迎える
「あれ?また来たの?昨日も朝から来てなかったー?」
「シャーレってのは暇なのか?」
「いやいや、そんなことはないよ。ただ皆が心配で………ね?」
「そ、そうでしたか……気に掛けて頂いてありがとうございます……」
他の三人も誰も先生を拒絶する事なく、全員が平然と受け入れる
………先生がこれ程の信頼を勝ち得るまで様々な事があった
ドラム缶風呂を作る為に共に資材を集めに行ったり大雨によって崩壊したキャンプ地を共に直したりと、彼女達の生活の基盤が整うまでに色んな体験をしてきた
その中で先生がRABBIT小隊に見せてきた優しさは彼女達の警戒心を和らげるのに十分だった
「おっ?今日は唐揚げ弁当?良い物入ってるね~?」
「はい、これも全て先生の…………あの」
笑顔で感謝の言葉を伝えようとしたミヤコが途中で口を止め、次には申し訳なさそうな表情で口を開いた
「ん?どうしたの?ミヤコ」
「その………今まで失礼な態度を取ってきてしまい、申し訳ありませんでした」
「ああ、そんなこと?私は何も気にしてないのに……」
「ですが……あの時私達は先生のことを見捨ててしまって……」
〝あの時〟と言われて思い浮かべるのは所確幸に捕まった時のこと
あの後デカルトとの話し合いによって今後は先生やRABBIT小隊に危害を加えないことを約束した為、これ以上彼等と敵対することはもうないだろう
………そう、あくまで話し合いである
決して後ろで殺気を放っている酒泉にビビって頷いた訳ではない
「最悪の場合、先生が怪我していたかもしれないのに……恩を返すどころか私達は……」
「いやいやいや!さっきも言ったけど私は本当に気にしてないから!それにあの時はまだお互いの間に信頼関係が出来てなかったし仕方無いよ!」
「でも……」
「それに、元はと言えばちゃんと周囲を警戒せずに呑気に出歩いていた私が────」
(そうだ、お前がまた酒泉を戦わせたんだ)
「──────っ」
「……先生?」
「っ!?い、いや………とにかくこの話はここでおしまい!」
咄嗟に頭の中に響いた何者かの声を振り払い、心配そうに覗き込んでくるミヤコの頭を撫でる
ミヤコはそれを拒むことなく、視線を逸らしながらも先生の手を受け入れた
「ミヤコー、気持ち良さそうに撫でられてるところ悪いんだけどさー………この後はどうすんの?今日中に弾薬問題解決したいんでしょ?」
「………別に気持ち良さそうにはしてません、勝手に決めつけないでください」
「……弾薬問題?」
モエの言葉が引っ掛かった先生がそのことについて問いかけると、モエは溜め息を吐いて面倒そうに語りだした
「ほら、この前の大雨で物資の大半が駄目になっちゃったでしょ?その中に爆薬とか戦闘に必要な物もいっぱいあってさぁ……」
「それでどうにか新しく武器を揃えられないか考えていたんだ」
「さ、最近この辺りも物騒ですし………」
「……物騒?」
「あれ?先生知らないの?この辺りで放浪者達とカイザーグループの人間の間で一悶着あったこと」
カイザーという名前を聞いてアビドス関連の嫌な思い出が蘇ってしまう先生
そんな彼女の様子に気づきつつもモエが話を続ける
「なんかねーこの辺の土地全部〝子ウサギタウン〟ってところに変えちゃおー!みたいな計画があったらしいよ?………最近までは」
「で、でも………それってカイザーだけじゃなくて他の企業と共同の計画だったらしいんですけど………突然協力相手が計画を降りちゃったみたいなんです」
「〝住民の反対を受け入れたから〟とか〝両企業が何者かに脅されたから〟とか様々な噂が流されていますが………結局、真相は不明です」
「……で、膨大な利益を前にして突然餌をお預けされたカイザーの一部強硬派達が自分達だけでも無理やり計画を進めようとしたんだって」
「……それってさ、その放浪者の人達とかはどうなるの?」
「当然無理やり立ち退かされそうになったよ………まあ、そこはヴァルキューレがどうにかしたらしいけどね」
「カイザーの連中が暴れまわっていたところをあの公安局長が現場に出て助けたんだってー」
「カンナが………そっか、それなら良かったよ」
「それで、まあ………責任を追及されたカイザーはいつも通りトカゲの尻尾をぶった切ったらしいよ?そろそろ会社周りが尾のないトカゲだらけになるんじゃない?」
最初は心配そうな表情をしていた先生だったが、事件が解決済みである事を知ると安心したように笑った
しかし、そうなると次は新たなる疑問が浮かんでくる
「でも………カイザーとそのパートナーを脅せるほどの情報を持った組織ってどこなんだろう?」
「さあ?所詮は噂の一つにすぎないし、企業間の飲み会で喧嘩が発生したとか案外そんなくだらない理由かもよ?」
「流石にそれは理由が子供っぽすぎると思うけど…………あとさ、もう一つ聞いてもいい?」
「ん?なにー?」
「モエってさ、どうしてそんなカイザーの事情に詳しいの?」
「あっ、それ……私も気になってました……」
「私も……」
「そもそも今の話は全てモエから聞いた話ですからね……」
「……い、いや………何も変なことはしてないよ?ちょっとした好奇心からカイザーグループにハッキングして情報を探ってなんかいないし、それをネタに普段からお世話になっているカイザーグループの武器屋さんと美味しい取引をした訳でもないよ?」
「「「「…………」」」」