そんな事はどうでもいいと、電話越しで啖呵を切るモモイ
彼女の言葉を聞いた酒泉は少し微笑むが、すぐに相手を挑発するように捲し立てる
───へえ?世界の危機をどうでもいい事扱いなんて中々度胸あるな?
『当たり前じゃん!さっきからごちゃごちゃと難しい話してるけど、アリスが魔王だろうがなんだろうが私にはどうでもいいの!』
どうでも良くはないだろ、いつ爆発するか分からない爆弾みたいなもんだぜ?
『そんなの関係ない!アリスは私達の仲間だよ!大切な仲間だもん!それなのに暴走させるだの危険だの好き勝手言ってくれて……!』
この暴走は必要な実験だ、いざとなった時の為に弱点や対抗策を見つけておかないといけないからな
『アリスは敵じゃないもん!そんな事は私がさせない!』
………だが天童さん本人はどう思っているかな?
『………え?』
中の爆弾がいつ爆発するか分からない、もしかしたらこのまま一生暴走しないかもしれないし………ゲーム開発部と遊んでいる時に突然暴走するかもしれない
そんな不安定な状態の自分がゲーム開発部に居てもいいのか、天童さん本人はそう思ってるぜ?
『………なにそれ』
ここは本人の為にも放っておいたほうが良いと思うぞ?
『なんで………』
『なんでそんな事を貴方が勝手に決めるの!?』
『何も知らないまま全部終わるなんて嫌だよ!私だってアリスと一緒にいたいよ!まだまだいっぱい一緒にゲームがしたいよ!』
『私達を傷付けるかもしれない!?そんなの当たり前だよ!友達同士で喧嘩することだってあるんだから!』
『それでも!遠慮なくぶつかり合えて!いっぱい傷つけあって!その度に絆を深めるのが仲間っていうものじゃないの!?』
『アリスがどう思っていようが私には関係ない!私がアリスと一緒に居たいから無理やり連れ戻すんだ!』
『だって……だって私達はアリスが大好きだからっ!』
『お姉ちゃん………』
『わ、私も……私もアリスちゃんに会いたい!まだまだアリスちゃんと一緒にゲームを作りたいから!』
『……私だって……私だってアリスちゃんと一緒にゲームがやりたいよ!それに、アリスちゃんに教えたいことだって山ほどあるんだから!』
携帯の向こうからゼエゼエと息を切らす音が聞こえる、酒泉は隣で小さく震えているアリスに無言で携帯を渡す
「………いい……です……?」
『っ!アリス?アリスなの!?もっと大きな声で聞かせて!』
「……本当に……一緒に居てもいいんですか……?」
『そんなの当たり前だよ!』
「アリスは……皆さんを傷付けるかもしれないんですよ……?」
『大丈夫だよ!私達はとっても強いんだから!』
「……アリスは、世界を滅ぼすかもしれない存在なんですよ?」
『そんなの怒った時のユウカに比べたら全然怖くないよ!』
『お姉ちゃん……この流れでそれ言う……?』
『あはは……本人の前で言っちゃ駄目だからね……?』
『あっ………い、今の無し!アリス!絶対誰にも言わないでね!?』
「なんで……なんでそんなに……」
『そ・れ・よ・り・も!アリスの答えをまだ聞いてないよ!アリスはどうしたいの?』
「アリスは……アリスは……っ!」
「アリスも皆と一緒にいたいです……!」
泣きじゃくりながら必死に言葉を絞り出すアリスは、涙を拭いながら叫びだす
「アリス、もっと皆と冒険したいですっ!」
「もっと色んなゲームで遊びたいですっ!」
「レベリングだってまだまだ終わってないですっ!」
「もっと沢山の経験を積んで……本物の勇者になりたいですっ!」
アリスの感情を受け取ったモモイは正面からそれに応える
『だったら!その勇者のパーティーメンバーも必要だよね!』
『じゃあお姉ちゃんはタンク役ね』
『んなっ!?』
『わ、私はあまり人前に出たくないから……できれば後衛職がいいな……』
『なんか納得いかないけど……とにかく!今すぐ迎えに行くからね、アリス!』
そう言うとブツリと通話が切れる
「…………」
……良かったじゃん天童さん、天童さんの心配事は杞憂だったな
「酒泉……もしかしてこの為にわざと……?」
「いざとなった時の為」だとか、あの辺のくだりは少し本心も混ぜてるけどな
「でも………」
それよりもだ、天童さん
俺は一つやらなければならない事がある
「……?」
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廊下を全力で走るモモイ達、後ろから聞こえる先生やリオの制止を聞かずにひたすら走り続ける
「もうすぐだよ!もう少しでエンジニア部の所に……!」
「ま、待って……置いてかないで……」
「お、お姉ちゃん……ユズちゃんが……」
「着いた!ここでアリスが─────」
部室に着くなりすぐに扉を開ける、アリスを迎える為に中に入ったモモイ達の目に最初に映った光景は───
本当にごめんなさい言いすぎましたボコボコにしてください、いやいっそ殺してください
「か、顔を上げてください酒泉!アリスは怒ってませんから!」
何か欲しいゲームとかあります?もしくはしてほしい事とか……あ、それか一生奴隷にでもなりましょうか?俺の人権とかいります?
「本当に気にしてませんから!」
「おお……!思わず見惚れてしまうほど美しい土下座ですね!」
「……なんか慣れてない?」
「プライドのプの字も無いね」
「……へ?」
「えっと……」
「どういう……こと?」
───アリスに向かって芸術的な程に美しい土下座をかます男子生徒と、それを眺めるエンジニア部達の姿だった
「……それじゃあ、アリスを元気付ける為に敢えて私達を挑発したってこと?」
「………本当かなぁ」
「やけにノリノリだった様な……」
俺の演技力がプロ並すぎるせいですね、すいません
「この人反省してないよお姉ちゃん」
「とりあえずひっぱたく?」
やめてくださいしんでしm………いや、受け入れますよ
「……それはそれでなんかやりづらいなぁ」
「大体さ!挑発するにしてもアリスを破壊するなんて言わなくてもよくない!?そこまでしなくてもいいじゃん!」
………ん?
「た、確かに……あれはやりすぎだったと……思います」
「あまり気分良くなかったよね」
……いや、別に今すぐ破壊するなんて言ってませんよ?
「………え?」
「で、でも!暴走させるとか何とか……」
ええ、確かに暴走させる実験は行いましたよ
でもそれは周囲に実働部隊を置いていつでも天童さんを止められる様な状況を作ってからやりましたし……
「で、でもアリスのことを危険な存在とか言ってたじゃん!」
実際天童さんには危険な機能が組み込まれていましたからね
でもだからといってすぐに天童さんを破壊するつもりはありませんよ?その危険な機能を無力化する方法を探す為の暴走実験なんで
問答無用で殺すわけないじゃないですか、相手がただの無機質な機械ならまだしも、天童さんは人間なんですし
「………」
「……じゃあ」
「え、えっと……もしかして私達……早とちりしちゃった?」
まあ正確に言うと────
────俺が〝早とちりさせた〟ですけどね!!!
「………」
ドヤァ!
「………」
乗せられちゃったぁ?
「………」
いやぁ……これは間違いなく名演技ですわ!
恐ろしいのは、私自身の才能─────
──────────
────────
──────
「や、やっと追い付きましたよ皆さん……それとリオ、もう少し優しく車椅子を押してほしかったです」
「十分優しくしたつもりだったのだけれど……貴女の身体が病弱すぎるのじゃないのかしら」
「は?」
「ヒマリ、ストップ。車椅子を持ち上げようと───」
「───ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
「あ、無理そうだね」
「………」
「何ですかリオ、そのかわいそうな者を見る眼は」
少し遅れて先生達も到着する
彼等は今頃ゲーム開発部が荒れているであろうことを覚悟していたが、実際には思っていたよりも静かだった
「あ、きたきた!」
「お姉ちゃんがスピード出しすぎるせいで離れすぎちゃったみたいだね」
「ミ、ミドリだって全力で走ってたじゃん!」
「あう……先走っちゃってごめんなさい……」
「ヒマリ先輩!リオ先輩!先生!こんにちは!」
「こんにちは、アリス……思っていたより元気そうですね?」
「はい!」
「……アリス、酒泉はね───」
「───先生、大丈夫です!酒泉はアリスの為に悪役を演じてくれたって分かっていますから!」
「そっか、それなら良かったよ……ところで、その酒泉は?」
「あっ……それは、その……」
酒泉の名前が出た瞬間、全員が視線を逸らす
その視線の先を辿ると………
─────前が見えねえ……
思いっきり顔が凹んでいる酒泉がいた
「………えっと、これはその………」
「いやー、あんな真顔のミドリ久しぶりに───」
「───お姉ちゃんがやりました」
「えっ」
「お姉ちゃんの渾身の一撃が酒泉君にクリティカルヒットしました」
「いや、ちょっ」
「私は何もしてません」
犯人は才羽ミド───
「酒泉君?」
───才羽モモイです
「だってさ」
「ひ、卑怯者っ!貴方も簡単に屈しないでよ!?」
ムリ、アノマガオ、オコッタソラサキサントオナジ、オレ、カシコイ
「だからって私を売らないでよ!?」
貴女のせいだよー!
「いや今回ばかりは絶対に私悪くないって!?」
後で俺のクソゲーコレクションあげるから許して……
「……嬉しいような嬉しくないような」
チッ、文句ばっかりかよ……これだから左右弾は
「よく分かんないけど、スッゴい侮辱された気がする!」
「………そろそろ良いかしら」
さっきまで一触即発だったとは思えない程騒がしい空気の中、リオが話を切り出す
「それで、アリスの精神世界に潜る為のダイブ装置はどれかしら?」
「お望みの品はこれだよ……一応五台置いてあるけど、最初のダイブで使うのは二台だけにしてほしいんだ」
「勿論そのつもりよ、いきなり全員で潜って何らかのアクシデントが発生したら困るもの」
「流石会長、話が早いね」
エンジニア部が機械のセッティングを始めるのを眺めながらヒマリが仕切りだす
「……さて、問題はその二名を誰にするかなんですが……」
「はい!それならもう決めています!」
アリスは勢いよく手を挙げると、酒泉とリオを交互に見つめる
「アリスの心の中には酒泉とリオ先輩に来てほしいです!」
……え?
「……なぜ私なのかしら」
酒泉とリオは驚愕する、それも当然だろう
酒泉は演技とはいえ、先程アリスの事を散々貶したのだ
一方のリオは本心でアリスを犠牲にするべきだと考えている
モモイとミドリはリオに対しては特に何も言わないが、酒泉に対しては不満気な目を向ける
「……なんでその二人なの?アリスちゃん」
モモイ達の後ろからユズが問い掛ける
「アリス、約束しました!アリスの中のもう一人のアリスと仲良くなって真の勇者になるって!そしてリオ先輩を認めさせるって!」
「酒泉君は?」
「酒泉には色んなことを教えてもらいました!魔王の中にも優しい人がいること、自分の力を恐れないこと、ゲーム開発部を……仲間を頼ること!」
「……え?」
「私達を……?」
……あっ、初めてあった時か、覚えててくれたんだな
「はい!ですからアリスのことを支えてくれた酒泉にも見届けてほしいんです!」
……よし、その役目、引き受けた!
「お願いします!」
「アリスがそう言うなら……」
「……いいの?お姉ちゃん」
「まあ、悪い人じゃなさそうだしね……」
「わ、私もアリスちゃんが信じるなら……」
「……生徒会長、アリスちゃんのことよろしくお願いします。それと……酒泉君、精神世界の中でもアリスちゃんのこと傷つけたら……今度こそ許さないから」
……分かりました
リオと酒泉、そしてアリスはゴーグルの様な機械を目元に装着し、ベッドで横になる
アリスの頭の辺りを中心に、沢山のコードがリオと酒泉の装着している機械に繋がれていく
セッティングが完全に終わった後、ウタハがスイッチを構える
「……さて、準備はいいかい?」
できてるよ……
「何をカッコつけてるんだい?」
「……私は大丈夫よ」
「アリスもです!何だかワクワクします!」
「そうかい、では───」
「───行ってらっしゃい、心の奥底へ」
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「ただ眠ってる様にしか見えないね……」
「凄く気持ち良さそう……」
「当然です!何故ならこのマシーンには───」
「コトリ、それさっき解説したよ」
「───うぅ……」
ベッドで眠る三人を眺める残された者達、先生は「ちょうどいいや」と呟くとゲーム開発部に話しかける
「皆には酒泉のやろうとしていた事を少しだけ教えておこうかな」
「酒泉のやろうとしていた事?」
「い、今やってる事じゃないんですか……?」
「いや、目的は他にもあるんだ、それは……」
「それは?」
「酒泉はアリスがゲーム開発部の皆を傷付けるのを防ごうとしていたんだよ。彼はね、皆を護ろうとしていたんだ」
「…………え?」