「……アリス?何を言ってるの?」
アリスの突然の申し出に困惑するモモイ達
一方のリオは一瞬だけ眉を動かすが、すぐに普段通りの冷静な態度に戻った
「そう、話が早くて助かるわ」
「待って、まだ話は終わってないよ」
「いいえ、これで終わりなのよ先生。私はアリスを破壊する、アリス自身もそれを望んでいる、だからこれで話は終わりよ」
「まだ私やゲーム開発部の皆が納得していないよ」
「さっきと同じ様なことを言わせてもらうけどアリス本人が納得している以上、貴女達が何を言おうと関係ないわ」
他人の意見など知らないとでも言うかの様にバッサリと切り捨てるリオ
それでも〝はい、そうですか〟と認める訳にはいかない先生がリオの前に立つ
「……なら酒泉は?アリスの暴走を止める方法が見つからなかった場合、酒泉が責任を持って破壊するって話だったでしょ。その酒泉本人がこの場にいないのに勝手に話を進めるのはどうかな?」
「あら、先生は生徒である彼に手を汚せと言うの?中々酷いことを言うのね」
「このまま酒泉が何も知らない間にアリスとお別れしたら彼はきっと死ぬほど後悔する事になる、それを阻止する為なら鬼畜にでも外道にでもなるよ」
「そう……先生、貴方も貴方なりに信念を持っていたのね、誤解していたわ」
「……そもそもの話、まだ実験は全部は終わってないよ。それなのに実験を中止させてまで勝手に判断を下すのは〝最後まで暴走を止める方法が見つからなかった場合〟っていう条件にそぐわないんじゃないかな?」
「悪いけど、これ以上実験を続けると更に〝不可解な軍隊〟を引き寄せる事になるわ、そうなったらまた彼の様な被害者が出てくることになる」
お互いに意見を譲らず、話は平行線を辿る
両者とも視線を合わせたまま一向に動かないが、溜め息を吐いてから先に口を開いたのはリオだった
「……結局こうなってしまうのね、なら仕方ないわ」
リオが指をパチンと鳴らすと全てのAMASの銃口が先生やモモイ達に向けられる
「……っ」
「これ全部……敵なの……?」
「そんなっ……どういうつもりですか、生徒会長!」
「どういうつもりも何も、貴女達が余計な事をしないように行動を封じさせてもらうだけよ」
全員が身動きが取れなくなった中、リオだけが堂々とアリスの元へと歩いていく
何も言葉を発さないアリスに手を差し出す
「行くわよ……貴女の望み通り、完全に意識データを消してあげる」
「………」
アリスも無言のまま手を伸ばし、リオの手を────
「ぜっっったいに嫌だ!!!」
────取ろうとした瞬間、突如モモイの叫び声が響き渡る
「アリスが居なくなるなんて嫌だ!アリス自身が認めても私が絶対に許さないんだから!」
「モモイ……」
「もし、もしアリスが消えるっていうなら……私も一緒に消えるから!」
「……っ!?ど、どうして……」
「……お姉ちゃんみたいな喧しい人に付き纏われるのはいくらアリスちゃんでも嫌でしょ、私も一緒に行くよ」
「わ、私も……!アリスちゃんと離れたくないし……ひ、一人になるのも嫌だから……」
「そんな……ミドリとユズまで……」
各々が想いをぶつける中、リオはそれを冷たく一瞥する
「モモイ、貴女も忘れた訳じゃないでしょう?アリスの暴走によって酒泉の身に起きた悲劇を……」
「っ……だからこそ、ここでアリスを渡す訳にはいかないの!」
「………」
「だって、ここでアリスを渡したら────」
「────アリスを救おうとした酒泉の努力を無駄にしちゃうから………!」
「………っ」
酒泉の名前が出た瞬間、一瞬だけリオが反応した
「酒泉の想いを無駄にしない為にも、これだけは絶対に譲れない!だからアリスも自分のなりたいものを……自分の未来を諦めないで!」
モモイの必死の叫びを聞いたアリスは震えながら顔を上げる
「アリスは……アリスはもう一度だけ勇者に────」
立ち直ろうとした瞬間に思い出してしまう、あの時の光景を
自らの力で殺しかけてしまった者のことを
「あ………」
他校の生徒でありながら時間を削ってでも自分を支えてくれた存在を
「アリスは……アリス、は」
アリスのことも、ケイのことも受け入れてくれた存在を
「…………」
そんな大好きな人のことを〝敵〟と認定し、銃口を向けてしまったことを
「……アリスは、戻れません」
そう言うと、アリスはリオの背後へと移動してしまう
「そんな……っ」
「……これでもう用は済んだわ、AMASの何台かをこの場に置いていくけど、何もしなければ数分後に勝手に帰るから大人しくしててちょうだい」
リオは後ろを向いてそのまま帰ろうとし─────
「おいおい、アタシは仲間外れかよ?」
─────ダダダンッ!という音と共に先生達に銃口を向けていた何台かのAMASが破壊された
「っ!ネル先輩!」
心強い援軍に歓喜するモモイ、ネルは自身に銃口を向けてくるAMASを全て無視してリオの前まで近付く
「こんな楽しそうなことしてんならアタシも呼んでくれよ、会長さんよお?」
「……貴女のことは呼んでなかったはずだけど?」
「アタシが勝手に来た」
「なら命令よ、今すぐ帰りなさい」
「ああ、それが命令なら従ってやるよ………ちょっとだけ遊んでからなぁ!?」
そう叫ぶと両手でサブマシンガンを構え、周囲のAMASに乱射する
……いや、よく見れば乱射ではない
一見出鱈目に撃っている様に見えるが、実際には先生達に弾丸が当たらないように的確に撃ち抜いている
「………撃ちなさい」
リオの命令と共にAMASが反撃を開始するが、ネルは破壊されたAMASを盾代わりにして攻撃を防ぐ
「ゴミは掃除しなきゃなぁ!?」
そのまま盾にしていたAMASを蹴り飛ばし、リオを護るかの様に立っていた先頭のAMASに直撃させる
衝撃でバランスを崩した隙に、ネルがリオに急接近する
それを迎え撃とうとリオの後ろからAMASによる射撃が飛んでくるがネルはその射撃をスライディングで回避し、逆にサブマシンガンでの集中砲火でそれらを破壊した
「これで終わりだぁ!!!」
リオの懐まで接近したネルはサブマシンガンを片方だけ向けようとし、そして────
「トキ、お願い」
「イエス、マム」
─────数発の弾丸がネルの頭部目掛けて飛んできた
「ッとお!」
頭部に当たる直前で後ろに飛び退くことで回避するネル
おそらくその弾丸を放ったであろう襲撃者がリオの前に立つと、何やら機械でできたアーマーの様な物を腕に展開させる
「部分展開、ファイア」
そう一言呟くと、そのアーマーから弾丸が発射される
ネルはそれを横に避けながら負けじと反撃に弾丸を送るが、襲撃者はその攻撃をアーマー部分で軽く防ぐ
「へえ……中々面白そうな玩具持ってんじゃねーか」
「あの人は一体……」
「この子は飛鳥馬トキ、〝五人目〟のC&Cであり、そして………私の専属メイドよ」
無表情でペコリとお辞儀をするトキ、しかしその動作をしてもなお隙を感じさせない
更にこうしている間にもAMASが再び集まってくる
ネルは軽く舌打ちをしてリオを睨み付ける
「こうなったからには貴女達に勝ち目は無いわ、大人しく諦めて」
「はっ!ガラクタが数匹増えた程度で随分強気だなぁ?こんなもんじゃ止まるわけねえだろうが!」
「……トキ、終わらせて」
「了解です……モード2」
部分的に展開されていた腕の装備を取り外すと、突如トキの着ているメイド服の腕部と脚部がパージされ、内側に隠されていた武装が露になる
「あぁ?こんな所でいきなり服を脱ぎ出すなんてよぉ……随分と過激じゃねえか!」
軽装になったトキに向けてサブマシンガンの銃口を向ける、が────
「っ!?」
────その動作の隙にいつの間にかトキがネルの目の前まで接近していた
「こいつっ……!」
辛うじてトキの放つ蹴りを避けたネルだが、あまりの速さに冷や汗をかく
「ネル先輩!私達も一緒に────」
「お前等は動くんじゃねえ!」
モモイ達もネルがピンチなのを察して加勢しようとしたが、ネル自身がそれを止める
「貴女の判断は正しいわ、その距離で全AMASによる一斉射撃を食らえばいくらヘイロー持ちとはいえタダでは済まないでしょうね」
「お褒めに預かり光栄ですってか?」
「実際に褒めているつもりよ」
「ナメられたもんだな……決めたぜ、まずはアンタを一発ぶん殴って───っ!」
ネルが喋っている途中にAMASが突進を仕掛けてくる
今までの銃撃と違い、あまりにも物理的すぎる行動に一瞬だけ驚くがすぐに回避する
───が、その直後、通常の人間ではあり得ない速度でトキが後ろに回る
「んなっ!?」
トキはそのまま抵抗すら許さずに一瞬でネルを拘束する
「……っこの、放しやがれ!」
「対象を制圧しました」
「ご苦労様、トキ………先生、これで貴方達に打つ手は無くなったわ」
拘束されているネルを横目に、リオは先生に話しかける
「準備が甘かったわね先生、酒泉から事前に情報を聞いていたのならこの状況だって対策できたでしょうに」
その言葉を聞いた先生はただ静かに悲しそうな眼でリオを見つめる
「リオ、私はこの状況に関しての話は何一つ酒泉から聞いてないよ」
「……なんですって?」
「トキが今使用したその装備の事も、その大量のAMASの事も何も知らされていない」
「有り得ないわ、だって彼は───」
「理由は簡単だよ、だって酒泉は私達の敵になろうとしていたんだから」
「それは………」
「リオ、酒泉はね─────」
「─────本気でリオと同じ道を進もうとしていたんだよ」
「………っ!」
「だから酒泉はリオを裏切ることを良しとしなかったんだ」
驚愕で目が見開くリオ、先生は言葉を続ける
「リオはどう?酒泉のことを信じているかい?」
「………」
「もしそうなら今一度考え直してほしい、彼の想いを踏みにじらない為にも」
「………今更もう遅いわ、彼が居なくても私は止まる訳にはいかないの。だって………彼には手を汚してほしく────」
「もう……もう止めてください!」
これまでの戦いを苦しそうに見ていたアリスがとうとう叫んだ
全員の意識がアリスに向いた瞬間、ネルはトキの拘束から外れる
そのまま反撃に出ようとしたが、アリスのあまりにも悲痛な声に足が止まってしまう
「アリスのせいなんですよね……?リオ先輩が辛そうなのも、ネル先輩やトキが戦っているのも、酒泉が怪我をしたのも、全部アリスのせいなんですよね?」
「アリス、これ以上皆に迷惑を掛けたくないです。前に仲間同士でも傷つけ合うことはあると皆が教えてくれましたが……これ以上はもう耐えられません」
「アリスが消えることでもう誰も傷付かなくなるのならば……アリスはそれを望みます」
「ですから………これでお別れです」
「さようなら」とだけ言い残してゲーム開発部やネル、そして先生を置いて一人歩き出すアリス
後ろから必死に呼び止めようとする仲間達の叫び声は結局最後までアリスに届くことはなかった
やがてアリスの後ろ姿が完全に見えなくなった頃、リオとトキ、そして大量のAMASは全員撤退していった