うおお……腕いてえ……
「大丈夫、酒泉?」
めっちゃ痛いけど悪化はしていないです
「直前で〝作戦があります〟って言うから信じたけど………あんな事するなんて聞いてない」
いや、俺もこんな痛いとは思わなかったんですよ……おててとおててを合わせただけなのに……
「………やっぱり手錠も用意しておいて正解だった」
『……え?委員長、あれって私の為のものでは……?』
「なんの事?」
『えっ』
トキから逃げ切り、とある建物の一角で身を隠す一同
さっきまで緊迫していたとは思えない空気で会話するヒナ達に全員が視線を向ける
「えっと、色々聞きたいことはあるけど……まずは助けてくれてありがとう」
先生が礼を言うが、すぐに複雑そうな表情で怪我している部分を押さえている酒泉を見つめる
「それで……なんで酒泉達がここにいるのかな?助けてくれたのはありがたいんだけど、ミレニアムの問題にゲヘナ風紀委員会である君達を巻き込む訳には────」
「私達は才羽モモイに奪われた機密書類を取り返しに来ただけ」
「────え?」
「わ、私!?私そんなの持ってないよ!?」
「……お守り」
「……え?」
「ま、まさか……」
「……お姉ちゃん、あのお守り持ってる?」
「う、うん……せっかく貰ったし持ち歩いておこうかなって……」
モモイはジャケットの内側からほんの少しだけ大きめのお守りを取り出し、それを皆に見せるように手のひらに乗せる
「それ、もう開けていいから」
「わ、分かった……」
ヒナに言われた通りに恐る恐る開ける、中に折り畳まれているせいで少し分厚くなっている紙が入っていた
……小型GPS発信器と一緒に
「ハッ!成る程なぁ……ミレニアムに突入する口実を作る為に、そのチビに奪われたって体で渡した訳か。ゲヘナの風紀委員長様も意外とそういう小細工すんだなぁ?」
「……っネル先輩!?だ、大丈夫なの!?」
それを後ろからひょっこりと顔を出して覗いてくるネル
先程までボロボロの身体を引きずっていたのにも関わらず、何事も無かったかの様に平然と会話に参加してくるのを見てモモイが驚愕する
「あ?こんなもんちょっと寝てればすぐ治るっつーの……それよりもさっきは助かったぜ、ありがとな」
「貴女は……」
「美甘ネル、C&C、今はこれだけで十分だろ」
「……風紀委員長、空崎ヒナ」
「おう、知ってるぜ………にしてもさっきのキック、よくそのちっこい身体で出せたな」
「………ありがとう」
ヒナは〝ちっこい身体〟の部分に一瞬だけ反応するが、ネルもおそらく善意で言ったであろうことを理解していた為、大人しく礼を返した
「リーダーも人の事言えないくらいにはちっちゃいよねー!」
「アスナ先輩……シーッですよ」
「あえて誰も言わなかったのに……」
「あ゛あ゛!?」
……その直後にネルが背後から仲間達に攻撃されたが
『……そんなことより、アビ・エシュフとかいうあの武装どうするの?あれがある限り私達に勝ち目は無いけど……』
『そうですね、酒泉の不意打ちももう通用しなさそうですしね……』
『ヒナ委員長、此方でもあのパワードスーツのデータを取ろうとしたのですが……その……』
「……一瞬しか交戦してないしデータが取れなくても仕方ない」
『すみません……』
『でしたら、今から此方のデータを表示しますのでそれを直接確認してください』
『ありがとうございます………っ、はい?このスペックがあのパワードスーツ一機に全て積まってるんですか?』
『信じられないのも無理はないよ……まあ、スペックよりも厄介なのはエリドゥのバックアップによる演算機能だけどね』
『そのバックアップを妨害する方法は?』
『………現状打つ手は無いかな』
『つまり直接あのパワードスーツを叩くしかないと?』
『残念ですがそうなりますね』
改めて事態の深刻さを確認した一同が深く溜め息を吐く中、ユズがおずおずと手を上げる
「あの……それなんですけど……あのスーツ、攻略できるかもしれません」
「……え?」
「何か作戦があるの?ユズ!」
普段から人見知りを発揮しているユズが珍しく自ら発言したことで全員の注目が集まる
「えっと、ネル先輩が建物から落下しながら戦闘していた時………本当に一瞬だけなんですけど、ネル先輩の攻撃が通ってるのを見ました」
「あの短い時間の中で……?」
「さすがUZQueen!動体視力の申し子!」
「でも何故効いたのでしょうか……会長の言葉通りならトキちゃんの武装には何も効かないはず……」
全員が首を傾げる中、チヒロがボソリと呟く
『……もしかしたら、トキの武装にも隙があるのかもしれない』
「隙?」
『うん、さっき部長とも話してたんだけど、攻撃の防御と回避を同時に行ったことが無いなって』
『彼女は先程の戦闘では必ず片方の動きをこなしてからもう片方の動きを開始します、もしリオの言っていた通り完璧な武装なら回避と防御を同時に行った方が効率的です』
「……そういうことですか」
「……え?なに?どういうこと?」
『武装の能力は確かにチートだけど……その能力にも限界があるかもしれないってこと』
『ユズ、トキがビルから落下していた時、彼女は確かに武装にダメージを負ったのですよね?』
「は、はい!」
『……もしかしたら、墜落した際の姿勢制御や重力計算に演算能力を使っていたのかもしれませんね』
「じゃあ……また重力負荷を掛けることができれば……!」
少しずつ糸口が見えてくる、そしてアコがそれを後押しするように提案する
『……エリドゥほどの巨大都市を脚だけで移動するとは思えません、もしかしたら長距離移動用のエレベーターの様な物があるかもしれません』
「な、ならそれを見つけてその中で戦えば……!」
とうとう攻略法を見つけたことで全員の表情が明るくなる
「………酒泉はこの事知ってたの?」
まあ、知ってましたけど………他人の活躍奪う訳にはいきませんし………
「………偉いね」
ちょ……撫でないでくださいよ……恥ずかしいですから……
『お、おのれ酒泉……!』
「……アイツら何やってんだ?」
「さ、さあ……?」
「それよりもどうやってエレベーターの中に入れるの?そもそもそんな高度にあるエレベーターだってここら辺には────」
「────そ、それなんですけど………」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
要塞都市エリドゥ、その中央タワーに複数の人影が近づいてくる
『……また来たのね』
「………」
今にも倒れそうなほど身体が傷付いている少女、そして招かれざる客である悪魔の角のようなものを生やした少女の二人が先頭を歩く
………角の少女が一人の男をお姫様抱っこしているが
『貴方も一緒に来たのね、酒泉……怪我が悪化する前に帰った方がいいわよ』
戦闘には参加しないんで大丈夫です
『巻き込まれるかもしれないわ』
空崎さんが護ってくれますので大丈夫です
「そういうことだから」
『………そう』
………そんなことよりも調月さん、約束が違いません?何かあったら俺が天童さんを破壊するって約束だったはずですよ?それなのに勝手に行動するなんて酷いですよ
『………貴方が手を汚す必要は無い』
じゃあ俺も調月さんに手を汚させたくないので止めますね……まあ、俺が戦う訳じゃないですけd────空崎さん、もう少し力緩めてくれません?ちょっ、痛い痛い
「……話は終わり、あくまで意思表明しに来ただけでしょ」
あっ、待って、もう少し─────
抵抗しようとする酒泉を抱えてヒナがその場から離脱した
「……一体何をしに来たのでしょうか」
『……何を考えていようと関係ないわ、とにかくここで決着を────』
「だああああああっもうっ!さっきからテメェ等だけで会話してんじゃねえ!」
突如、さっきまで口を閉ざしていたネルが飛び掛かってくる
「黙って聞いてりゃ、勝手にテメェ等だけで盛り上がりやがってよ………アタシのことも忘れんなっつーの!」
『別に忘れていた訳では無いわ………トキ、後はお願い。緊急時の指示は私が出すわ』
「イエス・マム」
そのまま戦闘を開始する二人、その後ろからアカネがハンドガンでネルを援護する
「……無駄です、その程度の軽装備ではアビ・エシュフにダメージを与えることはできません」
「ふふっ……それはどうでしょうか?」
アカネが不敵に笑うと、トキの後ろの背後が爆発する
「………不発?」
「いえ、狙い通りです♪」
「ああ、よくやった………アスナァ!押し込むぞぉ!」
「おっけー!」
ネルの呼び声と共にアスナが飛び出してくる、そのまま空中でアサルトライフルを放ちながらネルと共に猛攻を仕掛けてくる
「……これだけではまだ───」
────足りません、そう言おうとした瞬間、アビ・エシュフの防衛システムが視覚外からの攻撃を察知する
即座に後ろに下がるトキ、直前まで立っていた位置には一発の弾丸が飛んで来た
「………っ!角楯カリン先輩ですか」
「オラァ!ぶっ飛べえ!」
「突っ込めー!」
そのまま後ろに下がった態勢のトキに二人同時に蹴りを放つが、それを軽く腕で防がれる
しかし衝撃は完全に殺し切ることは出来ず、先程アカネに爆破された箇所から建物内にそのまま蹴り飛ばされる
「……一体何を企んで───」
「考え事する暇なんて与えねえぞ!」
即座に態勢を立て直し、再び猛攻を仕掛けるネル
トキはそれをアビ・エシュフの機能を使い、簡単にいなす
相殺できる弾丸は相殺し、回避できる弾丸は避け、大してダメージになりそうに無い攻撃はアーマー部分で受け止める
そうして攻撃を確実に防いでいくうちに────
「ここは……」
────その通路の奥まで追い詰められた
「やっと逃げ道が無くなったなぁ?」
「あ!そういえばリーダー、さっき私のことアスナって呼んだでしょ!いつも〝コールサインで呼べ〟って言ってるくせにー!」
「いいからとっとと決めるぞ!」
無駄口を叩きながらトキに接近する二人、トキは先に突撃したアスナをガトリングガンで牽制する
『トキ、主砲の使用を許可するわ』
「イエス・マム」
リオの命令を聞いた瞬間、トキが主砲を構える
(っ!まだあんなもん隠してやがったのかよ……仕方ねえ、こうなったら気合いで耐えて───)
『目標は後ろの貨物エレベーターよ』
「────んなっ!?」
リオは全てを警戒していた
先生達が未だに足掻き続ける理由、それは何か逆転の手があるからに違いないと
……もっとも、彼等は逆転の手が無くとも抗い続けるだろうが
しかしそんな事はもう関係無い、これで全て終わるのだから
ネルが……彼女達が目指していたのはおそらくあのエレベーター、その中の戦闘でエリドゥの演算機能を重力制御に使わせる事で隙を作ろうとしたのだろう
『貴女達はよく頑張ったわ、後は私に任せなさい』
トキの主砲が貨物エレベーターの方へ向く、その兵器の内側が青白く光り始め、そして─────
『委員長!今です!』
─────突如、通路の窓ガラスを割ってヒナがタワー内に侵入してくる
「なっ!?」
『空崎……ヒナ……!?』
「いいタイミング、アコ」
『何故彼女が……さっき彼女は離脱したはず、それに私にバレずにこの階層まで来るなんて……』
不可能だ───そう思った瞬間、ヒナが侵入してきた箇所から二台の機械が見えた
『あれは………ドローン?でも、いくらミレニアムのドローンでも人間一人を運ぶ程の出力を二台分も出せば私が気付けるはず………まさか、アカネの爆発物での攻撃や内部に侵入したネル達を警戒している間に……?』
『やりましたねチーちゃん!あの女の悔しがる顔が簡単に想像出来ますよ!』
『まだ油断はできないよ、モニターをこっそりハッキングしてヒナの接近を隠せたのはいいけどほんの一瞬だけだし、それに………ここからが本番だよ』
デストロイヤーを構えたヒナが全ての弾を撃ち尽くす勢いでトキに弾丸を放つ
しかし銃口を向けられるより少し前にアビ・エシュフの警告を受けたトキはエレベーター側に回避する
……その判断が間違っていたのだろう
数発の手榴弾がトキに襲い掛かる、トキはガトリングガンを空中の手榴弾に放って空中で爆発させる
何度も行ってきたその動作にいい加減しつこさを感じ出した瞬間────
「オラァ!」
「っ!正面から!?」
────ネルが何も構えず真っ正直から突っ込んできた
全ての銃口をネルに向け、全ての弾を放つ
連続で槍を突き刺す様な攻撃がネルを襲うが、止まらない
次々と血が飛び散るが、それでも止まらない
痛みを全て無視してそのままトキの腰辺りを掴んだネルは、エレベーターに向かって走り出す
『貨物エレベーター、ハッキングしました!』
そのまま扉の開いたエレベーターにトキごと突っ込むネル、トキも抵抗しようと銃口を自らの腰に組み付いて押し出そうとしてくるネルの背に向けるが────
「………後は任せる」
「………くっ!?」
────大きめのコートの内側からスナイパーライフルを取り出したヒナの一撃で腕を狙われ、妨害される
『……っ、あのスナイパーライフルは……』
「酒泉ほど眼が良いわけじゃないけど………上手くいって良かった」
妨害されたトキは一瞬動きを止めてしまい────
「いい加減に………しろやぁ!」
────そのままネルに貨物エレベーター内に押しきられた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
───作戦開始前───
「作戦は決まったね!それじゃ、早速────」
「ちょっとだけ待ってくれないかな?」
「────どうしたの、先生?まだ何か作戦が……?」
「ちょっと見逃してそうなことがあってね………酒泉、まずは一つ聞かせてほしいんだけど、酒泉はアビ・エシュフの弱点を知ってた?」
……まあ、知ってましたけど……
「ええ!?知ってたの!?」
「んだよ……なら先に言えよ……」
いや、俺が言わなくても他の人が気付くって分かってましたし……
「なんだそりゃ……?」
「話を戻すよ………もしリオが〝酒泉がアビ・エシュフの弱点を知っている可能性〟を警戒していたとしたら、この作戦もバレている可能性が高い」
「うええ!?じゃあどうするの!?」
「……そもそも、どうして酒泉君がアビ・エシュフの弱点を知っているの?」
ヴェ!?いや、それは……
「……その話は今度でいい。それよりも先生、どうするつもりなの?」
「別に難しいことはしないさ………」
「此方も二重に策を巡らせるだけだよ」