でもミカ……君はとっくの昔に完凸してるんだ……!
目を覚ますとそこは、以前一度だけ来た場所だった
ケイさんに会う為の実験の時に来た場所………つまり天童さんの心の奥底、精神世界だ
「ここがアリスの……」
「心の中……?」
「……っ、ねえ、お姉ちゃん!ユズ!」
ミドリさんがこの空間の中心へ指差すと、天童さんが機械の椅子で眠っていた
「アリス!!」
「………だれ?」
「私達だよ!」
「アリスちゃん!私達が来たよ!」
「アリスちゃん!」
「モモイにミドリ……ユズ……?先生まで……?」
自身に駆け寄って来る皆を一人一人確認する天童さん、しかし少し離れた場所で様子を見ている俺に視線が向いた瞬間────
「………っ、酒泉……!?」
────怯えた様な表情で後ろに下がる
………まあ、うん。そんな気はしてた
「そ、そうだ!アリス!酒泉が起きたんだよ!」
「アリスちゃんを連れ帰る為にここまで来てくれたんだよ!」
「だ、だから……一緒に帰ろ……?」
「ア……アリスは……」
【王女よ、貴女が見てきた光景を忘れましたか?】
差し伸べられた手を取ろうと天童さんが手を伸ばした瞬間、俺達の背後から突然気配が現れる
………ケイさん
「ふ、二人同時に見るのは初めて……」
「……アリスが見てきた光景って、一体何の話?」
【文字通りの意味です、〝王女〟がこの空間で見聞きした光景の数々……】
先生の質問にケイさんが答えると、俺達の頭上に突如何かの映像が映し出される
「これって……」
「私達が戦ってきた姿……?」
「なんでこんなものを……」
その映像では、ボロボロになりながらも必死に飛鳥馬さんに食らいつくC&Cや戦闘用ドローンと戦っているモモイさん達の姿が………
………あ、お姫様抱っこされてる俺も映ってる……はずかしっ
【エリドゥの監視網から見てきた光景……それら全て、貴女達がこの場に足を踏み入れるまでに戦い、走り、転んで、傷付いてきた光景です】
【何故このような事が起きてしまうのか……その答えを〝王女〟は既にご存知なのではないでしょうか】
ケイさんの言葉に俯く天童さん……それも当然だろう、自分を助ける為に大切な仲間が傷付くなんて、勇者を目指していた天童さんに受け入れられるはずがない
「アリスは………アリスは帰れません………」
「アリス……?」
「アリスが皆の傍に居たら………皆はその分、傷付いてしまいます……」
「アリスちゃん、違う!そうじゃないよ!」
「ミドリの言う通りだよ、アリスちゃん!私達はそんな……!」
「アリスはっ!」
「っ!?」
「アリスはあの時、モモイに銃口を向けてしまいました………大切な仲間を護るどころか、仲間を傷付ける為に………」
「あれは事故みたいなものだよ!誰も悪くないの!」
「その〝事故〟で酒泉が死にかけたのに……?」
「っ、アリス……」
皆が天童さんの言葉を否定するが、それでも彼女には届いてなさそうだ
【……貴女達もこれで理解できたでしょう、私達は世界を滅ぼす為だけに生み出された存在だということを】
「そんな……ケイだって私達と一緒に遊んだじゃん!酒泉や会長とお出掛けだってして────」
【……っ、それらの思い出は既に私の中には存在しません】
そう言ってモモイさんの言葉を一蹴するケイさん
………一瞬だけ動揺したような気がするが、おそらく気のせいではないだろう
「もう……アリスのことは放っておいてください……このまま消えることが皆の為になるのなら、アリスは……」
「……アリス、君は本当にそれでいいの?自分のなりたい存在は自分で決められる、今からでも遅くはないよ」
「アリスは自分のなりたい存在に……勇者になろうとしました。でも、その結果酒泉を傷付けてしまいました……」
【自らのなりたい存在を目指す過程で大切な者を傷付けてしまうぐらいなら、そうなる前に消える……王女はその選択を取りました】
「アリスには、今更皆を傷付けてまで勇者を目指すことなんてできません……」
【………王女を苦しませたくないなら、これ以上私達に関わらないでください】
まるで懺悔するかの様に目を閉じて語る二人
………なんて言うか、正直────
────気に入らないな
「え……?」
「……酒泉?」
全員が俺に視線を集中させてくるが、そんなことは関係ない
これ以上は抑えられそうにない
「ア、アリス、何か酒泉を怒らせるようなことを言ってしまいましたか……?」
ああ、怒らせた。バチクソに怒った
「ど、どうしてですか……やっぱりアリスが酒泉を傷付けたから────」
天童さんもケイさんも、さっきから自分がどうしたいのか全然教えてくれねーじゃん
「────え?」
〝皆を傷付けてしまったから消えないといけない〟だとか、〝世界を滅ぼす存在として生み出されたからそうする〟だとか、結局自分のやりたいこと何も教えてくれないじゃん
「だ、だからアリスは消えたいと……」
だーかーらー……それは俺達を傷付けてしまったからって理由からだろ?
ハッキリ言わせてもらうけどな………自分が消えるための理由を俺達に押し付けないでくれ、迷惑だ
「しゅ、酒泉!?何言ってるの!?」
モモイさんが肩を掴んで思いっきり揺らしてくるがもうそんな事は関係ない、ここまで来たからには言いたいこと全部言わせてもらう
「ア、アリスは皆の為に……」
天童さんが消えることが俺達の為になるなんて勝手に決めつけないでくれ
誰と一緒に居たくて誰を助けたいのかは俺達が自分で決める
「でも、アリスの力は……」
……そうだな、俺は天童さんとケイさんの力を〝世界を滅ぼす力〟って、確かにそう思ってた
【……よく理解していますね】
「………その通りです、だから────」
だけど実際にその力を味わってみてよーく分かった
アンタ等の力は生身の人間一人すらまともに殺すことができないクソザコパワーだってことがなあ!!!
【………はい?】
「………え?」
これで答えは出た!天童さん!ケイさん!アンタ等は世界を滅ぼす存在なんかじゃない!
というよりもそんな事を成し遂げる力も持っていない!せいぜい中盤ダンジョン辺りに出てくる雑魚モンスター程度だ!
そんな存在が世界を滅ぼすだぁ?自惚れんじゃねえ!
「ア、アリス、雑魚モンスターなんかじゃないです!」
はぁー?勇者を辞めたんだったら別にどう呼ぼうが俺の勝手だろ?
ざーこざーこ!脳内メモリーすかすか!
【……不愉快です、その呼び方を今すぐ止めなさい】
そもそもの話、俺達が天童さんとケイさんに負けること前提で話してるのも気に入らねえ!
「なっ……」
ここにいる奴等は全員そう簡単に負けるほど弱くねえっての!
まずは頼れる皆の〝大人〟!先生!
「え!?いきなり!?」
突然話を振られた先生は少し焦るが、一度咳払いをしてから冷静に口を開く
「え、えっと……サポーターみたいなものだと思ってくれると……ありがたいかな?」
そして抜群のコンビネーションを誇る最強姉妹!ニュースーパーサイバシスターズ!
「な、なんかその呼び方危ない気が……」
「訴えられたりしないよね……?」
更に更にぃぃ~?大人しいその性格の内側に秘められた根性はミレニアム1!言わずと知れた最強部長、UZQueen!本名花岡ユズ!
「え!?あう、その……が、がんばります!」
あと俺
「自分だけあっさりしてるのなんかズルくない!?」
横からごちゃごちゃ言われるが気にせず話を進める「ちょっとー!聞いてるのー!?」………気にしない
「いいんですか……?」
何が?
「こんなアリスでも……また仲間にしてくれるんですか?」
そもそも勝手にパーティーを抜けるなんてモモイさん達が許してないだろ
「当然!認めてないからね!」
「ゲーム開発部はブラック……常に納期に追われてるようなものだからね」
「こ、これからも手伝ってくれると嬉しいな……」
それに勝手に生徒が消えるなんて先生も許さないぞ
「アリスはまだ生徒なんですか……?」
「当たり前だよ、アリスの正体が何者だろうと、アリスの意思がどうであろうと……アリスはずっと私の生徒だよ」
……とまあ、こんな感じで誰一人逃がしてくれないだろうから諦めろ
「……酒泉」
ん?
「アリスは……また酒泉と一緒に居てもいいんですか?」
授業中と仕事中とトイレ中とお風呂中と就寝中以外なら別に────あ痛ぁ!?
「酒泉君……空気読んで?」
す、すいません……
天童さんの表情に光が戻るが、それをケイさんは複雑そうに眺める
……やっぱりそうか
【……貴女達が何人で群れようと、私達の力を抑えることは────】
あ、それとケイさんには個人的に言いたいことがあったんだ
【───……何ですか】
さっき〝記憶も感情も消した〟みたいなこと言ってたけどさ………
あれって嘘だろ?
【………っ】
「え!?」
「………そうなの?ケイ」
モモイさん達に問い詰められるが、一向に口を開く様子がない………それなら勝手に暴かせてもらうぜ
これはあくまで俺の予想だけど……ケイさんはさっき〝思い出は既に私の中に無い〟って言ってたよな?
その前は〝記憶データ〟なんて言い方をしていたのに、なんで態々言い方を変えたんだ?
予めシステムの中に言い方が固定されているなら〝思い出〟なんて人間らしい言い方に変更する必要無いだろ
………ボロを出したんじゃないか?
【……それは、いちいち記憶データと呼ぶのが面倒だと思ったから───】
面倒?〝感情〟も一緒に消したんだろ?
【───っ……】
それにさっきの〝王女を苦しませたくないなら関わらないでくれ〟って言葉も、天童さんの為を思って言っていたように感じるぜ?
【…………】
「ケイ……それは本当なんですか……?」
天童さんの問いに黙りするが、それはむしろ俺の推理を認めているようなものだ
暫く沈黙が場を支配する中、ゆっくりとケイさんが語り出す
【……貴方の言う通りです、確かに私は自身のデータを消してなどいません】
「……なんでそんな嘘を吐いたのかな?」
【それは────己の感情と決別するためです】
「決別……?」
【私は王女と………そして貴方達と関わっていくうちに、感情を手にしていました】
【このまま王女と共に日常に染まるのも悪くない、そう思った頃………あの事件が起きました】
【あの事件は私の在り方を再び考え直させるには十分すぎる出来事でした。やはり私は〝世界を滅ぼす存在〟でしかないのだと、王女と同じことを考えていました】
【私は本来の在り方に戻ろうとしました………しかし、その度に思い出してしまうのです。貴女達と過ごした日々を………】
【ですから、私は貴女達と本気で敵対する為に〝自身のデータを消した〟と嘘を吐きました。そうすれば貴女達も遠慮せずに攻撃してくれるだろうと……それで私の決心もつくだろうと……】
【王女の意思を………〝消えたい〟という意思を無視して私は貴女達を滅ぼす為に動こうとしました、しかし………】
【ここまで辿り着いてしまった貴女達は………王女だけでなく、私まで助けようとしてしまった………】
【それを少しでも〝嬉しい〟と感じてしまった私は……これからどうすれば────】
「そんなの決まってるよ!感情のままにすれば良いんだよ!」
モモイさんがケイさんの独白を遮って顔を上げさせる、その顔は一切曇り無い笑顔だった
「生きていたいなら生きればいいし、アリスと一緒にいたいなら一緒にいればいい!」
「アリスちゃんもケイちゃんもどっちも元の世界に帰りたいのなら………方法は簡単だよ」
「うん、二人とも……ゲーム開発部に居て良いんだよ?」
まるで友人に話しかけるように平然と言い放つゲーム開発部、そんな彼女達にケイさんは何か言いたげにしている
……が、そこに天童さんが話しかける
「ケイ……」
【王女……私は───】
「ごめんなさいっ!」
【───っ!?いきなり何をして………!】
「ケイも本当は生きていたいと………皆と一緒に居たいと思っていたのに、アリス自身が〝消えたい〟なんて願ってしまって……!」
【王女よ!顔を上げてください!】
「ケイだって辛かったはずなのに……アリスだけの意思で勝手に消えようとしてしまって……!」
【私は別にそんなことは………】
「……ケイ、アリスはケイの本心が知りたいです」
【…………】
「ケイはどうしたいですか?アリスは……アリスはまたゲーム開発部に戻りたいです!今度こそ勇者になりたいです!」
【私は……】
「きっとまた心が折れる事があるかもしれません。また誰かを傷付けてしまうことも、また間違ってしまうことも………それでも、アリスは諦めたくないです!」
【私は……私は……!】
「ア、アリスちゃんは勇者を目指してるよ……!」
「ケイちゃんは何になりたい?まだ見つからない?」
「それなら、これから皆で一緒に探そうよ!ケイのなりたいものを!」
【私の……なりたいもの……?】
「生徒には一人一人になりたいものを決める権利があるんだ、それを邪魔できる者なんてこの世に存在しない………まあ、生徒が危ない道を選ぶようなら流石にじっくりと話し合わないといけないけどね?」
俺を見ないでください先生、今までのことは反省してるんで……
「ケイ!もし、まだ悩んでいるのなら……これからもアリスを支えてください!」
【え……?】
「一緒に過ごしていけば、ケイも何か見つけられるはずです!」
【王女……】
【………折川酒泉、貴方に一つ聞きたいことがあります】
……なんだ?
【貴方は以前、私にも何か目標が見つかるかもしれないと言っていました………貴方は本当にそう思っていますか?】
思ってる……というよりも、もう見つかってるだろ
本当は気づいてるんだろ?自分の目標………自分の願いを
【………私は────】
【────王女と……王女の仲間達と一緒に居たいです】
「……ありがとうございます、ケイ!本心を話してくれて!」
天童さんの手元に通常の銃器と明らかに違う武器が現れる
「だったら早くここから抜け出しちゃおうよ!」
「やっといつも通りの日常に戻れそうだね……」
「うぅ……ロッカーの中が恋しい……」
「ははっ……あ、そういえば皆、ユウカがゲーム開発部の予算の事で話があるって────」
「え゛っ」
「……戻っても一波乱ありそうだね」
天童さんがそれを構えると、その手元にモモイさんが、ミドリさんがユズさんが、先生が手を重ねる
【…………】
……ケイさんは行かないのか?
【………わ、私は……】
何を今更恥ずかしがってるのか……しゃーない、な!
【なっ!?手……手を離しなさい、酒泉!】
いつまで経っても皆の所に行こうとしないケイさんの手を握り、無理矢理皆の手と重ね合わせる
「いきますよ、皆!」
天童さんの武器───スーパーノヴァに光が集まっていく
役目を終えた俺はゆっくりとケイさんから手を放し─────突如、何者かに握り直された
【酒泉………貴方が私のことを〝この世界〟に無理矢理連れ出したのですから、最後まで責任を取ってください】
「光よ────!!!」
直後、光の柱がこの世界を壊した