「ん~……」
「お疲れ様です、ユウカちゃん」
「ノアもお疲れ様、そっちはどう?」
「先生に提出する報告書は完成しましたけど……横領関係の方はまだまだ時間が掛かりそうですね、コユキちゃんにも事情聴取しながら進めないといけないですし……」
「はあ……会長ったら、厄介なのを残してくれたわね……」
「ふふっ♪でもユウカちゃん、『こっちは私に任せて会長は一刻も早く罪の清算を済まして戻って来てください!』ってやる気満々だったじゃないですか♪」
「そりゃあ……私だって会長には戻って来てほしいし……」
「でもリオ会長、戻ってきますかね?」
「どうだろう………責任感の強いあの人のことだし、約束の期限が過ぎても罪を償い続けるかも……」
「………」
「………」
「……この後、リオ会長の所へ顔を出しに行きましょうか?」
「……そうね、何か差し入れでも持っていきましょ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暫くの謹慎の後、調月リオに下された処分は彼女の持つ理論や技術の無償提供、そしてそれらを利用してのミレニアムへの横領額分の奉仕活動だった
〝横領額に比べて若干罰が軽いのではないか〟との声もあるが、そうなった理由はリオが己から罪を告白したから………そして被害者であるアリスや、その周囲の人物があまり事を大きくしたくなかったからだろう
その辺りはヒマリの計らいにより何とかなった、が………
まだ問題が残っている、それは………もしもまたアリスが不可解な軍隊に触れた場合、再び暴走する可能性があるということだ
まずは不可解な軍隊についてだが………これは〝エリドゥ〟の演算機能を使い、定期的に不可解な軍隊の出現の可能性やその位置を観測することでアリスやケイが接触するのを防ぐことになった
……おそらくだが、このエリドゥは〝他の脅威〟に対抗する為の力にもなれるだろう
そしてそのエリドゥは現在誰が管理しているのかというと、こちらに関してはヒマリを筆頭にヴェリタスの面々が管理することになった
エリドゥの機能を完璧に理解できる者はリオを除けば彼女達しかいないだろう
「当たり前です!この超天才清楚系病弱美少女ハッカーに不可能などありませんから!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
C&Cの面々は依然変わりなくメイドとしての〝お仕事〟を続けている………まあ、メイドの仕事にしては血生臭いような気もするが
唯一変わった点といえば、ネルがゲーム開発部に顔を出す頻度が多くなったぐらいか
今回の件で全面的に協力してくれたC&Cが部室に遊びに来て歓迎しないはずがなく、その時はよく皆で対戦ゲームで遊んでいるのだとか
……実はネルも仕事終わりにゲーム開発部に寄ってグダグダするその時間を楽しみにしていたり?
まあ、本人が皆の前で素直にそんな事を言うとは思えないが……
「テメェ等!!さっさと仕事を片付けるぞ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エンジニア部に関してはあの事件が起きてからずっと何かに触発されたかの様に動き続けている
エリドゥで目撃したテクノロジーの数々は彼女達の探求心を刺激するのに十分すぎたのだろう
遂には自分達もアビ・エシュフを作ろうとし、全力で先生やユウカに止められた
………まあ、そのアビ・エシュフの設計図には何故か醤油・みりん・砂糖・塩・塩コショウ・コチュジャン・ラー油・オイスターソース・マヨネーズ・ケチャップ等が装備され、《あらゆる料理で適切な量の調味料を入れることができる》などと書かれていたが
果たして料理するだけなのにパワードスーツは必要なのだろうか………
………いや、理解しようとするだけ無駄なのだろう
彼女達の思考は我々の常識では計れやしない
「くっ……予算さえ下りれば〝シェフ型アバンギャルド君〟が完成して私達の作業中の食事面も解決できるのに……!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
乙花スミレは今日も己を鍛え続ける
それも〝小さな勇者〟に触発されてか、今まで以上に
あの戦いではスミレは誰かと因縁があったり、別に誰かと敵対していた訳でもリオと因縁があった訳でもない
なら何故彼女が助力してくれたのかと言えば、それは間違いなく〝天童アリス〟という勇者が様々な者達と縁を繋いできた結果だと言えるだろう
真の勇者を目指し、色んな場所を冒険してきたアリスの旅は間違いなく意味があったのだ
小さな縁が繋がりあって、縁が円を描き、巡り巡って自分の元へと還ってくる
その結果が今のアリスを────いや、アリスはそんな事を考えていた訳ではないだろう
彼女はただ、仲間と絆を深めていただけなのだから
「さて、今日もトレーニングを始めましょうか……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ミレニアム学園の一室に誰も使用していない部屋がある
……正確に言うと〝ついこの間までは誰も使用していなかった〟だが
その部屋のテーブルに何やら機械の設計図やエリドゥの改善案等が書かれている書類が置いてある
更にパソコンにも様々なプログラムや論文が書き込まれていた
「……リオ様、そろそろ御休になられた方がよろしいかと」
「………そうね、一旦休憩にしましょう」
カタッとパソコンのキーを押し、進行状況を保存すると椅子から立ち上がり軽く背を伸ばす
「……そういえばトキ、貴女は本当にこれでいいの?」
「……何がでしょうか」
「これは全部私の罪よ、償うなら私一人で────」
「嫌です」
「────……トキ」
「嫌です」
「………」
「こうしてハッキリと想いを口にすればリオ様を黙らせられる……と、酒泉が言ってました」
「彼が……?」
「私はリオ様と一緒に居たいです、アリスとケイが共に歩むのを選んだように……」
「……トキ」
「……はい」
「ありがとう」
「……っ!はい!」
あの時、エリドゥで対峙した者達からすると信じられないような微笑みで返事を返すトキ
この様な笑顔もちゃんと出せるのかとリオが感心していると、突然部屋のドアがガチャッと開く
「じゃーん!アリスが現れました!リオ先輩とトキはアリスを仲間にしますか?」
そこには少し前にリオが存在を消そうとしていた少女が立っていた
「アリス……また来たのね」
「はい!………もしかして、迷惑でしたか?」
「いえ、そんな事は無いわ………けど」
申し訳なさそうな表情をするアリスにリオは咄嗟に否定する……が、今度は逆にリオの表情に影が差す
「貴女の方こそいいの?私は貴女……いえ、貴女達のことを殺そうとしたのよ?それなのに私に自分から関わりに来るなんて……」
「……リオ先輩、あの後アリス、ちょっと考えてみたんです。リオ先輩の気持ちを」
「……私の?」
「アリスが仲間達を傷付けるのを恐れたように、リオ先輩もキヴォトスの人達が傷付けられるのを恐れてたんですよね?」
「………」
「それならアリスもリオ先輩も同じです!私達はどっちも護りたい人達がいただけですから!」
本来なら恨まれていてもおかしくない相手、しかしアリスは恨み言を言うどころか、リオのことを自らと同じだと断言してくれた
「……アリス、改めて言わせてちょうだい」
「……?」
「貴女とケイを……そして貴女の仲間達のことを傷付けてしまってごめんなさい、それと……こんな私を赦してくれてありがとう」
「……はい!これでリオ先輩とトキも私の仲間です!」
「私もですか?」
「はい!」
「ですが……」
「トキ、確かさっき私と一緒に居てくれるって言ってたはずよね?」
「……分かりました、でしたら私のジョブは〝メイド勇者〟でお願いします」
「メ、メイド勇者?よく分かりませんが………なんだかとっても素敵です!」
トキとアリスの会話を微笑ましそうに眺めるリオ、しかし少し間を置いてからアリス……というよりもケイに話しかける
「……それよりも、その……ケイは良いのかしら、彼女も私に対して言いたいことがあるんじゃ……」
直後にアリスの瞳の色が変わる
【……私からは何もありません、王女が貴女を許したのならこれ以上私が口を出すのは野暮というものですから】
「……そう、それでも謝らせてちょうだい。貴女のことをただの兵器として扱い、そのまま貴女のことを消そうとしてしまって………ごめんなさい」
【………別に構いません、話が済んだのなら────いえ、一つだけ伝えることがありましたね】
「………?」
【貴方は折川酒泉を自らの理解者だと思っているようですが………彼は私が主張した〝自らのデータを消去した〟という嘘を暴きました、それはつまり私の普段の言動や私の様子をよく理解していたということです】
「……何が言いたいのかしら」
【それらが指し示す答えはつまり────】
【彼が一番理解しているであろう対象は、この私ということです】
「………直接会話した時間は貴女よりも私の方が長いわ。彼〝が〟理解しているのも、彼〝を〟理解しているのも私よ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうも、折川酒泉です
俺は今、ゲヘナ学園近くの病院にいます
ある程度回復したんでミレニアム近くの病院からここまで移りました、にしても……
いやぁ……平和ですねぇ……
「……うん、そうだね」
……空崎さん、なんか目が死んでません?具体的に言うとハイライトが────
「気のせい」
────そ、そうですか……
「………」
………
「………」
……あっ!そういえばこの前ミレニアムの人達と遊園地に行ったんですけど、その時に乗ったジェットコースターが凄くて────
「その話はしないで」
────あっ、すいません
「………」
………
「………」
………あっ!実は最近、ゲーム開発部っていう部活の人達と知り合ったんですけど、その中にゲームの腕前がめちゃくちゃ強い人がいまして────
「黙ってて」
────あっ、すいません
「………」
………あっ!そういえば────
「喋らないで」
─────…………
「………うん、やっぱりそうした方が良いかも」
空崎さんが俺を黙らせると、カバンの中から何かを取り出そうとしはじめる
……何だろう、何故こんなに機嫌が悪いのだろうか
俺をエリドゥまで連れていってくれた時はあんなに笑顔だったのに……いや、よくよく思い返してみたらその時も目のハイライトが消えていたような……
もしや………仕事のストレスか!?
ここ最近は聴聞会絡みの仕事の話でトリニティによく行ってたし、険悪な関係であるゲヘナの生徒がトリニティにいたら当然良い目では見られないだろう
ならば俺のやるべきことは……
「確かこの辺りに……」
ガチャガチャと大きめのカバンから何かを取り出そうとしている空崎さんに意を決して話しかける
空崎さんっ!!!
「……なに、今探し物してるんだけど」
今度俺と遊園地に行きませんか!?
「…………っ」
空崎さんの手がピタリと止まる
「……いきなりどうしたの?」
いや、空崎さん最近また忙しくなってきたじゃないですか
だからもし良ければ息抜きにどうかな~って………いや、冷静に考えてみるともし忙しかったとしたらそんな事してる暇は無いですよね、すいません────
「いつ」
────うぇ?
「いつ行くの?」
えっと……俺が退院した時とか?
「……二人だけ?」
まあ、空崎さんが良ければですけど………
「……写真も撮っていい?」
勿論かまわないですよ、てか俺の許可なんていらないですよ
「………分かった、空けとく」
そう言うとカバンから手を出し、そのままモジモジしながら両手を膝の上に置く空崎さん
………そういえば空崎さん、何を取り出そうとしてたんですか?
「何でもない、気にしないで………これを使うと手を繋げなくなっちゃうから」
ボソッと何かを呟く空崎さん
………まあ、機嫌が直ったのならよかった
だからこの話はここでお終いだ
この後、わざわざゲヘナまでリンゴ片手に一人で見舞いに来てくれたモモイさんが空崎さんと鉢合わせて何故かまた空崎さんが不機嫌になったりする話なんて存在しない
決してそんなことは起こり得ない
………どうしろってんだよ