「どうして最近会いに来てくれなかったんですかぁ!?寂しかったんですよぉ!?うわああぁん!!!」
いきなり叫ぶんじゃねえ!!!差し入れ全部打ち切り漫画にするぞ!!!
開幕でいきなり槌永さんに叫ばれた、アクリル板越しなのに凄くうるさい
「うぅ……」
なんだよ……差し入れはちゃんと送ってただろ?
「だ、だって……突然来なくなったので忘れ去られたのかなって……そうですよね、私みたいな女なんか忘れたいですよね……」
違うって……ほら、この怪我で来れなかったんだよ……
「………あっ」
思いっきり包帯巻いてんのになんで気づかないんだ……
「え、えへへ……焦りすぎちゃいましたかね……」
なんて頬をかきながら頬を染める槌永さん、なに照れとんねん
「……あれ?ということはもしかして……退院してから最初に面会した相手って……私ですか?」
まあ、そうなるな
「………えへ、えへへへへへ……そうですか……」
……にしても寂しがってくれたのは意外だったな、てっきり都合の良いサンタさん的な存在としか思ってないものかと……
「わ、私、そこまで薄情じゃないですよ!?」
………
「な、なんですかその目は!?こうして安全な場所でちゃんとした食事を摂れるのも安全な部屋で眠れるのも酒泉さんのおかげですし、感謝ぐらいしますよ!?」
正しくは協力してくれた人達全員のおかげ、な……あとアンタらの努力の成果?
「もちろん分かってますけど……うぅ……酒泉さんが私のことをどう思っていたのかよく分かりました……」
悪かったって……ほら、また差し入れのリクエスト聞いてやるから
「うぅ……今度はグルメ漫画が読みたいです……」
泣きながらもちゃっかりと貰えるもんは貰っとくあたり流石である
「それにしても……もうすぐなんですねぇ……」
ん?………ああ、裁判か
「きっと裁判が始まったら石を投げられたり速攻で死刑判決が下されたりするんですよね……」
治安悪すぎだろ………それに裁判とは言うけど、判決に関わってくるのはトリニティやゲヘナの生徒だし、よくある大人の関わる裁判ほどガッチガチではないだろ
………まあ、それでもかなり厳しいだろうがな
「ですよね……」
その辺の問題はトリニティで暴れまわったアンタらの責任でもあるからな………
事情があったとはいえ、やってしまったもんは仕方ない……諦めろ
「はい……」
本人もそれは分かっていたのか、言い訳をする事はなかった
……なんもかんもベアおばが悪い
「私達、どうなるんでしょうか……」
……詳しい事は教えられないけど、それなりにキツい立場になると思うぞ
「でもマダムに支配されていた時よりはマシですよね……きっと……」
それだけは間違いないな
「……また皆と一緒に居られるのでしょうか」
………槌永さん達がトリニティやゲヘナの皆に信用されたら許可貰えるかもしれないな
「それなら……どんなに辛くて苦しくても頑張らないといけませんね」
にへらと笑いながらそう答える槌永さん
よくここまで強く育ったもんだよ………あんなクソみたいな環境にずっと身を置いていながら厚かましさを失わなかった時点で、アリウスで一番メンタルが強いのかもしれない
「あっ……そういえばサオリ姉さん達は酒泉さんの怪我の事まだ知らないんですね……」
そうだけど……それが?
「いえ、アリウス自治区でサオリ姉さんが〝一生酒泉さんを護る〟みたいなことを言っていたので……落ち込むだろうなぁって思いまして……」
ああー……どう、だろうか?錠前さんとはあんまり会ってないし、そんな気に病まないんじゃねーか?
「え?そうなんですか?」
いや、一応面会には行ってるけど……他の人達ほどは会ってないな……
「それは……どうしてでしょうか?」
ほら……その、さ……初対面の時に結構ボロクソ言ったじゃん、俺
一応アリウス自治区でその事を謝りはしたけど……やっぱまだ気まずくてさ……だから面会に行ったとしても少し会話してすぐに帰っちゃうんだよな……
「酒泉さんは被害者側ですし悪くないと思いますけど……」
嘘だろ……?槌永さんに慰められたのか、俺……
「本当に私のことを何だと思ってるんですか!?」
ごめんて
「酷いです………と、とにかく!サオリ姉さんともお話してあげてください!……その、できればで構いませんので……えへへ」
最後の最後で謎に遠慮する槌永さん、よく態度が変わるなぁ……
……そうだな、裁判前ぐらいはちゃんと話してみるか
「あっ、それはそうと……差し入れの本は数巻ほど纏めて欲しいです……」
なんだこいつぅ~!?
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「終わった?」
ええ、終わりました………相変わらずでしたよ、槌永さん
「………そう」
そういやぁ、最近のゲヘナの治安はどんな感じですか?
「別にいつもと変わらない、便利屋を追いかけて温泉開発部を捕まえて美食研究会を反省室に入れるだけ」
………やっぱり俺もすぐに復帰した方がいいんじゃ……
「駄目、せめてもう少し治ってから………それでも暫くは書類仕事を手伝ってもらうけど」
ですよね……分かりました、治療に専念します
「……今日は随分と素直だね」
まあ……下手に怪我して空崎さん達に心配掛けたくないですし……
「……やっと分かった?」
滅茶苦茶時間を掛けてやっと分かりました
「ちょっと……ううん、大分遅いけど……気づけたならそれで良い」
……自分にとっては自己犠牲じゃなくても、他の人からしたらそう見えてしまうこともあるんですね
「……本当に気づくのが遅い」
は、半分は当たっています、耳が───
「半分じゃなくて全部でしょ」
───その通りです本当にすいません、はい
「……ちょっと説教っぽくなっちゃったね、ごめんなさい」
いえ、俺が百悪いので……
「……でも、今までもそうやって私達のことを助けてくれたのも事実だから……ありがとう」
「………じゃあ、そろそろゲヘナに帰ろっか。ETO関連の会議も終わったことだし」
……あ、俺はこの後ミレニアムに行ってきます
「…………………またあの会長さんの所に行くの?一人で?」
いや、今日は先生と明星さんも来ますよ……天童さんとケイさんのことで話があるので
「まあ、他の人と二人きりじゃなければ……先生も居るし………でも、心配だからミレニアムまで送る」
そんなに心配しなくても……調月さんも別にもう争う気は無いですから大丈夫ですよ
それに空崎さんだって今日はこの後も忙しいんでしょ?
「そういうことじゃなくて…………まあ、別の意味で争う事にはなるかもしれないけど」
えっ……ま、まさか今度はミレニアムと戦争でもするつもりですか!?また羽沼さんが何かやらかそうとしてるんですか!?
「………私、負けないから」
何で好戦的なんですか!?空崎さんが止めないととんでもない事になりますよ!?
「だから待っててね、酒泉」
両学園が崩壊するのを待てと!?
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「……この案も駄目ですか」
まあ、駄目というか確実性がありませんからね……
「また実験しようにも、今回ばかりは規模が違うからね」
「……まだまだ策はあるわ」
ミレニアム学園内の一室、滅多に人が寄る事がない教室
そこでは四人の人物が何かを話し合っていた
二人はミレニアムの生徒である明星ヒマリと調月リオ、いつもは鉢合えば何故か口論に発展してしまう(……というよりもヒマリから仕掛けてる)が、この日ばかりは互いに真剣に意見を交えていた
もう二人は先生と折川酒泉、酒泉は未来の知識を伝えに……そして先生はミレニアムだけではなく他の学園との会議にも出ている
「ケイの存在を残しつつ、アリスが力を行使できる方法……か」
「……いっその事、アリスに頼らないのはどうですか?」
敵がバリアを展開しなければそれでも良いんですけどねぇ………
「必要最低限のエネルギーでバリアを破壊するのは?確か前に酒泉もそんなことを言ってたよね?」
「色彩という未知の存在が使ってくる未知の力……それを突破する為の最低限のエネルギーをいきなり本番で細かく計算するなんて不可能よ」
……あっ!エリドゥはどうですか!?確かアビ・エシュフのめっちゃ精密な予測能力ってエリドゥの演算機能を使ってたんですよね!?
「……酒泉、貴方はエリドゥを丸ごと上空まで持ち上げるつもりですか?都市そのものを?」
あっ……
「………そもそもの話、消費エネルギーを抑えたところでアリスの消滅を防ぐ事はできるのでしょうか?エネルギーの消費量関係なく、発動した時点で問答無用で消滅が確定してしまうような力だとしたら……」
「恐らくだけど、その辺りの事は心配無いわ。酒泉からの話だとケイが消滅した後、モモイのゲーム機の中にケイのデータが一部残っていた……と聞いているわ。その事を考えると、自身のデータやバックアップを残しておく程度の余地はあるのでしょうね」
「つまり多くのリソースを最低限の力で利用すれば何とかなる……っと」
「……結局その話に戻ってしまうのですね」
未だに具体的な解決策を見出すことができずにいる一同は溜め息を吐く
キヴォトスもアリス達もどちらも救うと決意したのは良いが、残念ながら気合いで解決できる問題ではなかった
「……何としてでもあの子の笑顔を護らなければなりませんね」
ヒマリがそう言い、全員が視線を部屋の隅に向けると────
「あっ!トキ!そちらに行きましたよ!」
「お任せください、しっかりと爆弾の位置まで引き付けておきます」
(王女よ、恐らく次に狙われるのは我々です。ここは慎重に……)
「大丈夫です!この距離なら確実に避け………うわああん!何も無い所でダメージを受けてしまいました!亜空間タックルです!クソ判定です!」
(王女!そのような汚い言葉を使ってはいけません!)
「……此方に接近しました、今すぐ起爆────待ってください、今の攻撃はどう見ても当たっていないはずです。バグですか?」
……楽しそうですね
「だね……」
────そこでは会議が始まる前に遊びに来ていたアリスといつも通りリオのサポートをする為に来ていたトキが二人でゲームで遊んでいた
「あの二人はいつの間にあんなに仲良くなったのですか?」
「……トキもアリスもよく遊びに来てくれるから、多分その時に……」
「遊びに来てくれる……ですか」
「………何か?」
「いえ?随分嬉しそうですね?」
「………悪い?」
ニヤニヤしながらからかってくるヒマリ、リオは少しだけ顔を赤らめながら視線を逸らす
先生はそれを微笑ましそうに眺めながらも話を再開しようとするが、直後にアリス達の方から泣き声が聞こえた
「うぅ……見た目よりも当たり判定が大きいなんてズルいです……」
「こうなったら遠距離武器でひたすらチクチクします」
「で、でも……それは勇者らしくない戦い方と言いますか……」
「勝つことができればそれでいいのです、お互いに距離を取りながらひたすらその場で撃ち続けましょう」
向こうも向こうで作戦会議をしているが、その内容はリオ達の方よりも平和だ
「……その場で……」
……?どうしたんですか?調月さん
「……これは提案なのだけれど、いっそのことアリスを〝ウトナピシュティムの本船〟に乗せずに地上に残ってもらうのはどうかしら」
「もしかして……地上から敵のバリアを撃ち抜くつもり?」
「ええ……エリドゥの演算結果を送ることができて、且つエリドゥを直接リソースへと変換出来る。そのギリギリの位置でアリスに待機してもらうの」
「確かに、あの時ケイはエリドゥのデータを使って〝アトラハシース〟を起動しようとしていましたね……」
「それじゃあ、その方法を使えば────」
………あっ、最悪な事思い出しました
「────最悪な事?」
はい……えっと、確か俺達が乗る〝ウトナピシュティムの本船〟の全体リソースが9999万エクサバイトだったんですよ、一方のエリドゥは1万エクサバイトなので……その……
「……アリスやケイが消滅しない程度に抑えるとしても、それでも足りないかもしれない……と?」
「データ不足なんてレベルじゃないね……」
………はい
「「「…………はぁ」」」
上手くいきませんね……
(お、王女!まだ立ち上がってはいけません!)
「うわああん!今度は起き攻めを食らいましたー!」
「ご安心ください、私が全体回復を………あ、乙りました」