………
「………」
カチカチと針が進んでいくが、未だに会話が弾まない
……仕方無いだろ、何も話の種持ってきてないんだから
「その……他の皆は元気か?」
秤さんと戒野さんにはまだ会ってませんけど……槌永さんはいつも通りでしたよ
「そうか……」
……えっと、錠前さんの方はどうです?
「此方も何も変わらないさ……指定された時間に起き、決められた食事を摂り、指示された通りの事をする……それだけだ」
まあ、ですよね……
「………」
……ヤバい、会話止まった
いつもよりは話せているが、それでもこれは……流石に……
「………そういえば、先程怪我を負ったと言っていたが……相手はそれほどの強敵だったのか?」
よ、よかった……向こうから話を振ってくれた……!
いや、俺の注意不足っていうか……単純に油断しただけですね
「その身体では当たりどころが悪いと、銃弾の一発だけでも致命傷になってしまうだろう」
いやー面目無い……
「………やはり私が─────」
あ、でもそれだけじゃないですよ、最近良いことがあったんですよ
「……良いこと?」
怪我の功名というか……災い転じてというか……実は俺、これまでの戦いのおかげで自分で思ってるよりは強くなってたっぽいんですよね
だから錠前さんも俺のことを護るとか気にしなくていいですよ
「……そうか」
はい
「………………………そう、か」
………
「………」
……え?また会話止まった?しかもなんか落ち込んでない?何かミスった?
ヤバい、せっかく向こうから会話を振ってくれたのに俺が冷めさせてしまった
「いや……それも当然だな、お前の命を奪おうとした私なんかがどの口で護るなどと……」
……あっ!そういうことか!?
違いますよ!そういう意味で言ったんじゃなくて……その、もう俺に気を遣わなくてもいいって意味で言ったんですよ!?
「……そうだったのか、早計だったな」
はい、ですから────
「………だが、それでも私はお前を護りたい」
────そ……そう言われると断りづらいんですけど……
「迷惑………だろうか………」
また落ち込んだ表情に戻る錠前さん、ぶっちゃけ罪悪感がヤバい
……そ、そうだ!ここは他の事に意識を逸らそう!
錠前さん!外に出たら何かやりたい事とかないか!?
「お前を護りたい」
……そ、それ以外で!
「お前に恩返しがしたい」
………他には!
「お前を護る為の銃になりたい」
めちゃくちゃ重い鶴の恩返しかな?
これどう断ればいいんだよ………ん?待てよ?
錠前さんが相手ならケイさんの時と同じように色々と教えてあげればいいんじゃね?
「やはり……迷惑だったか……?」
……錠前さん、もし外に出たら何かやりたいことを探しましょう
「……やりたいこと?」
ああ……錠前さんのさっきの答えは、まだ表の世界のことを知らないから出た答えだ
だから一度夢中になれるものを探してみてください、もしかしたら〝俺を護る〟以外にやりたい事が見つかるかもしれないでしょ?
「……私なんかに見つけられるだろうか」
別にちょっとしたことでも良いんですよ、〝あれを食べたい〟とか〝あの映画が見たい〟とか……そんなありきたりなこととかでも
あっ、将来の夢なんか探してみるのも悪くないですね……それこそ先生と同じ─────
「……どうかしたのか?」
────……いや、俺の言うべきセリフじゃないなって思っただけです
まあ、とにかく色々と体験してみるのも悪くないと思いますよ?
「………」
錠前さんの表情を見ようとしたが、顔を俯かせているせいでよく見えない
ど、どうだ……?説得できたか……?
「……分かった、お前がそこまで言うのなら………やってみよう」
そうですか……それじゃあ────
「だが、もし私がやりたいことを見つけた後も〝お前を護りたい〟という意志が変わらなかったらどうする?」
……え゛
「その時は受け入れてくれるのか?」
………
時と場合により……ます……
「………今はそれで納得しておこう」
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それから数日後、酒泉は再びトリニティを訪れていた
……いや、酒泉だけではない。他のゲヘナ学園の生徒達も来ていた
風紀委員会や万魔殿だけでなく、今回のイベントを見に来た一般生徒まで演習場に集まっている
「さあ!とうとうこの日がやって来ました!ゲヘナとトリニティ、両校初めての合同訓練!その名も戦術対抗戦!」
上空には万全の状態で視聴者達に映像を届けようと、クロノススクールの報道部所属・川流シノンがマイクに熱意を込めていた
「両校間の複雑な問題を解決するべく設立されたETOですが、その繋がりをより深める為に今回の戦術対抗戦が組まれました!正直、勝敗の結果によってはより荒れると思うんですが………まあ、大して問題無いでしょう!」
少々本心を隠しきれていない実況をするが、ゲヘナ生もトリニティ生も大して気にしていない
何故なら────
「おや?何故トリニティに野蛮なお猿さんがいるのでしょうか?」
「へえ?トリニティのお嬢様方は全員貧相な身体してるっていうのは本当だったんだな」
「あれはゲヘナの……なんて汚らわしい……!」
「ハッ!トリニティの奴等は情けねえ羽つけてんなぁ!?」
「……一体いつからトリニティは動物園になったのですか?」
「動物園?鳥小屋の間違いだろ?」
────大半の生徒達が目の前の憎き相手を睨んでいるからだ
「……相変わらず物騒ですね」
「まあ、仕方無いよ……昔っから憎み合ってたのに、いきなり仲良くしろなんて言われてもさ……」
「今回の合同訓練、本当に効果があるのでしょうか……」
今にも罵り合いそうな者達を警戒しながら周囲を見渡すアコ達
よく観察してみると、一般生徒達と比べて理性的な風紀委員会や正義実現委員会の生徒達まで多少ピリピリしている
「あれ?そういえば酒泉君は?」
「酒泉なら……ほら、あそこ」
今回の訓練に参加するメンバーである酒泉の姿が見えずチナツが疑問に思っていると、イオリがミリタリーテントの隅っこを指差す
そこには目を瞑りながら両手を膝の上に置き、綺麗な姿勢で待機している酒泉の姿があった
「……かなり集中してますね」
「ああ、今回の相手は今まで戦ってきた中でもかなりの強敵だからね……そりゃ、集中するに決まって───」
やっべ……家の鍵掛けてきたっけ……多分掛けた……よな?
「───ごめん、そうでもなかった」
「ま、まあ……私も心配になることありますし、気持ちは分かりますよ」
普段と大して変わらない様子の酒泉を見て、多少雰囲気が和らぐ……が、その一方で他の生徒達の口論がヒートアップしていく
「……大体、今回の合同訓練など結果が分かりきっているのに実際に行う必要は無いのでは?」
「ああ、確かに分かりきっているね………風紀委員会の勝ちだ」
「……ゲヘナの人間はジョークのレベルすら低いんですね?」
「……は?」
「何か文句でも?」
一部の生徒達が今にも掴み合いになりそうな程に近づくと、そのまま互いに背中の銃を抜こうとし────
「………邪魔だ」
「どいて」
────背後から感じる逆らえない〝何か〟に動きが止まる
周囲に居た全生徒がそこに視線を向けると、剣先ツルギと空崎ヒナの二人が並んで立っていた
他の者達を意に介していないかのように歩き出すと、まるで海が割れるかの様に生徒達が離れていく
先程まで喧嘩していた者達はもう誰も口を開かない……いや、開けない
〝これ以上騒ぎを起こせば間違いなく目を付けられる〟そんな危機感が彼女達の行動を縛っていた
そしてその威圧感を放っていた張本人達は周囲の視線など気にせずにそれぞれの組織の仮拠点へと向かう
「……ごめん、待たせた」
「いえ、委員長はお忙しい身ですし仕方無いですよ」
「合同訓練が終わった後のことも話し合わないといけないですからね……」
「うん、だから訓練が終わったら撤収の準備はアコにお願いするね………ところで、酒泉は?」
先程までその場に居なかった為、酒泉の居場所が分からないヒナがアコに尋ねる
「酒泉でしたらあそこに……あれ?」
アコがミリタリーテント内を指差すと、つい先程まで座って待機していた酒泉の姿が消えていた
「……イオリ、チナツ、酒泉は?」
「えっと……知人に呼び出されたから会ってくると……」
「何かキレながら凄い勢いで走っていったよ」
「あ……あの男はこんな大事な時に……!首輪でもつけといて行動管理した方が良いんじゃないでしょうか!?」
「……………嫌な予感がする」
「………委員長?」
「時間までには戻るから」
「い、委員長までっ!?」
荷物を全て置いて全力で走り出すヒナ、アコが止めようとした時には既に手の届かない距離まで離れていた
「ま、まさか……あの時みたいに二人で密着して秘密の特訓を……!?」
「先に武器の準備だけしておこっか」
「そうですね……それにしても今回の訓練、大丈夫でしょうか……」
「なんて羨ま……けしから……妬ま……ズルい!」
「大丈夫って……何が?」
「その……今回の訓練って実弾じゃないですか、でも酒泉君の身体は……」
「……今更じゃない?風紀委員会の訓練でもずっと実弾使ってきたじゃん」
「何故ここまで扱いに差が……ま、まさか……私は嫌われて……?」
「………そういえばそうでしたね、よく今まで止められませんでしたね」
「調印式襲撃事件の辺りは委員長もピリピリしてて酒泉を訓練にすら参加させてなかったけどね」
「……いえ、これもきっとヒナ委員長からの試練なのでしょう………愛を超越すれば、それは憎しみとなりますから」
「今は酒泉君を鍛える方向に変えたんですね」
「うん、多分だけど二人で並び立ちたいんじゃないかな」
「分かりました、ヒナ委員長………私は貴女の帰りをずっと待っていますね……」
「じゃあ、雑談もこの辺にして……」
「はい、行きましょうか」
──────────
────────
──────
「やっほ~☆酒泉君がボロ負けするところが観られるって聞いて急いで草むしり終わらせてきたよ☆」
じゃあ……死んでもらおっかな?
突然モモトークで人をおちょくるようなメッセージを送られてぶちギレながら会いに来ました、折川酒泉です
他の人からだったら〝あーはいはい分かりましたよ〟で済ませるんだけど、この人だけはこの前負けまくったこともあって気に入らない
……え?いつの間にモモトーク交換したんだって?ボロ負けしたあの日に無理矢理スマホ奪われたんだよちくしょう
「それにしても……まさか風紀委員会と正義実現委員会が公の場で直接やり合うなんてねー」
まあ……これからは連携が必要な機会も増えてくるでしょうし、大事なことなんじゃないですか?
「ふーん……でも大丈夫なの?相手にはあの剣先ツルギがいるんだよ?他の子達だってそれなりに強いのに……」
はあ?こっちには空崎さんがいるんだぞ?それに情報分析能力がずば抜けている天雨さんだって、戦いながら仲間の身体の状態に気づける火宮さんだっているんだ
銀鏡さんに関してはよく一緒に突撃していた俺自身が一番強さを分かってるっての、〝空崎さんだけの風紀委員会〟なんてのはとっくの昔に終わってんだ
「………随分と信頼してるんだね」
そりゃあ……な、空崎さんだけに負担を掛けないように皆で鍛えまくったからな
「…………………ふーん?そんなにあのちっちゃな委員長さんのことが好きなんだ?もしかして……そういう趣味?」
はあ!?変な言いがかりすんな!別にそんなんじゃないって!
「どうかなぁ?セイアちゃんとも仲良しだったし、話によると確か白洲アズサとも病院で会ったことがあるらしいよね?」
何でそれを知って……いや、白洲さんとは別にそんなんじゃないっすよ……確かにトリニティで会ったら毎回話しかけられますけど
とにかく俺にそういう趣味はありません!絶対に無い!
「それにしては随分と入れ込んでるね、そんなに委員長さんにお熱なの?」
本当に人の話聞かないなアンタ……まあ、お熱ってのはある意味間違いではないな
「……どういう意味?」
だって………
「……酒泉、そろそろ時間────」
ずっと近くで空崎さんの強さや賢さを見てきたからな……そりゃあ、お熱になるほど憧れもするだろ
「────え?」
背後から何度も何度も聞いてきた安心するような声が聞こえ、振り向いてみる
すると、空崎さんが固まって佇んでいた
「………空崎ヒナ」
……聞いてました?
「………うん」
コクリと小さく頷かれる
うおぉ……マジか……別に隠すことじゃないけどなんか恥ずかしいな……
「でも酒泉、気持ちは嬉しいけど………私は憧れられるよりも────」
「あれ?もうこんな時間だけど……酒泉君達、戻らなくていいの?」
ん?……やべっ!?遅れるところだった……!
「…………」
「……あはは☆そんな睨まないでよー」
「……貴女じゃ勝てない」
「別に?酒泉君なんてどうでもいいけど?」
「誰も酒泉のことなんて言ってない」
「………」
「………」
すいません空崎さん!思ってた以上に話し込んじゃって……!
「……早く行けば?」
「……言われなくても」
俺の所まで歩み寄ってきた空崎さんはそのまま手を握って来た道を引き返した
……別にそんなことしなくても迷子にはならないんですけど
「………どうでも……いいもん」
──────────
────────
──────
「さあ!間もなく始まります!ゲヘナとトリニティ、互いのプライドを掛けた………え?あくまで今後の連携を強化するため?」
「えー……分かりましたよ……ゴホンッ、ゲヘナとトリニティ!互いを高め合うためのこの合同訓練!その名も戦術対抗戦!」
「メンバーは五対五!ルールは至ってシンプル!お互いの陣地に立ててある旗を奪うだけ!」
「ただし!奪うと言ってもただ単純に引っこ抜くだけではありません!まずは旗の棒の部分に付いているスイッチを押す必要があります!」
「するとどうでしょう!ゲヘナ側の旗のスイッチを押せば旗がトリニティのマークに!トリニティ側の旗のスイッチを押せば旗がゲヘナのマークに変わります!」
「つまりはお互いの旗を自身の学園のシンボルで塗りつぶせ!……ということです!勿論一瞬で終わるはずもなく、完全に塗りつぶすには合計で十分間スイッチをオンにした状態を維持しなければいけません!」
「その間にスイッチを切られることもあるかもしれませんが……その場合はカウントダウンは止まりますが、残念ながら侵食状況は変わりません!再びオンにされたらまた途中から進み出してしまいます!」
「選出メンバーはトリニティ側からはツルギ・ハスミ・マシロ・イチカ・コハルの五名!」
「ゲヘナ側からはヒナ・酒泉・イオリ・アコ・チナツの五名です!」
「では、両チームとも配置についてください!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……酒泉、本当に一人で平気なの?」
大丈夫っすよ銀鏡さん、ちゃんと作戦通りにしますから
「アコは途中から私達と離れて待機して、戦況によっては酒泉の方にドローンを飛ばして援護して」
「了解です……申し訳ありません、戦闘向きではないばかりに……」
「気にしないで、その分他の能力が優秀だって知ってるから」
「い、委員長……!」
「イオリには最初に突撃して敵を撹乱してもらう、チナツはその援護と一時離脱後の弾等の補給をお願い、イオリの怪我の状態次第では援護が遅れても良いから手当てしてから来て」
「分かりました……ごめんなさい、イオリ。負担を掛けてしまいますね」
「気にしないで、いつも通り突撃してくるからさ!」
「ふふっ……落とし穴には落ちないでくださいね?」
「えっ!?流石に無い……よね?」
……あの、空崎さん。少しいいですか?
「……どうしたの?」
敵は剣先さんを必ず攻撃部隊として送ってくる、そして俺達がそれを迎撃する為に空崎さんをぶつける………と向こうはここまで想定している可能性が高い
その裏をかき、敢えて俺が旗の防衛を行う
そして俺が耐えてる間に空崎さん達の猛攻で一気に旗を奪う……で、いいんですよね?
「そうだけど……再確認したかったの?」
いえ、そうではなくてですね………この作戦って俺が剣先さんの攻撃を耐え切ること前提ですけど……
別に倒してしまっても構わ「無理しちゃ駄目」はい、ごめんなさい