非常対策委員会の設立から数日後、連邦生徒会及びシャーレは各学園の代表者達に招集をかけた
双方からの呼び出しとなれば断る理由もなく、予定の合わなかった者に対しても後から会議内容を報告することになった
「お迎えに上がりました、先生」
「ここから先は連邦生徒会の本部であるサンクトゥムタワーまで私達が警護いたします」
シャーレのオフィス内で待機していた先生の元に二人の生徒が集まる
彼女達は今回の事件の会議へ向かうまでの間、不知火カヤ防衛室長の命令によって先生を護衛する為に送られてきた………という事になっている
「……ヴァルキューレが?」
「はい、シャーレの非常ヘリポートにヘリを用意しております」
ヴァルキューレの制服を着た彼女達は二人で先生を挟み込み、誰も入り込む余地のないほどに警戒する
まるで要人の護衛にも囚人の護送にも見えるその光景は誰の目にも触れることはない
彼女達はそのまま先生の安全を確保しながら進み、やがて屋上に辿り着く
扉を開けると、その先には通常のヘリよりも明らかに重装甲なヘリが着陸していた
「……移動で戦術輸送ヘリを使うなんて、なんだか豪華だね?」
先生の足がピタリと止まる
「………ええ、警察学校ですので。財政には余裕がある方ですから」
一瞬間を置いてから答える生徒達、先生はそれを見逃さなかった
しかし疑惑の眼差しを表に出すことなく話を続ける
「余裕がある?それはおかしいね……ヴァルキューレの財政状況は全体的に良くないって聞いたけど?」
「……誰からそのような話を?」
「ヴァルキューレの生徒から直接ね」
「…………何とか一機分用意できましたので」
「……私一人の為だけに?」
「先生はこのキヴォトスにおいて最も重要なお方です、何もおかしくないと思いますが」
「……その〝重要なお方〟をたった二人で迎えに来たんだ?」
「………あまり大勢で押し掛けても人目につきやすいだけですので」
「人目を気にするなら尚更戦術輸送ヘリを使わない方が良いんじゃない?」
とうとう疑問に答えることなく黙り込んでしまう
二人は無言で目配せすると、先生の背後に立って急かすように喋り出す
「……お急ぎください、あまり時間を掛ける訳にもいかないので」
「各自治区の代表者がお待ちです」
二人は先生の肩に手をかけようとし、そして────
「……っ!?誰だ……!」
────更に背後から、何者かに腕を掴まれる
「誰だ……だと?自分を直接育て上げた上司の名前すら忘れたのか?」
「……っ、貴女は……カンナ局長……!?こ、これは失礼しました!重要な任務だったが故に、つい気が立ってしまいまして……!決して貴女への恩を忘れていた訳では……!」
「冗談だ」
「………は?」
「お前みたいな奴は知らん、育てた覚えなどない」
次の瞬間、二人の生徒がホルダーから銃を引き抜いてカンナに向ける
しかしカンナは一人の生徒の腕を引っ張って盾にし、そのまま目の前に向かって蹴り飛ばす
「ぐっ…!」
「何故……こんな所に……!」
そしてそのまま、バランスを崩して倒れ込んだ二人の額に二発の弾丸を放った
「ありがとう、カンナ。助かったよ」
「……礼を言うのはまだ早いですよ」
そう言って戦術輸送ヘリに視線を向けると、中から複数の兵士達が出てくる
「……カイザー」
見覚えのある装備で自身に向かってくる彼等を視認した先生は、ポケットから携帯を取り出して通話ボタンを一度だけ押した
「がっ!?」
「なっ……狙撃だとっ!?」
隣の仲間が突如気絶したことで狼狽える兵士達、そんな彼等に容赦なく追撃が襲いかかる
『あ、あの……これで良かったのでしょうか……?』
「うん、流石はミユだね」
先生は携帯をしまい、今度は通信機を取り出して会話を始める
『こちらRABBIT1、付近の敵の制圧は完了しました』
『こちらRABBIT2、此方側も異常は………おい待て!モエ!何をしようとしてるんだ!』
『だって私の出番だけ無いせいで暇なんだもん……ねえ先生!トドメにでっかい花火打ち上げたくない?』
「……シャーレが燃えちゃうから止めてね?」
冷や汗を流しながらモエを止めると、そのままゆっくりとヘリに近づく
「さて、と……あとは操縦士の貴方だけかな?」
「なっ……馬鹿な!私達の計画がバレていたとでも言うのか!?」
「うん、まあ……そりゃそんな反応するよね……でも私達も必死だからさ、だから────」
「────大人しくしててくれる?生徒を傷つける存在を見逃すわけにはいかないんだ」
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「……まさかこんな事になるなんてねー」
「先生!カンナ局長!お疲れ様です!」
ドーナッツを頬張りながらダラけるフブキとは対象的に、ハキハキと二人に敬礼をするキリノ
その後ろでは多くのヴァルキューレ生達に連行されていくカイザー兵の姿が
「私は何もしてないよ、SRTとヴァルキューレの皆が護ってくれたお陰さ」
「……そういえば、先生は何故私に護衛を依頼したのですか」
「え?」
「護衛なら私がいなくともRABBIT小隊だけでも事足りたのでは?」
鋭い目付きで睨みながら問いただすカンナ
先生は少し考え込んでから口を開く
「……実はカンナのことを信じてる生徒からの提案なんだ」
「………信じてる?この私を?」
「うん、あの子はカンナの汚職を知ってても尚、カンナの正義感を信じていたよ」
「………」
「だからカンナも、もう一度前を向いてみてほしいな。今まで積み重ねてきてしまった罪は消えないけど、それと同じようにカンナの行ってきた善行やそれに惹かれた子達のその時の思いだって消えはしないんだから」
カンナは自身の過去の罪を気にしているのか、ばつの悪そうな表情で視線を逸らす
「随分と物好きな生徒がいたものですね………そいつに会ったら伝えておいてください、〝お前のせいでもう一度働かされる羽目になった〟と」
「はは……」
「では、私はこれで………会議の方、頑張ってください」
(………名前は出してないからセーフ………だよね?)
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───数時間前、ゲヘナ学園・風紀委員会───
「もうっ!一体何処をほっつき歩いてるんですか!あの男は!」
『何でこんな日に……!アコちゃん!何か情報は!?』
「あったらとっくに伝えてますよ!くっ……やはり首輪をつけておくべきでした!」
「く、首輪?アコ行政官、一体何の話を……」
『……アコ、そっちは?』
「い、委員長……申し訳ありません、今のところは何も……」
『……委員長、この辺りの監視カメラも停止している』
『……ここからは私とイオリで手分けして機能してる監視カメラを探すから、アコとチナツもそれぞれ別れてナビゲートして』
「わ、分かりました!」
「……委員長、あのタヌキ共だけで大丈夫なのでしょうか?」
『……先生もいるし、そんなに酷いことにはならない……………と思う』
「………そうでしょうか」
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「……うん……うん……分かった、会議が終わり次第、すぐに私も向かうよ」
深刻そうな表情でスマホをポケットにしまい、会議室を見渡す先生
(これは……マズイ事になったかな)
「先生?どうかされたのですか?」
「いや、後で伝えるよ………今、言ったら大変な事になりそうだしね……」
先生は何かあったのかと危惧するリンに返事をしながら視線を生徒達に向けると─────
「そっちの風紀委員君、到着するの遅くな~い?ゲヘナみたいな倫理が崩壊し切っている学校では何も連絡せず重要な会議に遅刻することが許されてるんだね☆」
「ほう?風紀委員〝君〟か……キキキキッ!」
「……何?その不快な笑いは」
「いや?まるで個人を指すような言い方だと思ってな?」
「………はあ?私はただ、必要最低限の常識は守るべきだって言ってるだけなんだけど?」
「落ち着きなさい、彼が何の事情も無しに会議を休むなんて有り得ないわ。彼は約束を守る事に重きを置いているもの」
「……随分知ったような口を聞くんだね?セミナーの会長さん?」
「……?当然よ、だって私と彼は互いのことを理解し合っているのだから」
「……本当にそうかなぁ?彼もただ目上の人に気を遣って接してただけじゃないの?」
「それこそ有り得ないわ」
「知ってる?酒泉君って結構口が悪いんだよ?すぐに私のことを煽ってくるし、女の子相手に平然と失礼なこと言ってくるし………でも、それって私に対応してる時の態度が素の状態ってことじゃない?」
「彼は自分勝手な計画を強行しようとしていた私にまで寄り添ってくれたわ、間違いなくこっちの状態が素よ」
「………貴女みたいなお偉いさんがあんな一般生徒相手にお熱なんて、周りの子達から不満が出るんじゃないの?」
「今は私も一般生徒だし彼と同じ立場よ、今回はセミナーの新代表がまだ正式に決定していないから参加してるけれど……」
「キキキキッ!見ろ、イロハ!二大校の元トップ共が言い争いをしているぞ!これほど滑稽な姿はそうそう見れないぞ!」
「全く……ミカ、君も少しは落ち着け。私達はここに喧嘩しに来た訳じゃないんだぞ……だが、確かに酒泉本人から何の連絡も来ないのは不自然だな。彼はその辺は律儀なタイプのはずだが……」
「………本人から連絡?どういうこと?」
「もし酒泉の記憶にも無い異常事態が発生したら、その時は私の勘に頼る………そう言った話を事前にしていたんだ」
「………セイアちゃんは余裕そうでいいよね、こういうのなんて言うんだっけ、彼女面?」
「私も彼も〝未来を見たことのある者〟という共通点を持っている、本当の意味で彼の心情を理解してあげられるのは私ぐらいだろうさ」
「今度は身内同士で喧嘩ときたか!キキキキキキッ!」
「……ミカさん、セイアさん、お願いですからこんな時まで煽り合わないでください」
「……うへ~……なんだか大変な事になってるね~」
「………うん」
疲れ果てた目で皆を見守る先生、そんな彼に同情するかのような視線でホシノが話しかける
「その酒泉君?って人が遅刻しただけでこんな事になるの?随分執着されてるみたいだけど……」
「まあ、彼にも色々あってね……結構重めの感情をぶつけられてるというか……」
「たった一人の男の子相手に?うへ~………痴情のもつれってやつ?おじさんにはちょっと理解できないかなぁ……」
他人事のように言うホシノ、そのまま枕をテーブルの上に置いて眠りに入ろうとする
……が、隣にいたシロコに取り上げられる
「駄目、皆に怒られる」
「まあまあ、この惨状が静まるまでちょっとお昼寝するだけだからさ~」
「……アヤネにチクる」
「うっ……」
自身の後輩がキレる姿を想像したホシノは渋々といった感じで起き上がる
「そういえばさぁ……他の学園の子達は?まだ何人か来ていないみたいだけど?」
「あまりにも突然すぎる招集で予定が合わなかったところもあるからね、その辺りはこの会議が終わった後で私から連絡するよ」
「……まあ、しょうがないよね、本当にいきなりだったもん」
ホシノは少し前に自分達の身に起きたことを思い出す
………アビドスの皆と共に行動している時、突然現れたあの〝謎の面の人物〟について
謎の光と共に襲来し、状況を整理する暇すら与えずにシロコを飲み込もうとして────
『………っ!シロコちゃん、危ないっ!』
────指先が光に触れるかどうかのところで、何とか間に合った
その後は即座に仲間達がカバーに入り、ホシノ達を護るように謎の面の人物の前に立ちはだかる
それを見た謎の面の人物は暫く彼女達と向かい合った後─────何も仕掛けることなく光と共に消えていった
(攻撃してきたかと思えば、何もせずに退いていくなんて………最初の一撃で決めるつもりだったのかな?)
結局、敵の目的も何も分からぬまま会議に来てしまった
カイザーPMCなんて目じゃないほどの正体不明の敵、ホシノが現状で分かっているのはそれだけだった
(………でも、私達と向かい合った時、なんとなく悲しそうな感じがしたんだよねぇ………表情すら分からないのに─────)
「おっ……おお!?このプリンも中々いけるな!?」
ホシノの思考を中断させるほど大きな声が部屋に響く
声の主を見てみると……
(……え?髭?)
レッドウィンターの代表者として来ていた連河チェリノが金髪の少女と共にプリンを食べていた
「でしょー?酒泉が昨日、私に持たせてくれたんだー!〝もし会議中にプリンを欲しがる子がいたら、その子と分け合って食べなさい〟って!」
「ほう?そちらの学園には随分と気の利く生徒が居るのだな!」
なんだそのピンポイントすぎる状況、周りで話を聞いていた者達は全員困惑する
酒泉の事情を知る者達だけが納得したような表情で頷く
「あの男……いつの間にイブキと……!」
「あっ!マコト先輩とイロハ先輩の分もあったよ!はい、あーん!」
「イブキの〝あーん〟だと……!?キキキキキッ!でかしたぞ!中々優秀な男ではないかっ!」
……これは完全に余談だが、そのプリンと一緒に〝絶対にバックレんなよ?〟という紙がマコト宛てに張り付けてあった
まさか自分がバックレる事になるとは酒泉は思いもしなかっただろう
「……先生、そろそろ始めてもよろしいのでは?会議の後でシスターフッドからも重要なお話がありますし……」
「重要な話?それは我々全員に関係することですか?」
「それは……ここでお話するには、少し……」
「……シスターフッドはまだ何か私達に隠し立てしていることがあるのですか?」
「まあまあ、本当にやましい話ならこんな所で言ったりしないはずだからさ……ね?」
秘密主義と呼ばれるシスターフッドの長、歌住サクラコが動いたことで救護騎士団・蒼森ミネは疑惑の目を向ける
……が、先生に宥められたことでそれ以上の追及はしなかった
ミネが渋々ながら引き下がると、今度は再びミカが話し出す
「……で、結局どうするの?ゲヘナの風紀委員抜きで会議するの?」
「そうだね、今は現地で暴れてる生徒達と戦闘中みたいでさ……」
「ふーん……?まあ、煩いのが居ない分、気が楽になるし別にいいんだけどね☆」
「その割には随分と身支度に時間がかかったじゃないか」
「………はあ?いつもこれくらい時間かけてるけど?オシャレすらした事のないセイアちゃんには分からないか☆」
「……………ロールケーキの材料を買っておく必要があるみたいですね、二人分」
「イブキ!頼む!もう一度だけでいいから!」
「えー?でも、もうイロハ先輩の分のプリンしか残ってないよ?」
「それで構わんっ!」
「私が構うんですよぶん殴りますよ」
「このプリン、レッドウィンターにも欲しいな……よし!帰りにゲヘナに寄って全て買い占めるぞ!………なに?トリニティの限定販売だと!?ええい!何とかしろ!」
「………シスターフッドは本当に何も企んでいないんですよね?」
「まだ疑うのですか……」
「当然でしょう、これまで散々隠し事をしてきたのですから………最近だと〝わっぴー〟という秘密の暗号を使って組織内でやり取りをしているのだとか……」
「えっ!?い、いえ……それは……その……」
「先生ー、始めなくていいのー?」
「……モモカ、アユム、リンちゃん、私は初めて仕事を放棄したくなったよ」
「だ、駄目ですよ!?」
「………お気持ちは分かります」
このあとめちゃくちゃ頑張って先生が纏めた、大人って凄い