だってよぉ……他の番外編でもいっぱい戦ってるんだぜぇ!?これ以上必要ないだろぉ!?
………もしかして酒泉君の運命の人はベアおばだった?
シャーレを出てから数時間経った
大人のカードとシッテムの箱は常に私の元に、体調に変化無し、念の為次の日の予定は全部キャンセルした、現場で応急手当できるように道具だって揃えた
準備は万端、後はアツコにアリウススクワッドが潜んでいそうな場所を聞いて保護しに行くだけ
シャーレのオフィスに入るとアツコと視線が合う
私が彼女に話しかけようとする前に、彼女が困惑した表情で先に口を開いた
「あれ?なんでここに…………酒泉と一緒にサオリ達を探しに行ったんじゃ……」
「………えっ?」
むしろこれから探しに行く予定だったんだけど………私一人で
「えっと、もしかして………酒泉に何か聞かれた?」
何か嫌な予感が脳裏を走り、冷や汗をかきながら恐る恐るアツコに問う
お願い、お願いします、外れてください、予感が気のせいであってください
「うん……〝先生と一緒に残りのアリウススクワッドを探しに行くから心当たりのある場所を教えてくれ〟って……」
……最悪だ、嫌な予感が当たってしまった
ポケットからスマホを取り出し、急いで酒泉の連絡先に電話をかける
1コール、2コール、暫く…………出ない
掛け直す、出ない
また掛け直す、出ない
焦りながら画面を操作しているとモモトークに一通のメッセージが入っていることに気づいた
『やっぱり俺が助けに行きます、先生はシャーレで秤さんを護っててください』
「………は?」
血の気を引く感覚に襲われ、一気に顔が青ざめる
嘘でしょ?あれだけ言ったのに駄目だったの?
「……もしかして……私、余計なことしちゃった……?」
「……ううん、貴女のせいじゃないよ」
心配そうに顔を上げるアツコ、だけどこれに関してはこの子は悪くない
あの程度の口論で大人しくしてくれると思ってた私の考えが甘かった
「……ねえ、私にも酒泉が向かった場所教えてくれないかな?」
「迎えに行くの?それなら私が案内して………」
「アツコはマダムって人に狙われてるんでしょ?それなのに自分から敵地に連れていく訳にはいかないよ………大体の地形やルートさえ教えてくれたら後は私が向かうからさ」
そうだ、今すぐ酒泉を連れ戻さないと────いや、その前にまずはアツコの護衛を誰かに頼まないと
でも誰に?ゲヘナ?トリニティ?駄目だ、どっちの生徒もアリウスを恨んでいる
ならそれ以外の生徒に?………無関係な子をエデン条約絡みのゴタゴタに巻き込んでしまうかもしれないのに?
なら私がここで護った方が─────いや、酒泉を一人で行動させる訳にはいかない
駄目だ、思考が纏まらない、どうして、落ち着かないと
そうだ、ここは酒泉に意見を─────違う、その酒泉を連れ戻さないといけないんだ
なんでこんなに焦る、戦地での指揮だってもっと冷静にこなせるのに
どうすれば………どうすれば─────
「………すみません、取り込み中でしたか?」
「……えっ?」
「貴女は確か……さっき私を助けてくれた人達の……」
開けっぱなしの扉の方から声が聞こえて振り向く
そこにはシャーレで酒泉の手当てをしていた人達の一人が立っていた
名前は確か………
「ユキノ……だったよね?どうしてここに……?」
「彼に……酒泉に任務を言い渡されてここまで引き返しました、外では他のメンバーも待機中です」
「……任務?任務って何の?」
「それは………先生と秤アツコの護衛です」
「────っ……ぇ……?」
私と……アツコの……?
どうして……だって、私は何も聞いてないのに……
なんで……なんで私には何も頼って─────
「……先生?顔色が優れないようですが……?」
「────っ!な、なんでもない!大丈夫だから気にしないで!」
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「て、敵は……?」
ちょっと待ってろ………何人か見張ってるな
「………ねえ」
「ど、どうします……?迂回しますか……?」
いや、もし先に錠前さんが捕らえられていたとしたらこれ以上時間を掛ける訳にはいかない
ここは強行突破するぞ……
「きょっ……強行突破!?大丈夫でしょうか……?」
「………ねえって」
最初から戦闘になることは想定していたんだ、ここまで体力温存できたなら十分だろ
「うぅ……きっと辛い戦いになりますよね……」
「聞いてよ」
仕方ないだろ、ここまで来たからには覚悟して─────いってぇ!?腕がっ!?
「……ふん」
どうも、何とか戒野さんと槌永さんは発見できた折川酒泉です
残った錠前さんを探す為に双眼鏡で見張りのアリウス生を監視していたら突然腕に痛みを感じた
最初はどっかから狙撃されたのかと思ったけどよく見ると戒野さんがつねってきただけだった
な、なんでこんな事を……
「さっきから無視してくるのが悪い」
もう……で?何の用ですか?
「そろそろ腕離してくれない?」
却下
「………」
何か言いたげな顔で睨んでくるけど知らんぷり知らんぷり
だって、こうでもしないと─────勝手に自傷するんだもん
今は少しでも戦力を温存しておきたいんですよ
「……私の身体をどう使おうと私の勝手でしょ」
少なくともアンタらに酷い目に合わされた俺はアンタら全員に仕返しする権利があると思うんですよね
やられたらやり返すってどっかの銀行員が言ってた、やられてなくてもやり返すってどっかの弁護士が言ってた
「後者に関してはただの八つ当たりじゃん………まあ、何が言いたいのかは分かったよ。要するに〝散々迷惑かけたんだから俺の言うことに従え〟ってことでしょ?」
そう言って理解したように頷く戒野さん
話が早いな……ならここからは大人しく俺に従って自傷行為を控えてもらおうか!
「嫌だ」
なんでさ
「調印式襲撃っていう大事件を起こした凶悪犯罪者が素直に従うと思う?」
うーん、確かに………向こうからしたら俺に協力する理由なんか無いもんな─────などと、俺を言い包められた気になっていたお前の姿はお笑いだったぜぇ!
「何その顔………腹立つんだけど」
戒野さん、アンタ……その気になればいつでも俺の手を振り解けただろ?
アンタの身体は他の生徒達より弱いのかもしれないが………頭にヘイロー浮かばせてる以上は少なくとも俺より力は強いはずだ
……もし違ったとしても俺よりほんの少し下か同程度はあるだろ?
「……私が自分の意思で振り解かなかったって言いたいの?」
錠前さんのこと、心残りなんだろ?
「………っ」
俺の一言にピタッと言葉が詰まる
表情の変化は口元や眉間が僅かに動いた程度だが、俺の目ならそのぐらいでもすぐに見破れる
………別にずっとアンタを縛るつもりはない
この戦いが終わった後なら自傷でもなんでも好きにするといいさ
「………仮に私が素直に手を貸したとして、簡単にリーダーを……サオリ姉さんを助け出せると思ってるの?」
そこについては五分五分って感じだな
錠前さんが連行中ならアリウス自治区に連れ込まれる前に助け出してすぐに引き返す、もしとっくに自治区に連れ込まれてたなら………
………気合いでどうにかする
「………嘘でしょ、そんなプランで私を説得しようとしてたの?」
可哀想な人を見るような目をするんじゃあないっ!
前世含めても知能レベルが高一なんだからしょうがないだろう!
……とは思ってても口には出せないチキンハート折川です
うーん、どうしよう……なんか良い説得……
あっ……一つだけあったわ
「……なに?」
アンタさ……〝皆助かったとしてもどうせまた苦しい世界に引き戻されるだけ〟とか思ってるか?
「……それが何か悪いことなの?事実でしょ?この状況を乗り越えたとしても結局私はこんな脆い身体で苦痛だらけの世界で生き続けなきゃいけないんだからさ」
あー……でもさ、そんな苦痛だらけの世界でもちょっとの幸せがあれば多少は生きる意味を見出だせるかもしれないぞ?
例えば………
「………例えば?」
マダムが………あのババアがめちゃくちゃ悔しがるっ!!!
「………は?」
考えてみろよ!今まで子供のことを道具としか思っていなかった奴が突然その道具+αに痛い目に遭わされて長年の計画をめちゃくちゃにされるんだぜ!?
そんなババアの悔しそうな表情を思い浮かべてみろよ!きっとかなりのマヌケ面だぞ!?
〝あのババアが地団駄を踏んでいる間にも私達は幸せに向かって歩いてるぞー〟って!
それだけで生きる気力が湧いて「こない」
………湧いて「こない」
「それだけで前向きになれたら苦労しない」
即答された
……ま、まあ……だよな……そんなことで元気になれるのは性格がねじ曲がってる奴ぐらいしか────
────あれ?もしかして俺って性格ねじ曲がってる?でもちょっと人を煽るのが得意なだけだぞ?
それも敵と戦う時とか友達とプロレスする時ぐらいしかやらないし………セーフだよな?普通の性格だよな?
「…………けど、まあ」
……ん?
「ちょっとだけ面白そうだね、マダムの………アイツの悔しがる顔」
お、おお……!?てことは……!?
「いいよ、この作戦が終わるまでの間だけは利用されてあげる………どうせこの身体も捨てるつもりだったしね」
よっしゃあ!説得成功!
………後半の物騒な言葉は聞かなかったことにしよう!うん!
「じゃあ、少しの間だけ私の首輪のリードは預けとくね」
……首輪?
「いや、あの女の下を抜け出した時点で猟犬ですらないか………それなら〝道具〟と〝持ち主〟とか?」
ま、まあ………協力してくれんなら道具でも持ち主だも何でもいいけど──────やっぱ今の発言無しで、出来れば猟犬のままでお願いします
これ以上〝武器〟とか〝道具〟を自称する人が増えると女性を物扱いする最低野郎の烙印を押されるんで………
「……どんな交遊関係してんの?」
色々ありまして………決して俺が自分からそういう扱いをした訳じゃないので軽蔑するような目を向けないでほしい
「あのぉ……そろそろ私も会話に参加してもよろしいでしょうか……?」
あっ、そういえば居たわ
「すっかり忘れてた……」
「うわあああああん!!!どうせ私なんて誰の目にも映る価値のないただヘソが変なだけの穀潰し女ですうううううう!!!」
バレないように小声で叫ぶ槌永さん
それ凄いな……声帯どうなってんだよ……
とりあえずやかましいので口の中にカロリーメ○トを突っ込んどいた
「……で?ここからどうするの?」
とりあえず俺の合図で一斉に見張りを襲うぞ
「……了解」
「りょうらいれふ」
「………先に飲み込んでよ?」
足音を立てないように進み、見張りの背中がハッキリと見える位置まで移動する
彼女等は無線機に向かって何かを話している………他の部隊と連絡を取っているのか
丁度良い、今のうちに一気に気絶させて────
「待って、様子がおかしい………撤収の準備をしている……?」
戒野さんに手で制止され、再び身体を潜める
意識を見張り達の会話に集中させて耳を澄ます
「そうか、了解した………やっと捕らえたか」
「一切のバックアップ無しでここまで粘るとは………流石はアリウススクワッドのリーダーだな」
「そんな実力者も今ではすっかり裏切り者だがな………よし、我々も合流するぞ」
「了解」
…………合図は無し!今すぐ正面から突っ込むぞ!