「……さて、私達もそろそろ動き始めましょうか」
「ははははいっ!壊れた列車を暴走させてそのまま命を散らせばいいんですよね!?わ、分かりました!一生懸命死にます!」
「あはは!ハルカちゃん相変わらずだね~!」
『いや、死んだら駄目でしょ……第二部隊はビナーを引き付けたら第一部隊と合流して対象を挟撃するよ』
爆薬やその他諸々の物資を積んだ、少々ボロい列車の上で少女は堂々と佇む
赤色の……ワインレッドのコートを身に纏い、己の愛銃をその手に持ちながら遠方を眺める
『列車の上に乗って移動するから、いかに怪我をしないかが大事』
「ええ!一番危険なポジションは私達便利屋68に任せてちょうだい!それがハードボイルドというものだもの!」
「くふふっ!すっごい楽しそう!ジェットコースターみた~い!」
これから戦場に身を投じるとは思えないほど楽しそうに語る少女達
各々が作戦の成功を信じているかのように気軽に口を開く
「そうそう、列車は最後に破壊するつもりだけど………文句はあるかしら?」
『それについてはお気になさらないでください。どうせ今は使われていませんから………それに、あの列車こそがアビドスの衰退に拍車をかけた切っ掛けですし…………それが、世界を救うお役に立てるのなら………これ以上嬉しいことはないです』
カヨコとは別の通信先────別のポイントで待機しているノノミにそう問い掛けると、少しの悲しみを帯びた声と共に返事が返ってきた
『……まさか、この列車がネフティスグループの───』
『はいはい、昔話はその辺にして………こっちは準備オッケーだよ~』
『はい!〝シャーレコントロール0号〟応答願います!第一サンクトゥムはスタンバイ完了です!』
一瞬だけカヨコが何かを呟きかけるが、それを遮るようにホシノが話を進める
『じゃあ、他の場所ももう始まってるみたいだし………おじさん達もぼちぼち始めよっかー』
『だね………あ、社長。そういえば風紀委員会から連絡』
「………え゛っ」
キリッとしていたアルの表情が一瞬で崩れる
彼女の脳裏には浮かぶのは紫の目を光らせて己に銃口を突きつけてくる一人の悪魔
「なっ……ななななな何よ一体!?私達、まだ何もしてないわよ!?」
『普段からやらかしすぎてるけどね………まあ、風紀委員会からってよりは酒泉からって言った方が正しいかな』
「酒泉から?………ま、まさか!この前風紀委員と交戦した時の件で怒ってるんじゃ………!?」
『〝焼き肉セットとしゃぶしゃぶセット、どっちが良い?〟………だってさ』
「………え?」
想像していた伝言とは違う言葉を掛けられ、キョトンとするアル
何の話だ、そう問う前にカヨコが続きを述べる
『………まあ、要するに賄賂じゃない?〝事件が解決した後も大人しくしてろ〟ってことでしょ…………事件後の後処理とかで何処の学園も忙しくなるだろうし』
「……る………わよ」
『………社長?』
「舐めるんじゃないわよ!たかが食べ物ごときで私が釣られると思ってるの!?」
『………じゃあ、そう伝えて────』
「どっちも用意しておくように伝えておきなさい!!!」
「あっははは!アルちゃん結局釣られてるじゃーん!」
「仕方無いでしょう!暫く依頼が来てなくて冷蔵庫の中身がすっからかんなんだから!」
『………ちなみに〝どうしてもというなら両方も可〟らしいよ。完全に財布事情バレてるね』
「良い!?絶対に生きて帰るわよっ!夜は焼き肉よっ!」
「はっ……はい!私、アル様の為に頑張ります!」
「派手に行こっかー!」
『うへー……相変わらず変わった人達だねー』
『……私も変人扱いされてるの?』
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「………って!楽勝ムードだったはずなのに!なんでこうなるのよおおおおおおお!!?」
『……まあ、そんな予感はしてたよ』
「あ、アル様!また壁にくっついてきました!」
「も~!しつこいなー!」
列車に張り付いてくる無名の守護者達
その触手のようなコードを巧みに操り、列車内に飛び乗ってくる
とはいえ、全ての敵が列車に侵入している訳ではないが………それでもかなりの数の敵が前方で待機していた
「邪魔しようってつもり?上等よ!このまま突っ切ってやるわ!」
列車の勢いは衰えることなく進み続け、そのまま前方の敵の集団を弾き飛ばす
何体かがタイミングよく列車に移ってくるが、アルは焦ることなく冷静に撃ち抜く
「ア……アル様に触らないでください……!」
それでもなおコードを使って列車の窓に張り付く機械共をハルカがショットガンで撃ち抜くと、ボトッと落ちた後に小さく爆発を起こした
「よくやったわ、ハルカ!」
「は、はい!………あっ」
「……ハルカ?」
「わ、私なんかがアル様の出番を………………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「だ、誰も責めてないわよ!?」
「相変わらずだねーハルカちゃんは」
アルは移動中の列車の上に立っているにも関わらず、バランスを崩すことなく慌てふためく
そんな器用(?)さに感心しながらも、カヨコは更に前方に敵エネミーの反応を検知したことを伝える
『……まあ来る……けど……これまでの雑魚敵とは違って形が違うね』
「………漸く骨のある相手が現れたって訳ね」
『これは……他の戦場からも報告が上がっている重装甲型の奴だね』
無名の守護者type.B
かなりの強敵……とまでは行かないものの、それでも一対一では多少時間を食われるような相手が接近してきていた
『どうする?さっきの奴等みたいにまた乗ってくるかもしれないけど………』
「どうするですって?そんなの決まってるじゃない…………列車の上での決闘なんてアウトローでハードボイルドな私にピッタリなシチュエーションじゃない!」
『……それ、アウトロー関係ある?色んなアクション映画で見るけど……』
カヨコの予測通り、type.Bは列車の全面に張り付いてきた
勢いで吹き飛ばされる前に全面に槍のような尾を突き刺して身体を固定し、そのままギチギチと音を鳴らしながら列車の上に移動する
「ハルカ!ムツキ!他の連中は任せたわよ!カヨコは新しく敵が来たら教えてちょうだい!」
『了解、常に警戒しておくよ』
「くふふっ!オッケー!」
「わ……分かりました!死んでも守ります!」
「死ぬのは無し!私の自慢の部下なら生きて勝ちなさい!」
「は、はい!」
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『────気をつけて!ビナーからレーザーが発射されるよ!』
マキの警告と共にビナーの口に光が集まる
各員、それを回避するために移動─────することなく、全員がホシノの後ろに隠れる
『うぇ!?何してるの!?早く避けないと!』
「まあまあ、見てなって~」
レーザーが発射されると同時に、ホシノは盾を構えながら前に飛び出る
そのまま盾とレーザーがぶつかり合い、周囲に衝撃と余波が走る
僅かにホシノが押され始めるが、それでも盾を手放すことはなくレーザーを受け止め続ける
暫くその状態が続いていたが、エネルギーの限界を向かえたレーザーが爆発を巻き起こす
『嘘っ……大丈夫!?応答して!』
確実にダメージを負ったであろうメンバーを心配し、必死に声をかけるマキ
『皆さん!次のレーザーが来る前にビナーに接近してください!』
『……えっ!?で、でも……皆は……』
自身の先輩達を心配するどころか、次の指示を出すアヤネに困惑するマキ
シロコはそんな彼女の肩をポンッと叩き、戦闘状況を映し出しているモニターを真っ直ぐ見つめる
『…………ん、大丈夫。あの程度じゃ─────』
「うへ~……手が痺れちゃうよ~」
『────ホシノ先輩のガードは崩せない』
『嘘……』
目立った傷もなく、平然と立ち上がるホシノを見て唖然とする
だからアヤネは心配していなかった、それを理解したマキはアビドス最強の生徒の実力に戦慄する
『………凄いね、あの人』
『………ん、自慢の先輩』
「通信機越しでそんなこと言われちゃうなんて………おじさん照れちゃうな~」
「照れてる暇はないでしょ!早く移動しないとまた攻撃が────って、何やってるの……?」
「んー?いや、湿布持ってたかなーって……」
「今やることじゃないでしょ!?」
「まあまあ、ホシノ先輩もお歳なんですから☆」
「だからっ!殆ど変わらないって!言ってるでしょっ!?」
セリカに背中を押されながら走るホシノとノノミ
ビナーはそんな三人に狙いをつけるが、撹乱するようにバラバラに逃げるせいで上手く捉えられない
かといってレーザーで再び焼き払おうとすれば、即座にホシノの元に集まって攻撃に備える
少数精鋭であるアビドスの連携が遺憾なく発揮されていた
『………アビドスって全員強いんだね』
『そう……なんですかね?他と比べる機会がないのでなんとも……』
『………相手が誰だろうと決して負けたりしない。攻撃も防衛も銀行強盗も御茶の子さいさい』
『………銀行強盗?』
『……………ん、なんでもない』
『あ、あはは…………』