「……そうか、それが君の選択だというのなら……止めはしないさ」
ティーカップを静かに置き、俺の目を真っ直ぐ見つめてくる百合園さん……………と、シマエナガ君
ちょっと指を伸ばせば口をつけてくれる、正直めちゃくちゃ可愛い
「おや?目の前の女性よりもその子を口説くのに夢中なのかい?少し妬けるな……」
若干頬を膨らませながら両手で優しくシマエナガ君を包み込む百合園さん
ああ……俺の癒しが没収されてしまった……
「残念ながらこの子はあまり他人には懐かな────待て、どこに行く?」
……おっ?おおっ!?シマエナガ君が自ら俺の手元に……!?
そうかそうか……そんなに俺のことが好きなのか……それなら仕方無いよなぁ……!?
「……そういえばこの子は初めて君に触れられた時もすぐに懐いていたな、君は人だけでなく鳥類を口説くのも得意なのかい?」
言い方!誤解を生むからそれ!
……でも、確かにすぐに懐いてくれましたね、この子
警戒心の薄い個体……とか?
「……もしかしたら、私と君が似た存在だからこそ本能でそれを感じ取っていたのかもしれないな?」
ニヤッと笑いながら俺の鼻をツンとついてくる百合園さん
突然男女の距離感を破壊するような事をしてこないでほしい、シマエナガ君に夢中じゃなかったらドキッとしていたかもしれない
……似た存在、か
「……あの時はこれ程長い付き合いになるとは思ってもいなかったな」
百合園さんにとって俺は謎の存在だったんでしたっけ?
「ああ……予知夢には存在していなかったのに、現実では大暴れしていた謎の人物さ」
懐かしいなぁ……あの時は目の前の問題を片付けるのに精一杯でアリウスの事もベアトリーチェの事も大して考えてなかったなぁ……
錠前さんに直接身を狙われてから本格的にベアトリーチェをぶっ倒すことを決意したんだっけ……
「私の悪夢を何度も砕いてくれた………これは前にも言ったな?」
そうですね……俺的には全部自分の目的の為でしたけど
「だとしてもそれで多くの人達が救われたんだ………あの事件で傷つくはずだった人達が、な」
改めて正面から言われると……なんか照れ────
「でも、その度に君は傷ついていった」
…………
「調印式の時も、アリウス自治区でも………話によればミレニアムでも事件に巻き込まれたそうじゃないか」
……まあ、そうっすね
「誰かを救う度に君が傷つくというのなら………今回も同じようなことが君の身に降りかかるかもしれない。だが、それでも私は君のことを止めはしない」
「………君が傷ついた先に君の望む世界があるのなら、私が何を言おうとも君は止まってくれないのだろう?」
……すいません
「なら、私にできる事は一つ………地上を、君が帰るべき居場所を守りながら君の帰りを待ち続けるだけだ」
百合園さんが椅子から立ち上がって俺の前まで近づくと、その小さな両手で俺の顔を挟んできた
その目は様々な感情が籠っているように見えたが、その中でも一番濃く感じたのは〝悲しみ〟だった
「……頼むから、能力を失った私に再び〝悪夢〟を見せないでくれよ?」
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ミカの弾丸と酒泉の弾丸が互いの右腕にヒットする
ベチャリと赤い液体が飛び出るが、二人は痛みを感じていないかのように動き続ける
互いの頭部目掛けて銃口を向け、互いにそれを回避する
ミカが決着をつけようと一歩踏み込むと、酒泉は背後の防壁に身を潜めて迎え撃とうとする
だが、ミカは防壁の前で拳を振りかざし────真正面から壁をぶち抜いた
回り込んでくるだろうという酒泉の考えを逆手に取り、正面突破を選んだミカ
そのまま硬直しているであろう酒泉のマヌケ面に一発入れてやろうと銃口を構え────崩れる防壁の奥から顔を現したのは、ニタリと悪党のような面で笑いながらミカに銃口を向ける酒泉の姿だった
しまった────そう思った時には既に遅く、ミカの額に弾丸がぶち当たり、そのまま額から赤い液体を流した
思考を完全に読まれた………その事実に嬉しさを感じつつも、敗北による悔しさがこみ上げてきた
ミカは静かに目を閉じ、そして────額の赤いペイントをハンカチで拭き取った
─────ッッッッシャオラァ!!!俺の勝ちぃ!!!
「……2勝1敗1分けで私の勝ち越しだし」
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────────
──────
「こっちは防衛戦終わった後で疲れてるんだけど?」
蛇口で顔を洗っていると聖園さんが愚痴を溢してくる
……いや、そもそも呼び出されたのは俺の方なんだけどな
こうして応じてやったんだから、最終決戦前の調整ぐらいは文句言わずに付き合ってほしい
「……まあ、確かに呼んだのは私からだけどさ……こんな時まで戦わなくてもよくない?」
……そうだ、結局俺を呼び出した理由ってなんですか?
「それは……酒泉君が敵地に乗り込むって聞いてさ……」
聖園さんは急にしおらしくなると、チラッと此方に視線を向けながら呟く
なんだ……?いつもなら〝酒泉君程度の実力で大丈夫なの?すぐ死んじゃうんじゃない?〟とか煽ってきてもおかしくないのに……
「………今回ばかりはいつも通りの人助け感覚じゃどうにもならないかもしれないんだよ?それでも行くの?」
……ん?
「ほら……危険な仕事は身体が丈夫な人達に任せてさ、酒泉君は地上に残るっていう手もあるわけだし……」
……まさか……俺の心配してます?それで呼んだんですか?
「……はぁ!?別に酒泉君の心配なんてしてないけど!?他の人達の足手まといになるんじゃないかなーって思ってただけだし…………………」
まあ、そりゃそうか……あの聖園さんが俺の心配をするはずが─────
「……………ごめん、やっぱちょっとだけ心配してた」
─────おっとー?明日は隕石の雨かー?
なんだなんだ、変なもんでも食ったのかこの人
「……私さ、何度も酒泉君のこと〝嫌い〟って言ってきたじゃん?」
まあ、はい
「……でもさ?バシリカで私のこと助けてくれたり色んな物を失った後の私のことを気に掛けてくれたりしたでしょ?だからさ……その……なんだかんだでちょっとは感謝してたりするんだ……本当にちょっとだけだよ?」
〝ちょっと〟の部分をやけに強調してくるが、俺としては別にそこはどうでもよかった
なぜならそんな事よりも〝聖園さんに心配されていた〟という事実に驚いているからだ
「つまり何が言いたいのかっていうと………しゅ、酒泉君が助けを求めるなら、少しぐらいは私も力を貸してあげてもいっかなーって……」
いや、もう船に乗る枠無いんで無理です
「…………」
そんなジト目で見つめられても無理なもんは無理だ
残念ながら脱出シーケンスの数は決まって………いないけど、なるべく原作と同じ人数で攻め込みたいのだ
……まあ、そんな心配しなくても戦力面で言えば空崎さんも一緒だし大丈夫だろ
「……え?あの子も一緒なの?」
はい、頼んだら了承してくれましたよ
「…………ふーん?酒泉君は私よりもあの子の方が戦力面で頼りになるって思ったんだぁ?」
いや、聖園さんだけじゃなくて誰よりも頼りになると思ってますよ
「……私よりもあの子の方が強いって?」
当然じゃないですか……何を今更……
「………」
「酒泉君の目って実は節穴だったりしない?それか単純に頭が悪いのかな☆」
やべぇ……俺、ゴリラの言葉分からないんだよな………ウホッ?ウホホ?ウホッ?
「空に飛び立つ前に地中に埋められたいのかな?」
おいおい、どこから脱走してきたんだよコイツ……近くの動物園で検索っと……
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さて……と、百合園さんの話によればこの辺りのテントに────お?いたいた!
おーい、錠前さーん
「……ん?酒泉か!?どうしてこんな所に────いや、それよりもその怪我は……」
ちょっと命狙われましてね……でもそんな重傷は負ってないっすよ
「………然り気無くとんでもないことを言わないでくれ」
冗談っすよ……それよりも今、時間空いてます?
「……あまり長くは取れないが……」
それで構いませんよ、ちょっとお喋りしにきただけなんで
「……つまり────」
「────私と直接話す為だけにここまで来てくれたのか?」
いや、ミレニアムとかトリニティとか色々回ってます
ですから〝自分の為だけに申し訳ない〟とか思わなくていいですよ!
「…………そうか」