「あわわわわ………私のキャラの体力がもう半分に……!」
────ほい、またカウンター
「ぎゃーす!?」
モモイのキャラが吹き飛ぶと同時にK.Oの文字が画面に浮かび上がる
勝者である酒泉は例の〝コロンビア〟の画像のように両腕を上げた
────ミドリさん、これで戦績は?
「お姉ちゃん0勝、酒泉君が13連勝だね」
────で?〝折川酒泉の攻略法を見つけた〟とかほざいてたモモイさん、何か言うことは?
「……ノ」
────ノ?
「ノーカン!ノーカン!ノーカン!」
突然腕を振り下ろし、己の敗北を取り消そうとする情けない少女
自らの姉の小物っぷりを見せつけられたミドリの悲しそうな視線など露知らず、その理不尽な怒りは酒泉に向けられる
「近接特化のキャラに対してカウンター持ちキャラ使うのは反則じゃん!ズルだよズル!」
────読み負ける方が悪い
「で、でもキャラ相性とかだってあるし!」
「お姉ちゃん……他の組み合わせでも全敗してたでしょ?」
「はい!有利対面で三回連続で負けているところ、アリスのこの目でハッキリ見ました!」
「うぐぐぐっ………そ、そうだ!それじゃあ酒泉は私が指定したキャラを使ってよ!それなら今度こそ勝てるからさ!」
「そ、それは流石にハンデをつけすぎなんじゃないかな……?」
ユズの苦笑を見なかったことにし、もはや形振り構わず勝利をもぎ取ろうとするモモイ
しかし酒泉は圧倒的に不利な条件を前にしても尚も笑みを崩さない
「その顔は……同意ってことで良いんだね?」
────来いよ、床の味をその舌に染み込ませてやるよ
「FATALITY………!」
コントローラーを持ち上げ、素早い操作で二人分のキャラを決めるモモイ
酒泉にコマンドを読ませる時間すらも与えずその手にもう一つのコントローラーを握らせ、画面のカウントが0になると同時に速攻で攻撃を仕掛ける
「不可避の速攻だよっ!」
「き、汚い……流石お姉ちゃん汚い……!」
「一度だけ……せめて一度だけでも酒泉の顔を歪ませたい……!」
「歪んでるのはお姉ちゃんの性根だよ……」
モモイの唯一の勝ち筋は酒泉が普段使わないキャラの操作に慣れるより前に決着をつけること
その為にモモイは自分が使い慣れている、かつ有利対面のキャラを再び選んだ
(攻めの手を緩めるな……!このまま一気に押し込むっ!)
モモイの読みを捨てた強攻撃を前に、酒泉のキャラの体力ゲージが少しずつ削られていく
……だというのに酒泉の表情には全く焦りが見えず、それどころか片手でスマホを操作して自分が使うキャラのコマンドをネットで調べていた
だが、自分が有利だと勘違いしてる可哀想な少女は画面に夢中でその事に気づかない
「基本的な択が近接技しかない酒泉君のキャラに対し、豊富な遠距離技を持ち、逃げ性能も高いお姉ちゃんのキャラ…………これって─────」
「はいっ!モモイの勝ちです!」
「アリスちゃん、多分それ言わない方が良かったかな………」
「うげ─────ッ!!!」
「あっ、モモイが負けた……」
「おんなじムーブ繰り返してたらそりゃそうなるよね………」
────天晴れ………って程でもなかったな、貴様のことは生涯………いや、この試合明日にでも忘れそうだな………
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──────
「……そういえばさ、酒泉君って今日はどんな用事でミレニアムに来たの?」
────んー?いや、ちょっとセミナーの会長さんに話があってな……
「セミナー?」
アリスとモモイの対戦画面を眺めながらミドリが酒泉に尋ねる
結局、あの後はモモイの心が折れたことで決着がついた
事前に決めていた罰ゲームとして後日酒泉にアイスを奢ることを約束させられ、この日は未だに一度も勝利を味わっていないモモイは〝今日のモモイはとっても弱いですね!〟というアリスの悪意無き挑発に乗ってそのまま対戦相手を変更した
「それってシャーレの仕事関連?」
────まあ、そんな感じ……かな?
「なんで曖昧なの……?」
────今日はシャーレとしてではなく折川酒泉個人として話をしてきただけだからな………あっ、これ一応先生には内緒で頼むな?
「えっ?先生には伝えられないようなこと────」
「やりました!アリス、三連勝です!」
────顎がっ!!?
会話の途中で突然アリスの後頭部が酒泉の顎に直撃する
……然り気無く誰も触れていなかったが、アリスは試合中ずっと酒泉の膝の上に座っていた
どうやらアリスによると………
〝酒泉の上に座っているとアリスの全機能のスペックが120%まで引き上げられます!〟
………らしく、そんなことはあり得ないと思いつつも屈託の無い笑顔を向けられた酒泉は断ることができなかった
「酒泉!見てましたか!?進化したアリスの力を!」
────おーバッチリ見てたぞー、ちょっと見ない間に随分と成長したなー
「ご褒美としてナデナデを要求します!」
────はいよー……これも久しぶりに要求されたなー
「……そういえば酒泉君、ゲーム開発部に顔を出すの自体久しぶりだよね?」
────えっと……実はちょっと前に怪我して、それが治ったかと思えばまた無理しちゃって……
「えっ……だ、大丈夫なの?」
────とっくに治ってるし大丈夫だよ……さっき見せた通り、モモイさんに完勝できるぐらいは動けるからさ
「なんか馬鹿にされた気がする!」
手をひらひらと振って怪我の完治をアピールする酒泉
そんな彼に対してアリスは頬を膨らませ、不満そうに睨む
「アリス、知らされてません!」
────ん?何が?
「酒泉が怪我をしていたなんて……今、初めて聞きました!」
「前にゲームの練習に付き合ってほしくてモモトークした時に断られたけど………もしかして、その時怪我してた………?」
────あー……はい、そうです。あの時は花岡さんがオンライン大会に出るって聞いてたんで、余計な心配かけない方がいいかなーって思って……
「そ、そっか……ごめんね?大変な時に連絡しちゃって……」
────いえ、俺の凡ミスが原因なんで………さて、それじゃあ俺はそろそろ帰りますね
「あれ?もう行っちゃうの?」
────用も済みましたし、明日も早いんで……じゃあ、さようならー
「あっ!アリス、外まで送ってきます!」
アリスを膝から下ろして立ち上がる酒泉
そのまま扉を開けて全員に手を振り、部室から出ていく
そんな彼を送る為にアリスはコントローラーを起き、急いで酒泉の後を追いかける
「……そういえばさ、酒泉とアリスって二人で行動してること多くない?」
「確かに………さっき言ったようにゲーム開発部に顔を出すのは久しぶりだけど、ミレニアム自体には何度も来てるし……」
「そ、その度にアリスちゃんと一緒に行動してるよね…………」
「そういえば最近はエンジニア部やヴェリタスの人達ともよく一緒に行動するようになってたね」
「……でも、お姉ちゃんはそれの何が気になるの?」
「え?」
「もしかして………お姉ちゃんも酒泉君と二人で────」
「わあああああっ!ほら!ゲームしよゲーム!今日こそ姉妹で決着をつけよっ!?」
「まだ最後まで言ってないんだけど……」
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────次の実験、明後日だってよ
「分かりました!アリス、頑張ります!」
ミレニアムの廊下を歩く二人
外は日が暮れはじめ、窓からはオレンジの光が差し込んでくる
「えへへ……楽しみですね……」
────……そうか?
「はい!だって、アリスの中にアリスの新しい仲間が居るんですから!皆に紹介するのが楽しみです!」
自身の身体に手を当て、嬉しそうに微笑むアリス
………天童アリスの中に眠っていた存在〝Key〟
それは、キヴォトスを終焉へ導く為の鍵
彼女は自分の正体を酒泉と明星ヒマリ………そして〝セミナーの会長〟から聞かされた上でそれを受け入れたのだ
勿論、酒泉だっていきなり真実を全て話した訳ではない
まずは〝魔王〟という存在への価値観に疑問を持たせ、そこからアリスが己の中の存在を………世界を滅ぼす力を持つ〝魔王〟を受け入れられるようにする為の土台を作り上げた
〝人を助ける魔王は悪い魔王なのか〟
〝優しい魔王は悪い魔王なのか〟
〝もし魔王が自分で自分の道を選ぶことができない存在だったらアリスはどう思うか〟
そういった話を繰り返し、アリスの中での魔王=悪という固定観念を少しずつ修正することができた
そこからは後はじっくり時間を掛けて己の中の存在と対話をするだけ………周囲からの念入りなサポートの元、アリスは己の中の存在と対話することに成功した
……とはいえ、相手側の反応は未だに素っ気ないが
それでもアリスの言葉になら多少反応してくれるだけマシだろう、他の者達には一切の言葉を返さないのだから
「アリス、いつかケイと一緒にゲームがしたいです!」
────ああ、絶対にその願いは叶うさ……なあ?ケイさん?
酒泉とアリスは話しかける、未だ己の存在理由を見つけられないでいる少女に対して
相変わらず少女は何も語らないが、それでも酒泉には何となく和解できる気がしていた
原作でケイが消滅する寸前に見せてくれたあの表情、あの感情
ケイにもしっかりと感情があるという事を酒泉とアリスは知っている
(………貴方の思い通りにはなりませんよ、折川酒泉。私は絶対に絆されませんからね)
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「……ノア?どうかしたの?」
ノートPCを弄り、何らかの報告書を作成している先生に視線が向けられる
ノアと呼ばれた白い長髪の少女は、いつもなら先生の隣で共に仕事をしている折川酒泉という少年が居ないことに疑問を持つ
………勿論、酒泉だけ休みの日だって当然存在する
ただ、ここ最近は先生が仕事の時は〝ずっと〟酒泉を隣に置いていたからノアは違和感を覚えたのだろう
「い、いえ……今日は酒泉君と一緒ではないので珍しいと思いまして……」
「そう?確かに私と酒泉は一緒に行動することが多いけど、別にいつもくっついてるって訳じゃないし………」
「えっ」
まさか先生は自分の行動を客観視できていないのか、ノアはそう思ったもののその考えを口にするのは止めておいた
「それに……今日はセミナーの方に用事があるみたいだしね……」
「あら……そうなんですか?」
「うん、どうやらセミナーの会長に呼び出されたらしくて………ノアは何か知らない?」
「いえ、特には何も聞かされていませんが………最近酒泉君がミレニアムに顔を出す機会が増えた事と何か関係があるのでしょうか?」
「………えっ?それ本当?」
自分の知らない情報を聞かされて仕事をする手が止まる先生
その直後から先生の喋り方が若干焦ったように変化する
「そ、その………酒泉ってミレニアムで何か変なこととかしてない?」
「変なこと……とは?」
「えっと……た、例えば危険な事に私に内緒で首を突っ込んでるとか……」
「そうですね………私がよく見かけるのはアリスちゃんと二人でお散歩している微笑ましい光景ですけど……」
「あっ、そうなんだ………本当にそれだけだよね?」
「……先生、流石に心配しすぎでは?確かに酒泉君はちょっと目を離すといつの間に泥だらけになって帰ってくるような子ですけど……」
「そんな好奇心旺盛な幼児じゃ………いや、やっぱり幼児の方がまだ大人しいかもしれない………」
どこか不安そうに視線を上げてくる先生
そんな彼女に対してノアは〝幾つか質問してもよろしいでしょうか〟とメモ帳を手に取る
「先生、ここ最近で酒泉君が仕事を始める時の位置は?」
「私の隣」
「それはどうして?」
「監視しやすいからだけど……?」
「一昨日オフィスで酒泉君の上半身が裸になっていたのは?」
「あれは怪我がないか確認してただけだよ、また私の知らない所で戦っているかもしれないしね」
「じゃあ、先生は酒泉君以外の生徒にも同じ様なことをやっていますか?」
「────っ」
ノアの最後の質問に言葉が詰まる先生
暫く硬直してから少しずつ冷や汗を流し、恐る恐るノアに尋ねる
「……ノ、ノア。もしかして私……過保護……だった?」
「………その、控えめに言ってかなり」
「…………」
漸く自分の行動の異常さを自覚したのか、先生は両手で顔を覆って〝しまった〟と呟く
「………ノア、休日にモモトークで〝今何してるの?また勝手に戦ってない?〟って感じのメッセージを何度か送ってるんだけど………これはアウトかな?」
「それだけでしたらただ生徒を心配している教師というだけですので────」
「多い日には同じようなメッセージを三回送っちゃう時もあるんだけど」
「────……ま、まだセーフだと思います」
「酒泉がシャーレに来る日、毎回私から迎えに行くのは?」
「それも問題無いかと………」
「……ほ、本当に変な場所で変な事してないか確かめる為に写真を要求するのは?」
「………少しだけ……アウトに片足を踏み入れているかと……」
「………どうしよう、絶対にウザがられた」
先生はガクン!とデスクに頭を打ち付け、そのまま顔を伏せる
今、彼女の頭の中ではこれまで酒泉に対して行ってきた行動が順番に脳裏に浮かんできている
〝それじゃあアレもアウトだったのかな〟
〝流石にアレはセーフだよね?〟
〝いや、そもそも寝る前に掛けるのは絶対にアウトでしょ〟
〝でも本人は嫌がってなかったし………〟
そんな事をひたすら繰り返し考える先生、しかしノアに話しかけられた事で漸く負の思考のループから抜け出した
「その……先生は酒泉君のことを心配しているんですよね?」
「うん……」
「それは〝先生〟としてですか?それとも………」
「………?当然〝先生〟としてだけど……それ以外にあるの?」
「……いえ、何でもありません」
何かを言いたげなノアに首をキョトンと傾げる先生
しかし、自身の頬を両手で叩いて先程まで落ちきっていた気をなんとか取り戻す
「……よし!ノア、私決めたよ!これからは酒泉を縛りすぎないようにする!心配のあまり生徒の自由を奪うなんて先生としてどうか────」
瞬間、鳴り響く携帯
振動は先生の端末から、名前は〝ユウカ〟と表示されている
モモトークから掛けられた訳ではない………つまり重大な〝何か〟かもしれない
そう判断した先生は先程の様子からは想像がつかないほど真剣な目付きですぐに通話ボタンを押す
「もしもし、ユウカ?どうしたの?」
『先生!確か今日の当番はノアでしたよね!?ということにはすぐそこに居ますよね!?』
「うん、そうだけど………ノアに代わろうか?」
『いえ!そのままスピーカーにして二人で聞いてください!』
ユウカの焦った様な声からやはりただ事ではないと確信した先生
そのまま携帯のモードをスピーカーに変更し、ノアも先生の携帯に耳を近づける
『いいですか!落ち着いて聞いてください!たった今、ミレニアムで────』
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〝天童アリスが暴走した〟
電車を降りて改札を通った後という最悪なタイミングで調月さんからそんな連絡が届いた
なんでや!数時間前に別れたばかりなのになんでもう事故発生してるんや!
ざけんなや、フラグが折れん、ドブカスが
暴走実験は今日はもう終わったはず、天童さんが自ら暴走の引き金を引いたとも考えにくい
となると、〝名もなき神々の王女〟に引き寄せられた不可解な軍隊が偶然監視網を抜けて接触してきたか、もしくは天童さんが監視外の場所に居る時に偶々接触したかのどっちかだな……
どちらにせよ俺達がやる事は何も変わらない、怪我人が出る前に天童さんの暴走を止めて少しでも天童さんのメンタルダメージを軽減させることだ
特に原作通りモモイさんが意識不明の重傷を負った場合がやばい、ゲーム開発部の精神的支柱がへし折れるし理屈抜きの感情論で調月さんを止められる人が居なくなる
調子に乗りすぎた、カルバノグの件もアリウススクワッドの救出も最悪な事態になる前に全部事前に解決できたせいで良い気になりすぎていた
あの時点での色彩襲来の可能性を潰せたからって舞い上がりすぎていた、本人には可哀想だけどもっとガッチガチに天童さんの行動範囲を縛るべきだった
目的地に近づくに連れて少しずつ増えていく機械の軍団
奴等を処理しながら走り続けると、現場にはC&Cと暴走する天童さんの背中が─────は?ゲーム開発部も……?
説得の為にモモイさんが掴みかかり、天童さんに何かを叫んでいる
しかし、天童さんは口元を全く動かさず、言葉一つ発しない
巨大な銃身を構えてエネルギーをチャージしている天童さん、その銃口の先にはモモイさん
脳裏に過るは原作の展開………より、更に酷い状況
マズイ、あの位置はマズイ
あのままだと超至近距離でモモイさんがスーパーノヴァを食らうことになる
耐えられるのか?あの距離でも意識不明で済むのか?本当に?本当に原作通り無事で済むのか?
………手榴弾はある、背後から強力な一撃を与えれば銃口を逸らさせることは可能か?
そのままスーパーノヴァが地面に直撃して爆発でも起こせば此方もかなりのダメージは受けるだろうが、それでも死ぬよりはマシの痛みだろう
………という訳で─────
────モモイさんっ!!!そこ退けええええ!!!
「っ!?酒泉!?」
天童さんの背後から迫る俺を見て目を丸くするモモイさん
彼女は一歩も動かないが、代わりに近くにミドリさんが駆け寄ってモモイさんの腕を引っ張る────と、同時に天童さんの背中に手榴弾を投擲する
が、軌道に割り込むように不可解な軍隊が飛び出し、奴等に当たった手榴弾は途中で爆発してしまう
………それで構わない、直撃しなくとも衝撃で体勢を崩させることには成功したからだ
体勢を崩した天童さんのスーパーノヴァの銃口が下に向く………っ、駄目だ、あの位置だとギリギリでモモイさんの脚に直撃する
それを暴走状態のAIでも理解しているのか、天童さんは攻撃を中断することなく引き金を引く────直前に駄目押しとばかりに天童さんの背中に飛び蹴りして更にバランスを崩させる
銃口は完全に地面に向かう、後は俺が退却するだけ
蹴りを放った脚に力を込め、そのまま天童さんの背中を足場に後ろに跳躍する─────直後、背後から謎の衝撃を食らい、再び天童さんの近くまで飛ばされる
は?一体何が起きて─────不可解な軍隊?まだ生き残りが?
てかこれヤバくね?俺だけ避難失敗しt─────
酒泉君「先生を危険に巻き込まなくてもエデンやカルバノグなんとかできたし、今回も同じようにイケるやろ!」
酒泉君「ぐえええええええええ!!!」