新兵器に心踊らねえ奴いる?いねえよなぁ!?
「むぐぅ!?むぐ!んぐぐー!」
「これは……」
「……また貴女達の仕業ですか、美食研究会」
ウトナピシュティムの内部……に入る前、船の近くに一台の車が置いてあることに気づく
ゲヘナ学園で何度も見たことがあるその車に嫌な予感がバッチバチにしながらも、俺達風紀委員はそれを確認しにいった
「あら、当然でしょう?だってフウカさんは我らと志を共にする仲間なのですから」
「フウカは美食研究会じゃないでしょ」
「……?」
「そこで困惑されても……」
その車の後部には縄でぐるぐる巻きにされた愛清さんが隠されていた
俺は無言で縄をナイフで切り、涙目で何かを訴える愛清さんを解放する
「ぷはっ……えっと……ありがとう、酒泉君」
────……
「……酒泉君?」
愛清さんが話しかけてくるが、俺の思考はそれどころじゃなかった
やべえよやべえよ……他の人達は自分から今回の戦いに参加する事を選んだり個人的な好奇心を優先して志願したりと、様々な理由でウトナピシュティムに乗っている
……いや、確かに俺だってさらっと愛清さんを戦力として数えてたよ?けど────
────この人完全に巻き込まれただけじゃねえか!!?
「あの……そろそろ正座を解いても?」
────あ゛?
「ごめんなさい冗談ですわ」
完全に忘れてた、この面子だと愛清さんだけが被害者だった
そもそも牛牧さんにはちゃんと話を通したのかよ、この人達は二人で給食部だろ?………いや、話を通したとしても拉致していい理由にはならないけど
「……なるほど、つまりキヴォトスは今にも滅びそうで、この船は敵の拠点に乗り込んで破壊する為の物……と」
少し離れた所で愛清さんが風紀委員に説明を受けている
若干首を傾げているが……まあ、突然そんなこと言われても困るだろうな
俺だっていきなり〝キヴォトスこわれる〟なんて言われても困惑するだけだ
「全く……宇宙食だのなんだの、そんな理由でフウカさんを巻き込んだのですか?貴女達は……」
「むっ……そんな理由とは聞き捨てなりませんわね、宇宙で食べる宇宙食……人生で一度あるか無いかの機会ですわよ?」
「ここで逃したらもう二度と食べられないかもしれませんからね☆」
「私、ストローで吸うやつ食べたーい!」
「ああいうのって溢れても空中で制止するんでしょ!?」
呆れている天雨さんに対してギャーギャーと騒ぎ立てる美食研究会の面々
……さて、どうしようか
今からでも愛清さんを牛牧さんの元に帰らせるのは可能だが……いや、そうしよう、それで代わりの人員を呼ぶ……時間は無いか
ならマイナス一人でスタートして………いや、そういえば最終編では愛清さんのドラテクが必要な場面があったな
………まさか、愛清さんを抜くと詰むなんてこと……あったり……するわ
確か色々あってめっちゃ最下層に行く必要が出てくるんだよな……で、制限時間内までに辿り着くには給食部の車と愛清さんの力が必要とか………曖昧だけどそんな感じだった気がする
「まさか風紀を守るだけじゃなく世界も守らないといけなくなるなんて………風紀委員も大変だね」
────……あの、愛清さん
「うん?」
……いや、これってどう伝えればいいんだ?貴女の力を貸してください?
ただ巻き込まれただけの被害者を死地にまで連れていくのは……その……非常に申し訳ない
「……酒泉君、何か遠慮してる?」
────遠慮というか……言いづらいというか……
「そう?言いたくないなら無理に言わなくてもいいけど……」
顔を覗き込み、此方を心配してくる愛清さん
俺としてはむしろそっちの方が心配になる、これってこのまま見逃していいの?
「……でも、限界になるまで溜め込みすぎないでね?」
純粋な瞳で見つめられてしまう
あ゛あ゛っ゛!!!心が痛い!!!俺は今からこの人を見捨てないといけないのか!!?
ひたすら葛藤し続け、その最中でも心の中で天使と悪魔が囁いてくる
悪魔酒泉(力借りればいいじゃん)
天使酒泉(いや、普通に帰してあげようよ)
悪魔酒泉(はぁ!?なんでだよ!)
天使酒泉(だってアトラハシースに乗り込むんだよ!?危険じゃないか!)
悪魔酒泉(アトラハシースぶっ壊せなかったら愛清さんだって結局キヴォトスごと巻き込まれるだろうが!)
天使酒泉(確かに!)
悪魔神王折川(というわけで巻き込もう!)
なんか天使と悪魔が合体した
「……それで?私は何をすればいいの?」
────……え?
「だって、キヴォトス救うんでしょ?」
どう説得しようか頭を必死に悩ませ……ようとしたのだが、愛清さんは何の文句も言わずに己の役割を聞いてくる
────あの……もしかして愛清さん、一緒に戦ってくれるんですか?
「ここまで連れてこられちゃったし、今更戻るのも……ねえ?」
正座中の美食研究会をジト目で睨みながら力を貸すと言ってくれた愛清さん
もう慣れっことでも言いたいのか、でも……
────……本当にいいんですか?今までで一番危険なんですよ?
「皆が危険な場所に乗り込むって聞いておいて私一人だけのんびり歩いて帰宅って訳にはいかないでしょ?それに……」
────……それに?
「何かあっても、また酒泉君が助けてくれるでしょ?」
パチッと片目でウインクして俺に全幅の信頼を寄せてくれた
……かと思えば数秒間無言を貫いた後、少々頬を赤く染めて顔を逸らす
かわいい!(某伝説の超野菜人感)
「……じゃ、じゃあ!そういうことだから!」
あ、恥ずかしくなったんだな
「そんな……フウカさんが私達にも見せてくれない表情を……これが寝取り……」
「……今回ばかりは貴女の気持ち、理解できます。私もヒナ委員長をあの男に寝取られ、私にすら見せたことのない表情を……」
寝てすらいないアホ二人が遠くで仲良く会話している
とりあえず無理やり拉致するのと変態行為を止めたら愛清さんも空崎さんも普通に笑顔を向けてくれると思うんですけど(名推理)
「……酒泉」
空崎さんが俺の背中をツンツンと突いてくる
何事かと思い振り向いてみると……
「……ん」
何故か無言で片目を瞑る空崎さんの姿が
前世で画面越しに何度か見た、無表情で片目を瞑っているあの立ち姿
……なんでそれを今?
「………」
────……?
「……どう?」
??????
「ああ……慣れないウインクをしようとするヒナ委員長も素敵です……!でもそれが酒泉を堕とす為と考えると………うぐぐぐぐぐっ……!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「船の状態は?」
「バッチリさ、完璧に仕上げておいたからね……ところで、この戦いが終わったらこの船をエンジニア部に譲って────」
「駄目です」
「システムの把握は?」
「飛行時の推進力の計算は……ああもう、またずれてる……」
「明太味しか勝たん」
ウトナピシュティム内に入ると、既に到着していた人達が発進前の最終確認を行って………いや菓子食ってるだけの人いるな
周りの人達に軽く挨拶しながら船内を進んでいると、途中で調月さんを発見した
床には黒いケースが置いており、俺に気づいた調月さんはそれを持って近づいてきた
「来たわね……酒泉」
────お待たせしました……今、どんな感じですか?
「オペレーター各員には事前に配っていたマニュアルの再暗記を、エンジニア部やヴェリタスには船の整備やシステムの最終調整を頼んだわ」
ここに来る道中、天雨さんが分厚い本を読んでいたのをチラッと見たけど………あれがマニュアルなんだろうな
あれに書かれてる内容全部把握するのか……俺には絶対無理だな
「委員長、私もオペレーターの方々と意見を交わしてきますので……」
「うん、行ってらっしゃい………アコ」
「はい?」
「頼りにしてるからね」
「結婚しよ」(はい!お任せください!)
空崎さんからの応援に本心を隠しきれず、鼻血を垂らしながら移動する天雨さん
「皆さん、お待たせしました」
「いえ!私も到着したのは先程───鼻血!?だ、大丈夫ですか!?」
「……相変わらずだね、アコは」
奥空さんに心配され、鬼方さんに呆れられる天雨さん
案の定、他のオペレーターの人達をドン引きさせてた
────まあ、とりあえず今のところは順調そうですね
「ええ……とは言っても、アトラ・ハシースの箱舟が展開するバリアの突破や脱出シーケンスの現地作成と、山場はまだ沢山残っているのだけど」
「他にも敵の防衛の突破………は、大前提ね。それに成功しないとキヴォトスが滅びちゃうから」
空崎さんの言う通り、俺達は勝つこと前提で話している
その上で如何に〝被害を抑えられるか〟が重要だ………だって、仲間の死で得た勝利なんて嫌だろ?
……まあ、脱出シーケンスに関してはあまり心配はしていない
原作でも土壇場の状況で23人分の脱出シーケンスを作ったんだ、事前に予備知識があれば確実にいけるだろう
………一応、箱舟の演算機能が未知の代物すぎて予備知識が全く通用しない可能性もあるけど………その場合はアドリブで調月さんに頑張ってもらうしかなくなる
……あ、それともう一度脱出シーケンスの必要数について数えておくか
オペレーター枠の奥空さんは後から数えるとして……まずはアビドスの4人
美食研究会……と、それに拉致された愛清さんの5人
次にオペレーター組は……天雨さん、鬼方さん、早瀬さん、浦和さん、奥空さん、調月さん、明星さんの7人
ウトナピシュティムの統括責任者は七神さん、それをサポートする岩櫃さんと由良木さんの3人
んで、最後に空崎さんと先生と俺の3人
4+5+7+3+3=22、計算かんぺき~
原作の展開………23人搭乗からゲーム開発部4人が抜けて19人、そこに俺と空崎さんと調月さん本人が加わって22人だ
……そして、もう1人の砂狼さんに枠を譲ったとしても23人丁度だ
エンジニア部やヴェリタスは地上での仕事がメインだから船には乗らない、だからこれ以上人数は増えない
それに、プレナパテスの死は確定してるようなもんなんだから数に含める事はできない………悔しいけど
「……酒泉?話の続きをしてもいいかしら?」
────あ、はい……どうぞ
「それで、今回の戦いに備えて貴方用に用意していた物があるのだけど……」
調月さんは持っていた黒いケースを床に置いて開く、その中にはアサルトライフル程の大きさの銃が入っていた
白と青をメインに、中心部に一本の黄色い線を走らせた近未来感溢れるデザインだった
────おお……カッコいい……!ビームとか出そうな見た目してますね……!
「出るわ」
────出るの!?
すげえ……これがミレニアムの技術……!
「ただ、貴方が思い描いているのと少し違うと思うわ。その銃が発するのは一本の光線ではなく、弾丸の様な小さなエネルギーの塊よ」
────つまりアサルトライフルのビームバージョン……どっちにしろカッコいいじゃないっすか!!!
「機能はそれだけじゃないわ、グリップにもトリガーが付いているでしょう?」
────あ、本当だ
「それを引いてみなさい」
何が起こるのかとワクワクしながら調月さんの指示に従う
思っていたより固く、少々強めに引いてみる……っ!?
すると、突然銃身の一部がバラけだし、新たに銃口部分にパーツが展開されていく
小さな筒のような銃口……これってもしかして……!
「その状態だと先程の形態のように弾を連射する事はできないけど、その代わり一発の火力と速度に優れているわ……それと、もう一度トリガーを引けば元の状態に戻るわ」
────嘘でしょ……!?アサルトライフル兼スナイパーライフルってこと……!?これを俺に!?
「ええ……でも、それは通常の銃と違ってエネルギーチャージ式だから一度アトラ・ハシースに乗り込んでしまったら弾の補充は不可能よ………はい、予備のバッテリー」
そう言って手渡されたのは通常の銃のものとは明らかに違うデザインをした3つのマガジンだった
これも同じく色は白と青で構成されていた
「装填されているのも含めて計4つ、弾が切れたらただの荷物にしかならないからすぐに捨てなさい」
────ありがとうございます!大切に使わせていただきます!………はぁ、カッコいい……!
「……気に入ってもらえてよかったわ」
調月さんは嬉しそうに微笑んでくれた
嬉しいのは俺の方だ、まさか最終決戦にこんな物を用意してくれてたなんて……!
調月さんにはもう一生頭が上がら────
「…………酒泉、あまり調子に乗りすぎないようにね」
空崎さんに注意されてしまう、その表情はどこか不機嫌そうだ
流石にはしゃぎすぎたか……こんな大変な時に不謹慎だったか、反省しないとな
「……でも、その銃も使うってことは……今使ってるのはどうするの?」
あ……そうか、流石に3つも背負うと動きが鈍くなりすぎるか
うーん……まずいつも通りナイフは持っていくだろ?で、背中にはこの銃と……アサルトとスナイパー、どっちにするべきか
……銃、か
────いや、やっぱり全部持っていくことにします。両方背負ってこの銃だけ手に持ってればなんとかなるでしょ
「なんか……買ってもらうお菓子を選べない子供だね」
空崎さんにクスッと笑われてしまう
まあ、確かに欲張りみたいなところはあるが……けど、大事なことを忘れていないだろうか?
折川酒泉はアサルトライフルとスナイパーライフルの2丁持ちが出来るほど力と体力があるのだと!
因みにキヴォトス人には勝てません、はい
「……一応、どれか1つは私が預かっておくっていう手段もあるけど……」
────いえ、気持ちは嬉しいですけど……でも遠慮しておきます。コイツらも連れていきたいですし
「そう?」
別に俺は武器に思い入れがあるってタイプではない
………と、思っていたけどなんだかんだでコイツらが手元にあると安心したりする
戦う為だけに整備してきたこの銃もこのナイフも、特に名前をつけている訳ではない
ではない、が………まあ、ずっと世話になってきたし今回も付き合ってもらうとしよう
……帰ったら名前、付けてやろっかな
────……あ、そういえば調月さんがくれたこの銃って名前あるんですか?
「ええ、その銃には〝アバン&ギャルド・ロマンティックバスター〟という名前があるわ」
────………すいません、この銃の名前自分で考えてもいいですか?
「それは……どうして?」
「………その、流石にその名前は────むぐっ」
────駄目です、空崎さん。それ以上言ってはいけません
「……?まあ、別に構わないけれど……」