「────先生!後ろ!」
敵を処理しながら進んでいる道中、次の指示を仰ごうとしたヒナの視線の先には先生に銃口を向けるユスティナの姿が
先生はシッテムの箱を操作して咄嗟にバリアを展開して身を守る────のではなく、バリアを飛ばしてユスティナごと壁に押し付ける
「ヒナ!」
先生の声と同時にヒナがデストロイヤーで掃射を行う
その瞬間、先生はバリアを解除し、生身となったユスティナの身体が紫の弾に貫かれた
「……この辺りも一通り片付いた……」
「敵の数が明らかに少なくなっているし、もしかしたら戦力を第3次元エンジンに集中させていたのかもしれないね………」
第3エリアよりスムーズに事が進んでいる、そのお陰で先生とヒナは特に大した苦も無く第4エリアに突入できた
それでも警戒を怠らず、周囲を見渡しながら走り続ける2人の耳に通信機から報告が入った
『先生、対策委員会の皆さんが特別エリアの制御室の破壊に成功しました!これでシロコさんの元に向かえます!』
「ハナコ!皆の怪我の様子は!?」
『戦闘が行えなくなるような重傷は誰も負っていません!ですが、ウトナピシュティム内のシステムが────』
ハナコが伝え終えるより前に、それは起こった
突如、通信機越しに緊急用のアラームが鳴り響き、先生の表情が険しくなる
『────っ……!』
「この音は……ハナコ!ウトナピシュティム内で何が起きたの!?」
『……敵のハッキングによりウトナピシュティム内の大半のシステムが奪われ、それを利用されて自爆シーケンスを強制的に起動されました』
シロコと合流するよりも早く自爆シーケンスが奪われた、それはこの場にいない折川酒泉の原作知識にも無かった出来事
敵が本来の歴史よりも早く攻撃を仕掛けてきた結果、自爆までの時間も早まってしまった
『敵からのハッキングに全て手動で対応していましたが……主導権を取り返すまでには至らず、時間稼ぎにしか────』
『────いえ、その時間稼ぎのお陰でなんとか間に合ったわ』
「リオ!」
『今から多次元解釈の抑制機能を利用してウトナピシュティムを強制停止させる……けど、それも長くは持たないでしょう。今までやってきたのは〝時間稼ぎの為の時間稼ぎ〟よ』
「ならどうすればいい?」
『自爆の命令を出しているアトラ・ハシース内の中継端末を破壊する……これしかないわ。ただ、予備の端末の可能性を考えるとそれも一時的なものでしかないのだけど』
『ですが、その間にウトナピシュティムを復旧させて再びアトラ・ハシースの管制権を奪い返すことが出来れば………この状況を打開できるはずです』
「要するに元を断つ……って事か」
『位置はエンジニア部に特定してもらったわ、だから後はその場所まで向かうだけよ。もたもたしているとこの通信システムすら奪われる……だから早急に手を打たないといけないのだけど……』
解決策を見つけたというのに声色が悪くなるリオ
そんな彼女に先生が声を掛けるよりも先にハナコがアトラ・ハシースの船内図を先生とヒナの通信装置に送る
『まず、中継端末は最下層に設置されています。そしてその最下層に辿り着く為には道中のセキュリティシステムを突破する必要があるのですが……ウトナピシュティムは敵にハッキングされており、此方から解除するのは不可能です』
『まだ可能性があるとすれば……箱舟最東端と最西端のセクションに存在する解除装置を同時に破壊する事、上手くいけば約5秒程セキュリティシステムを停止させる事ができます』
「5秒……か、かなり短いね」
『それだけではありません、そもそも最下層まで1200mもの距離があります。そんな距離を短時間で切り抜けられる人なんて────』
『────そういう事でしたら私達の出番ですわね!』
声を遮って突然通信に介入してくるハルナ
ハナコは若干驚いたような表情をするものの、すぐに通信をハルナに返す
『最下層は此方でなんとかしますので、最東端と最西端は他の方にお任せします』
『ハルナさん?何か考えがあるんですか?』
『給食部の車を使ってフウカさんと共に最下層まで一気に進みます……というよりも既に進んでいますわ』
「……フウカも?」
『………一応、ヒナさんに勘違いされないように言っておきますけど、今回は私達が無理やり連れ出した訳ではありませんよ?』
「……じゃあ……」
『フウカさんは酒泉さんが拐われたという話を聞いた瞬間、自分から車に乗りにいったのですから………出発前に中継端末の話が聞けて良かったですわ』
『ハルナ!通信変わって!』
突然ブツリと音が鳴り、ハルナの声が聞こえなくなる
それと同時にフウカから通信が届く
『委員長!最下層は私達に任せて!絶対に間に合わせるから!だから委員長は────』
『────酒泉君をお願いっ!』
少女の叫び声が力強く通信機から響く
ヒナもフウカも想いは同じ、それを聞き届けたヒナは拳に力を込めて返事をした
「────任せて、絶対に連れ帰るから」
先生とヒナは互いに無言で顔を合わせ、再び走り出す
『───シロコさんの姿を確認しました!この先のエリアで間もなく合流します!』
「……っ!よし!シロコを保護してから、そのまま酒泉を探すよ!」
シッテムの箱と大人のカード、そしてデストロイヤーを構える
互いに警戒心をより高めながらも開かれた隔壁を通り抜ける
そして────
「っ!いた!シロコ!」
「見つけたわ、まずは貴女……を……助け…に……?」
「……ん、待ってた」
青い覆面を着けた囚われのヒロインが待っていた
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「うわー……また一仕事ありそうですよ、先輩」
面倒そうに溜め息を吐きながら空を見上げるイロハ
だが、その隣に立っているマコトはイロハとは正反対に機嫌良く笑う
「キキキッ……結構な事ではないか!あの空には空崎ヒナや天雨アコ、そして折川酒泉がいる!そのまま赤い空に飲まれてくたばってしまえば風紀委員会は事実上崩壊したも同然!」
「その場合、キヴォトスそのものが終わりそうですけどね……そもそもマコト先輩って〝気に入ったから酒泉を引き込め〟とか言ってませんでした?」
「そこで死ぬのならその程度の男……私の見込み違いだったというだけの話だ」
ニヤニヤと相変わらず小悪党のような笑みを浮かべる己の先輩に大して呆れた視線を向けるイロハ
だが、その直後にマコトはつまらなそうな表情に変わった
「……まあ、残念ながらそんな事は起こり得ないだろうがな」
「……はい?」
「考えてもみろ……私が誘導した巡航ミサイルを食らい、アリウスやユスティナに囲まれてもなお生き延びた男だぞ?」
「まあ……そうですね……」
「どうせ今回も生き延びて相変わらず私を脅し続けるに決まっている……!」
忌々しそうに吐き捨てるマコト
しかしイロハは首を傾げながらそんなマコトに1つの問いをする
「えっと……要するにマコト先輩は酒泉を信じている……ってことでいいんですかね?」
「………信じているだとかそういう問題ではない、私は事実を言っているまでだ」
「それを信じているというのでは……?」
「ええい!私が風紀委員会の人間を信じるはずがないだろう!………くそっ!次はあの男をどう丸め込むか今の内に考えておかなければ……!」
大声でキレ散らかしながらズカズカと歩みを進めるマコト
そんな彼女の背中を見つめながらイロハはぽつりと呟いた
「それはつまり〝酒泉は必ず帰ってくる〟と信じているということなのでは………?」