船が揺れ、大きな爆発音があっちこっちから鳴り響く………時間切れ、か
この揺れはアトラ・ハシースの自爆が原因ではない、自爆シーケンスが完全に作動するまであと少し時間が残っているはずだ
ということは……
『──先……えて───か』
「……リンちゃん?」
『……信が───安定……なく───って……』
先生の通信機からノイズ混じりの女性の声が聞こえるが、数秒後には何とか聞き取れる状態に戻る
『……失礼しました、どうやらアトラ・ハシース内の一部設備が損傷した影響で通信機器等に異常が発生しているみたいです』
「……じゃあ、突然通信が断たれる可能性もあるって事だね」
『はい、ですので今からお伝えする内容は一言一句逃さずに聞き取ってください………まず、先程の揺れはアトラ・ハシース内で1ヶ所に集められているエネルギー反応が原因です』
「エネルギー反応?」
『エネルギーが集まっているエリアは敵地の奥……つまり、現在先生達が立っているその場所です』
「……待って、それじゃあ────っ!」
先生が何かを言おうとするが、それと同時に再び船が揺れる
膝をついて身体を支え、その視線をシロコテラーの更に奥に向ける
今の俺の眼の状態ではボンヤリとしか見えないが、プレナパテスの頭上には〝黒い塊〟が出来ている
あれは……アトラ・ハシースのエネルギーの集合体か
「ぁ……せん、せい……先生……!」
「っ……駄目だよ、シロコちゃん」
力が入らない身体で、這ってでもプレナパテスに近づこうとするシロコテラー
そんな彼女の身体を小鳥遊さんが両手で押さえる……それで正解だ、今のプレナパテスに近寄ると何が起きるのか分かったもんじゃない
……プレナパテスに関してはプラナとシロコテラーを無力化した後囲んで叩けばどうにかなると思っていた
…………が、今は俺の〝ある目的〟の為に少しでも無事な状態でプレナパテスをどうにかしたい
あの人にはまだやってもらいたい事が残ってるからな……
『この未知のエネルギー反応がどこまで広がり続けるのかは予測出来ません、今すぐ止まる可能性もあれば宇宙規模にまで広がる可能性もあります』
「そんな不安定な物を放置しておく訳にはいかないね……自爆シーケンスの方は?」
『準備は完了しています、いつでも起動可能です………ですが、起動前にアトラ・ハシースのエネルギー反応に巻き込まれてしまっては全てが無意味となってしまいます。出来るだけ早めにご決断を』
「……分かった、それなら今すぐ自爆シーケンスを起動してくれるかな。そのエネルギー源については私がなんとかしてみるから────」
────先生、そのエネルギー問題……今すぐどうにか出来るかもしれませんよ?
「……え?」
恐らく先生はプレナパテスと決着をつけようとしていたのだろう……だが、その必要は無い
だってよぉ、確かこれってアトラ・ハシースの箱船の全エネルギーがプレナパテスに集まって発生したイベントだろ?
それなら〝あの方法〟が使えるかもしれない
「酒泉、何か策でもあるのかい?」
────要するにプレナパテスをアトラ・ハシースのエネルギーから切り離せばいいんでしょう?なら簡単じゃないっすか
「……………いや、でも……その方法は……」
────先生も気づきました?今は向こうのシッテムの箱も機能してませんし、アトラ・ハシース内だってボロボロですから妨害だってされませんよ………多分
『……此方にも伝わる様に説明してください』
先生と2人で勝手に納得しあっていたら七神さんに強めの口調で咎められてしまった
なんなら空崎さんにはめっちゃガン見されてる、怖い
────脱出シーケンスを使うんですよ……エネルギーの収集先にね
『………そういう事ですか、確かにその方法ならばエネルギーを集めている元凶を無理やり地上に切り離せますが……』
────分かってます、七神さんは脱出シーケンスを1つ消費してしまうのを危惧しているんでしょう?……その事に関しても大丈夫ですよ。俺、他の脱出方法も知っているんで
『……はい?他の脱出方法……ですか?』
────まあ、その脱出方法が使えるのは先生だけですけど……
『……それはつまり、先生に〝この船に残ってほしい〟ということですか?』
何かを訴えるような七神さんの言葉に頷き、先生の肩を掴んで真っ直ぐ見据える
……分かってる、俺の言ってることはただの我が儘だ
原作通り先生が無事に助かると完全に決まっている訳ではない、なんなら原作と違って服が燃え尽きるだけじゃ済まないかもしれない
プレナパテスを地上に送ったとしても、原作みたいに言葉を託せる気力が残っているとも限らない
「……酒泉、その方法は私には使えないの?私は酒泉のお願いなら命だって───」
────無理です、これは先生にしか出来ません
「……だからといって、こんな崩れかけの船に残すなんて……」
「おじさんもそれは反対かなー?流石にそれは無茶な賭けじゃないかな?」
……まあ、当然否定されるよな
全員が確実に助かる方法を選ぶなら今すぐプレナパテスを倒す為に攻撃を仕掛けるべきだ
でも……俺にとっての〝全員〟の定義が、この戦いで変わった
────生徒からの頼みを断れない性格の先生にこんな事を言うのは卑怯だと思います………ですが、それでも言わせてください
────お願いします……先生の命を、俺に貸してください
「いいよ」
えっ……軽っ……思ってた反応と違う……
もっと、こう……めちゃくちゃ葛藤した末に返事をするものだと……
「調印式の時、本来私が受け持つべきだった命の危機を酒泉に肩代わりされてるからね……今度は私が命を貸す番だよ」
〝まあ、あの事件が無くても貸すけど〟と小声で付け加える先生
……自分から頼んどいてなんだけど……もっと、こう……自分の身を大事にしたりとか……
「私、酒泉に〝教師に向いてるかも〟とは言ったけど〝反面教師になれ〟とまでは言ってないよ?」
────い、いきなりなんですか……?
「いや、なんか凄いブーメランを投げられた気がして……」
「……酒泉の事だから、どうせ〝もっと自分を大切にしてほしい〟みたいな事を考えていたに違いない」
「あ、多分それだ」
ついに先生にも心を読まれるように……いや、そもそも空崎さんに読まれてる時点でおかしかったわ
「……で?私は何をすればいいのかな?」
「先生は本当にそれでいいの?こんな今にも崩れそうな船の中で待機するなんて────っ」
言葉の途中で、小鳥遊さんの腕からシロコテラーが抜け出す
そのままペタリと力無く膝をつくが、表情はさっきまでと違って微かな希望を帯びていた
そして、シロコテラーはその瞳で俺と先生を見つめる
「先生、を………助けて、くれるの……?」
────……悪い、一時的に……ほんの少しの間だけだ
「それでも……せめて、少しでも君と〝君の先生〟が長く共に居られるようにするから……ね?」
微笑みながらアビドスの面々に視線を向ける先生
すると、全員が複雑そうな表情で言葉に詰まった
『た、確かにもう1人のシロコ先輩の為にも助けてあげたいですが……』
「本当に大丈夫なの……?その、もう1つの脱出方法っていうのは……」
「……私は信じてみてもいいと思う」
「シロコ先輩……?」
「この人はさっきからずっと敵側の事情に詳しそうだった、もし私達の知らない〝何か〟を知っているのなら……それに賭けてみてもいいと思う」
「私もシロコちゃんに賛成です☆………なんとなくですけど、このままもう1人のシロコちゃんを連れ帰っても彼女の心は晴れないままな気がしまして……」
「……ホシノ先輩は?」
「…………」
全員に否定されるかと思いきや、意外にも砂狼さんと十六夜さんが賛同してくれた
そしてまだ答えを出していない最後の1人………小鳥遊さんは無言で俺に近づいてきた
俺の顔を下から見上げ、鋭い目付きでゆっくりと口を開く
「………ねえ、酒泉君」
────はい
「その脱出方法を使えば……本当に全員が助かるの?」
────助かります
「本当に?誰も失わずに?」
────はい、誰も失いません。アビドスの皆も先生ももう1人の砂狼さんも………ほんの僅かな間ですが、もう1人の先生も
────貴女の大切な人達は………誰も死なせません
「………」
試すように、見定めるように
数秒、十数秒と視線を合わせ続ける
「……そっか、それじゃあ……後の事は2人に任せよっかな~?」
突如、真剣そうだった表情がほにゃりと溶け、俺と先生に手を振ってくる
『……分かりました、ホシノ先輩が信じるというのでしたら……それで全員が助かるのなら!』
「……ああ、もう!ここまで来て止めちゃったら私が悪者みたいになっちゃうじゃない!」
堅苦しかった空気が一気に和らぎ、船内が落ち着く………わけではないんですね、これが
こんな会話をしている間にも少しずつプレナパテスにエネルギーが集まっていく、事を進めるのなら一刻も早く行動に移らなければならない
「……よし!全員賛成ということで!リンちゃんもそれでいい?」
『……どうせ止めても実行するのでしょう?それなら私達は先生の指示に従うまでですから………今、脱出シーケンスのコードを先生のシッテムの箱に送りました』
「流石リンちゃん、仕事が早いね」
指を鳴らし、シッテムの箱を起動する先生
その画面には各生徒の情報が乗せられていた
アビドス組に俺達ゲヘナ組、それにオペレーター達の情報………内容的にアトラ・ハシースに乗り込んだ人達か?
『ウトナピシュティムに近い生徒の皆さんは全員此方で避難させます、先生はそちらに近い生徒をお願いします』
「了解……じゃあ、また後で地上で」
最初からこうなる事が分かっていたのか、既に準備を終えていた七神さん
……大丈夫ですよ、先生は絶対に生きて帰しますから
え?さっき原作通り先生が生きて帰るかは分からないって言ってただろって?
ああ、あれは嘘だ。実際に先生が危険に晒される事はない
だって、本当に船に残るのは────
「さて、それじゃあ────」
────あっ、先生……切る前にちょっとだけ通信機借りてもいいですか?
「……?うん、いいけど……」
──────────
────────
──────
『連絡するのが遅いですよ!!!』
うおっ……(声)でっか……
先生から通信機を借りて天雨さんに繋げた瞬間、とんでもない声量に襲われた
『一体どこをほっつき歩いてたんですか!?無事なら無事だとさっさと連絡しなさいっ!』
────いや、その……拐われた時に通信機が使えない状態にされてまして……
『それでもです!気合いでなんとかしてください!』
なんだこのオペレーターめっちゃ根性論言ってくるじゃん
『本当に……本当に心配したんですよ……!』
────……すいませんでした
『……もういいです、こうして五体満足で帰って来てくれただけで十分ですから』
……思わず滅茶苦茶な事を言ってしまうほど俺を心配してくれてた……ってことか
自分から望んで離れた訳じゃないけど、それでも罪悪感を抱いてしまうな
……いや、後悔するのは後だ、それよりも今は……
────天雨さん、早速ですけど1つ頼みたい事がありまして……
『こんな状況で頼み事ですか!?もうすぐ船が爆発するというのに……』
────いや、頼み事といってもそんな難しいことじゃないです、ただ紙とペンをウトナピシュティム内に置いといてほしいんですよ
────紙に関してもウトナピシュティムのマニュアルの白色部分とか、そんな適当なのでもいいんで……
『わざわざ自爆する舟に……ですか?何故そのような事を────待ちなさい、酒泉……貴方まさか、遺書を……!』
────違います違います、そんなもん残しませんよ
『………じゃあ、何を書くつもりなんですか?人に聞かれても困らないようなものでしたら正直に答えられるはずですよね?』
天雨さんは俺を疑っているかの様に尋ねてくる
まあ、これに関しては別に教えても本当に問題無いんだけどな
ただ、困惑はされるだろうな
『……酒泉、もし地上に戻る前にやっておきたい事があるのならその仕事は私が引き受けるわ』
通信が切り替わり、天雨さんの声から調月さんの声に
『貴方が無事で良かったわ……本当に』
────調月さん……本当にご迷惑を……
『私は迷惑だなんて思っていないわ……むしろ貴方は人に迷惑を掛けるくらい甘えた方が丁度良いのよ』
通信機越しからでも伝わるような声色で労われる
……でも、人に甘えた方が良いのは調月さんも同じだと思う
『本当はこのまま貴方の声を聞きながら貴方の無事を噛み締めていたいけど………それは地上に戻ってからにしましょう』
────さ、さいですか……
『それで?私は何を書けばいいの?』
『ちょ、ちょっと!突然人の通信に割り込んで仕事を勝手に奪わないでくれますか!?私、別に〝引き受けない〟とは言ってないでしょう!?』
『別に無理しなくていいのよ?』
『無理してません!』
通信機の向こうから調月さんと天雨さんが言い争う声が聞こえてくる
……というよりも天雨さんが一方的に突っかかっている
『大体なんですか!〝貴方は甘えた方が丁度良い〟って!理解者面ですか!?』
『理解者よ』
『はあ!?風紀委員会の人間以外であのクソボケを理解出来る者が存在するはずないでしょう!?』
耳が痛い、叫び声と罵倒のせいで2つの意味で耳が痛い
もしかして俺ってクソボケなのかな……
『で!?酒泉、貴方はどっちに仕事を頼むんですか!?』
『酒泉、ここは私に任せて頂戴』
気づいたら二択を迫られていた……うーん……
正直、専門家が必要な仕事ではないんだけどな……だからどっちに頼んでも同じだけど……
────じゃあ、ここは同じ風紀委員である天雨さんに……
『……っ!最初からそう言えばいいんですよ……全く……』
急に大人しくなったな……
『……酒泉、本当に彼女1人だけでいいの?』
『はい?それはどういう意味ですか?私の能力が信用出来ないと?』
『そういう事じゃないわ、人手が足りていないのなら私が手伝うことも出来るけど……』
『必要ありません!私1人で十分です!』
なんかまた雰囲気が怪しくなってきたぞ……あ、そうだ
調月さんには〝アレ〟を頼もうかな
────調月さん、1つ聞きたいんですけどウトナピシュティム内に服って余ってます?もし余ってるなら地上に戻る際に持っててほしいんですけど
『服?それならオペレーター用のがあるけど……でも、女物よ?』
────いや、それで構いません………身体に巻けばいいだけの話ですから
『……?そう、よく分からないけど……それなら用意しておくわね』
────ありがとうございます
……うん、全裸になるよりはマシだよな
最悪、腰に巻いて我が息子を隠せればそれでいいしな
『……酒泉、貴方……女装の趣味でもあるんですか?』
────違います天雨さん、これには訳があるんです。だからそんな引いたような声を出さないでください
『ならどうしてそんな物を持って帰ろうと────まさか!?』
────……はい?
『酒泉、貴方……そのオペレーター衣装を委員長に着せて1人で堪能するつもりですね!?』
────天雨さんじゃあるまいしそんな事しませんよ……じゃっ、書き置きの内容を伝えますねー
『なっ!?その言い方だとまるで私が委員長の色んなコスプレを妄想している変態みたいな────』
プレナパテスの足元が青く光り、そのまま姿を消す
(……彼がアトラ・ハシースから離れたら船の崩壊も止まる……なんて、都合の良い話は流石にないか。それに、どうせ自爆させるのは決まってるしね)
先生はシッテムの箱を操作し、生徒を1人1人地上に送り届ける
脱出シーケンスの枠は23人分、その内リンに渡されたのは8人分
ウトナピシュティム側の脱出シーケンスで抜け出すアヤネを除いてセリカ、ノノミ、ホシノ、シロコ、シロコテラー
酒泉、ヒナ、そして……プレナパテス、丁度8人
残り15枠……美食研究会+フウカで5人分消費
残り10枠……カヨコ、アコ、ユウカ、ハナコ、アヤネ、リオ、ヒマリで7人分消費
残り3枠……連邦生徒会メンバー、リン、モモカ、アユムの3人分消費
(……うん、間違いはないね)
「次はホシノを転送するから動かないでね」
「は~い……先生、頑張ってね」
心配させないようにと笑いながら手を振って送り届ける
それと同時にホシノの足元が光り、そのまま姿を消す
「それで、次は……君の番だよ、ヒナ」
「……酒泉は何をしているの?」
「アコと連絡中、なんか伝えたいことがあるみたいだよ?」
「酒泉がアコに伝えたいこと?………この状況で?」
「怖い怖い怖い!多分ヒナが思っているような事ではないと思うから落ち着いて!?」
こんな状況でも酒泉の事になると思考がぶれるヒナに苦笑しながら脱出シーケンスを起動する先生
そんな2人の前に離れた所で通信機を弄っていた酒泉が戻ってくる
────お待たせしました……先生、通信機ありがとうございました
「あれ?もういいの?」
────はい、元々そんな長くなるような話じゃなかったんで
「……酒泉、アコと何を話していたの?」
────え?えーっと……まあ、ちょっとした書き置きを……ね?
「書き置き……?」
「色々気になることはあると思うけど、そろそろ脱出シーケンスを起動させるよ?あまり時間も無いしね……」
────俺は先生に脱出方法を説明してから地上に戻るんで、先に行って待っててください
「……分かった、アコと何を話していたのかは後でじっくり聞かせてもらうから」
そう言いながらムスッとした表情のまま地上に転送されるヒナ
それを2人で見届けた先生は酒泉の方を見つめる
「さて………それで?酒泉の言ってた脱出方法っていうのは────」
《────先生!もう1つのシッテムの箱からA.R.O.N.Aちゃんのデータ転移に成功しました!》
「……っと……ナイスタイミングだね、アロナ」
ひび割れている状態のシッテムの箱を持ち上げ、その画面を確認する先生
すると、先程までその端末内に存在していたはずの白髪の少女が姿を消していた
《……私、は……?》
《あっ!目が覚めました!》
そして、何故か代わりに傷1つ付いていない状態のシッテムの箱の中にその少女が存在していた
《……何故私が……この空間に……》
────それはアンタの力が必要だからだ……全員で生きて帰る為にな
《……理解、できません》
────……まあ、細かい事情は後で先生に説明してもらいな。それよりも……
「……じゃあ、ここから先は酒泉にお願いしようかな?」
事情を飲み込めていないA.R.O.N.Aを置いて話を進める酒泉
彼は咳払いをしてからシッテムの箱の中にいる2人の少女を見つめる
────つっても、やる事は単純……2人分のシッテムの箱の力で先生の身を守るんですよ
「……えっ?それだけ?」
《な、なんか……単純すぎるといいますか……》
────スーパーアロナさんはいつもその力で先生にバリアみたいなのを張ってるだろう?今回もその力で……って言いたいけど、流石にスーパーアロナさん1人だけだとキツすぎる
────だから、スーパーアロナさん2人で頑張ってもらう!2人の力で宇宙からの帰還という〝奇跡〟を起こしてもらっ…………ん?
《でへへ……スーパーアロナさん………》
「頬が緩みきっている……」
────……煽てすぎましたかね
情けない声をシッテムの箱から発するアロナ
そんな彼女を置いて酒泉は話を続ける
────……ウトナピシュティム発進前、先生が全裸になるって話をしたでしょう?
「え?いや、されたけど……なんでその話が出てきたの?」
────実はあれ、この後の出来事なんですよ
「え゛っ」
────アロナさんとA.R.O.N.Aさんの力で守られた先生は五体満足で無事に地上まで辿り着くんですけど………でも、服だけは守りきれなかったんですよ
「そ、そういう話だったんだ……でもまあ、服が犠牲になるだけで助かるのなら……」
────その際に生徒達に全裸姿を見られています
《……せ、先生……未来の私がすみませんでした……》
「………い、命さえ……あるのなら……!」
────……で、その時に備えてウトナピシュティムのオペレーター服を調月さんに用意してもらいました。既に地上で待機中です
「さっすが酒泉だ!私は君を信じていたぞ!」
────……まあ、とにかく脱出できるのだけは確定だって事を伝えておきたかったんです。話は以上です
「ありがとう!A.R.O.N.Aへの事情の説明は私に任せて!酒泉は地上で待っててくれ!」
シッテムの箱を操作し、脱出シーケンスを起動させる先生
酒泉の足元が光ると同時に、酒泉は何かを思い出したかのように手を叩いた
────あ、そういえば……もう1人の砂狼さんのことなんですけど……
「それなら大丈夫、酒泉に言われた通りもう1人の私と同じ場所に送っておいたから」
────ありがとうございます……じゃあ、また後で……あっ
「ん?どうかしたの?」
────いえ、ちょっと思い出したことが……
「それって脱出に関係する───」
突如、先生の腕が引っ張られ、酒泉の元まで引き寄せられる
さっきまで酒泉が立っていた青く光る足場に移動させられた先生
逆に酒泉はそこから飛び退き、その際に先生の手からシッテムの箱を奪い取る
────アロナさんの声が聞こえるなら、俺にもシッテムの箱が操作できるのかなって
「……え?」
────自分の我儘は自分で叶えます……最悪の場合、2人のアロナさんだけでも帰しますから
唖然と立ち尽くす先生
だが、数秒後すぐに手を伸ばそうとして───酒泉が脱出シーケンスのボタンを押すと同時に、その姿はアトラ・ハシース内から消えた
《………なっ》
────さて、勝手にアロナさん連れてきちゃったけど……原作でも〝私はいいからプラナを助けてあげて〟みたいな台詞を吐いてたし、この2人だけなら確実に助かる方法があるんだろうな
《ななななななななっ………!》
────………先生を頼るとは決めたけど、流石に何度も命を懸けさせる訳にはいかないからな……でも、やっぱ俺も死にたくないから……
────おめぇの出番だぞ、アロナ!!!
《うわあああああああっ!?なにしてるんですかああああああ!!?》
ミカ、ごめん……今回のビナーはドレスを着たゲヘナの生徒と一緒に行くことになったんだ……