《なんで残っちゃうんですか!?》
────自分の我儘で先生に命を懸けさせたくなかったから
《じゃあ最初からそれを説明してくださいよぉ!?》
────説明したら断られるじゃん!!!
《それはっ!!そうですけどっ!!》
どうも、アトラ・ハシース内を駆けながらアロナさんの説教を聞いている折川酒泉です
今、私はウトナピシュティムに向かって───っぶねえ!?
途中で機械の残骸に足を引っかけて転ぶところだった……
……悪化こそしていないものの、視界は未だにボヤけたままだ。こんなボロボロの身体で盛大にズッコケたくないんだけどな
《だ、大丈夫ですか!?》
────……なあ、アロナさん……ウトナピシュティムまでのナビをお願いしてもいいか?道中に危険物が落ちてたらそれも教えてくれるとありがたい
《ウトナピシュティムに……ですか?でも、こんな状況で向かうのは危険なのでは……》
────本当に時間が無かったら諦めるさ。まあ、脱出できるかどうかは結局のところ………こっちのA.R.O.N.Aに懸かってるけどな
さっきからシッテムの箱の中で一言も喋らないもう1人の少女に話し掛けてみる
……返事がない、ただのアロナちゃんのようだ
さっきまで敵対してたから俺達を警戒している……のか……?
見た感じボーっと立ち尽くしているだけで何を考えているのか分からないな……
《そ、そもそも!もし酒泉さんがシッテムの箱を操作出来なかったどうするつもりだったんですか!?》
────そん時は先生に残ってもらってたよ
《……はい?》
────まずは自分でチャレンジしてみて、それでも駄目だったら誰かを頼ってみる………何もおかしくないだろ?
《ええと……》
あの状況で最初から先生に任せるのってさ、なんか……その……
〝私は先に上がるけど君は残業して私の分の仕事を終わらせといてね!〟って言ってるみたいじゃね?
………いや、俺は社会に出る前に死んでるからそういうのはよく分かんないけど
────俺だって成長しているんだ、必要な時は先生を頼るさ。でも……今回の場合はただの尻拭いじゃない、命を懸けないといけない程の尻拭いなんだ
《酒泉さん……》
────命を懸けた尻拭い………なんかこの言い方だと紙ヤスリで尻を拭いてそうだな
《そんなこと言ってる場合ですか!?このままだと……あ、次はそこを右に曲がってください》
────うわぁ!?急に冷静になるな!?
《だ、だって……ナビしてほしいって……》
ささっと方向を変えて再び走り出す
俺の予想だとそろそろ到着してもおかしく……いや、体力的にも限界が来てるから思っていたより走るスピードが出ていないのか
視界のボヤケもあって自分がどの辺りまで来たのか分かりづらいし……
《だ、大丈夫ですか!?身体がふらふらになってきてますけど……》
────……だ、大丈夫……ちょっと視界が悪くて身体中が痛くて血も流れてるだけだから……
《何も大丈夫じゃないですよ!?今すぐ倒れてもおかしくない状態じゃないですか!?》
アロナさんのナビに従ってとにかく走り続ける
……あ、次元エンジン守ってた亀みたいな奴の残骸発見
これアトラ・ハシースから落下する際に使えないかな、鉄血のバルバトスがやってたみたいに……こう、アロナさんのバリアもあるし2重ガードでワンチャンいけると思うんだよね
……重っ、持ってくの無理だわ
《しゅ、酒泉さん?何をしているんですか?あまり時間は残されていませんよ?》
────いや、ちょっとな……それで?あとどれくらいでウトナピシュティムに着く?
《そこのエリアを抜けて真っ直ぐ走ってください!それで辿り着けるはずです!》
ゴールが見えてきた事で気力が少々回復し、体力も回復する
……嘘だ、体力は全く回復していない
だけど人間ってのは案外気合いだけで走れるもので、身体を大振りにふらふらさせながら全力で走り抜ける
《せ、船内もこんなにボロボロに……》
そうしてやっと辿り着いたウトナピシュティムは、物探しをする事すら困難な程に傷ついていた
瓦礫が崩れ落ち、機械がショートし、あちらこちら燃えている
……これ、書き置きまで燃えてるんじゃねえの?
《は、早く戻らないと!》
アロナさんの警告を聞きながら脚を前に進める
若干〝残ってないだろうなー〟なんて諦めながらも、辺り一面を見渡す
────……おん?
すると、ウトナピシュティムのコントロールパネルの真ん中に堂々と置いてある水筒を発見する
もしやと希望を抱きながらその水筒に近づいて開けてみると………中に2枚の紙が入っていた
〝フウカさんから水筒をお借りしました……貴方が何故こんな書き置きを頼んだのか分かりませんが、さっさと拾ってさっさと帰って来てくださいね!~~貴方が敬うべき上司より〟
1枚目の紙の内容に苦笑しつつ、2枚目の紙も取り出す
すると、そこには俺が頼んだ通りの文が書いてあって
天雨さん……マジでナイス!紙が飛んでったり燃えたりしないように水筒で守っててくれたのか!
紙の内容も完璧だ!〝3年前の文なんて覚えていませんよ!〟なんて言っておきながらしっかり書いてんじゃねえか!
《……えっ?な、なんですか?これ……》
────何って……見れば分かんだろ?
《わ、分かります……けど……これを取る為だけにこんな危険な所まで?》
信じられない物を見るような視線をぶつけられる
俺にとっちゃ大事な物なんや……だからそんな目で見んといてや……
さて、後はウトナピシュティムを離れて地上に戻るだけ……だけど……
《………》
A.R.O.N.Aさんに変化無し……か
しゃーない、こうなったら……
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「……っと……風紀委員長ちゃんも着いたんだねー」
「……小鳥遊ホシノ」
「他の人達もここからちょっと離れた場所に送られたみたいだし、到着地点に大きな差は無さそうだね」
ホシノの目の前の地面が青く光る
数秒後、その地点にはヒナが立っていた
「これで残りはそっちの風紀委員君だけだね」
「……ええ」
ホシノは気の抜けたような表情で迎えるが、その身からはピリピリとした空気が漂っていた
それを察したヒナはどこか申し訳なさそうにホシノに頭を下げる
「……その、ごめんなさい……酒泉の……私の部下の我儘のせいで……」
「ん?………ああ、違う違う。別におじさんは怒ってる訳じゃないよ?ただ、最後の最後まで気は抜けないな~って」
「……そう」
「それに、先生と酒泉君のあのやり取りを見てると〝男同士の友情!〟って感じがしてさ?………多分、私達が何を言ってもあの2人は止まらなかったと思うよ~?」
酒泉が先生をアトラ・ハシース内に残した事に罪悪感を抱いたのか謝罪の言葉を口にしようとするヒナ
だが、それは誤解だと否定してホシノはすぐにヒナの肩を掴んで上体をあげさせる
「あの子には感謝してるよ?もう1人のシロコちゃんともう1人の先生の事を助けてくれたりとかさ、でも………ちょっと急展開すぎてね、心の整理が追い付いてないっていうかさ」
「……大丈夫よ、酒泉が誰かを犠牲にするような選択を取るなんて絶対にあり得ないわ。だから先生だって必ず生きて帰ってくる」
ヒナは酒泉の選択を一切疑う事なく宣言する
そんな彼女の強い瞳を見つめると、ホシノは眩しそうに掌で顔を押さえながら少々大袈裟に後ろに仰け反る
「うへっ……ウトナピシュティムでのやり取りでも思ったけど本当に風紀委員君の事を信頼してるんだね……誰よりも」
「ええ、だって……何度も見てきたから、酒泉が色んな人達を救っていく姿を」
その中には自分も含まれている、そう心の中で付け足しながらヒナは今までの戦いを思い起こす
調印式が襲撃された日、ヒナと先生を巻き込まないように囮として前線で戦った時の事を
最初は彼自身にその気は無かったとしても、結果的にアリウススクワッドを聖園ミカを救った時の事を
巻き込まれただけの立場でありながらリオを説得し続け、最後にはアリスとケイを連れ戻した時の事を
そして今度は……シロコテラーとプレナパテスを助けようとしている
「……酒泉は最悪の未来を阻止する為にずっと戦い続けてきた、その姿を誰よりも近くで見続けてきた私が彼を信頼するのは当たり前の事でしょ?」
「…………そっか、あの子は大切な人を守れる力を持ってたんだ……良い後輩を持ったね、風紀委員長ちゃんは」
「時々他校で〝お友達〟を増やして帰ってくる、そんな困った一面もあるけどね」
含みを持たせた言い方に苦笑するホシノ
一度逸れてしまった話を戻そうと、ヒナはこほんと咳払いをしてから再び口を開く
「………とにかく、そんな酒泉が先生を犠牲にするなんてあり得ないわ」
それは、誰よりも少年のことを知っているからこその断言
「酒泉はいつも未来を変えてきた。そこに辿り着くまでの過程がどれだけ険しくても、例えその先が茨の道だったとしても、それでも最後まで抗い続けてきた」
「未来は変えられる………その事をいつも自分の手で証明してきた酒泉が、目の前で誰かを見捨てるなんてそんな────」
(……未来は……変えられる……?)
同時に、知りすぎていたが故に気づいてしまった
(……そう、だ。未来は変えられるんだ……でも、それは……)
逆に言えば未来が〝良い方〟に向かうとも決まっていない
つまり、言い方を変えると────先生が100%助かるとは限らない
先程もヒナが言った様にそれは酒泉自身の手で証明されてしまっていた
(そんな不安定な可能性に……先生の命を懸けさせるの?あの酒泉が?)
あり得ない、だって彼は────〝折川酒泉〟なのだから
(酒泉なら……私の知っている彼なら、きっと───)
「……っと……また1名ご来店だね。ほら風紀委員長ちゃん、やっと大好きな彼に会えるよ?」
少々重くなってしまった空気を変えるべく、冗談混じりで話すホシノ
その視線の先には青く光る地面……生徒達を転送させた時と同じ現象だった
ホシノはそこに折川酒泉が送られてくるのを想像していた
だが、ヒナの思い浮かべる光景に折川酒泉の姿は無かった
そこに現れたのは────
「………え?」
「……酒、泉……」
────顔を青ざめさせながら、教え子の名前を呟く先生の姿だった
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────奇跡よ!起これええええええ!
《き、奇跡よ!起これー!》
────……やっぱ駄目か
《当然ですよ!?むしろ何でいけると思ったんですか!?》
理解不能
私は目の前の人物の行動が何一つ理解する事ができませんでした
両手をシッテムの箱に向けてひたすら祈るという不可思議な行動を繰り返す折川酒泉、そんな彼に協力する為に何故か両手を天に翳すこの世界線のシッテムの箱の住人────アロナ
《や、やっぱり無茶ですって!そもそもこうして私と会話出来てる理由すら分からないというのに……シッテムの箱の力で奇跡を起こすなんて……!》
────ほらアロナ!心の強さでもう一丁!
《そんなこと言われましてもぉ……やらないと酒泉さんが死んでしまいますので一応続けますけどぉ!》
────ただの折川酒泉じゃねぇぞ、何度でも心の強さで立ち上がり前に進むド級の折川……ドリカワ酒泉だ!!!
《……やっぱりピクリとも反応しません!》
この人は何故、
彼にとって
《うぅ……どうしてこんな事に……!》
────別に先生が残ってたとしても同じ様なこと言ってるだろ?
《そうですけどぉ……!どっちが残っても心配するし文句も言いますけどぉ……!》
────心配するな、もし本当に駄目そうだったらアンタらだけで脱出していいからさ。自分の身を……ってよりシッテムの箱を守るバリアくらいなら張れるだろ?先生をいつも守ってるみたいにさ
《……そ、それですよ!それ!そうやって私のことを知っているかのように語りますけど、それは未来を知っている酒泉さん視点の話ですからね!?だからっ、いきなり全幅の信頼を寄せられても……!》
────なら、これから信頼関係を築けばいい
《う、うぅ~……!どうしてそんな、先生の言いそうな言葉ばかり……!》
此方の世界の〝アロナ〟ですら理解できない存在
ならば今日出会ったばかりの私に理解できる筈もない
《先生は酒泉さんのことを信頼してますし、私だって酒泉さんの活躍を見てきましたからその気持ちは同じですけど………でも……》
────なあ、アロナさん……そこまで難しく考える必要あるか?
《……え?》
────先生がアロナさんを信じている、だから俺も信じる。先生が俺を信じている、だからアロナさんも俺を信じる………そんな単純な理由じゃ駄目なのか?
《……酒泉、さん……》
────因みに俺は普通に人を疑ったりします
《台無しですよぉ!!!》
……やはり、理解不能
────それとな、アロナさんは気づいていないだろうけど……実は俺、アロナさんとは先生がキヴォトスに来るより前から何度も会っているんだ
《……わ、私と……ですか?……それはあり得ません!だって、私を起動したのは先生ですから……!》
────うん、嘘
《ほらやっぱりぃ!!!》
────……でも、アロナさんと何度も会ってるっていうのは本当なんだ
《……え?》
────実は俺、先生の生まれ変わりなんだ……だからシッテムの箱も操作できたんだ
《……しゅ、酒泉さんが……先生……?………だ、騙されませんよ!!どうせまた嘘ですよね!?》
────あれは15……いや、16年くらい前か?俺がトラックに轢かれた時の話だ
《……も、もしかして……今度は本当……なんですか……?》
────いや、これも嘘。死人が生き返る訳ないだろ
《さっきからなんなんですかぁ!?》
……彼は今の状況が理解できているのでしょうか
この崩壊寸前のアトラ・ハシース内でふざけている暇など無いというのに、何故こんなにも無駄な会話ばかりを
自分の身など案じていないかの様におどける彼を観察してみて────1つ、気づく
(……身体が、震えている?)
疲労によるものか、そう思って眺めていると彼は右手で自身の左腕を力強く掴みました
それは酷使されて身体を更に痛め付ける行為
何故、そんな無駄な事を
────……っ、ちょっと……ヤバくなってきたな
……そういう事でしたか
彼はこの状況に対して何も感じていない訳ではなかった
むしろ、その逆────死が近づいている事に恐怖を抱いてました
彼はずっと、ふざけた態度で恐怖心を誤魔化し続けていただけでした
《だ、大丈夫ですか!?まさか、怪我が悪化したのでは────》
────……なあ、アロナさん……死ぬのって、すげー辛い事なんだよ
《……は、はい?いきなり何を……》
強くなる身体の震えを抑えながら、突拍子も無く語り始める
────当たり前の事が出来なくなって、誰とも話せなくなって、すごく寂しくて………でもな、それより恐ろしいのは………大切な人達に何も遺せない事だ
────両親に感謝を伝えることもできず、友達や後輩に〝また明日〟も言えず、そのまま生を終えるんだ
────さっきも言ったが死人は生き返らない、それならせめて………死ぬ前に少しでも悔いが残らないように、少しでも抱えていた物を吐き出せるように
────………プレナパテスとシロコテラーに少しでも〝時間〟を与えたい
《……だからあんな馬鹿げた事をしたんですか》
……少しだけ理解できました
恐らく彼にとって
本当に死を経験したのか、それとも死に近づくような出来事がその身に起きたのか
彼が〝死〟に詳しい理由は分かりませんが、その事を誰よりも知っているが故にかつての
だから、自ら死の恐怖を背負ってでも
────死にかけた経験は何度でもある、だけどそれは全部一瞬で済んだ………初めてなんだよ、今回みたいな何もできずジワジワと死が迫ってくるのは
《……怖いですか?》
────………正直
《……その感覚を先生にも他の人達にも味わわせたくなかったんですね》
────ああ……でも、それだけじゃない。本当はまだ隠してる事があるんだ
《……それも吐き出しちゃってください、ここまで来て黙りは許しませんよ?》
彼は壁にもたれ掛かると、子供の様に膝を抱えながら顔を伏せました
────俺、本当は自信が無かったんだよ………先生が助かるかどうかの、さ
《……でも、酒泉さんは未来が分かるって》
────………これまで色んな事件に立ち会ってきて、最初から最後まで俺の記憶通りに進んできた事なんて一度も無かった
────ベアトリーチェの計画の早決、突然のバルバラの強化、アトラ・ハシースに乗り込む前のプレナパテスからの直接攻撃。記憶との相違……その差は大きかったり小さかったりバラバラだけど、必ずどこかで〝何か〟が起きた
────その〝何か〟が先生に襲い掛かってきたら?例え小さな相違点だったとしても、それが運悪く最悪の方向で噛み合って先生が死んだら?
《……じゃあ、ご自分が死ぬのは構わないっていうんですか?》
────……嫌だ、死にたくない
アロナが少々語気を強めると、彼は顔を上げて自身の掌を見つめながら堂々と答えました
────前までは〝推しさえ幸せなら〟って思ってた、でも今は違う……俺だってもっと生きてたい、皆の所に帰ってまた風紀委員として働きたい、今度こそ卒業したい、友達と馬鹿な事を沢山やりたい
《………そんな感情を抑えても尚、自分のやりたい事を優先した……と》
────……責任を押し付けたくなかったんだ、これは俺が自分で選んだ道だから………〝大人の責任〟なら先生に十分背負ってもらった、ここからは自分で自分の尻を拭いて大人に一歩近づく為の〝子供の責任〟だ
《……子供の、責任……》
また1つ理解できました
彼は責任を大人に背負ってもらうのではなく、大人と共に背負う事を選んだのですね
それは、生徒の為ならその身を削ってでも手を差し伸べた
……でも、決してその手を否定している訳ではない
手を引っ張ってもらうのではなく2人で手を繋いで歩く……彼はそんな結論に至った
────……さて、話は終わりだ。巻き込んじまった2人には全部話しておこうと思ってな………ってのは建前で、本当は誰かに打ち明けたかっただけだ
彼は壁に手をつけながらゆっくり立ち上がると、再びその脚で歩き始めた
そんな彼に思うところがあるのか、アロナは一度溜め息を吐いてからその指を画面の向こうの折川酒泉に向けました
《……1つ気づいた事があります、それは……》
────それは?
《酒泉さんも先生もこのアロナちゃんがいないとダメダメだという事ですっ!!!》
彼は突然の大声量に襲われ、シッテムの箱を持ったまま後退りしました
《そうやって身体を酷使させて!沢山の生徒さん達を心配させて!2人とも悪いところばかり似せてどうするんですか!!………いえ、今回みたいに周りを騙して勝手に行動してしまう分、酒泉さんの方が重症ですよ!!》
────うっ……わ、わかってるよ……
《いいえ!分かってません!酒泉さんが先生の心配をしていたのは分かりますが、それと同じように先生だって酒泉さんの事を心配しているんです!?》
────は、はい……
《貴方の自己犠牲1つで多くの涙が流されるんですよ!?それをちゃんと自覚していますか!?》
────……?いや、これは自己犠牲じゃ……
《……もういいです!私、決めました!!》
────えっと……何が?
《何がなんでも絶対に酒泉さんを地上に帰します!!それで先生や生徒の皆さんに沢山怒られてきてください!!》
────えっ
《どうせ酒泉さんの事ですから怒られた程度じゃ反省しなさそうですし、酒泉さんの自己犠牲という悪癖がちゃんと改善に向かっているかこのアロナちゃん直々に確認しますからね!!?》
────ど、どうやって……?
《先生と一緒に確かめるんですよ!!酒泉さんが先生と会う度に2人で目を光らせてまた無茶な事をしていないか何度でも問い詰めますからね!!?》
────まっ……待ってくれ!?あの人キレると本当に怖いんだよ!?それだけは勘弁してくれ!?頼む!青封筒でも毎月総力戦がゴズでも何でも耐えるから……!
《あ、青封筒?………だ、駄目です!酒泉さんが何を言ってるのかは分かりませんが、私はもう怒りましたからね!?》
頬を膨らませながらそっぽを向くと、アロナはそのまま視線を私の方に向けてきました
《A.R.O.N.Aちゃん!力を貸してください!この人を絶対に送り届けないといけない理由が1つ増えてしまいました!!》
────……い、異議あり!!俺は必ず生きて帰るつもりで残ったから、これは自己犠牲ではありません!!
《他の人が自己犠牲と捉えるような方法を選んだ時点でアウトです!!》
────ぐぬぬっ……お、俺の背後にジャッジマンさえいれば……!!
《あと!今の発言も先生に伝えますからね!!このアロナちゃんの前で隠し事が出来ると思わないでくださいね!!》
顔色が真っ青になる彼に対してふふん、と両手を腰に当てて得意気になるアロナ
(………?)
無茶をして生徒に怒られる彼の姿に何処か強い既視感を覚え、彼を再び観察する
今日出会ったばかりの〝敵〟の姿が、酷く懐かしく感じるような
(……この感覚は……どこかで……)
大した事のない疑問、気のせいだと切り捨てるのは簡単
しかし、気づくと自分でも制御する事の出来ない未知の感情が私の中で〝彼を助けろ〟と訴えかけていました
────頼むアロナさん!!いちごミルクと苺大福を毎週シャーレに持ってくから!!
《えっ!?本当ですか────はっ!?つ、釣られませんからね!?》
────く、くそ……これも駄目か……!おのれ、青い悪魔め……!
《……もう怒りました!これからは酒泉さんの身体にほんの少しの疲労が溜まっていただけでも先生に報告しますから!!》
────え゛っ!?ほんの少し!?ゲーム疲れとかも!!?
《当然です!!》
(………ぁ)
『先生!この領収書はなんですか!?それとこの〝クラブ・ふわりん〟というのは!?』
『せーんせ☆膝枕、いかがですか☆』
『……だからっ!本当に脚を舐めようとする奴があるかぁ!?』
『偶には先生も……お仕事をサボってみては?案外悪くないものですよ?』
(────理解)
生徒に怒られる、心配される、求められる、その姿が誰に重なっていたのか漸く理解できました
折川酒泉は、
少々口が悪いところがある、戦闘スタイルも指揮官と兵士で異なる、相手が生徒でも容赦しない………相違点は次々と見つかっていく
それなのに………その優しさだけは、先生と同じものでした
ならば、私の中で〝彼を助けろ〟と叫んでいるこの声は全て────
《け、結局この方法に戻ってしまうなんて………奇跡よ!!起これー!!!》
────奇跡よ!!起これー!!!………くそっ!奇跡なんて存在しねえじゃねーか!!なんだこの無駄な時間は!!
《酒泉さんが自分から始めたんじゃないですかぁ!!》
────言い方を変えるぞ!〝奇跡よ起これ〟から〝奇跡よ起きろ〟だ!
《大して変わりませんよ!!そんな事しても───》
《……なら、私も協力しましょう》
私情、なのでしょうね