「ねえ、ホシノちゃん………最近酒泉君を見かけないんだけど何か知らない?」
ユメが不安気な表情でホシノに尋ねる、それを聞いたホシノは少し眉間に皺を寄せるが、すぐに無関心な表情に戻る
「………ホシノちゃん?」
「…………知りませんよ、あんな奴」
ホシノの様子にユメが違和感を覚えるが、すぐに不安気な表情に戻りスマホの画面に目を落とす
「五日前からずっと酒泉君が来ないの……連絡も取れないし……」
「………」
「過去に一週間来れない時はあったけど、そういう時は必ず事前に連絡をくれたのに……」
「………」
「酒泉君、何かあったのかな────」
「─────っ!うるさい!」
「ホシノ……ちゃん?」
「っ……すみません……」
思わず声を荒げてしまうホシノ、直後ハッとしてすぐに謝罪を入れる
その様子を見てユメは確信した、ホシノは何かを知っていると
「ホシノちゃん、本当に知らないの?酒泉君が来ない理由」
「………アビドスを見限ったんでしょ」
ホシノは手元で何かの作業をしながらぶっきらぼうに答える
「………」
「もしくは他に良い学校を見つけたとか私達に飽きたとか、そんな理由ですよどうせ」
「………」
「ああ、それか実は裏でカイザーと繋がってるとかじゃないですかね?もう奪えるだけの物を奪ったからアビドスに潜入する必要が無くなったとか───」
「───ねえホシノちゃん、どうしてそんなに辛そうな顔をしてるの?」
一言発する度にどんどん顔に影が差していくホシノ、ユメの心配する声を聞いた瞬間、ホシノがピタリと作業を止める
「酒泉は……あの男はカイザーと繋がっていました」
「………え?」
「確かに自分の目で見たんです、あいつがカイザーと取引しているのを」
「酒泉君が……カイザーと?」
「あいつはカイザーの利益の為に動いて!アビドスの情報を探る為にアビドスに潜り込んで!その為にヘルメット団をけしかけて!借金の利子の事を利用して私達の信用を得ようとしてたんですよ!」
「……それは確かなの?」
「……直接見たって言ったじゃないですか」
あまりにも信じ難い話を聞かされたユメは愕然としてしまう……かと思えばすぐに真剣な表情になりホシノに提案する
「それなら直接話を聞きに行きましょう」
「………私の話を聞いてなかったんですか?」
「もちろん聞いていたわ、でも私は酒泉君の事もホシノちゃんの事もどっちも疑いたくない」
「………」
「前にも言ったけど、私には酒泉君が悪い子だとはとても思えないの。だから、もしかしたらホシノちゃんと酒泉君の間で何か誤解が生じているんじゃないかなって」
「……なら勝手に会いに行けばいいじゃないですか」
そう言うと、ホシノは勢いよく立ち上がり乱暴にドアを開けて部屋を出ていった
ユメはそんなホシノを最後まで悲しそうに見つめていた
学校から出たホシノは自宅への帰路を歩きながら自分の先輩の能天気さに静かに憤慨する
(ユメ先輩は人を信用しすぎている……あの人に任せていたらいつアビドスが崩壊するか分からない)
(やはりあいつは敵だった、私とユメ先輩の味方は結局誰一人として居なかった)
(これからは私とユメ先輩の二人だけでアビドスを守る事になる………あいつが抜けた分までもっと強くならないと────)
そこまで思考して、ホシノはふと気づいた
己が酒泉を頼りにしていた事を
(────っ!それが今更なんだ!あいつは裏切り者なんだ!)
(もう絶対に誰も信じない!誰も頼らない!)
(あいつもその周りの大人も……全員敵だっ!)
そう決心して拳を強く握りしめた
そして翌日、ホシノは一人で廃校対策委員会の部室に居た
いつもなら騒がしく構ってくるユメを軽くあしらいつつ仕事の準備に取り掛かるが………
「先輩遅い………」
先に仕事を始めてしまおうと近くの書類に手を伸ばした瞬間、背後から扉が開く音が聞こえた
ようやくユメが到着したのかと思い、「遅いです」と一言だけ文句を言おうと後ろを振り向いた
「………」
「……先輩?」
しかし振り向いた直後に見たのは、顔を俯かせているユメの姿だった
何があったのかと尋ねる前にポツリとユメが言葉を発する
「酒泉君が…………病院に運ばれたって…………」
「…………………は?」
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アビドスから離れた場所に建てられた病院、ホシノとユメはそこに来ていた
そして今、その二人の目の前で一人の男がベッドの上で目を閉じて眠っている
「駅員さんが見回りの時に、駅の前で倒れているのを偶然発見したって……」
「…………」
駅の前と聞いてホシノが思い起こすのは、カイザーとの関係を問い詰めようと酒泉に迫ったあの時の光景だった
酒泉の返事も聞かずに一方的に糾弾して責め立てた時の事を……
「血行不良による眼精疲労、謎の薬やストレスによる意識混濁、そして………不定期に起こる全く原因が分からない突然の容態変化、お医者さんはそう言っていたわ」
酒泉の病状を伝えるユメ、しかしホシノはどこかボーッと立ち尽くしていてあまり内容が入っていない様子だ
そしてホシノはそのまま語り始めた
「私は………」
「私は酒泉の事が嫌いでした、頼んでもいないのに勝手に仕事を手伝いに来るし、勝手にヘルメット団との戦闘にも参加しに来るし」
「アビドスを護るなんて口先だけの綺麗事を簡単に言ってくるし」
「自分の事は何も明かさないくせに、私の心の中に無自覚に踏み込んでくるし」
「更にはカイザーとの関係まで隠していた」
「こんな奴、さっさと縁を切りたかった……………でも」
「こんな事はっ………望んで無かったっ………!」
涙を流しながら崩れ落ちるホシノ、そんな彼女をユメはゆっくりと抱き締めた
「……そっか、ホシノちゃんが辛かったのは酒泉君に裏切られた事だけじゃないんだ」
「………」
「酒泉君をちゃんと信じてあげる事の出来ない自分の心が辛かったんだ」
「…………っ!」
「大丈夫よ、酒泉君は約束を破らない、彼は絶対に私達の事を置いていかないわ」
「ユメ先輩……」
「酒泉君が目を覚ましたら三人でしっかりお話しましょう、それが終わったら酒泉君の退院祝いにパーティーを開きましょう!」
ホシノを元気づける様に慰めるユメ、そんな彼女の笑顔を見たホシノは涙を拭い、少しだけ笑みを浮かべた
「………その前に、一発殴らないと気が済みません」
「あはは……せめて病状が回復してからにしてあげてね?」
本気で殴られたらミンチになるんで手加減もお願いしますよ
「そうそう、酒泉君はヘイローが無いんだから」
「………心配掛けた罰です」
「あ!やっぱり心配だったんだ~?」
いやー、嬉しいっすね
「………悪いですか?」
やっぱツンデレっすね、小鳥遊さん
「そこが可愛いのよねー!…………へ?」
「誰がツンデレ…………ん?」
……?二人ともどうしたんすか?
「………」
「………」
………あ、忘れてました、おはようございます
まるで最初から混ざっていたかの様にしれっと会話に参加する第三者、その声の主を見てみると、そこにはいつの間にか起きていた酒泉の姿があった
「………いつから?」
俺の退院祝いパーティーをする話の辺りで起きました
「………」
「………」
……あのー、何か言って頂けると────
「酒泉くーーーーーん!!!」
────ふおお!?
言葉を遮る様に酒泉にガバッと勢いよく抱きつくユメ、容赦なくいつぞやの様に頭を抱き寄せられた酒泉は当然─────
ムニュッ
あ、ヤバ
─────再び気絶しかけた
「ご、ごめんなさい酒泉君!私ったらまたあんな事をしちゃって!」
いえ、ありがとうござい………じゃなくて気にしないでください
「……今お礼を言おうとしなかった?」
そんな事ないです………あとユメ先輩もあんまり男に抱きつかない方がいいっすよ、そういうのは好きな人とかにでも……
「………だったら問題ないかな~、なんちゃって………」
「……ユメ先輩?」
「うえ?な、何でもないわよ!?」
先程の出来事のせいでどこか気まずそうな空気を出している三人
「………そろそろよろしいですか?」
………騒ぎを聞きつけて病室にやって来た医師を置いて
「あっ……ごめんなさい!」
「先ずは突然意識が戻った理由に関しては………申し訳ありませんが全く理解が出来ません」
「……理解出来ない?」
「はい、そちらの方には前にもお話しましたが、彼が意識を失っていた理由は眼精疲労や薬による影響です」
ですが、と一言置いて考え込む様な表情で酒泉を見つめながら話す
「その薬の原料が全て不明なのです、あんな薬、普通の機関どころかブラックマーケット絡みの事件ですら見たことがありません」
「そんな……!」
「ですから酒泉さん、何か心当たりが無いか貴方に直接お聞きしたいのですが………」
医師に尋ねられると、ばつの悪そうに黙り込む酒泉
そんな酒泉を見て医師はしばらく黙った後、「とりあえず」と話を進める
「本日は身体の検査や意識覚醒前の様子、病状の進行状況等を調べますので、面会などは後日になります」
「そう……ですか」
「……少しだけでも話せないんですか?」
「気絶した原因も使用している薬も具体的な事が何も分からない状態からいきなり意識が戻ったばかりですので、色々と様子を見ない事には………」
すいませんお二人とも……
「ううん、こうして意識が戻ってくれただけでも嬉しいわ!」
「酒泉には色々と聞きたい事がある………だから早く治して」
………ありがとうございます
「もし面会出来る状態でしたら此方から連絡しますので」
そう言うと医師は立ち上がってから姿勢良く頭を下げ、カルテを持って部屋を出ていった
「本当はもっと居たいんだけど……お医者さんもああ言っていたし、私達も今日のところはここまでにしましょう」
「……はい」
「………もしかしてホシノちゃん、名残惜しくなっちゃった?」
「んなっ……!そんな訳ないじゃないですか!さっさと帰りますよ!」
「あ!病院はゆっくり歩くのよー!それじゃあまた今度ね、酒泉君!」
赤く染まった顔を隠す様に後ろを向いてすぐに病室を出るホシノ、ユメも彼女に続く様に足を進める
酒泉はそんな二人に軽く手を降った
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それから数日後、酒泉が入院している病院から面会の許可が出たホシノは一人で酒泉の元へ向かっていた
本来ならユメも一緒に行くはずだったが運悪くカイザーローンの返済日と被ってしまい、更には契約内容の見直し等もカイザーローン側から提案されてしまった為、仕方なく先にホシノだけで向かう事になってしまった
病院に着いたホシノは受付に向かい、記入必須な書類を書き上げて提出した
少ししてから受付人に「どうぞ」と言われ、廊下を少し歩いた先にあるエレベーターに乗り込む
目的の階に到着し、扉が開くとすぐに降りて少々足早に歩き始める
(………ちゃんと話を聞こう、それで、また一緒に……)
そんな事を考えながら少しずつ酒泉の病室に近づいていく、そしてあと数歩程度まで距離が縮まると───
「折角面会に来てやったのにその態度は失礼ではないか?」
……誰が頼んだ
───前回、酒泉が密会していた相手の声────カイザーの人間の声が聞こえてきた
(………っ!)
ホシノは会話の内容を聞こうと咄嗟に気配を殺し扉の近くで耳を澄ませる
「こんなに早くガタが来るとはな……我々への迷惑も考えてほしいものだ」
………黙れ、すぐに復帰すればいいんだろ
「それはあの男……〝黒服〟に言ってもらおうか、我々はあくまであの男の代わりに契約しているだけだ」
ハッ!そのうち使い捨てられるんじゃねえの?
「……あまり調子に乗るなよ?」
そんな事より、あの話はどうなったんだよ─────
─────俺が人体実験に協力してやるからヘルメット団の襲撃と莫大な利子をどうにかしてくれるって話はよ?
(………………………え?)
「なんだ、その話か………喜べ、ヘルメット団には完全に手を引かせたぞ。黒服からそう頼まれてな、どうやら相当機嫌が良いらしい」
………利子は?
「それについても〝もっと減らせ〟と頼まれたぞ、我々としてもかなりの額を黒服から得る事が出来たから別に構わないがな」
……ならいい
「それにしてもお前も災難だな、アビドス復興を目指すばかりに黒服に目をつけられる事になって」
………
「キヴォトスで唯一のヘイローを持たない完全な人間型の男子生徒、そんなモルモットにピッタリな存在など黒服が見逃すはずがないだろう」
人を実験動物扱いするな
「事実だろう?表の世界では手に入らない様な薬を使用した実験、お前の様な〝普通〟の人間の耐久テスト、そして──────」
「────────〝神秘〟を持たぬ者へ無理矢理〝神秘〟を植え付ける人体実験」
「たった数回の実験でここまでボロボロになるとは恐ろしいものだな?」
っ………
「いや、これに関してはお前にとってもメリットがあるな、もし人工的にヘイローを生み出す事が出来ればお前の肉体も強くなるんだからな」
………
「まあ、もっともそれはお前が生きていればの話だが……」
……絶対に死なねえよ、お前等の手をアビドスから引かせるまではな
「……何故そこまでアビドスに拘る?あんな滅びかけている土地など見捨てればいいだろう、それとも………そんなに廃校対策委員会の連中が大事か?」
……だったら悪いか
「いや、構わないさ。お前がアビドスを救おうとすればするほど我々の懐が温まるからな」
………次の実験はいつだ
「まだ日程は決まっていない、黒服から連絡が届き次第お前に伝えよう」
……
「君とは全く無関係なアビドスの借金完全返済まで精々頑張ってくれたまえ、愚かな男子生徒君?」
……言われなくても
会話を終えたカイザーの人間が扉へ向かってくる、それを察知したホシノは廊下の曲がり角へ移動して身を隠す
その少し後にカイザーの人間は病室を出て扉を閉め、廊下を歩いていく
そのままカイザーの人間の廊下を歩く音が聞こえなくなった瞬間、ホシノは両膝をつく
『全部っ……全部演技だったの!?』
「あ………」
次々とフラッシュバックする記憶
『私達の為に頑張ってくれたのも!ユメ先輩の事を庇ったのも!水族館での思い出も!全部………!全部嘘だったの……!?』
「あぁ………」
何も知らずに酒泉を責め立てた愚かな自分の記憶
『信じてたのに……っ!』
「やだ……ちがう……ちがうの……」
自分の感情の崩落に耐えられず、彼女は───
『本気で信じてたのにっ!!!』
「ぁ──────────」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ベッドから上半身だけを起こし、窓から何となく外の景色を覗いている酒泉
しばらくボーッとしていると、ノックすら無く突然扉が開く音がした
突然の出来事に驚いた酒泉は身体の向きを変えて扉の方を見ると………
……小鳥遊さん?
「………」
無言で立ち尽くすホシノがいた
この間ぶりですね、と声をかけようと立ち上がった瞬間、突然走り寄って来たホシノに抱き締められた
──っ!?いきなり何を……!?
「……ん………さい……」
………え?
「ごめん………なさい………っ!!!」
突然泣きながら謝罪するホシノに酒泉は理解が追い付かない、しかしホシノはそんな事などお構い無しに謝り続ける
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい……!」
っ小鳥遊さん、落ち着いて───
「酒泉が命を懸けてまでアビドスを護ってくれたのに……酒泉を信じる事が出来なくてごめんなさい……っ!」
───っ、まさか、さっきの会話を聞いて……
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を酒泉の体に押し付けながら取り乱すホシノ
その姿はまるで悪い事をした幼子が親に必死に謝っている様だった
「うたがっでごめんなざいっ!!」
「ずっどすなおになれなぐでごめんなさいっ!」
「ひどいごどいっぱいいっでごめんなさいっ!」
「いっぱいきずづけでごめんなざいっ!」
「わだしもっどつよくなるがらっ!」
「ゆめせんばいみだいにやさしぐなるがらっ!」
「だがら……だから……っ!」
「どこにもいかないで………っ!」
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………さて、と、何を買おっかなー
「………何か欲しいものでもあるの?」
あれ?小鳥遊さん?昼寝してたんじゃ……
「急に目が覚めちゃってねー……それで?計画書みたいなのまで用意してどうしたの?」
あー……これは……先生の歓迎会でも開こうかなーって思って……
「……は?先生?」
いや、この間とうとう先生がキヴォトスにやって来たじゃないですか、その先生が早速アビドスに視察しに来てくれるみたいでして……
「………なんで」
なんでって言われても………仕事してたら偶然アビドスの現状を知る機会があって目に留まったとかじゃないですかね?
………あ、先に言っておきますけど俺からシャーレに依頼した訳じゃないですよ?
「そういう事じゃない」
え?違うの?
「………そもそも呼んでない、今からでも断る」
いや、シャーレの視察だから断れないんじゃ……
「だったらさっさと来てもらってさっさと帰ってもらう、だからどの道歓迎会なんてやらなくていい」
……なんか昔の小鳥遊さんに戻ってません?一瞬ショートカット状態の小鳥遊さんを幻視したんですけど
「話を逸らさないで、とにかく歓迎なんてしないから」
悪い人じゃないと思うんですけどねぇ………もう既にチラホラと活躍してるみたいですよ?
「そんな事はどうでもいい、とにかく酒泉はもう私の居ない所で〝大人〟に関わっちゃ駄目」
…………すいません
「………うへ~、ちょっとおじさんらしくなかったかな~、厳しく言いすぎてごめんね?」
いえ、俺の事を心配してくれてるからこそあんな言い方になってしまうって分かってるんで大丈夫ですよ
「……本当に?嫌いになってない?」
本当ですよ
「……ありがと」
いえ………ゴホッゴホッ
「っ!?どうしたの!?大丈夫!?」
だ、大丈夫です………多分ただの風邪ですから
「……駄目だよ、今から一緒に病院に行こ?」
そんな大袈裟な………
「大袈裟じゃない」
………分かりました、ちょっと準備して来ます
「……おじさんも手伝うよ」
ありがとうございます
「………ねえ酒泉、これだけは言っておくね?」
……何ですか?
「私はあいつ等の事を絶対に許さない、酒泉の事を痛め付けた〝大人〟達も………………酒泉のボロボロの身体を見てようやくカイザーに乗り込んだ連邦生徒会も」