「そんな……あり得ない……」
リオの視線の先のモニター、そこに映るは侵入者達の姿
その周囲には防衛用のAMASが大量に………だが、どれも破壊されている
先頭に立つはシャーレの先生、様子を見る限り彼女が前線で指示しているのだろう
信じられないスピードで削られていく戦力、リオは生徒達の想定以上の実力と先生の驚異的な指揮能力に歯噛みしながらも忍ばせておいた後続のAMASを送り込もうとし────モニター越しに先生と目が合った
「……は?」
次の瞬間、待機中のAMASが上空から降り注いできた砲弾によって破壊された
また、他の地点のAMASにまで狙撃が襲い掛かり、まるで此方の戦力の配置が全てバレているかのように次々と破壊されていく
その間にもモニターに映る先生はハッキリとリオの目を捉える
『ミドリ、あれ………壊してくれる?』
『え?あれってどれ……小型監視カメラ!?いつの間に……!』
次の瞬間、モニターが暗闇に包まれた
現場の音声だけが辛うじて繋がる状態にまで損壊した監視カメラ、そこから先生の声が聞こえてくる
『リオ、もう終わりにしよう………これ以上生徒と戦いたくないよ』
……これより数時間後、アビ・エシュフは攻略される
初戦闘での段階ですぐにアビ・エシュフの弱点を見つけ出した先生の指揮の下、彼女の最終兵器は破れることになる
そんなことなど全く想定していないリオは、トキに命令を送った後にアバンギャルド君という一体のロボットを送り込んだ
………当然、このロボットも破壊される事となる
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先生がヤバい、具体的に何がヤバいのかっていうと目が良すぎる
俺のは〝物理的〟に優秀な目だが、先生の目は〝戦術眼〟とかそういった方向性に突き抜けている
〝こことここはこんな感じだからあそこに敵が潜んでそうだなぁ〟とか〝兵を出すならこのタイミングかなぁ〟とか、全体的な戦況から未来を予測している感じだ
相手の心でも読んでるの?ってくらいドンピシャにハマる
………しかし、いつも以上に勢い付いてるような気がするのは気のせいだろうか
「……酒泉、どうしたの?そんなに私の方を見て……何か気になることでもあった?」
気づかぬ内にジロジロ見すぎたのか、先生が此方を向いて首を傾げる
いや……やっぱ先生強いなぁって思って……
「そんな事ないよ、私のやってることなんて前線で戦ってる生徒達と違って銃も持たずにただ指示を出してるだけだし…………生徒の盾になることすらできないし」
大したことない、と自虐する先生
………つっても、その指示のお陰で毎回安全に戦えているしなぁ
後ろで先生が支えてくれるからこそ、生徒達も心置きなく前に出れるんだと思いますよ?
「そう……かな……」
そっすそっす、そもそも皆先生を頼りにしてるからこそ先生の指揮に従ってるんですよ
「頼りに……」
先生がポツリと呟くと、今度は何かを確認するように俺の目を真っ直ぐ見つめてきた
「ねえ、酒泉……それって酒泉にとっても?」
……ん?何のことです?
「だから、さ……私、酒泉にとっても頼れる大人に見えてる?」
そりゃ当然ですよ、ずっと近くで先生の活躍をこの目で見てきたんですから
「……そ、そっかー、酒泉ってそんなに私のこと頼りにしててくれてたんだー。そっかそっかー、もう……仕方ないなぁ…………えへへ」
先生の質問に正直に答えると突然ニヘラと笑いだす
………なんかさっきまで格好よく見えてたはずの先生から急にポンコツオーラが漂い始めた
具体的に言うと高いオモチャを買ったのがバレて早瀬さんに説教されてる時の雰囲気に似ている
「……よ、よーし!このままドンドン突き進んで行こっか!」
そう宣言して先生は大人のカードを─────ちょいちょい、ストップストップ
このペースなら確実に天童さんの下に辿り着くのは間に合いますし、それは使う必要ないですよ
………そのカードなんかデメリットとかありそうですし、本当にいざという時だけにしてください
「えっ?で、でも……」
大人のカードを持つ先生の手を下ろさせ、それを仕舞わせる
……さっき説得の理由として〝確実に間に合う〟なんて言ったけど、本当は真逆だ
このイベントが起きた以上、どれだけ早く辿り着こうとケイさんがエリドゥを乗っ取ろうとするのは確定だろう
なら俺達はこのまま天童さんの人格データが消去されるより前に救出が確実に間に合う、且つその後のケイさんの暴走によって誘き寄せられるであろう不可解な軍隊と戦う為の体力を十分に温存できる程度のペースで進むべきだ
……え?〝それを説明した方が早いだろ〟って?
そんなことしたら俺が未来の知識を持っていることがバレちゃうだろ、先生がそれを知ったらこれから先の厄介事にも自分から首を突っ込むに決まってる
…………まあ、一番危惧していたベアトリーチェと色彩の接触は止められたし、あとほんの少しだけキヴォトスが平和に近づいたら未来云々のことを全部先生に伝えてもいいかもな
その時、先生はどんな反応をするのだろうか
怒る?悲しむ?困惑する?………どれにせよ、困らせてしまうのは確定だな
「しゅ、酒泉?どうしたの?もしかして………身体の怪我が悪化したんじゃ……」
そんなことを考えていると、隣から先生が心配そうに覗き込んでくる
いかんいかん、今は戦いに集中しないと…………まあ、俺が戦ってる訳じゃないんだけどな!
「もし困ったことがあったら遠慮せず何でも言ってね?だ、だって私は………頼れる先生なんだから」
〝頼れる〟の部分を妙に強調しながら胸を張る先生
その事に若干の疑問を抱くが、別に今触れる事ではないだろうと思ってとりあえず頷いておいた
………その後、アバンギャルド君とかいうこの世の終わりのようなダサい名前のロボットがやってきたりアビ・エシュフとかいうこの世の始まりのようなカッケー名前のパワードスーツを纏った飛鳥馬さんが襲撃してきた
だが、やけに調子の良い先生や花岡さんによって少しの交戦の後弱点を発見し、そのまま先生の指揮の下攻略された
戦力の大半を失った調月さんは降伏宣言をし、大人しく天童さんの眠る場所までの道を開けた
その後は此方の見立て通りケイさんによってエリドゥをハッキングされ、エリドゥのリソースを利用されてアトラハシースを作られそうになったりしたが、途中で早瀬さんと生塩さんがエリドゥの電源を強制的に落としてくれたお陰で中断させることができた
次は天童さんとケイさんを連れ戻す為に天童さんの精神世界にダイブ装置を使って侵入することになった
ここまで全て順調だった………が、問題は天童さんに出会ってからだった
『酒泉を………皆を傷つけておきながら、今更仲間には戻れません』
『アリスは……アリスは勇者になる資格なんてありません……!』
皆に銃口を突きつけてしまったことを後悔している天童さんは、これ以上迷惑を掛けまいと現実世界に帰ることを拒んだ
しかし残念ながらゲーム開発部も先生も俺もその程度の言葉で大人しく帰るほどお利口ちゃんではないのだ
『君がなりたい存在は君が決めていいんだよ………アリス』
『アリスちゃんは何になりたい?』
『さ、最近だと優しい魔王が主人公のお話だって増えてきたんだよ……?』
『帰ろう!アリス!私達の居場所に……ゲーム開発部に!』
彼女達の心を全力でぶつけた説得によって天童さんは再び勇者を目指しましたとさ、めでたしめでたし
……え?俺?俺は〝うるせぇ!テメーごときが俺を簡単に傷つけられると思ってんじゃねえ!あれは油断しただけだ!〟って煽っただけですけど?
さて、これで残るはケイさんだけ………とはいえ、この人もこの人で相当思い悩んでいた
『私は王女と………そして貴方達と関わっていくうちに、感情を手にしていました』
『このまま王女と共に日常に染まるのも悪くない、そう思った頃、あの暴走………あの事件が起きました』
『あの事件は私の在り方を再び考え直させるには十分すぎる出来事でした。やはり私は〝世界を滅ぼす存在〟でしかないのだと、王女と同じことを考えていました』
『私は本来の在り方に戻ろうとしました………しかし、その度に思い出してしまうのです。貴女達と過ごした日々を………』
『ですから、私は貴女達と本気で敵対する為に〝自身のデータを消した〟と嘘を吐きました。そうすれば貴女達も遠慮せずに攻撃してくれるだろうと……それで私の決心もつくだろうと……』
『王女の意思を………〝消えたい〟という意思を無視して私は貴女達を滅ぼす為に動こうとしました、しかし………』
『ここまで辿り着いてしまった貴女達は………王女だけでなく、私まで助けようとしてしまった………』
『それを少しでも〝嬉しい〟と感じてしまった私は……これからどうすれば────』
うるせェ!!!いこう!!!(どんっ!)
はい、これで解決しました………嘘です石投げないでください冗談ですから
とりあえず〝これからどうすれば〟に対しては俺と一緒にやりたいこと探しやろうぜ!って感じで答えておいた
俺もパヴァーヌ終わったら〝キヴォトスのバッドエンドを回避する〟っていう目標が無くなるしな、色彩は多分来ないだろうしカルバノグは先に終わらせたし………
後はこれからもシャーレでチマチマと事件を解決するだけ………なんだけど、今まで目標の為だけに色んな場所を走り回ってきたからそれがなくなったら空いた時間で何をすればいいのか分からん
原作知識の使えない未知の領域に入ったことに若干の不安を感じながらも、俺も俺なりにやりたい事を探す予定だ
という訳でこれからも定期的にケイさんを遊びに誘いたいと思います、はい
『………退屈させたら許しませんからね、せいぜい私を楽しませる為のデートコースを─────間違えました待ってください今のは言葉の綾です本気にしないでください私は貴方との実験の日々をデートだと思った事など一度たりともありませんから勘違いしないで…………〝それくらい分かってる〟?………王女の中で一つ学んだことがあります、やはり貴方はクソボケです』
返事は……まあ……そこそこ良いものを貰えた
なんか途中から理不尽に怒られたりもしたけど、ケイさんが戻ってくるならヨシッ!(現場酒泉)
さて、残るは調月さんの件だが………これに関しては調月さんがセミナーの会長を辞める事になった
更には一定期間のミレニアムに対する無償奉仕まで決まった………一定期間と言っても、卒業した後もそれなりの年月縛られることになるだろうな
横領した額が額だし証拠も残っているからね、しょうがないね
でも、そのお陰っていうのも変だけど………この罰により調月さんはミレニアムに残ることになった
つまり飛鳥馬さんが一人にならずに済むってことだ、そういうこったぁ!
活動拠点はミレニアム学園内の誰にも使われていない隅っこの古い教室を使うらしい、ミレニアム程の最新技術を誇る学園によくそんな場所が残されていたな
………まあ、とにかく人死が出なくてよかったよ
これで酒泉アーカイブGTのお話はおしまい!
酒泉が居たから楽しかった!ドジで明るくて優しくて、そんな酒泉が皆………誰がドジだ殺すぞ(豹変)
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「ふむ……これが例の少年か?」
「ええ」
もはや鼠一匹住んでいるのかすら分からないほど静かな廃墟、そこに二人の〝大人〟が会合する
一人は赤い身体に多くの目を持つ異形の女、もう一人は機械の身体を軍服で包む男
女の後ろには多くのアリウス生が、男の後ろには多くのカイザー兵が待機している
「貴方は彼には恨みがあるのでしょう?散々計画を妨害されてきた恨みが………」
「例え恨みがあったとしても、上からの命令がなければ個人的な行動を取るつもりはないが………」
「ですが、こうしてこの場まで足を運んできたという事は………上からの返事には期待してもよろしい、と?ジェネラル?」
くつくつと笑いながら目を細めると、ジェネラルと呼ばれた男は軍帽を整えながらその目を真っ直ぐ見据える
「……この男の頭の中を漁れば……本当に我々カイザーにとって有益な情報が手に入るのだな?」
「ええ、勿論です」
「だが、それも貴様の話が真実だった場合だろう?」
「どちらにせよ、貴方達の情報の流出元は発覚しますよ?」
「………」
女から手を差し伸べられ、一瞬後ろに下がるジェネラル
しかし、何か罠を仕掛けている訳ではないと判断した彼は再び前に歩を進め、その手を握った
「上からの……プレジデントからの判断は〝OK〟だった、これより我々は同盟を結ぶ」
「ふふっ……賢明な判断ですね」
「……この写真の少年の身柄を引き渡せば、報酬金と共にこれから先のカイザーの利益に繋がる情報を全て此方に提供するのだな?」
「ええ、私が欲しているのは〝色彩〟や〝未来〟の情報だけですから………それ以外であればいくらでも提供しましょう」
「捕獲の為の戦力は?」
「それも必要とあらばいくらでも」
女がパチンと指を鳴らすと、後ろで待機していたアリウス生達がジェネラルの前に移動して敬礼する
「……それなら遠慮なく借りるとしようか」
「その代わり、計画はしっかりと遂行してくださいよ?もし失敗に終われば………」
「それは此方の台詞だ、もしも抜き出した情報がカイザーの期待を裏切るような情報なら………その瞬間から我々の同盟は終わりだ」
「……ほう?私と敵対する、と?」
「〝もしも〟と言っただろう?貴様が我々の期待に応えれば良いだけの話だろう─────」
「────ベアトリーチェ」
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ぶえっくしょいっ!
「しゅ、酒泉!?大丈夫!?」
大丈夫っす、ちょっとくしゃみが出ただけなんで……誰か俺の噂でもしてんのかなぁ……?
「ほ、本当に?風邪とか引いてない?」
特に身体に異常はないんで………
「そ、そう……それならいいんだけど……」
…………
「………」
あの……先生、お見舞いに来てくれたのは嬉しいんですけど……仕事とか大丈夫なんですか?
「心配しないで、ちゃんと終わらせてきたから」
……迷惑かけてしまってすいませんでした
「ううん!気にしないで!むしろどんどん迷惑掛けてほしいっていうか……」
ははっ、なんすかそれ……
「ははは………」
………
「………」
………
「………ね、ねえ……酒泉、欲しい物とかない?」
欲しい物……ですか?
「うん、例えば食べたいものがあるとか、読みたい漫画があるとか………」
いや、特には……
「じゃ、じゃあ……してほしい事は?」
それも特に……
「そ、そっか………」
すいません……
「………」
………
「………あっ!?せ、背中!背中拭こっか!?」
あー……もう終わってます……
「そ、そう……」
……あの、こうして俺と話してくれてるだけで嬉しいんで……
「ほ、本当?私、ちゃんと〝先生〟として酒泉の力になれてる?邪魔になってない?」
そりゃあ、もう……ずっと感謝してますよ
「本当?よかったぁ………」
………うーん
先生ってこんな過保護だったっけ?