《さあ!いよいよ私達の出番ですよ!A.R.O.N.Aちゃん!》
《……了解です》
シッテム内でふんすっ!と胸を張るアロナさん、そんな彼女に淡白に答えるA.R.O.N.A
どっちもアロナ呼びだとややこしいけど、プラナって名付けるのは俺の役目じゃないからしゃーない
《……えっと……それで?酒泉さんはどうして上半身裸になっているんですか?》
────いや、身体で服を守ろうかと思って……あとこれも服で包んどこっかなって
《これはさっきの水筒……と、シッテムの箱……ですか?》
ひび割れたシッテムの箱をチラッと服の中から見せ、それを再び仕舞う
実はこっそり持ってきてました、はい………もう動かないけどな
ただ、まあ……何かしらプレナパテスに関わる物は残してあげたいからな、本人の為にもその周りの人達の為にも
《……ありがとう……ございます》
────ん?……おう
まさかA.R.O.N.Aから礼を言われるとは……そんなこと微塵も思ってなくて素っ気ない態度を取ってしまった
……ちょっとは心を開いてくれた……のか?
《────っ、そろそろアトラ・ハシースが爆発します!A.R.O.N.Aちゃん、準備を!》
《……はい、私達で奇跡を……起こしましょう》
2人のアロナが両手を合わせ、目を閉じる
美少女2人でおててを合わせてる光景、実に目の保養に………ごめん今めっちゃボヤけてるんだったわ
なんて冗談混じりの考え事をしていると、いつの間にか俺の身体がキラキラした何かに包まれていた
おお……これがダブルアロナバリア……!スパアマと射撃バリアが同時に付与されたような無敵感を感じる……!
今なら何でも出来る気がする!なんかイケる気がする!
《私達の合図で外に飛び出してくださいね!行きますよ!?》
《……3》
《2!》
《1》
うおおおおおおっ!!これは死ではないっ!!俺が生きる為の……!
《………ジャンプ!》
────イヤッホオオオオオオオオウ!!!
どこぞのDが付くヒーロー使いの様な叫び声を上げながら外に身を投げ出す、デスフェニを許すな
……こんなふざけた事を考えられる余裕があるのも、2人のバリアのお陰なんだろうな
前世のお父さんお母さん元気ですか?俺は今、宇宙から紐無しバンジーを体験しています
《さあ!本番はここからですよ!》
《今から私達の全機能を使って酒泉さんのバリアを強化します。ですが、もし地上まで保たなかった場合は……》
────そん時は〝我が魂はゲヘナと共にありいいいいいいい!!!〟って叫びながら燃え尽きるから大丈夫
《何も大丈夫じゃないですよ!?》
冗談だ、俺だってリアルケタロスは勘弁したい
………やっべ、想像したらちょっとゾッとしてきた
どうせ空から落下するならケタロスじゃなくてオエージ!みたいに誰かに手を差し伸べられる展開が良かった……いや、そのパターンだと結局悲しい結末になるからやっぱ無しで
目指すはハッピーエンド、自分も仲間も誰1人欠けることのない……そんな結末を
────行くぞアロナ!A.R.O.N.A!ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!
《は、はい!?誰にですか!?》
《理解不能》
さて!2つのシッテムの箱を強く抱え、出来るだけ背を丸める
そんな俺を覆うように未知の光が更に俺を包む
シッテムの箱、マッチングクリア……いける!
────流れ星!墜ちて!燃えて!
《も、燃えないでください!》
────尽きて!
《尽きないでください》
────そしてええええええええええ!!!
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「リオ!ヒマリ!酒泉の落下地点の計算は!?」
『もう既にやっているわ!でも、地上からあの高さまで離れていると……正確な計算は……っ!!』
『こんな時にウトナピシュティムの演算機能があれば……!』
地上への転送後、リオとヒマリはウトナピシュティムから持ち帰ってきたその場にある最低限の道具だけで酒泉の落下地点を予測しようとしていた
だが、満足に動かす事もできないこの状況ではあまり効果は無かった
『駄目……こっちからも生態反応が確認できない』
『さっきまでアトラ・ハシース内の情報は確認できていたのに……どうして……!』
『……恐らく内部のシステムが完全に崩壊し切ったせいだね、それも物理的に』
リオやヒマリとはまた別にミレニアムからアトラ・ハシースの様子を確認しようとするチヒロとハレ
だが、内部の損傷具合が既に深刻なレベルにまで至ってしまっているであろう事をウタハが冷静に指摘する
『ウ、ウタハ先輩……やけに落ち着いてますね』
『こんな状況だからこそ冷静にならないとね』
『……ウタハ先輩、拳強く握りすぎ』
『……………すまない』
コトリとヒビキを心配させまいと落ち着いた雰囲気で対応しようとするが、2人にはそれが仮初めのものであると一瞬で見抜かれる
「……っ……まだだ……私には、これが───っ」
大人のカードを使おうと立ち上がった瞬間、先生の身体がふらつく
プレナパテスとの戦闘で力を行使し続けたその身体は限界が近かった
「……くそっ……なんで、どうして動いてくれないんだ……!こんな時に限って……!」
〝役立たず〟と心の中で自分自身を罵る先生、そんな彼の背中にスッと何者かが優しく手を当てる
「……落ち着いて、先生。私には大人のカードのデメリットがどれだけのものか分からないけど、無から有を生み出す程強大な力なんて簡単に扱えるような代物じゃないはず」
「ヒナ……」
「別に酒泉は脱出方法に関する嘘を吐いていた訳じゃないんでしょう?ならその方法自体は酒泉にだって使えるはずよ」
「……そう、だね……確かに彼は〝自分の我儘は自分で叶える〟って言ってたよ」
〝ありがとう〟と礼を言ってから一呼吸する先生
「ごめんね、ヒナ……こんな時、私が一番しっかりしていないといけないのに───」
先生は後ろを向いて謝罪の言葉を口にするが、その目は一瞬でヒナの身体の異変に気づいた
「だから、心配しないで……その脱出方法を使って、酒泉は……必ず……かならず……」
震える右腕、それを押さえる左手も震えている
歯は恐怖に耐えているかの様にカチカチと小刻みに鳴り、光を失いかけている瞳からは滴が零れ落ちる
「大丈夫よ、先生……大丈夫……大丈夫……大丈夫……」
作り笑顔でひたすら先生に話しかけるヒナ
だが、その言葉は先生を安心させる為……というよりは自分に言い聞かせている様だった
「……あんなに取り乱してる先生、初めてみたなぁ」
2人の背中を見つめながらホシノが呟く
その脳裏にはウトナピシュティム内で酒泉と交わした約束が過っていた
《貴女の大切な人達は………誰も死なせません》
「……はぁ……確かにおじさん達は最近出会ったばっかだし、大して関わりもないけどさぁ………別に君が死んでいいって訳じゃないんだよ?」
その小さな身体からは到底想像もつかない程の力で拳を強く握り、その視線をヒナ1人に集中させる
身体中を震わせながら、何度も〝大丈夫〟と繰り返す彼女の姿を見る
「あんなに後輩想いで優しい先輩を悲しませるとかさぁ……ちょっと問題児すぎない?失ってからじゃ遅いんだよ?」
この場にいない人間に対して語気を強めて1人語るホシノ
彼女は握った拳を開き、それをグーパーさせながらポツリとつぶやいた
「決めた、ガチ説教しよう」
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「……せんせい……どこ……」
草を掻き分けながら大切な者を探すシロコテラー
そのボロボロの身が更に土で汚れようと、お構い無しに進み続ける
「……っ」
その草村の奥から見知った仮面が視界の端に映り、動きを止める
数秒後、目を見開いてその仮面の元まで一直線に走り出す
その脚に力が入らなくても、その腕を振るう度に痛みが襲い掛かっても
「せん、せい……せんせい……!」
向こうから返事が来なくても、その身体が動かなくても
「…っ……ぅ……!」
走る途中で脚から力が抜け、そのまま顔を地面に打ち付ける
普段なら大して気にする事のないその痛みも、今のシロコテラーの身体にとっては思わず顔を歪ませてしまう程のダメージになっていた
「……やっと……見つけた……!」
それでも、と
重りを着けているかの様に鈍い身体を無理矢理立たせ、プレナパテスの元へ近づく
〔………〕
一言も発さないプレナパテス、それを見たシロコテラーの表情は絶望に染まる
だが、微かに動くその腕を見てまだプレナパテスは完全な〝死〟には至っていないと察する
「ま…だ……話せ、なくても……!」
最早満足に言葉を交わすことすらできない
シロコテラーはそれを理解していながらも僅かな希望に縋るように足を引きずりながら進み続ける
「……ぁ」
プレナパテスの身体が、動いた
「先生───」
自分の声に反応してくれた、そんな願望にも似た思いはあっさり砕かれた
プレナパテスの身体が、後ろに倒れた
その身は朽ち果てる寸前だととっくに理解していた、なのに目の前の現実を受け止めることをシロコテラーの脳が拒んでいた
「待っ」
数メートル先のプレナパテスに差し伸べる
当然届くはずもなく、彼のその肉体は無情にも地に叩き付けられる
────セエェェェェェフッッッ!!!
はずだった
「……え?」
その少年は………折川酒泉は仲間達と共に脱出したはずだった
そんな彼が、何故か自分達の目の前にいる
────……お、重っ……!か、身体に力が……入らん……!
……プレナパテスに押し潰されそうになっているせいで姿が見えないので、正確には目の前ではないが
「……なんで……ここに……」
────そ、それよりこの人支えるの手伝ってくれ……!今の俺じゃ無理だ……!
「……っ!そうだ、先生!」
プレナパテスの後ろに回り込み、酒泉と2人掛かりで立ち直らせるシロコテラー
互いに息を整え、暫く無言の時間が続く
────……だ、駄目だ……マジで……身体が……限界だ……
「………ねえ、どうして貴方がここにいるの?」
────なんだよ、そんなに俺が嫌いなのか?
「そうじゃなくて………ここに飛ばされたのは私と先生だけだと思ってたから……」
────……あー……まあ、色々あったんだよ……色々な………説明は面倒だから無しな
「……そう」
シロコテラーは若干眉間に皺を寄せるが、何かを言い淀む酒泉の姿を見て必要以上の言及を避けた
酒泉は内心それを〝ありがたい〟と思いながら、少し離れた場所に落ちている何かの端末を拾いに行った
────突然落としちゃって悪かったな、ダブルアロナ
《ダ、ダブルアロナ?……いえ、あちらの先生が倒れそうだったのは此方からも確認できましたし、気にしないでください!》
《……先生は……》
────ん?
《先生は……無事、でしょうか》
────……〝今は〟な
《……そう……ですか》
これまでの無表情とは違い、不安を帯びた表情で酒泉に問い掛けるA.R.O.N.A
その心情を察した酒泉はなるべく傷つけないように、且つ正直に答える
「………っ!?先……生……?」
シロコテラーの驚いた様な声に反応した酒泉が振り向くと、そこには酒泉を真っ直ぐ見据えるプレナパテスが立っていた
……そう、見据えていた……プレナパテスが自ら身体を動かし、酒泉の方を向いて
「……まだ……まだ動けるの……?だとしたらこれ以上身体を酷使しちゃ────」
プレナパテスを止めようとシロコテラーが立ちはだかる
だが、プレナパテスは震える腕を無理矢理上げ、その手の指先を酒泉の方に向ける
「……折川酒泉に……何か伝えたいの……?」
頷きはしない、ただ指を震わせるだけ
その様子を見た酒泉はシッテムの箱の近くに落ちていた水筒を拾って中から1枚の紙を取り出す
────………間に合ってよかったよ、本当
《……酒泉さん、もしかしてその紙ってこの時の為に……》
────まあな……脱出してからだとプレナパテスの元に向かう時間が残っているか分からなかったからな、先に天雨さんに頼んでおいた
《………先程は〝これを取る為だけに〟なんて言ってしまって申し訳ありませんでした》
────気にするな、価値観は人それぞれだからな………俺にとってこれは重要な物だった、それだけの話だ
その紙を持ってプレナパテスに歩み寄る酒泉
シロコテラーも2人の意思を尊重しようとその身を下がらせる
〔…………〕
プレナパテスの覚悟は既に決まっていた
仲間達と絆を紡ぎ、その力で自分達の計画を打ち破った正体不明の少年
敵だった筈の自分やシロコテラーを助けようと最後まで手を伸ばし続けたその優しさに、彼は希望を見出だした
任せられる────彼になら
〔……っ…〕
これが最後の言葉になる
自らの身体の状態からそれを察したプレナパテスは、最後にシロコテラーと満足に会話する時間を得られなかったことに罪悪感を覚えながらも仮面の奥で口を開こうとする
〔………生徒達を〕
────まだ託さないでくださいね
その仮面の口元に、酒泉の手がピタリと当てられる
────先生の言いたい事は分かってます、何も言わなくても最後には全部勝手に背負っていきますんで………その気力はまだ残しておいてください
酒泉はプレナパテスの言葉を止めると、シロコテラーの腕を引っ張って自分の代わりに彼女をプレナパテスの目の前に立たせる
────まだ貴方には〝先生〟としてやってもらわないといけない事があります、生徒を送り出す前の一仕事が……ね
その横から1枚の紙をプレナパテスの目前で広げ、それを片手で持つ
そこに書かれている文字は急いで書かれたかのように崩れていたが、それでも読み取れる程に綺麗な文字だった
────………お願いします、これを最後まで読み上げてください。どれだけ辛くてもどれだけ苦しくても、その身が苦痛で苛まれたとしてもどうしても貴方にはこれを読んでほしいんです
空いた片手でシッテムの箱を持ち、その画面をプレナパテスに見えるように近づける
────貴方には最後のその瞬間まで〝先生〟として彼女達の事を見届けてほしいんです。悔いが残らないように………とは言いません、せめて悔いが少しでも減るように
その手書きの文を数秒間眺めると、プレナパテスは再び口を開いた
〔卒業……生……砂狼シロコ……A.R.O.N.A……前、へ……〕