〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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卒業すんゾ!!!

 

 

 

「卒業……式……?こんな時に何を言ってるの……?先生……」

 

 

震える声でプレナパテスの両肩を掴むシロコテラー

 

だが、ただでさえボロボロなプレナパテスの身体がピクリとも動いていない事から、その手には大して力が込められていないであろう事を察する

 

 

「今すぐこの世界の先生達の所に行こうよ……それで延命治療を受けよう……?奇跡的に喋れるまで回復したのに……それを無駄にするなんて……」

 

 

……違う、これは奇跡なんかじゃない……プレナパテスの意地なんだ

 

最後まで先生としての責任を果たそうと、気合いだけでなんとか喋ろうとしているんだ………いや、それもちょっと違うな

 

責任だとか役目だとかそんな理由だけじゃなくて、ただ1人の人間として2人の子供を送り出したいから………自分が〝そうしたい〟から〝そうしてる〟んだ

 

 

 

〔……前……へ……〕

 

「────っ!だ、駄目……これ以上喋らないで……!また悪化しちゃう……!」

 

 

 

シロコテラーの声を聞いても尚、卒業式を進ませようとするプレナパテス

 

止まる気配のない彼を見てシロコテラーの声がより悲痛なものへと変わる

 

 

 

「助けないと……先生を……助けないと……!」

 

────……なあ、シロコテラー……本当はもう分かってるんだろ?

 

「……っ!折川酒泉!お願い……先生を病院に……ううん、ミレニアムまで連れていってっ!!あの学園の技術力なら、まだ……まだ先生が助かるかもしれない…………私、何でもするから……………どんな罰でも受けるから────」

 

────先生はもう助からないってことくらいさ

 

「────……ぁ……え……?」

 

 

 

そうだ、俺よりも長い時間をプレナパテスと共に過ごしてきたシロコテラーならとっくに気が付いてるはずだ

 

 

「……そんな、こと……ない……先生は、こうして生きてる……」

 

────もうすぐ死ぬ

 

「……たすかる……ぜったいに……たすける……」

 

────無理だ

 

「────っ!ぅ……うるさいっ!」

 

 

 

弱々しく突き飛ばされ、背中を地面に打ち付ける

 

シッテムの箱に衝撃が行かないように大事に抱きかかえていると、シロコテラーはそのまま馬乗りになって俺の胸ぐらを掴んできた

 

 

 

「先生を助けてよっ!貴方は知らないことを知っている!それなら先生の命を救える知識だってあるでしょ!?」

 

────無い

 

「……っ、嘘を吐かないで!!」

 

────嘘じゃない、そんな知識は俺には無い

 

「………やだ……」

 

 

 

プレナパテスは助からない、絶対に

 

本来の歴史でも先生に一言託すのが精一杯だったんだ、これでもマシな方だ

 

 

 

「お願い……助けてよ……先生を助けてよぉ……!」

 

────ごめん

 

「〝先生は助かる〟って言って………!」

 

────ごめん

 

「さっきみたいに……わたしの、ことばを……否定してよぉ……!」

 

────………ごめん

 

 

 

未来は変えた、でも俺じゃこれが限界だった

 

もしここに延命装置があればもっと生き永らえさせる事ができたかもしれない

 

その間にキヴォトスの技術が進んでプレナパテスを救える方法が生まれてきたかもしれない

 

そうなったら数年後にはA.R.O.N.Aとシロコテラーとプレナパテスが3人で笑い合える未来が訪れたかもしれない

 

………でも、そんな〝たられば〟の話をしても仕方無いだろ

 

だって、俺達は〝今〟を生きているのだから

 

 

 

《……折川酒泉……頼みがあります、私を先生に近づけてください》

 

────……分かった

 

《……ありがとうございます》

 

 

 

シッテムの箱の中からA.R.O.N.Aの声が聞こえてきた

 

表情は相変わらず変化無しだが……その目だけは今までと違っていた

 

何かを決意した様な……そんな力強い目だ

 

 

 

《……大丈夫、ですか?》

 

《………きっとこれは、必要な事ですので》

 

《……A.R.O.N.Aちゃんは強いですね》

 

 

アロナさんがA.R.O.N.Aの背に手を当て、見送るように優しく前に押し出す

 

俺も胸ぐらを掴んだまま力無く項垂れるシロコテラーを優しく退かし、立ち上がってから再びシッテムの箱をプレナパテスに向ける

 

 

〔………〕

 

《……先生》

 

 

互いに無言で佇む

 

数秒間、先にプレナパテスが声を出した

 

 

〔……A.R.O.N.A……君、は………どんな、苦境でも……私を……支え、て……くれ……たね……〕

 

 

……これは俺が天雨さんに書いて貰った文章ではない、プレナパテス自身の言葉だ

 

 

〔キヴォトスに……来た、ばかりの……私を……いつ、も……助けて……〕

 

《……それが私の仕事ですから》

 

〔……こんな、ふうに……無、表情……でも……本当、は……感情、豊かで……食べるのが、大好きで……〕

 

《………そんなこと、ないです》

 

 

途切れ途切れでもプレナパテスの言いたい事がハッキリと伝わる、喋ることすら厳しいはずなのに

 

こんな苦痛を強いてしまった事への罪悪感とそれでも最後までやり遂げてほしいという感情が混ざりあって思わず表情が歪んでしまう

 

 

〔それを、もっと……色ん…な、人……に……知って、もらうんだ……〕

 

《色んな人に……?》

 

〔君、は……1人じゃない……こっちの………っ……私や……こっちのアロナ……そし、て……彼に、も……君が、見える〕

 

《………》

 

〔……私、が……いなくて、も…………寂しく、ないよ〕

 

 

シッテムの箱の画面に映るA.R.O.N.Aの頭を撫でながら言葉を紡ぐプレナパテス

 

それを聞いたA.R.O.N.Aは小さな手をぎゅっと握りながら頭を前に出す

 

 

《……先生》

 

〔……な……に?〕

 

《私は……………………寂しいです》

 

それだけ、たった一言

少し間を空けてから放った一言、それはきっと口数が少ない少女が懸命に考えて発した言葉なのだろう

 

仮面で顔が隠されているプレナパテスだが、その言葉を聞いた彼が笑顔を浮かべているであろう事は容易に想像できる

 

 

〔……ごめん、ね?〕

 

《………はい》

 

 

プレナパテスも短く言葉を返すと、今度はその仮面をシロコテラーの方へと向けた

 

それを項垂れたまま見上げるシロコテラーは首を横に振った

 

 

 

「……ゃ…」

 

────……次はアンタの番だぞ

 

「やだ……やだやだやだ!!先生と一緒にいたい!卒業したくないっ!」

 

 

別れを受け入れたくないのか、頭を抱えてそのまま塞ぎ込む

 

 

 

────………シロコテラー、 卒業式ってのは先生と生徒の仲を断つ為の儀式じゃない。大切な生徒を送る為の……そして……

 

「……うるさい……」

 

────先生が胸を張って〝私の生徒達はこんなにも立派に育ったぞ〟って全ての人間に自慢する為の式なんだ

 

「………っ」

 

────頼む……どうか先生の自慢の教え子としてその足で立ち上がってくれないか?

 

「………やだ……」

 

 

 

精神が限界を迎えているのか、シロコテラーは幼子の様に拒否し続ける

……〝悔いが残らないように〟は無理でも〝悔いが減るように〟って決めただろ、俺

 

こんな時まで中途半端でいる事は許されない、最後まで貫き通せ

 

 

 

────……シロコテラー、これはプレナパテスにとって最後の卒業式なんだ

 

「さいごじゃ……ない……まだ、いきてる……」

 

────でも、すぐに死ぬ

 

「……っ!さっきから……先生を見捨てるような言葉ばかり───」

 

────じゃあ、今も尚苦しんでいるプレナパテスに縋り続けるのが救いになるのか?違うだろ?

 

「………」

 

 

 

慰めはいらない、俺にはできない

 

 

 

────あの人がこうして苦痛に苛まれながらも立ち続けている理由はこの卒業式を最後までやり遂げたいからだ、さっさと楽になりたいなら俺の頼みなんて無視してるはずだ

 

────じゃあやり遂げたい理由は?そんなの1つしかない、生徒達を……アンタとA.R.O.N.Aを最後までその目で見届けたいからだ

 

────自慢の生徒達が外の世界に羽ばたく様をその目に焼き付け、立派に成長したその背中を見て〝もう大丈夫〟と自信を持って言う為に

 

────……頼む……先生を安心させる為には……先生を楽にしてあげる為には……アンタの力が必要なんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────どうか、先生の自慢の教え子として最高の恩返し卒業式

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の言葉がどれくらい彼女に届いたのかは分からない

 

でも言いたい事は言った、後は信じるしかない

 

数時間にも感じられた数秒程度の間を置いてから、シロコテラーがフラフラと立ち上がる

 

今にも倒れてしまいそうな足取りで、プレナパテスの前まで移動する

 

 

 

〔…………〕

 

「……」

 

〔……シロ、コ……ありが、とう〕

 

 

 

プレナパテスがこの瞬間までシロコテラーに声を掛けなかったのは、恐らくだが最後には立ち上がってくれると信じていたからだろう

 

……なんて、これは俺の想像だけどな

 

 

 

〔……シロコ……君、には……いっぱい、苦労……させ、ちゃった、ね〕

 

「……苦労?」

 

〔アビドスの、こと……1人で……戦わせ、て……ごめ、ん〕

 

「……違う……違う!謝るのは私の方!先生をこんな姿にして……!そのくせ中途半端に終わらせて……!」

 

〔……シ、ロコ……〕

 

「アビドスも!先生も!守れなくてっ!勝手に絶望してっ!それで………色彩を……呼び、よせて……!」

〔……シロコ……の、せい……じゃない、よ〕

 

「ごめんなさぃ……悪い生徒で、ごめんなさい……!」

 

 

 

未だに自分のせいだと自責の念に駆られ続けるシロコテラー

 

だが、プレナパテスがそれを肯定するはずがない

 

 

 

〔……シロコは、良い子……だよ〕

 

〔最後ま、で……アビドスを……守って、くれた〕

 

〔皆の、意志……を、無駄に……しない……為、に、紡いで……くれた〕

 

〔……シロコ〕

 

〔私の生徒でいてくれて、ありがとう〕

 

〔これから、は……自分の、為に……自分の、好きなよう、に〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔────生きて〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレナパテスが再び紙を広げて文字を読み上げる

 

 

 

〔卒業生、前へ〕

 

 

「……っ……は、い……!」

 

《……はい》

 

 

シッテムの箱を持ち、シロコテラーの隣に立つ

 

 

 

〔砂狼シロコさん、A.R.O.N.Aさん〕

 

〔貴女達は私の元から卒業し、新たな人生を歩み出したことをここに証します〕

 

〔……未来のご友人達がこのキヴォトスで貴女達を待っていることでしょう〕

 

〔どうか、その先の道に幸あれ〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……ぅ────ぅああああっ!ああああああ!!」

 

《………っ…》

 

「せんせっ……せんせぇ……!!」

 

《……いや、です……別れたく、ないです……》

 

 

 

 

その両手でプレナパテスを抱きしめるシロコテラー

 

静かに自分の感情を正直にさらけ出すA.R.O.N.A

 

プレナパテスは何も喋らず、シロコテラーの背をぽんぽんと優しく叩く

 

シッテムの箱を差し出せば、もう片方の手で愛しそうにプラナの顔を撫でる

 

 

「……私……幸せになるから……!こっちで、皆と……!」

 

 

 

プレナパテスに抱きつくシロコテラーを見つめていると、自分の頬が微かに動く

 

それは自分の目的を達成できた喜び、少しでもプレナパテスを救えた事への安堵

 

 

〝本当にそうか?〟

 

 

彼の死は変えられなかったけど……それでも原作より安らかな死に変えることはできた

 

これで俺の役目は本当に終わった

 

 

〝それだけでいいのか?〟

 

 

後はプレナパテスの死を皆で見届けよう

 

彼を1人にしない為に、最後まで笑顔のまま送り届ける為に

 

 

〝それで本当に満足なのか?〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満足できるわけねぇだろ

 

何が〝目指すはハッピーエンド〟だ、プレナパテスを救えてないだろ

 

心を救った程度で満たされてんじゃねえよ役立たず折川酒泉、結局死人が出てるだろ

 

本当はプレナパテスだって助けたかったんだろ?だけどそれは不可能だからって勝手に満足したフリをしてるんだよ、俺は

 

何の為にこの世界に生まれたんだよ、お前の存在意義ってなんだよ

 

プレナパテスは死ぬ………結末は何も変わってないだろ

 

………分かってるよ……どうにもならないってことは

 

でも……嫌でも考えてしまう

 

もっと早く転生していたら?もっと早く最終編に関わることを決めていたら?

 

もっと早くプレナパテスを救うことを考えていたら?

 

………ああ、くそっ……なんで、今更……後悔なんてするつもりはなかったのに

 

俺のせいでプレナパテスが死んだ訳じゃない、それは理解している

 

それでも心の奥底で〝お前がもっと有能なら〟と自分自身の後悔が怨嗟の声となって囁いてくる

 

なんで俺が転生したんだ?誰かが俺を選んだのか?

 

もしそうならどうして全てを救えるチート持ちのオリ主を呼ばなかった?どうしてハッピーエンドまで導ける完璧なメアリー・スーを作らなかった?

 

こんな、こんな中途半端に未来を変えるだけの子供なんて────

 

 

 

 

 

「……酒泉」

 

────っ……え?

 

「先生が……呼んでる……」

 

 

 

いつの間にかプレナパテスから両手を離していたシロコテラーが、目を腫らしながら俺に手招きをする

 

プレナパテスも仮面を此方に真っ直ぐ向け、俺が近づくのを待っている

 

………今は、彼の事だけを考えていよう

 

 

 

〔……あり、がとう……最高、の、時間……を〕

 

────……いえ、俺にはこれぐらいの事しか……

 

〔私に、とって……は……こ、れぐらい……じゃない……〕

 

 

 

震えるプレナパテスの手が、俺の肩に乗せられる

 

 

 

〔この、世界、に……これて、よか……た〕

 

〔君が……い、た……だか、ら……この、時間……が…生まれ、た〕

 

〔………ありが、とう〕

 

 

プレナパテスの手に力が込められた

 

 

 

〔私を止めてくれてありがとう〕

 

 

〔シロコとA.R.O.N.Aを救ってくれてありがとう〕

 

 

〔生徒達を守ってくれてありがとう〕

 

 

〔私に卒業式をやらせてくれてありがとう〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔この世界に生まれてきてくれてありがとう〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッキリと、一度も言葉を途切れさせることなく感謝の意を伝えられる

 

……そう、か……ちゃんと救えてたのか、俺

 

本人が礼を言ってくれたんだ、きっとそうなんだろう

 

 

 

〔……もう1人の……私にも……遺言、いいかな?〕

 

 

 

 

プレナパテスは俺の肩から手を離し、再び喋り始める

 

 

 

 

────……なんですか?

 

〔〝酒泉はすぐに無茶をするから目を離しちゃ駄目だよ〟………って〕

 

────……それを俺本人に伝えさせるんですか?

 

〔うん……お願い〕

 

 

 

俺のことを俺に伝えさせる、それがなんだか可笑しくてつい笑ってしまう

 

それにしても………出会ってから大して時間が経っていないのにも関わらず〝すぐに無茶をする奴〟って思われてるのか俺は

 

 

〔……それ、と……君…に……これ、を……〕

 

 

先生の言葉が再び途切れ途切れになる

 

恐らく〝その時〟が近いであろうことを察していると、プレナパテスが1枚のカードを俺に手渡してくる

 

 

 

〔……いつ、か……大人に、なる……君、に〕

 

────……託されました、このカードも……貴方の生徒のことも、全部

 

〔……ふふっ……頼ん、だよ?〕

 

 

 

 

 

「っ!!先生っ!!」

 

《……っ》

 

《……酒泉さん、プレナパテスの生命反応が……》

 

 

 

カードを受け取った直後、力が抜け落ちた様に崩れ落ちるプレナパテス

 

そんな彼をシロコテラーが咄嗟に駆けつけて支える

 

 

〔…………〕

 

 

 

手はまだ震えてる、でも言葉はもう発さない

 

……ここまで耐えてくれてありがとう、沢山話してくれてありがとう

 

そんな思いを込めながら、俺の両手を彼の両手に重ね合わせる

 

 

 

「……先、生……1人じゃないよ……ずっと、一緒……だから……っ……」

 

《……お仕事、お疲れ様でした》

 

《こっちのA.R.O.N.Aちゃんのことは任せてください!……だから、心配しないで……ください》

 

 

 

シロコテラーの両手も重ね、シッテムの箱をプレナパテスの手に持たせる

 

 

 

俺達全員で一緒に送り届けよう

 

最後のその瞬間まで手を握り続けてやる

 

しつこいぐらいに、本人が嫌がっても

 

その意識が途絶えるまで……いや、途絶えた後もずっとずっと、ずっと一緒に

 

だから………

 

 

 

 

 

 

 

────プレナパテス………いや、先生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっとお時間いただきますからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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