〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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転生者の終着点/折川酒泉の始発点
戦後


 

 

 

 

あの戦いから数日後、キヴォトスは徐々に復興しつつあった

 

虚妄のサンクトゥム出現の影響で倒壊した建物は少しずつ元の形を取り戻し、避難中だった一般市民も自宅が無事だった者はそのまま帰宅

 

身体が丈夫なキヴォトスの生徒達も戦いの傷が癒え、各々自分の所属している部の活動へと戻っていった

 

 

……だが、傷が癒える前から既に活動を再開していた一部例外の組織もあった

 

それらの組織は特にゲヘナに多く存在し、どこにそんな体力が余っているのかと問いたくなる程暴れまわっていた

 

そして、それを止める為に風紀委員の生徒達も駆り出される事となり、結果…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲヘナはどの学園よりも早く平常運転に戻った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アコ行政官、先程勃発した不良グループ同士の抗争の鎮圧が完了しました」

 

「そうですか……ヒナ委員長とイオリは?」

 

「帰還中です」

 

チナツの報告を聞いたアコは疲れ気味に息を吐き捨て、〝またですか〟と呟く

 

 

「あんな事件が起きた後なのにまた抗争が勃発するとは………ゲヘナの生徒は少々元気が有り余りすぎてますね」

 

「いつもの日常が戻ってきた……と言ったら聞こえは良いのですが……」

 

「こんなのが日常とは悲しくなってきますね……」

 

 

アコはまだ何も書かれていない白紙を取り出すと、それを1人の少年の元まで持っていく

 

 

「酒泉、現場に出向いて被害状況の確認をお願いします」

 

「………」

 

「戦闘後なので心配は無いと思いますが……万が一不良グループの残党が残っていた場合、そのまま見つからないように帰還してください」

 

「………」

 

「一応、他の風紀委員を何名か貴方に付けますが………って、さっきから返事をしてませんけどちゃんと聞こえてますか?」

 

 

アコが一言も発さない無言の少年を睨み付けると、少年はゆっくりと視線を上げて呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほえ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

 

燃え尽き症候群

 

それは今まで熱中するほど打ち込んでいた事に突然興味を失くしたり、逆に目標を達成した事で熱意が冷めてしまったりする現象

 

 

 

「ほやぁ~……」

 

 

 

スポーツ選手、会社員、ゲーマー

 

誰にでも訪れる可能性のあるその現象は、例に漏れず折川酒泉の身にも降り掛かってきた

 

彼の戦いは〝エデン条約を乗り越える〟という決意から始まり、途中で心境の変化が入った事で〝最終編を乗り越える〟という目標に変わった

 

ミレニアムの一部生徒や先生と何度も作戦会議を繰り返し、更には戦いに身を投じて己を鍛え続けて最終編に備えた

 

彼等のその努力は無駄ではなく、自らが鍛え上げてきた身体と紡いできた縁によって見事災厄を打ち砕いてみせた

 

その瞬間、折川酒泉の目標が達成された

 

プレナパテスから様々なものを託されてそれを背負う事を決意したが、それは別として一先ず直接的な戦闘に関わるような事件は無くなった

 

彼の中に残された原作知識────カルバノグの兎編に関してもそもそも元凶である不知火カヤが七神リンと先生に目をつけられた為、事件を起こす事が不可能な状態になっていた…………というよりも既にカイザーとの癒着がバレているのでイベント消化済みである

 

勿論、風紀委員として数多の問題児と戦う事はこれから先何度も訪れるだろう

 

だが、酒泉はアトラ・ハシース内で酷使した目が未だに回復しきれていない為、空崎ヒナから当分の戦闘行為を禁止されていた

 

風紀委員としてひたすら書類仕事や雑用をこなす毎日、警戒すべき未来の事件も酒泉が知る限りでは解決済み

 

まるで長年の戦いで付けられた傷を癒すかの如く、少しずつ彼の身体から力が………というよりもやる気が抜けていった

 

 

「ばにたすばにたす……」

 

 

 

〝なんで野郎なんかの溶けた顔を見せられねぇといけねえんだ!!!〟と全国の先生方にぶちギレられそうなほどポケーっとした表情を浮かべる酒泉

 

そんな彼に青筋を立てながらアコが近づく

 

 

 

「……いつまでダラダラしてるつもりですか?早く仕事に取り掛かってください」

 

「あめ、ふるのかな……」

 

「……何回も同じ事を言わせないでください」

 

「いちごみるくは……」

 

「……このっ……!いい加減に……!」

 

「あ、ちょうちょ」

 

「………ふんっ!!!」

 

「モルスァッ!!?」

 

 

アコは両手を構えると、まともな返事をしない酒泉の両頬を勢いよく叩いた

 

漸く反応した酒泉は赤くなった頬を押さえながら涙目でアコを睨み

 

 

「なっ……何するんですか!?」

 

「貴方が反応しないから無理矢理起こしてあげたんですよ!!ほら!さっさと準備しなさい!」

 

「でも……もう疲れちゃって……全然動けなくてェ……」

 

「すぐにポヤポヤしない!涎を拭いてください!服も整えて!………ネクタイもぐちゃぐちゃじゃないですか!ああもう!私が結び直してあげますから一旦制服を脱いでください!」

 

 

忙しなく酒泉の身嗜みを整えるアコ、そんな彼女に酒泉が一言

 

 

 

 

「……えっと……それで、何をすればいいんでしたっけ……?」

 

 

 

 

折川酒泉の頭部にアコ渾身のチョップが襲い掛かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────という事が先程ありまして」

 

「………酒泉、やる事が無くて暇なのは分かるけど……気を抜きすぎちゃ駄目よ」

 

「す、すいません……」

 

 

ヒナからのジト目を受け、心底落ち込んだように頭を下げる酒泉

 

彼は〝空崎ヒナを支える〟という昔からの目標を達成するどころか、こうして風紀委員全員に迷惑を掛けてしまった事を悔いていた

 

「……はぁ……」

 

 

……が、それはそれとして長年の目標の1つを達成してイマイチ身体に力が入りきらないのもまた事実

 

 

「……酒泉ってもしかしてバトルジャンキーだったり?」

 

「んなわけないですよ……なんでそんなことを……」

 

「いや、なんか戦ってる時より今の方が疲れてそうっていうか……」

 

 

酒泉はイオリの言葉を否定して首を振るが、最近の態度を見ればそんな勘違いをするのも無理はない

 

たった今否定された通り、折川酒泉という少年は決して戦闘狂でも戦争狂でもない

平和は好きだし休むことだって好きだ、だが………

 

 

「なんか……こう……頭がフワフワするっていうか……」

 

「はあ?」

 

「大好きなアニメや特撮の最終回を観た後みたいな……分かります?」

 

「うーん……まあ、ギリギリ分からなくもない……けど……」

 

 

頭の中で何となく〝そういや狐のライダーの最終回後のVシネってどうなったんだろう〟と思い浮かべながらスクールバッグの中から小さなケースを取り出す酒泉

 

そのままケースの中から眼鏡を取り出すと、レンズを拭いてから自身の両耳に掛ける

 

「さーて、仕事仕事」

 

 

ペンと計算機を手に、被害報告とその総額を書き記そうとする酒泉

 

カタカタと計算を始めたところで────

 

 

「………あの………なんですか?」

 

 

────自身に集まる視線に気づく

 

 

「………気にしないで」

 

「……あ、いえ……」

 

「……なんでもない」

 

「………そ、そこそこですね」

 

 

その視線が何を捉えているのか察した酒泉は少々不機嫌そうに眼鏡を外す

 

 

「……自分でも分かってますよ、似合ってないって………はぁ……やっぱコンタクトの方がいいのかな」

 

「い、いやいや!そんな事ないって!ただ、ちょっと見慣れないからさ……」

 

「まあ、違和感はありませんよ。酒泉にしては良いセンスをしてるんじゃないですか?…………そこそこ、ですけど」

 

「天雨さんの言葉がお世辞臭い……やっぱり似合ってないんだ……」

 

「~~~っ!!!似合ってますよ!ちゃんと!」

 

 

面倒な反応をする酒泉に対して声を荒げて褒めるアコ

 

そんな光景に苦笑しつつ、イオリが酒泉に気を遣って話題を変える

 

 

「それにしても酒泉の目に後遺症が残らなくて本当に良かったよ………変に無茶しなければ普通に生活してる内に戻るんだっけ?」

 

「らしいですよ?お医者さん曰く、視力そのものが低下した訳ではないらしいので………ゲームした時の目疲れレベル100みたいな?」

 

「ゲームしただけで目から血が出てきたら怖いよ……」

 

「まあ、銀鏡さんも言ってくれましたけど後遺症が無くて本当に良かったですよ。視力そのものが低下していた場合は自然に治ることはないって聞いた事がありますし………本当かどうか知りませんけど」

 

 

再び眼鏡を掛け、自分の顔をスマホのインカメラモードで確認する酒泉

 

一度眼鏡をクイッと指で抑え、格好つけてから〝似合ってねー〟と呟いた

 

 

「結局、目が治るまでは暫くこのままか………早く外したいなぁ」

 

「うーん、私は別に変だとは思わないんだけどなぁ………むしろ似合ってるっていうか……」

 

 

ボソッと何かしら呟いたイオリの隣でチナツが酒泉に話しかける

 

 

「……酒泉君、そんなに気になるんですか?眼鏡が似合うかどうかが」

 

「いや、まあ……別に似合ってなくてもいいけど周りから視線が集まるほど違和感あるのは嫌じゃん?」

 

「そうですか………では、もし酒泉君さえよろしければ今度のお休みの時酒泉君に似合いそうな眼鏡を一緒に探しませんか?」

 

「お?火宮さんと?」

 

 

突然の提案をしたチナツに周囲の者の視線が集まるが、それに気づいていないかの様に話が進められる

 

 

「一時的に掛けるだけとはいえ、眼鏡というのは身体の一部でもあるんですよ。故に選ぶ時は自身に合った物を慎重に選ばなければいけません」

 

「身体の一部……」

 

「度やサイズを基準に考えるのは当然として、顔のパーツとして見た時に違和感を持たれないようなデザインを選ぶ………というのも私は大事だと思いますよ?それら全ての要素を含めて考えるならば一度眼鏡選びを経験している有識者を隣に置くことをオススメしますが……」

 

「……そうだな、じゃあ今度の休みは火宮さんに付き合ってもらおっかな?」

 

「はい!お任せください!」

 

「集合時間とか集合場所は────」

 

「………酒泉、チナツ、そういう話は今日の仕事が全部終わってからにして」

 

「……あ、すいません」

 

「申し訳ありません……」

 

 

ヒナが話を遮ると、2人は素直に謝罪の言葉を口にした

 

その後アイコンタクトで互いに〝また後で〟と伝えると、同時にデスクの上の書類に取りかかった

 

 

「……そうだ……酒泉、後で〝彼女〟の様子について報告が聞きたいから仕事が一段落ついたら会議室の方に1人で来て」

 

「〝彼女〟……ああ、シロコさんのことですか」

 

「シロコさん………結局名前で呼ぶことにしたんだ」

 

「シロコテラーって呼ぶよりはこっちの方が良いと思いまして………あ、因みにアビドスの2年生の方は〝砂狼さん〟って呼んでます」

 

「………まあ、同一人物が居ると名前も呼びにくいし……」

 

 

〝そういう事情なら〟と呟くヒナ、そんな彼女に対して酒泉は少々申し訳なさそうにしながら話を再開した

 

 

「あの……空崎さんはやっぱり納得……できませんか?」

 

「……ええ、そうね。未だに納得していないわ」

 

「……その、シロコさんは本当にキヴォトスを滅ぼしたくてこの世界に来た訳じゃなくてですね………」

 

「勘違いしないで、私が納得していないのはその事じゃないわ」

 

「……え?」

 

「アリウススクワッド、聖園ミカ、調月リオ………私達が協力してきた人達の仲にはかつて敵だった者も混ざっている、だからシロコテラーを受け入れること自体に文句は無いわ」

 

 

大して気にしてる様子もなく平然と言い放つヒナ

 

だが、彼女は口をモゴモゴと動かしながら次の言葉を発しようとした

 

 

「……でも、私が納得していないのは……その……2人の男女が同じ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「委員長!大変ですっ!何者かに催眠術を掛けられたマコト議長が突如万魔殿と風紀委員会の解体を宣言しましたっ!」

 

「殺してやるわ、羽沼マコト」

 

 

 

 

その言葉は、1人の風紀委員が突然持ってきた報告にかき消された

 

 

 

 

「えぇ……そうはならんやろ……」

 

「なりますよ、あのアホ狸なら」

 

「……まあ、人を化かすどころか化かされまくってるあのアホ狸ならなりそうですね」

 

 

あまりの超展開に一瞬この日がエイプリルフールかと勘違いしかけた酒泉だったが、ゲヘナのお飾りトップの顔を思い浮かべて〝アイツならそうなってもおかしくないか〟と考えを改める

 

「さて、催眠術といえば同じ万魔殿のポンコツがそれの使い手だったはずですけど……」

 

「……なんですか、ゲヘナの議長があんな下らないものに引っ掛かったとでも言うんですか」

 

「さっき天雨さんが自分で〝騙されそう〟って言ってたじゃないですか」

 

「だからって五円玉を揺らすだけのあんな古典的な方法で催眠状態に陥るはずが………騙されるにしてもせめてもう少しマシな方法で騙されてほしいです」

 

「……なんで?」

 

「だって、肩書きだけとはいえ私達の上に立っている人間がそこまでマヌケだと流石に悲しすぎるじゃないですか」

 

面倒そうな表情で書類を全て片付け、部屋を出ようとするアコとヒナ

 

2人に続こうと酒泉も立ち上がるが、ヒナはそれを手で制する

 

 

「酒泉はここで残ってて、戦闘に巻き込まれるかもしれないから」

 

「……戦闘?」

 

「うん、だって────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最悪〝無理矢理〟止めるから」

 

「……あっ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────なーんて事があったんですけど、どうして学園のお偉いさんってすぐ人に騙されるんですかね?」

 

「それ私に言います?」

 

 

放課後、連邦生徒会の会議室で不知火さんに嫌味を込めて報告すると若干こめかみに筋を浮かべながらキレられた

 

でもこうして煽ってしまうのも許してほしい、空崎さんとの話し合いが終わってそのまま帰宅しようとしたら突然不知火さんから電話が掛かってきて〝さっさと来てください!〟って一方的にキレられたんだから

 

 

「……で?不知火さんはどうして俺を呼んだの?直接話さないといけないほど十分な事でも?」

 

「まさか………私との約束を忘れたと!?話が違うじゃないですか!?」

 

「約束?……ああ、ウトナピシュティム出発前にした取引の事ですか?」

 

「そう!それですよそれ!」

 

「なんだ、その事か………破ったつもりはありませんよ、ちゃんと減刑されて保護観察処分になったじゃないっすか」

 

 

アホ毛を揺らしながら迫ってくる少女の額にでこぴんをお見舞いして下がらせる

 

 

「アンタの起こした事件を知ってるのは七神さんや先生等の一部の人達のみ、直接的な被害者である俺はアンタの為に減刑を求めてやった………約束は守りましたよ?不知火さん」

 

「無罪じゃないと意味が無いんですよ!」

 

「何も悪さしなければ実質無罪じゃん」

 

「うぇっ!?そ、それは……そうですが……」

 

 

さてはコイツなんか企んでやがったな

 

相変わらずの諦めの悪さに苦笑しつつ、そのアホ毛を突っつく

 

 

「な、何をするんですか!?」

 

「いいか?俺の目が黒い内はアンタの好きにはさせないし、俺の目が白くなってから悪さしたらあの世から化けて出てやるからな?ついでにこのアホ毛も引っこ抜く」

 

「………そ、そんなことしませんよ」

 

 

めっちゃ震え声やん、震えすぎてアホ毛までピコピコ動いてるんだけど

 

この人って追い詰められるとめっちゃ表情に出てくるよな……これが超人かぁ

 

 

「ぐぬぬっ……わ、私のことも砂狼シロコの時みたいに庇ってくださいよ!?」

 

「やむを得ず戦う事になったあの人と自分からやらかした不知火さんじゃ立場が違いすぎるだろ」

 

「………」

 

 

黙っちゃったじゃん、自分でも言い返せないくらい納得しちゃったじゃん

 

図太いというかなんというか……このメンタルは個人的には嫌いじゃないんだけどなぁ

 

 

「……た、立場が違うからといって対応を変えるのは差別では?」

 

「知ってます?どっかの誰かが人間を武器扱いしてたらしいっすよ?これって差別では?」

 

「………へ、へぇー……そんな人がいたんですね……」

 

 

冷や汗を流しながら必死に言い訳を考える彼女を呆れた目で見てやる

 

まあ、確かにカイザーに騙されたのは可哀想だと思っ………あんま思わないな、手を組んだのも自分の意思だし

 

 

「くっ……同じ保護観察処分者の彼女とどうしてこうも扱いの差が……!」

 

「境遇とか色々あると思いますけど、やっぱ一番の理由は反省してるかどうかじゃないっすかね?」

 

「だからって全ての栄養が胸に行ったようなあの女の下で直接監視されながら働くなど……!」

 

 

なんでや胸関係ないやろ

 

明らかな私怨を込めて拳を握る自称超人、女性の気持ちはあまり理解できないけど一部の者達にとって己の胸部装甲は命より大事らしい

 

………戦闘中胸が邪魔にならないとかメリットだってあると思うんだけどなぁ……特にそこら中でドンパチしているキヴォトスでは結構重要だろうし

 

 

「………あ、それと不知火さん」

 

「なんですか!?毒にも薬にもならないお説教なら必要ありませんよ!?」

 

「後ろに七神さんいますよ」

 

「……えっ」

 

 

ギギギッ!と錆びた機械人形の様に後ろを振り向く不知火さん

 

彼女の背後に立っていたのは連邦生徒会長代行の眼鏡の女性

 

 

「こんにちは、七神さん」

 

「ええ……こんにちは、酒泉さん。早速ですが彼女をお借りしても?」

 

「どうぞ、煮るなり焼くなりもう一度煮込むなりお好きに」

 

「ありがとうございます………では」

 

 

未だに固まっている不知火さんの腕を引っ張って無理矢理立ち上がらせると、七神さんはそのまま会議室を退室しようとする

 

すると漸く意識を取り戻した不知火さんがテーブルの端を掴んで絶対に離れまいと足を止める

 

 

「リ……リン行政官!?いつからそこに!?」

 

「〝全ての栄養が胸に〟の少し前から居ました」

 

「……確か、今は復興地区の方で現場監督をなさっていたのでは?」

 

「皆様の尽力のお陰で本日分の作業が早めに終わったので、こうして貴女の様子を見に来ただけですよ」

 

 

バッチリ聞かれてる……お労しや、カヤ上

 

 

「別に私に対する不満を吐き出すのは構いませんが……それならせめて誰も見ていない場所でお願いします。貴女に反省の色が見られなかった場合は保護観察の期間が長引きますし、何より酒泉さんや先生の御厚意を無駄にしてしまう事になりますので」

 

「は、はは……じょ、冗談ですよぉ……こんな私なんかに慈悲を与えてくれたリン行政官に恨みを持つわけが……」

 

「……そうですね、貴女には反省文を100枚程書いてもらいましょう。どうやら不知火防衛室長には〝毒にも薬にもならないお説教〟は必要無いらしいので」

 

「100枚!?ま、待ってください!それならせめて説教の方で……!」

 

 

すっかり尻尾握られてんなぁ……なんて思いつつ、引きずられていく不知火さんの背中を見つめる

 

……あ、そうだ

 

 

「七神さん、ちょっといいですか?」

 

「はい?」

 

「これは先生にも直接伝えた事なんですけど、七神さんにはまだ言ってないと思って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を監視人に選んでくれてありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

次の日、朝

 

 

 

 

 

 

ジュージュー、パチパチ

 

フライパンの蓋の下から目玉焼きとベーコンが焼ける音が聞こえてくる

 

炊飯器の中から米を茶碗に盛り、それを2人分用意してテーブルに置く

 

冷蔵庫から塩漬けにされたキュウリを取り出し、それを半分にカット

 

そろそろ頃合いかなーっと思い、火を止めてフライパンの蓋を開ける

 

黄身が半熟の状態で焼けた目玉焼きとカリカリに焼けたベーコンを皿に盛り付け、先程カットしたキュウリの塩漬けも同じ皿に盛ってテーブルに持っていく

 

 

《……おはようございます》

 

 

テーブルに置かれているヒビだらけのタブレット、そこから声が聞こえる

 

もう1つの万全の状態のシッテムの箱を参考にクラフトチェンバーを使用し、更にはヴェリタスとエンジニア部の力を借りて辛うじて起動することに成功したボロボロの状態の端末

 

戦闘サポート機能を失い、バリアも失った

 

触れることと眺めることしかできなくなったシッテムの箱の画面に軽くタッチし、その中の少女に俺も挨拶を返す

 

 

「おう、おはよう────プラナ」

 

《……プラナ……》

 

アロナさんから机や椅子……という名のリソースを受け取ったことでなんとか〝教室〟として成り立った空間の中でプラナが呟く

 

……てか、シッテムの箱の内部ってブラックボックス状態なのによくここまで修復出来たな

 

アロナさんパワーの影響が大きかったのだろうか

 

 

 

《……質問、何故私に〝プラナ〟という名前を与えたのですか》

 

「だって名前を呼ぶ時にどっちのアロナを呼んでるのか分からなくなるし………」

 

《それは理解しています、私が聞きたいのは名前の由来です》

 

「プレナパテスと一緒に歩んできたアロナだから〝プラナ〟………嫌だったか?」

《……嫌、ではないです》

 

 

本来の〝プラナ〟には別の理由があるけど………その理由をそのまま説明するとなんかパクリっぽくなるし、自分なりに名前の由来を考えてあげたかった

 

……結果、めちゃくちゃ単純な理由になってしまいました

 

これでは俺にネーミングセンスを求めるなど絶望的だ!

 

……ただ、この理由を聞いたプラナが少しでも自分の名前にプレナパテスとの繋がりを感じてくれたらなー……なんて思ってたりもします、はい

 

 

《……現在時刻、6時34分。約束の時間まで残り2時間》

 

「じゃあ、あの人も起こしてさっさと準備するか」

 

 

シッテムの箱をテーブルの上に置き、エプロンを脱いでから再び台所に向かう

 

使っていないフライパンと使っていないお玉を持ち、寝室の方へと向かう

 

 

軽くノックして反応が無いことを確認してからガチャっ!と勢いよくドアを開けると、ベッドの上で人1人分くらい膨らんでいる毛布が視界に映る

 

 

「おーい朝だぞー、朝ごはんできてるぞー」

 

「……」

 

「起きろー」

「………やだ……」

 

 

軽く毛布を叩くと、そいつはモゾモゾとより一層毛布の中に潜り込む

 

それを見た俺はお玉でフライパンを叩いてカンッ!カンッ!と連続で音を鳴らす

 

 

「朝だぞおおお!起きろおおお!」

 

 

近所に響かないように、且つ毛布の中の人物にハッキリ聞こえるように声量を調整して叫ぶ

 

 

「今日はアビドス行く日だろー?早めに準備しておかないと遅刻するぞー」

 

「………」

 

「……約束破ったら小鳥遊さん達は悲しむだろうなー」

 

 

小鳥遊さんの名前を出した瞬間、毛布の中から気だるそうに1人の少女が出てくる

 

〝I ♡ 銀行〟と書かれたダッサイTシャツを着ているその姿はめちゃくちゃシュールだった

 

 

「……ご飯、何?」

 

「ベーコンエッグ、味噌汁は今日はインスタントな」

 

 

その少女はのそのそと歩きながら寝室を出ようとし────ピタリと止まった

 

 

「……まだ、言ってなかった」

 

「……ん?なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう」

 

 

 

どこか眠そうな表情を残したまま、かつてシロコテラーと呼ばれていた少女はそう言った

 

 

 

 

 

 

 

 

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