「忘れ物は?」
「無い」
「お弁当は?」
「持った」
「悪い人に声をかけられても?」
「ついていかない…………待って、もしかして私のこと子供扱いしてる?」
スクールバッグの中からペンケースや財布等を取り出させて中身を確認させていると、シロコさんから何かを訴える様な眼差しを送られる
別に子供扱いしてるわけじゃないけどさ………なんか放っておけないというか
向こうの先生に託されたってのもあるけど、これは流石に過剰に心配しすぎたか
「……ジャージも定期券も教科書も全部入ってる、問題ない」
「そっか、ならよし………じゃあそろそろ行くか」
「……うん」
2人で玄関に向かう……前に、シッテムの箱を持ってシロコテラーの寝室へと向かう
そのまま部屋に入ってベッドの横のサイドテーブルに近づいて両膝をつく
そこに置いてあるのはカードが1枚入る程度の大きさのアクリルフレーム……上部には小さく穴が空けられており、その穴に紐が通されている
そして、その中に入っているのは────ボロボロの状態の大人のカード
「おはようございます、先生」
軽く挨拶をしてからアクリルフレームの紐を首に掛けて寝室を出る
「……連れてきた?」
「おう、叩き起こしてきた」
《……乗車予定の電車が来るまで残り25分です》
「そっか……丁度良いぐらいの時間だな」
家から駅までそう遠くなく、徒歩でも15分で到着する
シロコさん用の定期券は事前に買ってあるし俺も既に電子マネーにお金をチャージし終えている
後はアビドスに向かうだけだ
「鍵、閉めるぞ」
「……大丈夫」
「………」
「……もうそろそろ着くぞー」
「ん……」
眠そうな声を出しながら電車に揺らされるシロコさん、そのせいで所々俺の肩に頭がぶつかったりしている
……まあ、昨日は緊張であまり眠れなかったみたいだししゃーない
「プラナ、アビドスには先生達も来てるはずだからアロナさんに会えるぞ」
《……それを何故私に?》
「嬉しいだろ?」
《……分かりません》
我が子を親戚の元に連れていく親御さんの気持ちってこんな感じなのかなー……なんて思いつつ、ガラガラに空いた車内でシッテムの箱を突っつく
それにしても……アビドスが近づいた途端、極端に人が減ったな
昔はマンモス校だったらしいけど、砂漠化の影響でどんどん人が減っていって………みたいな感じで今に至るんだっけ?
…………その〝砂漠化〟って本当になんなんだろうな
数十年前に頻発するようになった砂嵐が原因らしいけど……ただの自然災害が何十年も連続発生し続けるっておかしくないか?
いや、これがキヴォトス中で起きてるならまだ納得できたかもしれないけど………アビドスが砂漠化するまでずっと同じ場所で発生し続けてると流石に不自然な気がしてきた
……まあ、所詮陰謀論か
この世界にはデカグラマトンだの色彩だの滅茶苦茶な奴等が多く存在するとはいえ、何でもかんでも〝黒幕が居るはず〟って考えるのもよくないよな
《……8時12分、まもなく電車が止まります》
「おう、ありがとな………シロコさーん、そろそろ起きろー」
「酒泉……」
「ん?」
「私、とも………あっち……むい、て……ほい……を……」
「どんな夢だよ……」
コツン、コツン、と自分達の足音だけが響いてくる
祝日の学校でももうちょっと生徒は居るぞ……なんて突っ込みたくなるほど静かな校内を見渡しながら歩く
その後ろではシロコさんがキョロキョロと忙しなく目を動かしていた
「懐かしいか?」
「……うん」
………誰も居ない校内、シロコテラーにとってその光景は最悪な記憶のはず
それでも、思わず懐かしんでしまう程にはアビドスが好きだったのだろう
「……ねえ、酒泉」
「なんだ?」
「アビドスに連れてきてくれてありがとう」
「……俺1人じゃ無理だったよ」
「それでも」
「……素直に受け取っておく、どういたしまして」
原作でもシロコさんが避けようとしたように、2人の〝砂狼シロコ〟を同じ次元で会わせた際にどんな影響が訪れるのかは分からない
だからそう何度も会いに行く事はできない、例外として連邦生徒会の上層部の方々から4人分の許可を得た上で先生にも掛け合って漸く………って感じだ
その際にも当然面倒な手続きが存在する、会いに行く理由だとかどの時間まで一緒に行動するかだとか行動中異変は無かったかだとか……色々と書類に記して提出する必要がある
………いつか、そんなことをしなくてもシロコさんがアビドスに通えるようにしてあげたいんだけどな
「……私の世界のアビドスの廊下にも、この傷が残ってた」
「……これってあれじゃね?身長を測る時に家の柱に線を引くみたいな……」
「多分、そう」
特に変わった様子の無い、鋭利な物で切られたような横線
それが廊下の壁に刻まれていた
「あの窓ガラスも割れていたし、そこの非常ボタンも機能していなかった」
「……それも前の世界と同じか?」
「……うん、全部一緒」
シロコさんは複雑そうな表情で校内の傷を確かめていく
嘗ての己の故郷……それと全く同じ場所を訪ねることができて喜んでいるのか、それとも悲惨な過去を思い出して悲しんでいるのか
………多分、両方なんだろうな
「あー……シロコさん、心配するな。また前みたいな事にはならんよ」
「……?」
「カイザーだろうとなんだろうと、シロコさんの居場所を奪おうとする連中は全員俺がぶっ潰してやる」
「………1人で?」
「……すまん、やっぱ協力してくれると助かる」
やっぱ無謀かもしれないと思ってそう訂正すると、シロコさんはクスッと笑いながら頷いた
「じゃあ、その時は一緒に戦う」
これは別に日和った訳ではない……いや、本当だよ?
ほら、もし俺の身に何かあったら悲しむ人達がいるわけじゃん?だから……ね?少しでも危険を避けようとね?
別に俺1人でもカイザーに勝てるけどね?一応ね?
「……着いた」
そんな言い訳を頭の中でひたすら繰り返していると、対策委員会が使っているであろう会議室の前に到着する
シロコさんはそこの扉に手を掛けてそのまま開こうとし────その手をピタリと止めた
「……やっぱ緊張するか?」
「……してない」
「強がるなよ、緊張してるんだろ?」
「してない」
「……で?本当は────」
「し て な い」
「あ、はい」
シロコさんは俺の言葉を強く否定してから一息吐き、覚悟を決めたかの様に再び扉に手を掛ける
そして、ガラッ!と勢い良く扉を引くと────
「「「「「「ようこそ!アビドスへ!!!」」」」」」
「………え?」
パンッ!というクラッカーの破裂音と共に、紙吹雪がシロコさんに降り注ぐ
そして、彼女の視線の先には対策委員会の5人と先生
更にその奥のテーブルには────皿に盛り付けられた色んな料理
──────────
────────
──────
「さあさあ!これも食べちゃってください☆」
「途中でレクリエーション大会も挟むからね!」
「……レクリエーション?」
「ん、あっちむいてホイ大会を開催する」
「シロコ先輩が〝これは譲れない〟って強引に決めてしまいまして………」
「シロコちゃん同士のあっちむいてホイ………きっと奇しくも同じ構えなんだろうねぇ……」
「何なのよそのポーズ……」
「平和だなー……」
「本当だね……隣、失礼するね」
「あ、どうぞ………そういやまだ挨拶してませんでしたね。こんにちは先生、それと………アロナさん」
俺の隣に腰掛ける先生、そんな彼の持つ端末に挨拶をする
すると、中から少女の声が
《はい、おはようございます!酒泉さん!それと……プラナちゃん!》
《……おはようございます、アロナ………先輩》
《にへへ……先輩……》
〝先輩〟
その言葉を聞いたアロナさんはだらしなく頬を緩める、因みに先輩呼びに関しては俺が然り気無く頼んでおいた
こうすれば本人も喜んでくれるし助けてくれた事への恩返しにもなるぞーってな
《……はっ!わ、忘れるところでした!先生!》
「はーい」
アロナさんに呼ばれた先生はシッテムの箱を持ち上げると、それを俺の身体に近づける
……チッ!駄目だったか……機嫌が良くなれば自然と忘れてくれると思ったが……!
《アロナちゃんスキャン!……………むむっ……酒泉さん!さては目を休ませていませんね!?》
「……な、何のことだ?」
《このアロナちゃんの前に隠し事などできませんよ!一体何にその目を使ったのか……はっ!?まさか、皆に黙って戦闘行為を……!》
「ち……違うっ!昨日寝る前に〝キヴォトス防衛軍〟のインフェモードを4時間プレイしてただけだ!!」
《あー!そんな事していたんですね!?お医者さんにしっかり目を休ませるように言われてるはずなのに!》
「酒泉、ちゃんと自分の身体を休ませてあげないと駄目だよ?」
「ぐっ……」
……アトラ・ハシース内で交わした〝会う度に俺が無茶をしていないか先生と確かめる〟という約束
アロナさんはその約束を律儀にもこうして守っている………のだが、先生の前で身体の状態を暴露するのだけはやめてほしい
「違うんですよ先生、これには理由が……風紀委員としての活動が空崎さんに制限されてまして………暇すぎてつい……」
「目が治るのが遅れたらいつまで経ってもその制限も解除されないよ?」
「それ正論?俺、正論嫌いなんだよね」
「酒泉」
「ごめんなさい」
怖い、名前を呼ばれただけで背筋が凍った
他の生徒にはこんな怒り方しないのに……ドウシテ……ドウシテ……なんてな
理由は分かっている、それだけ俺のことを心配してくれているんだ
先生の目に映らない所で勝手に怪我して帰ってくる俺を………あ、そうだ
「そういえば先生に伝え忘れていたことがありました」
「……伝え忘れていたこと?」
「はい、先生から先生への遺言です………〝あの事件〟があったせいで当時はそれどころじゃなかったですけど」
「ああ……あれか……」
《あぅ……へ、変な事を思い出させないでください……》
《………記憶消去、不可能》
先生は気まずそうに、アロナさんとプラナは恥ずかしそうに俯く
やめろよ恥ずかしいのは俺の方だよ、何が悲しくて他人に全裸を………いや知人にも見せたくないけど
………大丈夫だよな?俺が全裸になったってことを知ってるのは現場に居た人達だけだよな?
途中から尻丸出しで走り去ったけど………誰にも見られてないよな?特にクロノスの関係者に見られていた日には本格的に人生が終わってしまうぞ
「……これ以上あの事件の話を続けると心が死にそうなので話を戻しますね」
「あ、うん」
「〝酒泉はすぐに無茶をするから目を離しちゃ駄目だよ〟………らしいです」
「……それを酒泉本人に伝えさせるように頼んだの?」
「やっぱおかしいっすよね」
気にかけている生徒の事をその生徒自身によろしく頼ませる、こんな奇妙な遺言があるだろうか
互いに苦笑しながらも、先生は何処か納得したかの様に語る
「まあ、私らしいっちゃ私らしいかな……」
《あっちの先生にも一瞬で目を付けられるなんて……なんというか、流石といいますか……》
「で、でも!今までの自分とはお別れしたんで、これからは先生に心配を掛けることはありませんよ!」
「うーん……生徒の言うことは信じてあげたいんだけど、何故か酒泉に対してだけ〝またやらかすだろうなぁ……〟って不安が残るんだよねぇ……」
「あ……あの先生が生徒を疑ってる……だと?」
「胸に手を当てて考えてみな?理由が分かるはずだよ?」
今までの折川酒泉君のやらかしの積み重ねが原因ですね、本当にありがとうございました
「まあ、これからは勝手に無茶するような事は無いと思いますよ………てか、無茶が必要になる戦いも俺の記憶にはありませんし」
「だと良いんだけどね……」
「それに……色々と背負ってますし、途中でくたばる訳にはいかないでしょう?」
そう言ってから視線を前に向ける
視線の先には困惑の表情を浮かべながら、様々な料理を周りの人達に食べさせられてるシロコさんの姿
その光景を微笑ましく思いながら、小さめのアクリルフレームごと首に掛けられた大人のカードを見つめる
「シロコさんやプラナが幸せになるのをプレナパテスに見届けさせるまで俺は─────いや……〝まで〟ではないですね、あの2人が幸せになったら今度は俺が幸せになるところを見届けてもらいます」
「……そっか、それが酒泉の〝夢〟なんだね」
「〝夢〟と言っていいのか分からない程大雑把ですけどね………でも、これが今の目標です」
〝この世界に生まれてきてくれてありがとう〟
プレナパテスはそう言ってくれた、俺の誕生を祝福してくれた
だから、俺はあの人が祝ってくれたこの世界で幸せになろうと思う
その為にもまずは────
「今度こそ卒業したいなぁ……」
「……酒泉?」
「いえ、なんでも……あ、そうだ。先生、ちょっとこっちのシッテムの箱を預かっててくれませんか?歓迎会が終わる頃には戻ってくるんで」
「あれ?どっか行くの?」
「まあ、ほら………ぶっちゃけ俺って先生と違ってアビドスからしたら殆ど部外者でしょ?歓迎会の事は知ってましたけど、別に直接誘われた訳でもないですしね」
アビドス組からしたら状況的には友達の友達……の友達が遊びに来てるようなもんだと思うんだよね
だったら俺は席を外した方がいいかなーって………プラナに寂しい思いをさせない為に先生とアロナさんに預けてからだけど
「はぁ……酒泉、君はまた変な気の遣い方をして……」
「そうそう~、そんな堅いこと言わずに~」
「うおっ……おっさん?」
「おじさん、ね?」
いつの間にか俺と先生の前まで来ていた小鳥遊さんがひょこっと顔を覗かせてくる
「シロコちゃんの為にここまで躍起になって行動してくれた君がアビドスにとっての部外者なわけないでしょ?おじさん達は大歓迎だよ~?」
「良いん……ですかね?」
「いいのいいの……まあ、全裸を見られたのをまだ気にしてるっていうなら無理強いはしないけどねー」
「次その話題でからかったら街中で全裸になって躍りながら〝俺はアビドスの生徒です!〟って叫び続けますからね」
「諸刃の剣すぎない?あと風評被害が酷すぎるからやめてね?」
からかう様にニヤニヤと笑ってくる小鳥遊さんに対してカウンターを仕掛ける
嘘だ、ただの自爆技だ
「ほらほら、馬鹿なこと言ってないで早く参加してきな?皆待ってるよー?」
小鳥遊さんが指差す先にはどこか得意気に両腕を組んでいる砂狼さんが………あ、砂狼さん呼びだからテラー化してない方ね
そして、その隣では悔しそうにしている黒見さんとそれを宥める奥空さんが
「シロコちゃん、とてもお強いです!」
「これで5連勝ですね……」
「セリカの向く方は凄く分かりやすかった、視線がその方向に向かっていたから」
「ぐっ……」
「多分、四天王最弱」
「い、いちいち言わなくていいからっ!」
いつの間にかあっちむいてホイ大会が始まっていた……てか小鳥遊さん負けてたんか
「……もう1人の私はメインディッシュにとっておく、次は………貴方を潰す」
スゲー物騒な事を言いながら俺を指名してきたよ
あっちむいてホイってそんな恐ろしいゲームだったっけ?
「……てか、先生はやらないの?」
「ん?負けたよ?」
「即堕ちってレベルじゃなかった」
俺の隣に来る前から既に負けていたとは……この酒泉の目(疲労状態)をもってしても!!
……仕方無いな、ここは俺が最後の砦として出るしかないな
「相手になってやりますよ………シロコさんの手を煩わせる訳にはいかねえからな!」
「……対戦相手の心配なんて、随分と余裕があるんだね」
「あ、いや……」
「……〝シロコさん〟は私の方」
「……ん、紛らわしい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時計の針が進む音を聞きながら、寝室でひたすらモモトークの画面を眺める
そこに表示されているのは〝酒泉〟という文字
私のことを空崎さん空崎さんと慕ってくれている後輩の名前だった
私を支えてくれて、私を甘えさせてくれて、私に尽くしてくれる大好きな後輩
………そんな彼の自宅に2人の女の子が住むことになった
その内の1人は今は先生や酒泉しか認識できないらしいけど、アトラ・ハシース内で限定的に他の人達にも姿を見せたシッテムの箱に住んでいる少女
そしてもう1人は此方の世界と同じく、前の世界でもアビドスに通っていた狼少女
彼女達はこんな風に私がベッドの上でダラダラしている間にも酒泉と生活を共にしている
同じ屋根の下で話して、同じ屋根の下で食事を共にし、同じ屋根の下で眠って………
「……酒泉のことだから手を出したりはしない……だろうけど……」
念のため、念のためだ
酒泉が色恋沙汰に現を抜かしたせいで風紀委員としての活動に支障を来す………なんてこともあり得る
復帰して早々怪我をされても困る、だから彼の生活の様子を探るのは風紀委員長として当然の仕事だ
1コール
2コール
3コール
………更に数コール
「………出ない」
──────────
「酒泉君とシロコちゃん、これで14回連続で引き分けですね!」
「……なかなかやるね」
「……そろそろつけましょうか、決着」
「ん………なら、私もとっておきの必殺技を出す」
──────────
「……また掛ける……のはしつこいかな」
「……もう一度だけ」
──────────
「じゃんけんポンっ!しゃあっ!俺の勝ち!あっちむいて────なにぃ!?」
「シ、シロコ先輩が酒泉の指を掴んだ!?」
「ん、これで指を動かせない」
「力技じゃねえか!?反則だろそれぇ!?」
「下手に動かさそうとしない方がいい、折ることになる」
「審判!審判んんんんん!!!」
「うーん……セーフです☆」
「な、なんで!?」
「その方が面白そうなので!」
「き、きたねぇぞ!テメェらそれでもホイリストか!」
「リアリストです☆」
──────────
「……やっぱり、もう一度だけ……」
「……でも、これじゃあ面倒な女みたいって……」
「………本当に、本当にこれで最後だから」
──────────
「ふぅー……!ふぅー……!お、俺の勝ちだ……!」
「驚いた……両指を封じたかと思いきや、まさか足の指であっちむいてホイを仕掛けてくるなんて………貴方のあっちむいてホイに対する情熱、確かにこの目で見届けた」
「俺は卑怯な手には屈しない……!さあ!最終戦はアンタとだ!シロコさん!」
「2連戦?」
「いや、そっちじゃなくて……一緒に住んでる方の……」
「……やっぱり紛らわしい」
──────────
出ない
3回程、コールが切れるまで掛けているのに一向に出てくる気配がない
……ただ寝てるだけならいいけど、もしこれが他の娘と一緒に居たから出なかったのだとしたら
「……酒泉」
彼は私を支えると言ってくれた、風紀委員会に入ってその約束を守ってくれた
でも……
「……砂狼シロコ、か……」
思い浮かぶは突如別世界からやってきた来訪者の顔
これから先、おはようからおやすみまで何度も酒泉と顔を合わせるであろう少女
「酒泉、貴方が本当に支えたいのは………あの子なの?」
自分の胸の中で何かが焼ける様な感覚を覚えながら、つい口から溢れ落ちてしまった
「……寝よう」
酒泉のモモトークに〝さっきの電話は気にしないで、解決したから〟とメッセージを送り、嫌なことから逃げ出す様に毛布の中に入り込む
こんな風に現実逃避したのは随分と久し振りな気がする
……酒泉が支えてくれるようになってからは、仕事とかで追い詰められる機会は少なくなったから
──────────
「……という訳で、優勝はおっきい方のシロコちゃんでーす!」
「………納得いかない、勝ち星が多いのは私だった」
「最後に勝った人は100万点貰えますので☆」
「うへぇ……昔のクイズ番組でよく見かけた手法だぁ……」
「今までの試合全部茶番じゃないの……」
「で、でも!途中のシロコ先輩と酒泉さんの接戦はなかなか見応えありましたよね!」
奥空さんが気遣ってくれるが、俺としては最後の試合でシロコさんにアッサリ負けてしまったことの方がショックだった
……あん?〝どうしてあっちむいてホイなんかに夢中になっているのか〟だって?
勝負事で負けたくないから……理由なんてそれだけで十分だろ?
わざと負けたことなんて、モモイさんを格ゲーでボコしまくったせいで勝つまでリベンジを挑まれた時ぐらいしかないからな………あ、そういやケイさんにも似たような事やったな
「まだ時間はあるよね?次はどうする?」
「次はビンゴ大会よ!景品は私が用意したこの〝幸運を呼ぶ笛〟よ!」
「セリカちゃん……それ、多分……」
「アヤネちゃんストップ………ここは何も言わずに、ね?」
「……はい」
黒見さんェ……それ騙されてるよ……
なんで普通に表の世界で育ってるのに錠前さんと良い勝負できそうなほどチョロいんだよ……
「……やっぱりこっちのセリカも騙されやすいんだ」
先生や小鳥遊さんがめっちゃ恐ろしい表情で〝歓迎会が終わったらセリカを騙した犯人を探そう〟と作戦会議してる横でシロコさんだけが懐かしそうに呟く
まあ、経緯はどうあれ………少しでも思い出に浸ってもらえれば────ん?
「どうしたの?」
「いや……なんか空崎さんから連絡きてたっぽくて……」
歓迎会ではしゃいでいる間に3回通知が来てた
モモトークには〝さっきの電話は気にしないで、解決したから〟って届いてるし緊急連絡って訳ではないと思うけど………
「悪い、ちょっと席外すわ」
念のため連絡を返そうと軽く断りを入れてから立ち上がろうとする………が、突如シロコさんに袖を握られる
完全な無表情……ではなく、見方によってはどこかションボリしてるようにも感じる
「………行っちゃうの?」
……まあ、緊急じゃないなら歓迎会が終わってからでもいいか
我々は忘れていた……この小説のメインヒロインがヒナちゃであることを……