「いやー、今日の歓迎会楽しかったな……プラナはどうだった?アロナさんや先生と話せたか?」
《……はい、有意義な時間……だったと思います》
「そっか、そりゃ良かった。あの2人はプラナの声を聞ける数少ない人達だからな………仲良くなってほしかったんだ」
《………仲良くなれるでしょうか》
「なれるよ、だっていい人達だもん」
「それで?シロコさんも楽しめたか?」
「……ねえ」
「ん?」
「どうして私達はトリニティにいるの?」
キョトンとしながら真顔で訪ねてくるシロコさん
俺達はアビドスでの歓迎会を終えた後、そのまま電車でトリニティまで来ていた
「トリニティに用でもあるの?」
「ちょっと買い揃えたい物があってな」
「何を買うの?」
「シロコさんの日用品」
「……私の?」
今、シロコさんが使っている日用品は全て俺が間に合わせで買った物ばかりだ
だから、せっかくこうして時間が取れたんだしシロコさん自身が選んだ物を改めて買い直してあげたい………って思ったわけだ
……あのクソダサTシャツに関しては俺じゃなくてこの世界の砂狼さんがプレゼントしたやつだけどな、何処で買ったんだよそれ
「……私は……今家に置いてあるのでいい」
「まあまあ……そう言うな、幸せになるって先生と約束しただろ?その為にも先ずはちょっとの我儘から……な?」
「……いいの?」
「いいの」
ショッピングモールの入口前に着くと、後ろめたそうに佇むシロコさんに手招きをして此方に呼び寄せる
それから足並みを揃えてショッピングモール内に入ると大勢の客の声が響いてきた
ここには何度か来たことがあるが、品揃えの豊富さならゲヘナの自治区内のショッピングモールより上だ
「相変わらず広いなー、ここ………さて、まずは何から買うべきか、シロコさんは何がいい?」
「……」
ショッピングモール内の洋服コーナーを無言で見つめるシロコさんに声をかけるが、彼女は申し訳なさそうに俯くばかりだ
「そんな遠慮しなくてもおじさんが何でも買ってあげるからさー」
「……ちょっとだけホシノ先輩みたいだった」
「うへぇ……こんな感じか?…………うん、男がやっても需要ないなやめよう」
自分の言動に吐き気がしつつも、ちゃんと周りの商品を見定めていく
品揃えからして生活用品はこの辺りのコーナーにあると思うけど……
「……酒泉」
「ん?……おお、あれが欲しいのか?」
ちょんちょんと腕を突っつかれ、シロコさんの方を見る
すると、彼女の指先は犬のマークが入っているマグカップに向けられていた
「とりあえずコップと……あ、ついでに箸とかスプーンも買うか」
「……じゃあ……あっちの青いやつ……」
「おっ!いいねー……その調子でどんどん欲しい物を言ってくれ」
いつまでも遠慮されてちゃこっちもやりにくいからな……どんどん己の中の欲望を解放してほしい
それにシロコさんの私物が家に増えればそこがシロコさんにとっての〝帰れる場所〟になるだろうし………まあ、他にも理由はあるけど
もしシロコさんが引っ越したいって言った時に引っ越し先に持っていける私物があった方が便利だろうからな
俺個人としてはずっと………それこそ天寿を全うするまで住んでても構わないが、シロコさん側に心境の変化が無いとは限らない
そういう状況が訪れるとしたら1人暮らししたくなった時や友達とルームシェアする時とか、あとは………好きな人を見つけてその人と一緒に暮らす時か
前の世界で自分の幸せを見つける余裕が無かった彼女が、この世界で誰かと幸せになろうとする………それはとても素晴らしいことだ
もしその時が来たら俺は快く送り出そう
…………が、それはそれとして俺はプレナパテスに託された身でもある
つまりそこら辺の生半可な男に嫁がせる訳にはいかない
相手が普通の人間でも頼りない人間でもシロコさんが選んだ相手ならば口出しするつもりはない、むしろ俺もその相手の人の力になろうと思う
だけど、そいつがシロコさんを泣かせるような最低野郎だったり女心を理解できないようなクソボケ野郎だったら………その時は………………全力でぶん殴る
「お父さんはそんな男認めませんよ……!」
「……?」
「あ、何でもないです」
まあ、そんな遠い未来の話は置いておくとしよう………今は楽しいショッピングの時間だ
シロコさんがいつの間にか持ってきていた歯ブラシを買い物カゴに入れてから再び歩を進める
「……そういえば、シャンプーも足りないかも」
「じゃあ買っとくか……2個ぐらい纏めて買うか?シロコさんって髪長いし」
「……うん、ありがとう」
なんか……こうして自宅用の物を選びながら話してると………父さんや母さんと買い物してた時のことを思い出すな
買い物するだけだって言ってた母さんに〝ファミレスで食べようよ!〟ってしつこくねだりまくって、怒られてショボくれてる俺に父さんがこっそりチョコレート買ってくれたり………そういや父さんは俺が落ち込む度に甘いもんくれたな
どんだけ泣き叫んでても糖分を口に含んだ瞬間すぐに泣き止んでたし、かなり効果があったんだろうな
………家族、か
そっか、今の俺には家に帰った時に〝おかえり〟って言ってくれる人が居るのか……しかも2人も
「……酒泉?どうしたの?」
「……シロコさん、プラナ……ありがとな」
「……?何が?」
《………その言葉が何に対して発せられたものなのか、理解できません》
「気にするな、俺は気にしてない」
「こっちが気になるんだけど……」
──────────
────────
──────
「……やべぇ」
「……?行かないの?」
シロコさんが首を傾げて見つめてくるが、俺の足は一歩も動かない
今、俺の目の前にあるのはショッピングモール内のランジェリーショップ
これが何を意味するのか────そう、この先には下着のコーナーもあるのだ
「……早く行こ」
「まっ……待て!心の準備をさせてくれ!」
店内には既に何名かの女子生徒が入っている、そこに俺が投入されると……絶対に周りからの視線が痛いことに……
え?シロコさんと一緒に住んでるんだから下着だって見慣れてるだろって?んなわけあるか!
衣類はそれぞれ分けて洗濯してるし、回収する時だって互いに自分の分だけ回収してるわ!
「な、なあ……お金だけ渡しておくからさ?俺だけ外で待っててもいいか?」
「なんで?」
「その……ちょっと気まずいというか……」
「……あ」
俺が何を気にしているのか理解したのか、シロコさんはパッと手を離してくれた
「……ごめん、気が利かなくて」
「いや……いいんだ、うん……と、とりあえずそこら辺で待ってるから買ってきてくれ」
シロコさんに財布を渡し、その場から逃げ出すように背を向けて早歩きで離れた後
ランジェリーショップから離れすぎず近づきすぎずの距離を保ち、適当にブラブラしながら辺りを見渡す
トリニティの生徒達がショッピングしてたりソファで休憩してたり湿度の高そうな猫がピンク髪の少女にキレていたりと、色んな光景が広がっていた
この日常を俺達は守ったんだなぁ………なんて、最終編での出来事を思い出しながら軽くふけてみる
そんな1人でカッコつけてる自分が少しだけ恥ずかしく感じ、誤魔化すかの様にそこら辺の休憩スペースに座って顔を伏せる
「……そうだ、この間に……」
スマホをポケットから取り出して通話画面を開く
時刻は15時12分、履歴には俺が何度か空崎さんに電話を掛けた跡が
あの後、隙を見て此方からも何度か折り返したが………空崎さんは出てこなかった
モモトークの方にも既読は付いていない……もしかして昼寝中か?なら起こすのも悪いし………いや、やっぱ最後に1回だけ掛けておくとしよう
何度も折り返して迷惑じゃないかなー……なんて心配しつつ、通話ボタンを押す
「………やっぱ出ないか」
小声で〝明日聞くか〟と呟きながら眼鏡拭きをケースから取り出し、レンズを綺麗に拭く
え?〝いつの間に眼鏡かけてたんだ〟って?ショッピングモールに入る少し前からですけど何か?
俺は外出中ずっと眼鏡をかけている訳じゃない………別に何も見えないって訳じゃないしな
かなりボヤけてるけど障害物は見えるし人の顔だって識別できる、俺が眼鏡をかける時は文字を書いたりこうして買い物したりする時だけだ
……いや、先生に極力かけるように言われてるんだけどさ………自分的に違和感が凄いんだよなぁ
風紀委員の人達にもジロジロ見られてたし、皆気を遣って言ってないだけでやっぱ似合ってないんだと思う
……まあ、気を遣ってくれるだけ皆優しいよ、もしこれが性悪な奴だったらすぐに大笑いして────
「あれ?酒泉君、眼鏡なんてかけてたっけ?………似合わなそー……」
「……やっぱりフラグって存在するんだなぁ……」
最終編を終えてから電話越しに話したことは何度か、こうして直接会うのは初めて
チラッと視線だけを横に向ければ、そこには長いピンクの髪をお団子の様に纏めたジャージ姿の女子生徒が
「……アンタのその汚れたジャージ姿は似合ってますけどね────聖園さん」
「あはは!相変わらずの減らず口で安心したよ、酒泉君」
ニコニコ……ってよりはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる森の賢者♀
この人も相変わらず人から嫌われてそうな性格で安心したよ
「……ジャージってことは草むしりでもしてたんですか?」
「そうそう、それで時間が余ってね………で?酒泉君はどうして1人寂しくこんな所に?ぼっち?」
「〝ぼっち〟は余計だ!………ったく、普通に買い物しに来ただけですよ」
俺と話してるとすーぐ煽ってくるんだから……他のゲヘナ生が相手でもそこまで突っかかったりはしないだろアンタ
何がゲヘナの野蛮な生徒だ!トリニティのゴリラの方が遥かに野蛮じゃないか!
「ふーん、あっそ………で?なんで眼鏡かけようとしたの?オシャレでもするつもり?」
「話を戻してほしくなかったんですけど………別にオシャレしたくてかけてる訳じゃないですよ、ちょっとした目疲れですから」
俺が眼鏡をかけることになった経緯を知っているのは共にアトラ・ハシースに乗り込んだ人達とそれを地上からサポートしてくれた人達………それと風紀委員の皆だけだ
別に隠してる訳じゃないけど、詳しく聞かれたりしない限りは自分から具体的に説明するつもりもない
……そういえば、その眼鏡をかけることになった理由………俺の〝眼〟が急激にパワーアップした事について1つ報告が
シロコさんとの戦いで急激に研ぎ澄まされた〝眼〟と〝情報処理能力〟………それらを利用して再現した擬似的な〝未来予測〟
実はそれらの感覚を全て忘れてしまいました、はい
どうやって全ての動きを捉えていたのか、どうやってあんな早く計算していたのか
あの戦いが終わった後、まるで何事も無かったかの様に全部出来なくなってました
くそぅ……!せっかく各学園のトップ勢に並べたと思ったのに……!
……待てよ?もしかしてあの時の俺って聖園さんよりも強かったのでは……?
「ふん……雑魚が……」
「は?」
「ごめんなさい」
やっべ、声に出ちゃった
「……まあいいや……それで?かけないの?眼鏡」
「今は休憩中だしな、特に目を使うことも────あっ!?おい!?」
眼鏡を拭き終えてそのままケースに入れると、横から聖園さんにケースごとぶん取られる
中から再び眼鏡を取り出すと、聖園さんは俺の両耳にそれをかけてきた
とっさに外そうと手を伸ばし───その手も掴まれてしまう
「……な、なんだよ……」
「………」
「……わ、笑いたきゃ笑えよ」
ジーっと正面から射抜くように見つめられ、少しずつ気恥ずかしくなってきて顔を逸らしてしまう
肝心の聖園さんは笑ってくるどころかずっと無言なのが気になるが……どうせなんて煽るか考えてるんだろうよ
「………うん、予想通り似合ってないね」
「あ゛あ゛!?だったら最初からかけさせんじゃねえよ!?」
「似合わなすぎて馬鹿にする言葉すら出てこなかったよ………他の人にはあまり見せない方がいいかもしれないよ?笑われたくなければ!だけどね☆」
「言われなくても自分から見せに行ったりしねえよ!?そもそも見せ物じゃねえ!!」
申し訳程度の敬語すら捨てて怒りをぶつけてやると、聖園さんは俺の眼鏡をまた奪って今度は自分の耳に掛けた
……何やってんだこの人?
「………」
「………どう?」
「……は?」
「…………えい」
「いったぁ!?」
何がしたいのか理解できなくて冷たい反応を返してしまう
すると聖園さんは自分の指に力を込め、俺の額目掛けて勢いよく弾く
キヴォトス人のデコピン、それは俺の様なよわよわボディの一般人にダメージを与えるのに十分すぎる威力だった
「な……何しやがる……ゴリラ……!」
「酒泉君が悪いんだもん」
「〝だもん〟じゃねぇよこのアマァ……ドつかれたいんかワレェ!?」
「ん?やるの?」
「ごめんなさい」
チッ!今日は勘弁してやるか……命拾いしたなぁ!?
別に負けるとは思ってないけど、公衆の場で聖園さんをボコボコにするのは流石に可哀想だからな!うん!
「……あー……やっぱりこの感じだなぁ……」
「……はぁ……何がっすか?」
「いや……〝酒泉君が帰ってきたなー〟って感じがしてさ?」
聖園さんは天井を見上げながらどこか懐かしそうに呟く
最初はまた何か余計なことを言おうとしてるのかと思っていたが、聖園さんの顔をよく見てみると本当に俺の帰還を喜んでくれているかのように微笑んでいた
「………もしかして俺の帰りを待っててくれたんですか?」
「うん……ずっと祈ってたよ、酒泉君が地上に帰ってこられますようにって」
「聖園さん……」
「………いっつもこんな風に言い合いしてるけどさ?私、こう見えても酒泉君のこと大切に思ってるんだよ?だって酒泉君が死んじゃうと……私………」
「暇潰しの相手がいなくなっちゃうじゃんね☆」
「そんなこったろうと思ったよクソが」
途中まで酷く悲しそうな顔をしていたが俺は騙されんぞ、この人が心の底から俺を心配するなんて100%………いや!1000%あり得ない!
それこそファ○ズとカ○ザみたいに世界線や時間軸そのものが変わったりしない限り互いに素直に接することなんて不可能だろうよ!
「……まあ、ちょっとだけ心配してなくもなかったけどさ?…………本当にちょっとだけだよ?」
「……ん?」
「別に私達ってそんなに仲良くないけどさ?一応知り合い程度の関係ではあるし、そんな相手が私の見ていない所で死なれたら後味が悪いっていうか……」
「………」
「別に私は悲しまないけどセイアちゃんとか先生が泣いちゃいそうだし………私もほんのちょっとだけ思うところがあるっていうか……」
「……なあ、聖園さん」
「……な、なに?」
「もしかしてこの一連のやり取りって照れ隠しだったりします?」
少しだけ聖園さんの態度を疑問に感じ、あり得ないと思いつつ万が一の可能性を口にしてみる
するとさっきまでもにょもにょと喋っていた聖園さんは言葉をピタリと止めてしまい、頬を染めて俯いてしまった
……え?マジで?
「……おやぁ?おやおやおやおやおやぁ?」
「……」
「あのゲヘナ嫌いの聖園さんが?ゲヘナ生の?心配を!?」
「……ぅ…」
「それを指摘されたら!?恥ずかしがってぇ!?顔を真っ赤にして黙っちゃうと!?」
「………」
「おいおいおい!トリニティのお姫様は随分と初なんだなぁ!?こうなっちまえば聖園さんも可愛いもんだなぁ!?そんなに俺のことが心配だったのかぁ!?んん~!?」
先程から好き勝手言われてた恨みをここで晴らすべく、聖園さんが反応しないのを良い事に今度は此方から仕掛ける
だが、聖園さんの身体がワナワナと震え始めたのを見て〝やり過ぎたか〟と危機感を抱く
数秒後、聖園さんは顔を上げて────
「………悪い?」
────たった一言、それだけ発した
「………え?」
「……そうだよ?酒泉君の言う通りだよ?心配してたけど何か文句でもあるの?」
「……あ、いや……嬉しいです、はい」
あまりにも素直に答えられて毒気を抜かれてしまった
まさかあの聖園さんの口から〝心配してた〟なんて聞かされるとは……
「………」
「……ねえ、何か言ってよ」
「……む、無理っす……聖園さんこそこの空気なんとかしてくださいよ……」
くそっ!まさかこの人に情緒を滅茶苦茶にされる日がくるなんて……!こんなの僕のデータにないぞ!?
俺はただ買い物に来てただけなのに────ん?買い物?
……そうだ!ここは一時撤退だ!買い物を理由に逃げ出してしまおう!
「……あっ!?そ、そうだ!実は俺、人を待たせてるんですよね!」
「……誰かと一緒に来てたの?」
「そ、そうなんですよー!その人も買い物が終わってるかもしれないのでそろそろ合流しないと……」
「誰と?」
「……え?」
「誰と?どこで?……別に嘘吐いてる訳じゃないなら答えられるよね?」
「え、えっと……最近出会った友達と向こうの服屋で!」
「……向こうの服屋?」
「じゃあ!そういうことで────グエッ!?」
この気まずい空気から脱出するべく、足早にその場を去ろうとする
だが、突如聖園さんに後ろ襟を掴まれて身体が引っ張られる
「ゲホッ……と、突然何を……!」
「ねえ、酒泉君が指差した方向にある服屋ってさ……ランジェリーショップしかないはずだよね?」
「………あ」
別に俺が誰と買い物してようと関係ないはずなのに、妙に食い下がってくる聖園さん
俺としてはあの気まずい空気を晴らすことができればそれでいいのだが、今度は別の意味で嫌な空気が流れてしまった
「いや、あの……これは別に俺がランジェリーを着ようとしている変態ってわけではなくてですね……」
「私が聞きたいのはそういう事じゃなくてさ………その、酒泉君はその人と一緒にランジェリーを買いに行くぐらい近しい関係なの?」
「え?な、なんで?」
「だ、だって……そういうのってあまり異性の人と買いに行ったりしない気がして……だからお付き合いしてる人がいるのかなって……」
「お付き合い………ああ!違いますよ!同居人の生活用品を揃えるついでに買いに来ただけですよ!」
「そっか……そっか!なーんだ!てっきり酒泉君に彼女さんが出来たのかと思ったよー!そうだよね!正実のあの子の告白すら断っちゃった酒泉君が急に彼女を作るなんてあり得ないもんね!」
「それ結構胸が抉られるのでやめてくれません?」
いや本当にマジで
自分から断っておいてなんだけど未だに時々思い出して悶えるぐらいには気にしてるのよね
「あははは!なんだ、私の勘違いだったんだ!」
「そうですよ……てわけで、今日はこの辺で……」
「うん………あ、酒泉君!最後に1つだけ聞いてもいい?」
「……?はい、どうぞ」
「同居人って………何の話?」
……あれ?聖園さんは知らないのか?
各学園のトップ………百合園さんや桐藤さんには話は伝わってるはずだけど、もしかしてあの2人に知らされてないのか?
……いや、それもそうか……聖園さんって現状の立場だけ見れば〝元〟ティーパーティーだもんな………情報が入ってきてなくてもおかしくはないな
「いや……実はこの前の戦いの後、我が家に2人同居人が増えまして────」
「酒泉、ここにいたんだ」
「……あれ?シロコさん?」
「……誰?」
トンッと後ろから肩を叩かれ、振り向いてみればシロコさんがそこに立っていた
それを見た聖園さんは不思議そうにシロコさんを見つめる
「……なんか、どっかで見たような……」
「ん?聖園さんってシロコさんと会うのは初めてじゃ………」
……いや、確か連邦生徒会が虚妄のサンクトゥムのエネルギー反応を確認した時に各学園を呼び出したことがあったな
聖園さんも砂狼さんも会議室に来ていたし、その時にチラッと見かけたのかもな
「……まあいいや、それで?その人は?」
「えっと……この人の名前は砂狼シロコ、さっき言った同居人ね」
「………は?」
シロコさんを紹介した途端、聖園さんの身体がピシリと固まる
「えっと……その子と一緒に暮らしてるの……?」
「おう、そうだけど?」
「……いやいやいや、おかしくない?だってその子、女の子じゃ────」
「そういやシロコさん、買い物は終わったのか?」
「ううん、まだ」
「あれ?じゃあなんで戻ってきたんだ?」
「その、お金を預かったけど………いくらまで使っていいのか分からなくて……」
「なんだ、そんな事か………渡した分は全部使っても構わなかったのに」
「……でも、値段の事とかやっぱり酒泉とも相談したいから……一緒に選んでほしい」
「えっ」
「えっ」
俺と聖園さんが同時に声を漏らす
多分、考えていることは同じだろう
「……いや、さっきも言ったけどそれは気まずいって……」
「そ、そうだよ!それに男の子の酒泉君に自分が着るランジェリーを選ばせるなんて……刺激が強すぎるよ!男は皆狼なんだよ!?」
「おいコラ、そこまでさくらんぼ拗らせてねえよ」
「……名前的に狼は私の方」
然り気無く人のことをディスってくる聖園さん、俺が狼ならアンタはゴリラだ
あとシロコさん、上手いこと言ったつもりだろうけど話がややこしくなるから大人しくしてような?
「……と、とにかく!俺は行かないからな!シロコさんだって自分の着るランジェリーを他人に選ばれるのは嫌だろ!?」
「私は別に……そもそも酒泉のお金で買ってくれるものだし、その場に酒泉が居ないことの方がおかしいと思う」
「だっ……駄目だよ!そう簡単に薄着を異性に晒しちゃ!貴女だって気軽に見られたくないでしょ!?そういうのは……その……〝そういう関係〟の相手に……!」
「……そういう関係って?」
「うぇ!?……た、例えば……その……お付き合いしてたり……は、裸を……見せても……いい相手……だったり……」
「……裸?酒泉の裸なら……見たことあるけど……」
「………え?」
場の空気が凍りつく
聖園さんはぎこちなく首を動かし、ハイライトの消えた瞳で此方を見つめてくる
「……裸……はだ、か?酒泉君……この子に、裸を見せたの……?」
「え?いや……その、あんま言いたくないというか……」
「同居してて裸を見せる状況なんて……1つしかないじゃんね……」
「ちっ……違う!アンタの考えているような事は断じて起きていない!!」
「……というよりも……私以外にも酒泉の裸を目撃した人はいる」
「……あ、あはは……そっか、私だけ選ばれなかったんだ……そうだよね、こんな意地悪な女なんか……」
「はあ!?選ぶ!?何の話をしてんだよ!?」
妙な事を言い出したかと思えば更に落ち込む聖園さん
結局、この後は何故か3人でランジェリーショップに入ることになり、案の定周りの客から注目を集めてしまった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ゛ー……マジで疲れた……」
「……もう暗くなってきたね」
あの後、聖園さんの誤解を解くのにかなりの時間が掛かった
誤解を解いた後も何度も何度も〝本当に変なことは何もしてないよね!?〟ってしつこく聞いてきたし………すぐ女に手を出すほど最低な男じゃないっつーの
「……もしかして他の人達にも誤解されてたり……」
「……?」
「いや、なんでもない」
別に周りからの目にどう映ろうと俺とプレナパテスの約束には関係無いしな
……それはそれとして全力で誤解は解くけど
「……あ、そうだ。シロコさんに渡す物があるんだった」
「……私に?」
道の端で立ち止まり、買い物袋をゴソゴソと漁る
その買い物袋の中には更に紙袋が入っており、その中に入っている商品を取り出す
「……これは……青いマフラー?」
「さっき見てただろ?」
「……気づいてたんだ」
洋服コーナーを通ったあの時、シロコさんの視線はその近くに置かれている青色のマフラーの方を向いていた
……シロコさんが元々持っていたマフラーの代わりにはならないけど、せめて少しでも寂しさと冷たさを紛らわせられるように………ってな
「まあ、いらなかったらこのまま俺が貰うけど───」
「いる」
「……お、おう……そうか」
食い付くように返事をするシロコさんにマフラーを渡し、再び歩こうと足を前に踏み出す
だが、身体を動かした瞬間に何者かに袖を引っ張られるような感覚を覚える
「……ん?どうした?」
クルッと振り向いてみれば、アビドスの歓迎会で俺を止めた時みたいにシロコさんが俺の袖を掴んでいた
「………」
「……歩き疲れたのか?」
「………」
「………ははーん?さては……腹が減ったんだな?」
「……違う」
……なんだ?シロコさんは何を求めて────
「………巻いてくれないの?」
「……あー……了解」