〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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クソボケッショナル~そろそろ背中を刺されそうな男の流儀~

 

 

 

 

 

「………」

 

「あら、折角こうして2人きりになれたのにその様に黙られてしまうなんて………私、ショックです」

 

 

ヨヨヨ、と赤子でも分かるような嘘泣きで落ち込んだ演技をする狐坂さん

 

なんでこんな所にとかそんな事を聞くつもりはない、脱獄犯に聞いたところでどうせ恐ろしい答えが返ってくるだけだろうからな

 

「……そうですね、お久し振りです………あの戦いではお世話になりました」

 

「いえいえ、お役に立てたのならなによりです」

 

「じゃあ、もう暗くなってきたので今日はこの辺で………」

 

「まあまあ、そう逃げないでくださいな」

 

 

狐坂さんは電柱の上からくるりと回転しながら落下し、そのままストンと綺麗に着地した

 

お見事………などと拍手している場合ではない、さりげなく通りすぎる作戦が失敗した

 

「〝逃げてる〟って理解してるなら追わないでくれるとありがたいんですけど……」

 

「嫌よ嫌よもなんとやら……ですよ?」

 

「それは俺本人が決めることですよね?」

 

……まあ、こんな事言ってるけど俺個人としては別に狐坂さんのことを嫌っている訳ではない

 

シロコさんとの戦いで助けられてるし、嫌うどころかむしろ恩を感じている程だ

 

ただ……

 

 

「風紀委員って立場上、あんま表で会うわけにはいかないんですよ………ゲヘナの問題児と違って他地区にまで名が轟いているほどの指名手配犯ですし」

 

「つまり2人だけの秘密……ということですね?」

 

「そうです」

 

「……え?」

 

 

自身の言葉が否定されると思っていたのか、狐坂さんはキョトンとする

 

別に俺は〝絶対に会いたくない〟とまでは言っていない

 

 

「今は辺りも暗いんで構いませんけど、もしこれが他者に見られてたら面倒な事になるんで………次会う時は事前に連絡してくださいね、人目につきにくい場所に移動しておくんで」

 

どこで情報を仕入れたのか分からないけど狐坂さんは何故か俺のモモトーク知ってたし、連絡する分には問題ないだろう

 

今更未知の情報源に若干の恐怖を抱きながらそんな事を考えていると、狐坂さんは突然しおらしくなって尋ねてきた

 

「………その、よろしいのですか?」

 

「別にゲヘナで暴れたりしなけりゃ必要以上に追い回す理由もありませんからね………それに俺って正義の味方ってわけじゃないですし」

 

「……つまり、ゲヘナで暴れたら貴方は私を追いかけに来てくれる……と?」

 

「そんな事するぐらいなら最初から家まで会いに来て下さいよ………」

 

 

途中で恐ろしいことを呟く狐坂さん

 

その計画を止める為に自宅に来いと伝えると、彼女は突然モジモジし始める

 

 

「まあ……それはつまり〝おうちデート〟という事ですか?」

 

「違います、面倒事を起こされたくないだけです」

 

「……なんだか無性にゲヘナで暴れたくなってきましたね」

 

「ゲヘナで暴れるくらいなら俺とおうちデートしましょうよ!」

 

「ふふっ……ええ、こうして頼まれてしまっては仕方ありませんね?」

 

 

半ば強制的にデートであることを認めさせられ、改めて目の前の女性が取り扱い注意の爆弾である事を思い知らされる

 

ヤンデレてない狐坂さんと話してる時は特に問題のない普通の綺麗な女性にしか見えなかったが、冷静に考えたら脱獄犯がまともな筈がなかった

 

 

「………そ、それよりも!結局狐坂さんは何の用があって俺に話しかけにきたんですか?」

 

「……あら?もしかして以前言った言葉……お忘れになってしまいました?」

 

「以前?……………あっ」

 

 

そういえば狐坂さんとの共闘が終わった後、これからもじっくり見守る的なことを言われたような……

 

まさかこんなすぐに有言実行するとは思っておらず、間の抜けた声が出てしまった

 

 

「……えぇ……それだけの為に……?」

 

「勿論です、これは貴方が私にとっての〝貴方様〟かどうか確かめるのに必要な行為ですから─────ああ、そういえば一つ御伝えし忘れていたことが」

 

 

突如、狐坂さんの雰囲気が変わる

 

その瞳はうっとりした瞳から共闘してた時のようなギラギラした瞳へ

 

愛しそうに微笑んでいた表情は獲物を発見した狩人の様な表情へ

 

 

「あの戦いで一皮剥けたのか、それとも別の理由があるのかは分かりませんが…………少し会わない内に益々私の求める殿方に近づいていますね?」

 

 

少しでも視線を逸らせば(物理的な意味で)喰われてしまいそうなほど強い圧を感じ、正面から見つめ合う形になってしまった

 

数秒間身体を動かさずに大人しくしていると、狐坂さんの表情は再び優しい笑みへと戻っていった

 

 

「初めて会った時はすぐには判断できない程の違和感を抱いてましたが………今ならハッキリと断言できます、やはり貴方は〝貴方様〟です♡」

 

 

ヤバい、ロックオンされたどころか完全にターゲット固定された

 

俺の前世を知っているわけでもないのにどうしてこう、核心に迫る様な事を言ってくるのか………

 

確かにアロナさんの存在を認識できたりシッテムの箱を操作できたりと俺にも〝先生〟っぽい要素はある、それでも今世では〝俺〟は〝先生〟じゃないと考えながら生きてきた

 

それ故にまさかこの現実の世界で自分が狐坂さんに好かれるとは思ってもみなかった、だって彼女が好きになるのは先生だと思い込んでいたから─────

 

……待てよ?もし狐坂さんが愛していたのが先生=画面の向こうのプレイヤーだとしたらこの人は自分でも気付かぬ内に本能的に俺の正体を察知したということに……………まってすごいこわくなってきた

 

「おや?何やら顔色が優れないようですが……」

 

「ダ、ダイジョウブデス……」

 

「何故カタコトに?」

 

お、落ち着け……これは所詮俺の妄想だ!きっと狐坂さんは他の理由があって俺のことを好きになってくれたんだ!

 

それにこんな美人さんに好かれるなんて嬉しいことじゃないか、たとえヤンデレで破壊や略奪なんていう物騒な趣味を持っていたとしてもこれは男として名誉な────駄目だ自分で言ってて更に怖くなってきた

 

 

「……おや?身体が震えているみたいですが………もしかして肌寒いのですか?」

 

「ソ、ソンナコトナイヨ……」

 

「……でしたら……これなら如何でしょう?」

 

 

ピトリ、と狐坂さんの両腕が俺の左腕に組み付いてきた

 

人肌に触れたことで寒気はマシになったはずなのに、何故か身体の震えがより一層大きくなる

 

 

「あらあら?おかしいですね……まだ貴方様の震えが収まらないなんて……」

 

 

何を怯えているんだ俺は……狐坂さんはただ俺のことを暖めようとしてくれているだけだ

 

だからより強く絡んでくる両腕もついでの様に絡ませてきた片足も気のせいだ、捕食者の様な眼光も気のせいだ

 

指を絡ませられても顔を耳元まで近づけられても全部全部気のせいだ、誰がなんと言おうと絶対に気のせいだ

 

 

「これはもっと……近寄った方が良さそうですね♡」

 

 

………俺は勘違いをしていたのかもしれない

 

確かに俺は狐坂さんのことは〝意外と話通じるなー〟とか〝そんな危なそうな感じはしないな〟とか思っていたし、実際に顔を赤らめたり照れ隠ししたりと普通に乙女らしい行動を取ることだってあった

 

だが、それらは全て俺がまだ〝貴方様かどうかの判断〟ができていなかったからだ

 

こうして俺が〝貴方様認定〟を受けてしまえば、それらの行動に〝ヤンデレ要素〟が混ざるのは当然の事

 

くそっ!完全に油断してた!狐坂さんのことをただの乙女だと無意識に思い込んで────ん?乙女?

 

 

「……貴方様?」

 

 

………そうだ!どれだけ狐坂さんがヤンデレムーブをしようと、彼女本人が乙女である事に代わりはないんだ!

 

ならば……その弱点を突けば正面突破だって可能!

 

やって見せろよ折川!何とでもなるはずだ!アバンギャルド君だとぉ!?

 

 

「────狐坂さんッ!!」

 

「きゃっ……」

 

狐坂さんの身体を振り払い、即座に彼女の右手を俺の両手で包み込む

 

更に、身体を前のめりにして狐坂さんを覆うように立ち塞がる

 

 

「……あ、あの……?」

 

 

顔が赤い………よしっ!効果あり!やはり狐坂さんは乙女だ!高レベルの乙女力とヤンデレ力が共存している珍しいタイプだ!

 

因みに俺の顔も真っ赤だ!恥ずかしいに決まってんだろチクショウ!

 

 

「狐坂さん、確かに貴女の気持ちは嬉しい………でも、俺のことを〝貴方様〟と呼ぶのはまだ早いと思うんだ」

 

「お、お顔が……ち、ちかっ……!」

 

「もっと俺のことを知ってほしい、何が好きで何が嫌いなのかを…………俺の良いところも悪いところも全部な」

 

 

未だにあわあわしている狐坂さんを置いて話を進める

 

ここで一気に畳み掛ける……!

 

 

「全部知った上でまだ俺のことを想っていてくれたのなら………その時、改めてその想いを俺に伝えてくれ」

 

「あ……あぅ……」

 

「俺と人生を共にする………大して時間も掛けずすぐにそう判断してしまったせいで将来後悔してほしくないんだ」

 

 

狐坂さんは顔が赤いまま俺の言葉を最後まで聞いてくれた………どうだ?決まったか?

 

「わ、わかりました……ですから少々離れていただけると……」

 

「……すいません」

 

 

────ッしゃあ!!作戦成功!!

 

あのままヤンデレの空気に飲み込まれてたら何をされるか分かったもんじゃなかった!

 

一先ず安心……と言ったところか

 

 

「……あの」

 

「……あ、はい……なんですか?」

 

「〝俺のことを全部知った上でまだ好きでいてくれたならその時改めて想いを伝えてくれ〟………先程、そのような事を仰っていましたよね?」

 

「ええ、それが何か────」

 

「つまり〝その時〟が来れば────貴方様は私の想いを受け入れてくれると、そういうことでよろしいのでしょうか?」

 

「………あ」

 

 

そうだ、これじゃ時間稼ぎにしかならないじゃん

 

根本的な解決に至るには………結局今すぐどうにかしないと────ん?そもそも俺はどうして狐坂さんの想いを拒絶しようとしているんだ?

 

一度告白を断った正実のあの子に申し訳ないから?……違うな、もっと別の理由がある

 

…………そうだ、俺は空崎さんを支えると決めたんだ。そんな状態で他の女性と付き合ったとしてもその人を傷つけてしまうだけだ

 

だからあの子の告白も断ったんだけど………結局、あの子は〝隙があれば堕としにいきます!〟って意気込んでいたな

 

……そうだ、ならばもっと攻め込みにくい理由で断ろう!

 

 

「あの……実は俺、他に好きな人が……」

 

「なるほど、つまりその者以上に貴方様の視線を釘付けにすれば良いと」

 

 

つっよ、何この人

 

 

「ご存知無いのですか?私の趣味は略奪ですよ?」

 

「人間関係でそれやられるとは思わないじゃん……」

 

「御安心ください、もし貴方様がその者を心の底から愛していた場合はその関係を〝破壊〟するつもりはございませんから…………尤も、本当にそのような相手が存在するならばの話ですが」

 

 

嘘ついたの普通にバレてんじゃん

 

 

「……降参です、降参………分かりました、狐坂さんには俺が想いを受け取ろうとしない本当の理由を教えます」

 

「ああ、貴方様の属する組織の長のことですか?」

 

「はい………………えっ?」

 

「〝風紀委員長を支えながら他の者と付き合うとその相手に申し訳ないから〟………等といった理由でしたら気にしなくてもいいですよ?私、こう見えても我慢強い女ですので」

 

 

理由もバレてる、本当にどっからそんな情報を持ってくるんだ………

 

仮にゲヘナの生徒から俺の情報を集め回っていたのだとしても、ここまで正確に読み取られるなんて完全に俺の事を理解してる人じゃないと不可能だろ……

 

 

「……ああ、ですがその代わり………貴方様と会う度に風紀委員長に捧げた以上の愛を私の身にも注いでもらいますが♡」

 

「それは我慢強いって言えるんですかね……?」

 

「ともかく、これで貴方様が私の想いを拒絶する理由は無くなりましたよね?」

 

「いや、だから……狐坂さんが我慢できても俺が気にするっていうか……」

「まあ……レディがここまで勇気を出して歩み寄っているのですよ?まだご不満が?」

 

 

ムスッとした表情で詰め寄ってくる狐坂さん

 

その顔を近づけられると心音がうるさくなるのでやめてほしい

 

……仕方ない!ここは俺の切り札を出すか!

 

 

「ま、まずはお友達からってことで………その間にもし俺も恋愛的な意味で狐坂さんのことを好きになったら、その時は正直に伝えますから……」

 

「つまり〝俺を堕としてみろ〟ということですね?良いでしょう………その挑戦、受けて立ちます」

 

「勝手に挑戦したことにしないでくださ────あっ!?ちょっ……帰らないで!?まだ話は終わっ………」

 

「このワカモ、必ずや貴方様の心を射止めてみせましょう………貴方様があの戦いで私の心を射止めた様に♡」

 

 

なんかとんでもない解釈をしたまま帰ってしまった、これが多次元解釈かぁ……

 

……ん?待てよ?2人の告白を断っても2人ともまだ完全には諦めていないってことは……

 

このままだと俺は2人の女性に告白されておきながら2人ともキープしているクソ野郎みたいになるのでは?

 

 

「………狐坂さん待ってええええ!?やっぱり俺なんか忘れて幸せになってええええええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……ん…」

 

 

目を擦りながら1人の少女が寝室から出てくる

 

砂狼シロコと呼ばれる彼女は訳あって折川酒泉という少年と共に暮らしている

 

 

「今日の……ごはん……」

 

ぽやぽやした雰囲気を醸し出しながら台所に向かうと、既に家主である酒泉がエプロンを脱ごうとしていた

 

 

「おはようさん、今日はシンプルにトーストとエッグサラダだぞー」

 

「ジャムは……?」

 

「イチゴかオレンジな……ほい、ホットミルク」

 

 

シロコテラーは一度ふーふー冷ましてからミルクを口にすると、頬を緩めながら呟いた

 

 

「……あったかい」

 

「……そっか」

 

 

酒泉はそんなシロコテラーを見守りながら笑みを浮かべ、自分の分の朝食もテーブルまで持っていく

 

皿とコップを置き終えるとテーブルの真ん中にタブレット置きを設置し、そこにシッテムの箱を置いて画面をタップする

 

 

「よっす……おはよう、プラナ」

 

《……おはようございます、現在時刻は6:47分です》

 

「おう、ありがとな」

 

《んっ……………いえ、気にしないでください。酒泉さんの日常生活をサポートするのが私の役目ですので》

 

「そっか」

 

 

酒泉が画面越しにプラナの頭を撫でてみると、彼女はどこか擽ったそうにしていながらも指から離れることはなかった

 

一頻り撫で終わると、プラナは特に何を言うでもなく画面の奥まで小走りで去っていった

 

 

「……うしっ、じゃあ……食べるか」

 

「……うん」

 

「「いただきます」」

 

 

誰かと言う機会などもう二度と訪れない、そう思っていた言葉を酒泉と共に発した時からシロコテラーの胸の奥がほんのりと暖かくなる

 

この瞬間の幸福を心の中で噛み締めながら、シロコテラーは食事を進める

 

「……あ、そうだ。今日はちょいと放課後寄る場所があるから帰り遅くなるわ」

 

「………昨日も遅かった」

 

「あれはちょっとアクシデントがありまして………」

 

「……ご飯、一緒に食べたかった」

 

「…………本当に申し訳ございませんでした」

 

 

昨日は1人でご飯を食べたと暗に伝えるシロコテラー、少女の悲しそうな顔を見た酒泉は見惚れるほど自然な動作で頭を下げる

 

それを見たシロコテラーは耳をシュンとさせながらも〝気にしていない〟と伝える

 

 

「あー……えー……な、なんか欲しいものとかないか?お詫びになんでもプレゼントするぞ?」

 

「……この前マフラー貰ったから別にいい」

 

「ほ、本当に?他にないのか?」

 

「……こうして一緒にご飯が食べられるならそれでいい」

 

「帰宅すらマトモにできない愚か者ですいませんでした私は小学生以下です」

 

 

彼女の孤独が分かってしまうのか、酷く心を痛めながら再び頭を下げる酒泉

 

シロコテラーはそれを無言で眺めながらもモグモグと食事を続ける

 

 

「……あの……怒って、ます……?」

 

「怒ってない」

 

「……その、今日は夕飯には帰ってくるから……何かリクエストとかは……」

 

「……魚」

 

「……せ、せっかくだし寿司でも食いに行くか!回る方だけど!」

 

「……行く」

 

 

結局、シロコテラーの機嫌が治るまでこの何とも言えない空気は続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を摂り、ゲヘナ学園に登校してから2時間後────折川酒泉はジャージに着替えてグラウンド周りを走っていた

 

戦闘行為を禁じられている身である彼は自身の身体が鈍らないように最低限のトレーニングを行っている

 

軽いランニングに軽い腕立て伏せに軽い屈伸、いずれも身体を鍛えるというよりは身体を維持することを目的とした軽い運動ばかりだ

 

もしも何の許可もなく全力で長時間の運動を行って風紀委員会に顔を出した場合、空崎ヒナの冷めた眼差しと共にお説教が飛んでくる

 

一部の層にとってはご褒美である、特にゲヘナの行政官

 

 

「……この辺りで止めにしとくか」

 

 

酒泉は自販機で買ったスポーツ飲料の空缶をゴミ箱に捨てて風紀委員会に戻る準備をする

 

………この日、ゲヘナ学園はどこぞのタヌキが勝手に作った〝イブキ作・神アート誕生記念〟という祝日によって休みとなっていた

 

だが、休みを与えられたところで日頃から好き勝手暴れまわっている者達にとっては普段と何も変わらない日

 

それは問題児を取り締まる風紀委員達も同様、普段と何も変わらずいつも通り暴徒達の相手をしなければならない────まだ本調子ではない折川酒泉を除いて

 

 

「あ゛ぁ゛ー………そろそろ戦闘に参加したいなぁ……」

 

 

濁点混じりの溜め息吐きながらトボトボと足を進める

他の者達が戦っている中、自分だけ休んでしまっている事に罪悪感を酒泉は抱いている

 

 

(今週末、病院でもっかい目を見てもらって……それで完全に回復してたら空崎さんに報告して………そっから更に射撃テストで高得点出せたら戦線復帰が許されるんだよな)

短い間だが何度もお世話になった眼鏡をケースから取り出し、そのレンズを拭きながら今後の予定を整理する

 

漸く自分が働けること………というよりも皆の力になれることに安堵しながらホッと一息吐く

 

 

(復帰したらまずは自分の身体の調子を完全に取り戻して、その次は────〝あの状態〟に自分の意思でなれるように色々試してみよう)

 

 

酒泉の脳裏に浮かぶはアトラ・ハシース内でシロコテラーと戦った時の光景

 

飛び交う弾丸、戦闘被害による地形変化

 

相手の歩幅、身体の微かな揺れ、視線の向き

 

生物の未来、無機物の未来

 

それら全ての物を通常時以上の速度で目で捉え、それら全ての情報を通常時以上の速さで処理していた〝あの状態〟

 

 

(あれは奇跡なんかじゃない、これまで鍛え上げてきた俺の身体と戦闘技術が生み出した確かな〝武器〟だ。それならもう一度あの領域に手を届かせる事ができるはず……)

 

折川酒泉という少年は別に〝強さ〟に対して重きを置いている訳ではない

 

実力を伸ばす為に鍛えたりはするし、戦闘に関しても訓練相手がヒナであろうと意外と負けず嫌いでもある………が、かと言って〝力こそが全て〟などと言い出すタイプではない(冗談で言うことはあるが)

 

だが、それはそれとして自分の目の前に手が届きそうな〝強さ〟があるならそれを必死に目指す程度の向上心はある

 

その理由はキヴォトスで生き残る為だったり誰かを護る為だったりと様々だが、一番は────

 

 

(俺がもっと強くなれば………もっと空崎さんも楽できるよな)

 

 

────やはり、ヒナへの強い思いだろう

 

 

 

「……つっても、もう一度〝あの状態〟になる為の特訓方法なんて何も思い付かないけどな…………帰ったら〝あの状態〟の俺と直接戦ったシロコさんにアドバイス求めてみるか」

 

 

同居人の少女の顔を思い浮かべながら歩いていると、いつの間にか校内の廊下にたどり着いた酒泉

 

とりあえずヒナにトレーニング内容を報告して〝無茶はしてませんアピール〟をする為に風紀委員室に向かおうと────

 

 

 

 

「………ん?廊下の奥に……誰か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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────────

 

──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ!規則違反者共め!」

 

「誰が人食い反社だ!」

 

「そんな酷いこと言わなくてもいいだろっ!?」

 

「言葉のナイフを知らないのか!?」

 

「悪魔!鬼!」

 

「〝人食い反社〟じゃなくて〝規則違反者〟だ!どんな聞き間違えしてるんだ!」

 

 

廊下を騒がしく走りながら逃げ続ける温泉開発部、それを追う風紀委員・銀鏡イオリ

 

周りの部員達が好き勝手叫び散らす中、彼女達の先頭を走る鬼怒川カスミだけはニヤリと不適な笑みを浮かべる

 

 

「はっはっはー!随分と機嫌が悪いじゃないか!何をそんなに怒っているんだい?カルシウムが足りていないのかな?イオリちゃん?」

 

「勝手に廊下に穴なんて空けたら怒るに決まってるだろ!?」

 

「おや?それなら許可を貰えばよかったのかな?」

 

「お前達が風紀委員会に話を通した事なんて一度もないだろ!?」

 

怒りと共に走るスピードが上がっていくイオリ

 

そんな彼女にカスミ以外の温泉開発部員が慌てるが、その中の1人が冷や汗をかきながらも仲間を落ち着かせる為にある言葉を叫んだ

 

 

「お、落ち着け!相手は銀鏡イオリだけだ!ヒナも酒泉もこの場に居ないなら大したことないぞ!」

 

「そ、そうだ!アイツだけならどうとでもなる!」

 

「十分勝ち目はあるぞ!」

 

 

 

「────っ!このぉ……!」

 

 

煽り目的というよりは仲間を鼓舞する為に放った言葉

 

それがイオリにも効いてしまったのか、額に青筋を立てて一直線に駆け出す

 

スナイパーライフルの銃口が真っ先に声を発した部員に近づき、そのまま引き金を─────

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

─────引く直前、足元に感じる浮遊感

 

一瞬だけ身体が落下する感覚がイオリを襲い、その際の衝撃に驚きながらも視線を下に向けてみれば………何故かイオリの下半身が廊下に埋まっていた

 

 

「お、お前ら……こんな所まで掘ってたのか!」

 

「よ、よし!やっぱり効いたぞ!」

 

「う、嘘だろ?また落とし穴にかかったのか?前にも同じ方法使ったよな?」

「まさか本当に引っかかるとは……流石に心配になってきたぞ……」

 

 

一部の者は喜び、一部の者は困惑し、一部の者はイオリのチョロさに哀れみの視線を向ける

 

そんな彼女達をイオリは悔しそうな表情で睨んでいると、その視線に気づいたカスミがニヤニヤと笑いながら近寄ってきてイオリを見下ろす

 

 

「いやぁ……イオリちゃんは本当に単純で助かるよ」

 

「くっ……またこんな下らない手を……!」

 

「その下らない手に何度も引っ掛かっているのはどこの誰だい?」

 

 

廊下に埋まっているイオリの周囲をくるくると歩き回り、一頻り満足したのかカスミの表情から笑みが消える

 

 

「さて、このまま君が埋まっている内に遠くまで逃げ出したいところだが………この状況、ただ逃走するだけではつまらないな」

 

「……な、何をするつもりだ!?」

 

「いやいや……別にそこまで酷い事をするつもりはないぞ?ただ、君を人質として利用すれば多少は風紀委員の動きを縛ることができると思ってね」

 

「……っ」

 

「そう怖い顔をしないでくれ………少々眠っててもらうだけだからさ」

 

 

赤と黒のハンドガンを構え、廊下に埋まっている無防備な少女の額に突きつけるカスミ

 

イオリも必死に穴から抜け出そうとするが、足が地に着いておらず肩もカスミに押さえられているため抜け出すことができない

 

 

「痛みは一瞬だ」

 

 

イオリは己の未熟さを悔いながら目を閉じて痛みに備える

 

(……また委員長の足を引っ張っちゃったな)

 

 

力不足を嘆き、悔しさで唇を噛み締める

 

 

(………っ)

 

 

1秒

 

 

(………)

 

 

2秒

 

 

(………)

 

 

3秒

 

 

(………?)

 

 

いつまで経っても痛みが襲ってこない事に疑問を感じ、恐る恐る目を開けるイオリ

 

その目に映ったのは口元こそ笑っているものの、先程の何倍も警戒した様な雰囲気を醸し出しているカスミの姿だった

 

……よく見れば、その後ろの部員達が何名か後退りしていた

 

それに気づいたイオリの困惑が益々強まる中、カスミは少しずつ後退しながら口を開いた

 

 

「……おやおや、こんな所で会うなんて奇遇だね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────酒泉」

 

「ゲヘナの生徒がゲヘナで会うなんて当たり前の事でしょう?鬼怒川さん」

 

 

イオリの背後から少年の声が聞こえてくる

 

その声の主はイオリを庇うように前に立つと、チラッと視線を後ろに向けた

 

 

「大丈夫ですか?銀鏡さん」

 

「酒泉!?なんでここに……!」

 

 

仲間が駆けつけてきてくれたにも関わらず、表情が晴れないイオリ………彼女には2つの焦りがあった

 

1つは親しい後輩に情けない姿を見せてしまった事への焦り

 

もう1つは戦闘を禁止されているその後輩が問題児達の前に姿を現してしまった事への焦り

 

 

「当たり前の事……か、果たしてそうかな?」

 

「何がです?」

 

「風の噂によれば確か君はその身を酷使した事を風紀委員長に咎められ、完全に回復するまで戦闘行為を禁止されていたはずだが………」

 

(────っ……駄目だ、バレてる……!)

 

 

もし酒泉が万全の状態なら彼女達も無駄に争おうとはせず撤退していたかもしれない

 

だが、そんな都合の良い展開は訪れなかった

 

 

「……そ、そうだ!折川酒泉の目は使い物にならないって聞いたことがあるぞ!」

 

「な、なんだ……それなら今目の前に立っているのはただ身体が脆いだけの一般人ってことじゃないか!」

 

「今なら勝てるぞ!」

 

 

案の定、調子を取り戻し始める温泉開発部の生徒達

 

イオリは酒泉を巻き込んでしまった事を申し訳なく思いながらも〝私を置いて逃げろ〟と叫ぼうとする

 

 

「……?えっと……なんで先週の話をしてるんですか?」

 

「………は?」

 

 

だが、その前に発した酒泉の言葉に一同が固まる

 

 

「……先週?何の事だ?」

 

「いや、だから……俺が戦闘行為を禁止されていたのは先週までの話ですけど……」

 

「……どうせこの場をやり過ごす為の嘘なんだろ?」

 

「そうだそうだ!お前が弱くなってることはここにいる全員が知っているんだぞ!」

 

「いや、本当の事ですけど………だからこうしてジャージに着替えて思いっきり運動する許可を空崎さんに貰えたんじゃないですか」

 

「……そういえば……いつもと格好が……」

 

 

カスミが酒泉の格好を見て〝まさか本当に……?〟と呟くと同時に周囲に動揺が走る

 

一方の酒泉をそれを無視して勝手に準備運動を始める

 

 

「……何をしているんだい?」

 

「いっちにーさんしー─────ん?準備運動ですけど?久しぶりに戦いますし足を捻ったりしないように……ね」

 

「……ははは!冗談だろう?」

 

「一番マシなのは鬼怒川さんでそれ以外は全員雑魚、下倉さんはそもそもこの場には居ない………か」

 

「……ん?」

 

「できれば復帰戦の相手は便利屋とか美食研とかの実力者集団がよかったけど………まあ、ウォーミングアップ程度にはなるか」

 

「………おいおいおい、まさか本当に治っているのかい?」

 

冷や汗どころかダラダラと水道の様に汗を垂らすカスミ

 

だが、その背後で未だに廊下に下半身が埋まっているイオリを見ると、直後にハッ!と何かを思いついたような顔をして強気に前に出た

 

 

「はーっはっはっはー!酒泉!君は1つ忘れていることがあるぞ!」

 

「忘れていること?」

 

「君の後ろには未だに身動きが取れない少女が埋まっているということだ!そんなお荷物を抱えたままで私達に勝てるとでも!?」

 

 

〝お荷物〟という言葉が出たと同時にイオリの口から歯軋りが鳴る

 

「はい?勝てますけど?」

 

「えっ」

 

 

だが、酒泉はカスミの言葉にも背後のイオリの様子にも反応せず、さも当然の事のように返事をした

 

 

「……今なんと?」

「いや、だから勝てますけど」

 

「……はっはっは、これはまた強がりを」

 

「むしろなんで勝てないと思ってるんですか?」

 

 

一歩、一歩と酒泉がカスミに近づく

 

カスミも咄嗟にハンドガンの銃口を酒泉に向けるが、それでも目の前の少年の歩みは一切止まらない

 

周囲の部員達から向けられている火炎放射機すら意に介していない

 

 

「アンタの目の前に立っているのは堕ちた聖女を殺し、崇高を目指す支配者すら見下し、色彩をも塗り潰した男だ」

 

「幾度も暴徒と戦い、暴力以上の暴力によってそれを制圧してきた〝本物の暴力〟そのもの」

 

「気分が良ければ見逃す、気分が悪ければ壊す、俺の快不快だけで簡単にアンタらの立場を決めることができる………分かっているのか?アンタらが歯向かおうとしている相手はそれほどまでに強大な存在なんだぞ?」

 

慢心、油断、そんな言葉など知らんとでも言わんばかりにカスミを見つめる酒泉

 

カスミはその目に見覚えがあった、それは………目の前の少年の上司から何度も向けられたことのある紫の瞳と同じもの

 

目が合えば動きを止められ、睨まれれば敗北が確定する

 

そんな理不尽な瞳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(───あの目は、まずい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、引き金を引けば俺の額を撃ち抜けますよ?」

 

 

酒泉はカスミの手を掴んで自身の額にハンドガンをくっつけさせると、数年振りの旧友と再開した時の様に笑顔で語りかける

 

硬直しているカスミの身体が少しずつ動き始めたのを確認すると、酒泉は何かを察したかの様に目を細めた

 

 

「どうかしました?戦わないんですか?」

 

「……て……」

 

「手?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てててててて撤退イィ────ッ!!!」

 

「部長が逃げ出したぞおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな背中が遠ざかり、更に小さく見えてきた

 

……さて

 

 

「いやぁ……退いてくれてよかったぁ……」

 

「……やっぱりまだ治ってなかったんだ、その目」

 

「結構回復してきたし実際に戦闘になっても問題無かったと思いますけどね………まあ、そんな事したら空崎さんに怒られるかもしれませんけど」

 

「………ごめん、危険な目に遭わせちゃって」

 

「俺の独断なんで気にしないでください………すいません、ちょっと両脇抱えてもいいですか?」

 

「えっ!?……あ、そういう事か……うん、お願い」

 

 

後ろから銀鏡さんの脇下に手を通し、足に力を込めて一気に持ち上げようとする

 

銀鏡さんもくすぐったそうな声を出しながらもそれに合わせて腕に力を込めてくれた、そのお陰で意外とすっぽりと抜き出すことができた

 

 

「よいっしょ───っと………ありがとね、酒泉」

 

「いえ……それよりも怪我は?」

 

「大丈夫、制服が汚れただけだから」

 

ぱんぱんとスカートに付いた汚れを払って身を整える銀鏡さん、本人の言う通り特に怪我などは無さそうだ

 

さて……この後はどうするか……一旦風紀委員室に戻って空崎さんの帰りを待つか?

 

 

「はぁ……」

 

「……なんかえらい落ち込んでますね」

 

「そりゃ、こう何度も同じ失敗を繰り返してたらさ………」

 

「……さっきアイツらが言ってた事なら気にしなくていいですよ」

 

 

この後どうするか銀鏡さんに聞こうとしたが、明らかに落ち込んだ様子だった為咄嗟にフォローを入れる

 

………さっきは演技の為に敢えて向こうの言葉に反応しなかったけど、こうして落ち着いた後だと銀鏡さんを〝お荷物〟呼ばわりした事が気になってきたな

 

「…………くそっ、なんか思い出したら腹立ってきたな!やっぱり何発かぶん殴ってきます!」

 

「別にいいよ、今回に関してはアイツらの言ってたことの方が正しいし…………ていうか、戦闘を禁止されてる酒泉にそんな事させたら私が怒られちゃうでしょ」

 

「……確かに……すいませんでした」

 

「……でも、気持ちは嬉しいよ」

 

 

気持ちが突っ走ってしまいそうなところを銀鏡さんに止められた

 

浅はかな考えで行動しようとした事を謝罪すると、銀鏡さんは苦笑しながら〝いいよ〟と手を振ってしゃがみこんだ

 

 

「はぁー……もう、またやっちゃったよ………しかも今日は酒泉まで巻き込んじゃったし……」

 

「いや、今回に関しては本当に偶々通りがかっただけなんで……」

 

「そうじゃなくてさ………また酒泉の力を借りちゃったってこと」

 

 

銀鏡さんは先程まで埋まっていた穴を見つめると、暫く黙り込んでからポツリと呟いた

 

 

「別に今日に限った話じゃなくてさ、他の日でも何回かあったんだよね………〝委員長や酒泉がいないなら大した事ない〟ってお荷物扱いされたの」

 

「……あー……その……」

 

「先に言っておくけど委員長や酒泉を責めてる訳じゃないから………それに、私自身も少なからずそう思ってるところもあるし」

 

銀鏡さんの悩みの原因に自分も多少関わっている事を知って複雑な思いを抱く

 

そんな俺の表情から何を考えているのか察したのか、銀鏡さんは即座にその考えを否定する

 

 

「酒泉がゲヘナに来るまでは委員長以外で前線に単身突撃してたのはずっと私1人だった………その時からちょくちょく舐められることはあったけど、それが未だに続いてしまうほど同じミスばかりしてるのは自分でも流石にどうかと思ってるんだ」

 

「単純な罠に引っ掛かったり簡単に挑発に乗っちゃったり、酷い時には以前掛けられた罠と全く同じ手法にやられることもあるし………さっきみたいに」

 

「こんなだから色んな連中に馬鹿にされるんだろうな………アコちゃんやヒナ委員長は私のことを〝次期風紀委員長〟とか言ってくれたけど、これじゃ2人が卒業した後皆をちゃんと引っ張っていけるかどうか………」

 

 

確かに原作では〝ヒナ以外大したことない〟みたいな発言を便利屋が言ってたが………俺はそうは思わない

 

天雨さんのサポート力も火宮さんの手際の良さも実際に一緒に働いている者ならちゃんと理解している

 

 

「……銀鏡さんってさ、すげー強いですよね」

 

 

だから、銀鏡さんの凄さだって俺は知っている

 

 

「……なんだよ、酒泉に言われても慰められてるだけにしか聞こえないぞ」

 

「だって何度も何度も同じ罠に掛けられても全く恐れず敵に向かい続けてるんですよ?それって凄くカッコよくないですか?」

 

「………いや、ダサイでしょ」

 

 

……うーん、この際だし正直に言ってしまおうか

 

 

「……ぶっちゃけると、実は俺も最初は〝またか銀鏡さん……〟みたいな感じで呆れてました」

 

「ほら!やっぱり酒泉も私のことをダサイって────ん?最初は?」

 

「でも、こうして何度も実戦経験を積んだ今ならハッキリと言えます。敵の罠に掛かってもその時の失敗や恐れを引きずらず、再び一直線に駆け出す…………それって凄く勇気が必要な事だと思うんですよ」

 

「……そうか?」

 

「普通の人は一度失敗したことをやろうとするとその時の事が頭に過ってしまうんです、でも銀鏡さんはそんな事に囚われず自分の信じた行動を真っ直ぐ貫き通している」

 

 

銀鏡さんは自分のメンタルが意外と強いことに気づいてほしい

 

……ていうか、この人の強みはメンタル面だけじゃない

 

「後はその身1つで皆を導いてるところとかもカッコいいと思ってます」

 

「……導いてる?」

 

「地雷を踏み抜き、毒味をし、自ら身を危険に晒す………銀鏡さんは前線を走っているだけで俺達風紀委員を護ってくれているんですよ」

 

「私は別にそんなつもりないんだけど……」

 

「でも、結果的に護られてます」

 

 

目を合わせてそう伝えると、銀鏡さんはどこか気恥ずかしそうに視線を逸らした

 

 

「俺の脆い身体じゃ誰かを護ったとしても簡単にくたばっちまいますからね………ですから誰かを護った上で自身も無事に帰ってくる銀鏡さんの背中は凄く頼もしいですよ」

 

「わ、わかったから……酒泉の気持ちは十分伝わったから……」

 

「あれ?もういいんですか?あと24時間ぐらいは銀鏡さんの良いところ語れますけど」

 

「私がもたないから!色々と!」

 

 

銀鏡さんは顔を真っ赤にしながら必死に首を横に振ってくる

 

……なんだ、まだまだいっぱい言おうとしたのに

 

 

「……まあ、ここまで散々言っておきながらなんですけど、別に個人で完璧である必要はありませんからね」

 

「本当に今更だね……」

 

「俺達は全員で〝風紀委員会〟なんですから互いに足りないもんを補って支え合っていけばいいんですよ………だから何か困ったことがあれば俺を頼ってください、その時は俺が銀鏡さんを支えますから」

 

「………うん」

 

 

1人で無理するの駄目、酒泉学んだ

 

これからは〝私達は最強なんだ〟戦法で行こう

 

 

「……じゃ、じゃあ……約束だからな?」

 

「勿論っすよ………さて、銀鏡さんのシナシナモードも終わったことで……この後どうします?」

 

「誰がシナシナだ!誰が!……………まあ、とりあえず私1人で無茶しても同じ結果になりそうだし、何人か増援を求めて仲間と一緒に温泉開発部を追いかけるよ」

 

「そうっすか……なら俺は事の経緯を報告書に纏めて空崎さんに────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その必要は無いわ、本人に聞いたから」

 

「お?」

 

「ん?」

 

 

後ろを振り向いてみるとそこには鬼怒川さんが立っていた………わけではなく、気絶した鬼怒川さんの首根っこを掴んでいる空崎さんが立っていた

 

鬼怒川さんの頭にはたんこぶが3つほど重ねられており、気絶しているその表情は泣き顔で固定されていた

 

 

「委員長?どうしてここに?今は別の連中の相手をしてたんじゃ……」

 

「そっちは片付いたからイオリの方の援護に向かったんだけど、そしたら廊下の奥から温泉開発部の人達が走ってきて……」

 

 

なるほど、そこを空崎さんに狙われた訳だな

 

ははっ!ざまぁないぜ!

 

「ごめん委員長……手を煩わせちゃって……」

 

「気にしないで、ついでだから」

 

 

ついで感覚で撃退される温泉開発部ェ………まあ日頃の行いですな

 

 

「酒泉は報告書を、イオリは………予備の制服が風紀委員の更衣室にあるはずだから着替えてきていいよ」

 

「うん、ありがとう委員長………じゃあ酒泉、早速頼ることになっちゃったけど報告書の作成お願いね」

 

 

手をひらひらと振りながら去っていく銀鏡さん、その背中は先程よりもどこか清々しそうに見えた

 

……さて、俺も行きますか

 

 

「空崎さん、俺も一旦仕事しに戻りますね………では」

 

「………うん、また後で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……酒泉の支えたい人って私1人じゃないんだ」

 

 

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