〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

510 / 514


 

 

 

「右腕」

 

 

空崎さんが一言そう呟き、それに従って訓練用の人型の的の腕部分を撃ち抜く

 

 

「頭、左足」

 

「………」

 

新たに現れた的の頭と左足に狙いを定める

 

両方、見事にヒットした

 

 

「右手の……薬指」

 

 

先程より少々細かい指示が飛んでくるが、冷静に銃を構えて引き金を引く

 

特にブレることもなくそのまま撃ち抜いた

 

 

「左腕、右肩、左手の中指」

 

「………っ」

 

 

銃口を左、右、左と移動させ、引き金を3回引く

 

ヒット、ヒット────ハズレ

 

最後の最後で失敗してしまい、思わず舌打ちが出てしまった

 

 

「終了よ」

 

「────っはぁ……ありがとうございました」

 

 

ここまでのテストに付き合ってくれたことに感謝しながら空崎さんに一礼する

 

空崎さんは採点用紙のような物にペンでチェックマークを入れると改めて俺に向き直った

 

 

「30発中29発……合格よ、眼鏡無しの状態でもこの射撃精度まで回復できたのなら戦闘に参加しても問題なさそうね」

 

「やっと風紀委員として戦えますね………これからはバリバリ働いていきますよ!」

 

「あまり油断したら駄目、まだまだ本調子とは言えないんだから………もし酒泉の目が100%回復していたのならこのテストだって満点を叩き出していたはずよ」

 

 

空崎さんから一応の注意を受けてしまうが、それと同時に俺の実力を評価してくれていることを知って頬が緩んでしまう

 

 

「空崎さんから戦闘許可も貰えた事だし、先ずは………訓練を以前と同じ量に戻すことから始めましょうかね」

 

「訓練開始は明日からでもいいけど………でも、いきなり訓練の量を増やすと身体に堪えるかもしれないから少しずつ上げていくようにね」

 

「了解っす………ん?」

 

 

空崎さんの言葉に返事をしながらテストで使った的や銃を片付けていると、自分のポケットからモモトークの通知音が鳴る

 

空崎さんに断りを入れてから画面を開いてみればメッセージの送信者の名前欄にシロコさんの名前が入っていた

 

 

「……ほーん?」

 

 

〝酒泉が好きそうなの見つけた〟という簡素なメッセージと共に送られてきたのは苺が沢山乗ったパフェの写真

 

クリームも飾りつけのチョコも全てピンクで、恐らく写真内の物が全て苺味であろう事が窺える

 

おっ……しかもこれが売ってる店、家から一駅分くらいしか距離が空いてない………十分歩いて行けるな

 

 

「………よし」

 

 

〝今日一緒に行くか?〟とモモトークに返事を入れてからスマホを閉じて片付けを再開しようとする

 

………が、スマホをポケットにしまうより早く〝行く〟という二文字が速攻で送られてきた

 

 

「……誰と話してるの?」

 

「シロコさんですよ、最近向こうからもモモトークを送ってくれるようになりましてね」

 

 

家に来たばかりの頃は日用品の補充やその日の予定の確認ぐらいでしかモモトークで会話する機会はなかった

 

だが、今では先程の様に特に重要でもない事でもモモトークを送ってきてくれるようになった

 

 

「シロコさんも今の環境に慣れてきたって事でしょうかね………この調子で他の生徒さん達とも気軽に話せるようになってくれたら良いんですけど」

 

「……ねえ、酒泉。一つ聞いてもいい?」

 

「はい?」

 

「酒泉はどうしてあの子を引き取ったの?」

 

 

どこか問い詰めるような瞳でジッと答えを待つ空崎さん

 

その紫の瞳の中に何故か一瞬焦りのようなものを感じながらも、多少口を吃らせて返事をする

 

「あー……えっと……なんか、放っておけなくて」

 

「……可哀想だからってこと?」

 

「いや、そうじゃないんですよ……可哀想とかそんな理由じゃなくて……その………誰だって寂しいのは嫌じゃないですか」

 

 

シロコさんと一緒に暮らすことを選んだ理由には勿論プレナパテスに託されたからというのもある

 

けど、それ以上に………俺は彼女に帰れる場所を与えたかった

 

原作のシロコさんは最終編終了後、先生達と合流することもなく何処かに姿を消してしまった

 

せっかくこの世界に来たというのに前の世界と変わらず独りだなんて…………そんなのあんまりすぎるだろ

 

 

「シロコさんには〝貴女は独りじゃない〟って伝えたかったんですよ………〝貴女には帰れる場所があるんだ〟って」

 

「帰れる……場所……」

 

「起きて、ご飯を食べて、学校に行って、勉強して、友達と遊んで、そして最後には…………帰ってくる、その為の居場所をシロコさんに与えたかっただけです」

 

「………ちょっと前まで他人だった酒泉がそこまでするの?」

 

「他人だったからこそ特に過去の辛い記憶を思い起こすこともなく一緒に暮らせると思うんですよね」

 

 

………なんて言ったは良いものの、正直この行動がどこまでシロコさんの為になっているのかは分からない

 

なんなら俺の力なんか無くても1人で逞しく生きていけるのかもしれない

 

まあ、つまり………ただの自己満足だ

 

 

「……要するに酒泉は砂狼シロコを〝支えたい〟ってこと?」

 

「ん?……まあ、そういう言い方もありますね」

 

「…………やっぱりそうなんだ」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっす、お待たせー」

 

「……ううん、私も今着いたところ」

 

 

シロコさんはサラッと答えたが、耳をピョコピョコと動かしながら返事をした辺りずっと楽しみに待っていたのだろう

 

あのモモトークの後、一旦家に戻るよりも途中で合流した方が早いと判断した俺達は目的のスイーツ店までの道中にある公園で落ち合う事にした

 

 

「んじゃ、早速糖分と素敵な抱擁を交わしに────ん?」

 

「……何?」

 

「いや……シロコさん、今日もマフラー着けてるんだなって」

 

 

シロコさんの首には一緒にアビドスに遊びにいった日にプレゼントした青色のマフラーが巻かれていた

 

だが、今日は特に寒い日だという訳ではない、むしろ昼寝するには絶好のポカポカ日和だ

 

 

「……こんな天気の日にマフラー巻いてると身体が暑くなるんじゃ……」

 

「………これでいい」

 

「そ、そうか……まあ、体調には気をつけろよ」

 

「……うん」

 

 

実はあのマフラー、シロコさんが外出する時は必ず毎回巻いて来ている

 

特に女の子受けするようなデザインのマフラーではないが………気に入ってくれたのなら何よりだ

 

 

「あ、そうだ……プラナは連れてきてくれたか?」

 

「うん、言われた通り……はい」

 

 

シロコさんは自分の鞄の中からシッテムの箱を取り出してそれを手渡してくる

 

真っ暗な画面をタップすると画面全体が明るく光り、その中央に白リボンを着けた白髪の少女の姿が現れた

 

……手にプリンが乗った皿を持ってる状態で

 

 

「よう、良い子にお留守番してたか?プラナ」

 

《はっ……!んぐ────はい、待機中も異常ありませんでした》

 

 

咄嗟に口元を拭い、プリンを背に隠すプラナ

 

 

「いや、別に〝一口ちょうだい〟とか言ったりせんよ……物理的に無理だろうし」

 

《……何の事でしょうか、私は何も食べていませんが》

 

「まあ、別にいつ食べるかはプラナの自由だけどさ………そんな毎日毎日食ってるとすぐに在庫尽きるぞ?折角アロナさんから貰ったやつなんだろ?」

 

 

そう、なんとあのプリンはアロナさんがプラナのシッテムの箱に送ってくれたプリンなのだ!

 

………いや、中身どうなってんだよマジで……味覚データの集合体とかなのかな……

 

 

《……心配ご無用です、あと2箱分残っていますから》

 

 

アロナさん……プラナにはつくづく甘いな、そんなに後輩が出来て嬉しいのか

 

 

「酒泉、酒泉」

 

「ん?ああ、悪い悪い……そろそろ行くか」

 

 

シロコさんに袖をくいくいっと引っ張られ、早く行こうと急かされる

 

こんな風に軽い意思表示をしてくれるだけでも多少は心を許されてるんだなと安心感を覚える

 

見てますか先生、貴方の教え子はすくすくと成長してますよ………なんて思いを込めながらスクールバッグからアクリルフレームに保護された状態の大人のカードを取り出す

 

アクリルフレームの穴に通された紐を首に掛けていると、シロコさんとプラナが俺の首元に視線を向けていた

 

 

「……今日も持ってきてたんだ」

 

「まあ、な………風紀委員として戦わないといけない日とかは危険だし家に置いてくけど、こういうちょっとした日常の時間ぐらいは一緒に居たいんだ」

 

 

なんて言ってみるが、他にも〝先生に見られてると気が引き締まるから〟とか〝勇気が貰えるような気がするから〟とかもっと色んな理由がある

 

……あと、なんとなく俺達を見守ってくれてる感じがするから……みたいな?別に霊感とかある訳じゃないけど

 

 

「……じゃあ、4人でお出掛けだね」

 

「おう、胸焼けするほどの大量の苺を先生に見せつけてやろう」

 

《苺……イチゴミルク……》

 

「………俺じゃどうしようもないから、アロナさんに頼んで作ってもらうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい!お待たせしましたー!こちら〝愛しのあの子とランデブー!青春ピンクイチゴパフェ〟でーす!」

 

 

約30分後、スイーツ店内にて

 

とんでもねぇ名前と共にテーブルまで届けられたのはバケツ程の大きさの器に盛られた巨大なイチゴパフェだった、君なんか写真と顔違くない?

 

 

「ごゆっくりどうぞー!………チッ!リア充がよぉ……!」

 

 

女性店員さんの舌打ちを聞かなかったことにして改めてパフェを見てみる

 

底には大量のコーンフレーク、恐らく20個は越えているであろうカットイチゴ、周囲に添えられている山盛りのピンクのクリーム、壁のように立て掛けられているピンクの板チョコ

 

そして………それらの中央に盛られているドデカいピンク色のアイス

 

 

「シロコさん……これは……」

 

「うん……流石に多すぎ────」

 

「糖分天国じゃねえか!!!」

 

「……は?」

 

 

おいおいおい!なんだよこの俺の為に作られたみたいなデザートは!?シェフを呼べ!褒めてつかわす!

 

ヤバい……これはヤバいぞ……見てるだけでも口の中が甘くなってきた……!

 

 

「シロコさん、プラナ……こいつを俺のフルコースに入れようと思う」

 

「う、うん……?」

 

《……イチゴが……たくさん……》

 

 

ヒャアアアア!我慢できねえ!この世の全ての糖分に感謝を込めて………いただきます!

 

 

「うおっ!?こ、これは……!?まさか俺のグルメ細胞に適合する料理か!?」

 

「訳の分からないことを言う酒泉は置いといて………一体どうしてこんな大きいパフェが………写真で見た時は普通のサイズだったのに────あれ?」

 

「しゃくしゃく……しゃくしゃく……しゃくしゃく……」

 

「酒泉、酒泉」

 

「しゃくしゃく……しゃくしゃ───ん?どうした?」

 

「これ見て」

 

 

シロコさんがメニュー表を広げ、視線をそちらに向ける

 

そこには俺達が注文したのと同じパフェが3つ載っており、更にそのパフェの写真の横にそれぞれ〝ノーマル〟〝カップル〟〝ファミリー〟と文字が書かれていた

 

……あー……そういえば注文する際にサイズを聞かれたけど、その時シロコさんが〝一番大きいのでお願いします〟とか頼んでた気が………それで〝ファミリーサイズ〟のパフェを頼んでしまったのか

 

てかパフェもピンクだしこのメニュー表もピンクだし文字もピンクだしで全体的に凄く分かり辛いな………俺の目なら間違う事はなかっただろうけど、シロコさんの自由に注文させてあげたいという気遣いが裏目に出てしまったか

 

 

「まあ、この際〝カップル〟だろうが〝ファミリー〟だろうがなんでもいいだろ………美味いことに変わりはないんだし」

 

「…………」

 

「それよりシロコさんは食べないのか?なら俺が全部食っちまうぞ?」

 

「……食べる」

 

《酒泉さん……今食べているパフェの味を鮮明に記憶しておいてください、いずれアロナ先輩に報告して味のデータを再現してもらいます》

 

「おっけ………え?そんなことできんの?」

 

 

然り気無くプラナの発した言葉に驚愕するものの、気を取り直して再び糖分摂取を始める

 

……が、先程からパフェに手をつけようとしないシロコさんが気になって声を掛けてみる

 

 

「……どうした?真ん中のアイス、溶けちまうぞ?」

 

「……私、このパフェ2つ注文しちゃった……つまりこの大きさのパフェがもう1つ届く」

 

「そうか……まあ、もしシロコさんが残しても俺が食べるから心配すんな」

 

「……食べられるの?このバケツサイズのパフェを?」

 

「別に甘いもんなんて幾らでも腹に────ん?」

 

「……酒泉?」

 

「……いや、なんでも………それより俺の身体は無限に糖分を吸収できる仕組みになってるから何も心配するな」

 

「……人間じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

「ふぃ~、食った食った……」

 

「……まさか本当に食べ切るなんて」

 

《……異常確認、とても人間の胃袋と同じ構造だとは思えません》

 

 

特に苦しむ事もなく完食し、満足そうに腹を叩きながら店を出る

 

割と冗談抜きに甘い物なら無限に食える気がする……ていうか糖分限定の大食い対決なら鰐渕さんと獅子堂さんを同時に相手取っても勝てる自信がある

 

 

「……ごめん、途中から半分ぐらい押し付けちゃった」

 

「俺としてはありがたかったけどな………むしろおかわりしようかと考えてたくらいだし」

 

「………うっ……」

 

「どうした?」

 

「その……想像したら胸焼けが……」

 

 

シロコさんとプラナを待たせるのも悪いと思っておかわりは止めておいたけど………今のシロコさんの状態を見るにそれで正解だったかもしれん

 

もしおかわりしていたらシロコさんがパフェを見てるだけでハイメガキャノン(隠語)を吐いていたかもしれない………あんなに美味しいのになぁ

 

「さて……この後はどうする?行きたい場所とかあるか?」

 

「私は別に……」

 

「……そうか、なら買い物だけ済ませて帰るか」

 

《2日程前、酒泉さんが〝醤油が切れそうだ〟と呟いていたのを記憶しています》

 

「……っと、そういえばそうだったな………忘れるところだったよ、ありがとなプラナ」

 

 

自分で忘れかけていたことをプラナのお陰で思い出し、この後の予定が決まった

 

スーパーに行ったら真っ先に醤油をカゴに入れて……あ、油も買っておくか

 

一応途中で金も下ろしておくか………でも、その前に1つやらなきゃいけない事があるな

 

 

「シロコさん、プラナ、ちょっと荷物持って先に行っててくれないか………待ち合わせ場所はいつものスーパーな」

 

 

そう言ってからシロコさんに大人のカードとシッテムの箱が入ったスクールバッグを預ける

 

そのまま何か聞かれる前に去ろうとするが、シロコさんに腕を掴まれて歩みを止められる

 

 

「どうしたの?……さっきのお店に忘れ物でもしたの?」

 

「いや……この辺に風紀委員会の同僚の家があるんだけどさ、そいつ最近熱出して寝込んでたんだよ。だからお見舞いついでに今後の活動内容とか直接教えに行ってやろうかなって」

 

「……分かった、じゃあ先に行ってるね」

 

 

素直に納得してくれたシロコさんはそのまま俺の腕を離し、俺達がよく利用しているスーパーの方角へと向かっていった

 

……じゃあ、俺も〝お見舞い〟に行ってこようかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~♪」

 

 

機嫌良く鼻歌を歌いながらスキップをし、そのまま何処か適当な道の路地裏に入っていく

 

気分は欲しかったゲームを親に買ってもらった子供の様に、能天気に無防備に進み続ける

 

チラリとスマホで時刻を確認してみれば、15:26と表示されていた………もっと暗くならないと出てこないか?

 

 

「今日も1日楽しかったなぁ……明日はもっと楽しくなるよね!」

 

 

〝ハ○太郎!〟と後に続きそうな台詞を吐いてみるが、別にあの喋るハムスターに話しかけてる訳ではない

 

これはただの独り言……という訳でもないんだな、これが

 

 

「……でも……まだちょっと遊び足りないよなぁ……」

 

 

左右前後、辺りをくるくると見渡しながら何者かに聞こえるようにわざとらしく呟く

 

 

「………はぁ……敢えて人が全く通らないであろう道を選んでやったのにまだビビってんのかアンタらは」

 

視線と気配だけをひたすら浴びせられる状況に少しずつウンザリしていき、さっきより言葉遣いが強くなってしまう

 

何の為にこんな無防備なアホを演じてやってると思ってんだ、さっさと出てこいや

 

 

「………こっちはさっさと片付けてシロコさん達と合流したいんだ、そっちから来ないなら俺から行くぞ」

 

「────その必要はねえよ、どっちから仕掛けようがテメェがボコられる運命は変わらねえからよ」

 

 

最後の警告……ではないな、出てきても出てこなくてもどうせ倒すし

 

そう思いながらも軽く最低限の宣戦布告をしてやると、俺の周りをうろちょろしていた気配と視線が一気に表に飛び出してきた

 

 

「よう、久しぶりだな………いつからアタシらの気配に気づいてた?」

 

「店の中に居た時からだよ……食事中に鬱陶しい視線ぶつけてきやがって」

 

 

そうして姿を現したのはスケバンの様な格好をした金髪の少女、そして彼女の背後にはヘルメットを被っていたり黒いマスクを着けていたりする仲間と思わしき人物達の姿も

 

……うーん……ただの不良集団か

 

 

「……なんだその反応は、まさかアタシの顔を忘れた訳じゃねえだろうなぁ?」

 

「覚えてる覚えてる、えーっと……確か……ほら!同じクラスの!」

 

「アタシはテメェより上の学年だ!…………相変わらずふざけた態度だな!どうせそれも余裕に見せる為の演技なんだろ!?」

 

「あっ……ああ~!あのよくお世話してくれた先輩ですね!忘れてなんかいませんよ!」

 

「テメェの世話なんかしたことねえよ!」

 

「……えっと………お隣の田中さんの更にお隣の御手洗さんの親戚の婚約者の娘さん……?」

 

「最初から他人って言えや!めんどくせぇ!」

 

 

駄目だ……ガチで思い出せん……こんな奴俺の知り合いに居たか……?

 

 

「くそっ!こっちはテメェへの恨みを片時も忘れた事がねえってのによ……!」

 

「恨み?……まさか、俺はアンタに何か酷いことをしてしまったのか?」

 

「あれはアタシ達のグループが空崎ヒナ不在の間に風紀委員会への襲撃を考えていた時の話だ……!」

 

「あ、もうそれ以上言わなくていいです」

 

 

なんかもう色々と察した、どうせその現場を俺に抑えられたとかそんな話だろ

 

要するにただの逆恨みじゃねえか……真面目に考えて損したわ

 

 

「あの時、アタシ達は仲間と協力して手に入れたバイト代で必死に武器をかき集めていたんだ!なのにお前は……アタシの仲間も!アタシ達の武器も!全部奪いやがった!」

 

「……因みに仲間の目的と武器の使い道は?」

 

「ああ!?風紀委員会を襲う為に決まってんだろうが!!」

 

「やっぱり逆恨みじゃねえか」

 

 

凄い、ここまで自分に責任が無いと思い込めるなんて………その図々しさを分けてほしいわ

 

呆れた目でリーダー格らしき女を眺めていると、そいつはムッとした表情で怒鳴ってきた

 

 

「なんだその目は!?言っておくがアタシ以外にも恨みを持ってる奴はいるんだからな!………オラ!テメェら言ってやりな!」

 

「私が苦労して風紀委員室前に建てた〝マコト様像〟を破壊された恨み!」

 

「壊すに決まってんだろ」

 

「校内をバイクで走ろうとしたらタイヤを撃ち抜かれた恨み!」

 

「校内を私有地か何かと勘違いしてらっしゃる?」

 

「教室でシュールストレミングを開けようとしただけなのに没収しやがって!」

 

「その行為は風紀委員以外の人間も普通に止めようとすると思うぞ」

 

「〝折川酒泉はロリコンです〟って垂れ幕を屋上から垂らそうとしただけなのに……!せっかく完成させた垂れ幕を破り捨てるなんて……!」

 

「むしろなんで許されると────待て、まさか〝折川酒泉ロリコン説〟の発生源はアンタか!?」

 

「プール全体をコーラで満タンにしてそこにメントスを入れようとしただけなのに!あんなに怒らなくても!」

 

「………正直、それは俺も興味あったけど……でも仕事だから……」

 

「とりあえずムカつくから死ねっ!」

 

「理由雑すぎだろ」

 

 

よし分かった、わざわざ理由を聞いた俺が馬鹿だった

 

とりあえずコイツら全員何も考えずぶっ飛ばしていいって事だけは確かだな

 

 

「……くっくっくっ……」

 

「……あ?何笑ってんだ?」

 

「折川酒泉、テメェは今もこうして余裕そうに振る舞っちゃいるがよぉ………アタシは知ってるんだぜ?テメェの目が未だにぶっ壊れたままだってことをよぉ!?」

 

「……ん?」

 

「つまりテメェの実力は大幅ダウン!ぶっ潰すには丁度良い機会ってわけだぁ!!」

 

「いや、もう治ってるぞ」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

物凄い自信満々に指を差してくる不良生徒ちゃんには悪いけど、実は普通に戦えるレベルまでとっくに戻ってるのよね

 

温泉開発部を追い払った時とは違って今度は演技じゃない、ただ空崎さんから戦闘許可を貰えるまで待っていただけだ

 

 

「……ふっ……騙されんぞ!ここ最近、ずっと眼鏡を掛けていただろうが!それはつまりテメェの目は未だにボロボロのままだ!」

 

「あー……あれは……オシャレ的な?」

 

「は?」

 

 

なるほど、そういう事か……

 

火宮さんと2人で選んで買った眼鏡をすぐに使わなくなるのは勿体ないと思ってギリギリまで使ってたけど………コイツらはそれを見て勘違いしたのか

 

 

「……もういい!本当に治ってるかどうかは実際に撃ってみれば分か────ギャフンッ!?」

 

「リ、リーダー!?」

 

「うああああ!?あ、あいつ!リーダーが喋ってる途中なのに容赦なく額をスナイパーライフルで撃ちやがった!?」

 

 

話を聞くのすら面倒になってきてスナイパーライフルの引き金を引くと、周りの部下達が信じられんもんを見る目を向けてきた

 

 

「お前……名乗りの途中で攻撃するのはルールで禁止されてるんだぞ!特撮好きなのにそんなことも知らないのか!」

 

「最近の特撮だと変身中でも名乗りの途中でも容赦なく攻撃してくるぞ」

 

「え?そうなの?はぇー……それは知らなかったなぁ……」

 

「素直に感心してる場合か!さっさとアイツを倒すぞ!」

 

 

リーダー格がやられたらそのまま周りの連中も逃げ出してくれないかなー………なんて思ってたが、どうやら現実は甘くないみたいで

 

とりあえずさっき弾が当たった部分を未だに涙目で押さえているリーダーを此方に引き寄せて盾代わりにする

 

 

「あいたたたたっ!?やめろ!撃つのをやめろぉ!」

 

「リ、リーダーが盾にされたぁ!?」

 

「構うもんか!撃て撃て!撃てぇ!」

 

「ぐぅおおおおおおおお!?構ええええええ!?」

 

「お前さては人望無いな?」

 

 

びしびしと弾を受け止める度にリーダーから苦痛の声が漏れる、それでも俺は手を離さない

 

 

「ど、どうだ?やったか!?」

 

「いや!まだだ!全部防がれ────っ!?あ、あれは……!」

 

「リ、リーダー……どうしてそんなボロボロに……!」

 

「テメェ、ら……あと…で……覚え……て…………」

 

 

意識が途絶えたリーダーから手を離して地面に横たわらせる

 

身体には無数の弾の痕、目は真っ白、口からは泡を吹いている

 

 

「……ッシャオラァ!やっと偉そうに指図してくる奴が消えたぜ!」

 

「ここからは自由に暴れろぉ!」

 

「待てよ!そいつをヤるのはアタシが先だって約束だろ!?」

 

「うるせぇ!早い者勝ちだ!」

 

 

……1つ気づいた事がある、コイツらは統率力の欠片もない暴徒の集まりだ

 

恐らくあのリーダー扱いされていた子は俺に強い恨みを持つ者限定で集めてしまったのだろう、故に全員が自分の恨みを晴らすこと最優先で戦おうとしてやがる

 

チームワークも何もない連中の相手なんて俺が慢心して油断してても余裕で勝てる………絶対にしないけど

 

 

「よっしゃ!一番乗りだ!」

 

 

真正面から向かってくる生徒に対し、溜め息を吐きながら再びスナイパーライフルを構える

 

俺だって結構強くなったし、その噂が広まって挑んでくる馬鹿共が減ればいいのになー………空崎さんみたいに

 

まあ、その辺は強者特有の〝風格〟みたいなのも関係してくるんだろうな……

 

 

「覚悟しろ!折川酒泉!」

 

「男の覚悟礼装とかゲロ以下なんで嫌です」

 

「ゲヘナノキワミ!アッ────ぶべぇ!?」

 

「……え?」

 

 

普通に返り討ちにしようと構えていたら、突如何者かの足が向かってくる敵の顔面に突き刺さった

 

顔が凹んだ不良生徒はそのまま脚に力が込められ、勢いよく身体ごと蹴り飛ばされた

 

なんだ……俺はまだ何もしてないぞ……?

 

 

 

 

 

「……酒泉、やっぱり1人で戦おうとしてたんだ」

 

《……敵対勢力、残り13名》

 

 

 

 

 

その蹴りを放った人物は後ろから俺の前まで移動してくると、俺を庇う様に腕を広げた

 

 

「プラナ………それにシロコさん?なんでこんな所に?」

 

「あの程度の尾行、私だって簡単に気づける」

 

「そうか……黙ってて悪かったな、シロコさん。でもコイツらの狙いは俺だけみたいだし一旦全員片付けてから話を────って、うおっ……」

 

「酒泉、それ持ってて」

 

 

いきなり登場したシロコさんはスクールバッグを俺に返すと、ずかずかと不良生徒達の中心まで歩いていった

 

そのままど真ん中で佇むと、周囲の者達を見渡してから無表情のまま銃を取り出す

 

 

「だ、誰だアンタ!?アイツの仲間か!?」

 

「……家族」

 

「……は?そんな情報、少しも見つから───ぐぁ!?」

 

 

敵の言葉を待たず、容赦なく拳を顔にめり込ませるシロコさん

 

それから2秒ほど経って漸く周囲の連中が動き始めたが、シロコさんは既に追撃の準備が出来ていた

 

「なっ!?避けた!?」

 

「コイツ、後ろに目でも付いてるのか!?」

 

 

シロコさんは軽く首を傾けるだけで後ろからの弾を回避すると、続けて前方の敵の腕を掴んで背後の敵に投げ飛ばす

 

 

「っ……ぅあ……!」

 

 

シロコさんの銃からタン、タン、と音が鳴る

 

その流れる様な動作に思わず見惚れてしまった敵の頭についでのように2発の弾丸を直撃させる

 

今度は真横まで迫っていた敵のショットガンを蹴り上げて銃口を上に逸らし、その勢いのまま銃口をショットガンの持ち主の顔面に向けさせる

 

 

「ひっ────」

 

 

シロコさんが敵の指に自分の指を重ねて無理矢理引き金を引かせる

 

その際に悲鳴が聞こえそうになったが、ショットガンの持ち主が気絶して事で一瞬で途切れてしまった

 

 

「お、おい!コイツ滅茶苦茶強いぞ!?」

 

「馬鹿!騒いでる暇があるならさっさと────ガッ!?」

 

「なっ……早───!?」

 

 

シロコさんは別の敵に標的を変えて速攻で接近すると、その腹に先程の敵から奪ったであろうショットガンを放つ

 

腹にとんでもない痛みが走ったであろうその子が倒れるよりも早く、今度はその隣の生徒に足を引っ掛けて体勢を崩れさせる

 

そして、倒れた生徒の顔を足で踏みつけてから胸元に再びショットガンを放つ

 

 

「……次は貴女達」

 

 

目の前の敵を倒したシロコさんはゆっくりと顔を上げると、弾が空になったであろうショットガンを次の標的に向かってぶん投げた

 

 

 

「……なんか……すげえな」

 

 

 

返されたスクールバッグを抱えながらぼーっとその光景を見ていると自然と称賛の言葉が漏れ出てきた

 

無駄な動きをせず1人、また1人とスムーズに敵を処理できる戦闘技術も立派だが、それ以上に凄いのは………それらの行動を1ミリも本気を出さず当たり前の様にこなしている事だ

 

しかも後ろに居る俺に流れ弾が来ないように立ち回ってやがる

 

………別に俺だってそれが出来ない訳じゃない、ちょっと戦闘に意識を向ければ俺だって同じことはできる

 

だが、その際に掛かる労力が違いすぎる………数字で簡単に例えるなら俺が10の力を消費してやる動きをシロコさんは5の力でやっている、みたいな?

 

「………俺も最小限の動きには自信があったんだけどな」

 

 

強者側の人間と自分の格の違いを改めて知ることができた、その間の壁を乗り越えるにはまだまだ時間が掛かりそうだ

 

 

《……酒泉さん、そろそろ……》

 

「………っと……終わりそうか?」

 

 

そんな事を考えている間に気づいたら敵の数が残り1人にまで減っていた

 

その最後の1人にシロコさんが近づくと、そいつはガタガタと怯えながらも銃口をシロコさん────の後ろの俺に向けてきた

 

……まあ、ぶっちゃけ〝視えてる〟しどうにでもなるが

 

 

「せ、せめてお前だけでも道連れに────」

 

「……っ!」

 

 

だが、俺が動くよりも先にシロコさんが敵の銃を奪い取ると、自身の銃と合わせてのダブルアタックによって最後の1人の意識を刈り取った

 

さて、これで一件落着………と、いきたいところだけど……

 

………今、一瞬………シロコさんから明確な〝殺意〟が放たれたような………

 

 

「……酒泉、終わった」

 

「え?……あ、ああ……俺の代わりに戦ってくれてありがとな」

 

「うん……それよりも怪我はしてない?出来るだけ流れ弾がそっちに行かないように戦ったけど……」

 

「いや、大丈夫だ……シロコさんのお陰で無傷で済んだよ」

 

 

そう答えるとシロコさんは満足そうに頷いた

 

 

 

「さて……ここで眠ってる奴等はどうすべきか」

 

 

これがただの不良集団とかだったらヴァルキューレとかそこらに通報していたが、コイツらの標的は俺だった

 

だとすると………風紀委員会に伝えるべきか?俺に対する恨みから俺の周囲の人達に手を出す可能性も考えられるし

 

 

「……はぁ……まさかこんな事になるなんてな」

 

 

ただスイーツを食べに行っただけなのにまさか戦う事になるとは………せっかく良い気分で帰れそうだったのに

 

恨みを晴らす為に襲ってくるのは別に構わなっ………百万歩譲って構わないけど、それならせめて学校に居る時に来てほしい

 

プライベートでまで相手してられるかってんだ

 

 

「シロコさん、悪いけど先に帰っててくれ………俺はコイツらを風紀委員に突き出さなきゃならん」

 

「………」

 

 

俺の言った通り帰宅しようとするシロコさんの背中を見送る

 

特に何も言わず無言のまま去ろうとしてるけど……もしかして怒らせてしまったか?

 

……こんな事に巻き込んでしまって申し訳ないな、風紀委員会への報告が終わったらお詫びになんか買って帰って────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───待て」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シッテムの箱が入ったスクールバッグを地面に置き、咄嗟にシロコさんの腕を掴んで動きを静止させる

 

その手には銃が握られており、銃口は気絶している1人の不良生徒に向けられている

 

 

「シロコさん、どうしてそいつに銃口を向けているんだ?」

 

「………」

 

「そいつはもう倒した後だぞ?………寝たフリをしている訳でもない、見ればわかる」

 

「離して」

 

 

一言、そう短く返したシロコさんは腕に力を込める

 

俺1人の腕力でヘイロー持ちを押さえられる筈もなく、シロコさんの腕は少しずつ不良生徒の頭部へと近づいていく

 

 

「聞いてなかったのか?そいつはもう相手にする必要はない、逆恨みで襲ってきただけの取るに足らない小物だ…………ほら、帰るぞ」

 

「……離して」

 

 

答えは先程と変わらず、その瞳は真っ直ぐに不良生徒を捉え続けている

 

このままではすぐに俺の手を解いてしまうと判断し、銃口に手を重ねてシロコさんを牽制する方向へと切り替える

 

 

「……何をそんなに恨んでいるんだ、そいつは他人のはずだろ?」

 

「………邪魔しないで」

 

「……っ……黙り……か、執拗にそいつを狙う理由を教えてくれないと何も分からな────」

 

 

瞬間、身体が後ろに倒れる感覚を覚える

 

視線の先には俺を突き飛ばしたであろうシロコさんの左腕と、今にも引き金を引きそうなシロコさんの右手が見えた

 

一瞬、目の前の状況に思考が止まってしまうが、咄嗟に体勢を立て直して再びシロコさんに接近する

 

 

「っ……!どういうつもりだ!シロコさん」

 

「邪魔しないでって……」

 

「邪魔するに決まってんだろ!?今のシロコさん、明らかに様子がおかしいぞ!?」

 

組み付き、突き飛ばされ、また組み付く

 

そんなことを繰り返していると背後のスクールバッグからプラナの声が聞こえてきた

 

 

《酒泉さん、砂狼シロコは現在興奮状態に陥っています………色彩の時の様な外部からの干渉はありません》

 

「……じゃあ、何が原因で……」

 

 

言い方は悪いが、あの程度の雑魚にシロコさんが拘る理由が分からない

 

俺への恨みが理由ってことは特に大した情報は持って無さそうだし、シロコさんが殺そうと思う程の脅威になるとも考えられない

 

……いや、理由は後で考えるとしよう。こうして思考を巡らせている間にもシロコさんの暴走は続いている

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「シロコさん、落ち着け!コイツはもう気絶している!あとは風紀委員の到着を待てばいいだけだ!」

 

 

シロコさんの銃を持つ手を掴んで動きを止めようとするが、身体全体を使って抑え込まなければ全く歯が立たない

 

必死に呼び掛けても何も反応を示さず、その瞳は地に伏している不良生徒にばかり向けられている

 

 

「……撃たないと……今度こそ……」

 

「そこまでする必要はない!そいつはただのチンピラだ!」

 

「トドメを……トドメを刺さないと……」

 

「……っ」

 

 

これ以上抑えるのは不可能だと判断し、一度敢えてシロコさんから離れてから勢いよく体当たりを仕掛ける

 

一瞬ぐらついたシロコさんに足払いを掛け、そのまま流れ作業の様にシロコさんの銃を奪い取る

 

……俺なんかにアッサリ倒されるなんて、余程混乱しているんだろうな

 

 

「シロコさん、目の前に居るのは敵じゃない………殺し合いならアトラ・ハシースの戦いで終わった、もう誰も傷つけなくていいんだ」

 

「銃を……返して………」

 

「っ……頼むシロコさん!止まってくれ!シロコさんが問題を起こせば俺は連邦生徒会に全て報告しないといけなくなる!」

 

 

俺が後ろに投げ飛ばした銃に手を伸ばして拾い上げようとするシロコさん、そんな彼女の両肩を掴んで必死に呼び掛ける

 

だが、シロコさんは虚ろな瞳でひたすら敵を撃つことだけを考えている

 

 

「アイツは……撃たないと……」

 

「……っ……どうして……そこまで────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度こそ……護らないと……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その言葉を聞いた瞬間、理解してしまった

 

彼女は何をしようとしているのか、彼女が何を恐れているのかを

 

 

「奪わせない………こんな奴等なんかに……!」

 

「アビドスの皆も!先生も!私が全員助けるんだっ!」

 

「私の大切な人達は絶対に死なせない………酒泉は絶対に………私が護る……!」

 

 

……そうか……シロコさんは敵を殺したいんじゃなくて俺を護りたかっただけなのか

 

 

《……酒泉さん……彼女は……》

 

「大丈夫、分かってるよ………プラナ、少しだけ待っててくれ」

 

《……分かりました》

 

スクールバッグを拾い、道の端の方へと置いてからシロコさんに近づく

 

 

「……今、助けるからな」

 

 

これ以上失いたくない、シロコさんの願いはそれだけだ

 

……そのたった1つの願いが……彼女の中では最も大切なものだったのだろう、だからその願いを叶えようと必死になってしまったんだ

 

でもシロコさん、そのやり方じゃ駄目だ………そんな心で護られても俺は嬉しくないんだよ

 

 

「シロコさん………大丈夫だ、この世界は先生も対策委員会も皆生きてる。何かあれば俺だって力を貸す………シロコさんの周りの人達はもう誰も死ぬことはないんだ」

 

「離してっ!早くアイツを倒さないと!」

 

「だからそんなに心配しなくてもいい、この世界にはシロコさんが〝ただいま〟って言ったら〝おかえり〟って返してくれる人達が沢山居るんだ」

 

「また失っちゃう!また奪われちゃう!」

 

「アビドスもシャーレも俺達の家も、何処に行っても全員が生きたままシロコさんのことを出迎えてくれる………誰もシロコさんを置いて行ったりなんかしないさ」

 

「嫌だ……ホシノ先輩……先生……!」

 

 

会話がまるで噛み合わない、恐らくシロコさんは過去のトラウマが甦ってしまったのだろう

 

その証拠にシロコさんは既に亡くなった者達の名を呼び続けている

 

 

「おねがい……行かないで……みんな……」

 

「……シロコさん、俺の話を聞いてくれ」

 

「まもるから………こんどこそ……まもってみせるから……」

 

 

此方の言葉が届いていないのかシロコさんは返事すらせず、何かを求める様に何度も虚空を掴もうと手を開け閉じしている

 

その姿を見ていると酷く心が痛み、のろのろと動き出そうとしているシロコさんを咄嗟に抱き締める

 

 

「俺の心音が聞こえるか?体温だって感じるだろ?」

 

「ぅ…あぁ……」

 

「大丈夫だ、怖くない怖くない………ほら、俺は生きてるから」

 

「い、いきてる……?ほんとうに……?」

 

「当たり前だろ?こうしてシロコさんと喋って触れ合ってるんだから」

 

一瞬動きが止まった隙を突いて両手をシロコさんの背に回し、赤子をあやす時みたいに優しくその背を撫でる

 

すると、シロコさんは目の前の人物が本物かどうか確かめる様にペタペタと俺の顔に触れてきた

 

 

「いなくならない……?」

 

「ああ、いなくならない」

 

「ほんとうに……?皆みたいにわたしをおいていかない……?」

 

「置いていかない、俺は絶対にシロコさんを独りにはしない」

 

「もう……さむくならない?………さむいのは、いやだ」

 

「寒くならない、これからもシロコさんは多くの人達の人肌を感じながら生きていける」

 

「……やくそく、して……ずっといっしょにいるって……」

 

「………」

 

「ごはんをたべるときの〝いただきます〟も………〝おはよう〟も〝おやすみ〟も〝いってきます〟も〝ただいま〟も………ぜんぶ、いっしょにいってくれるって……」

 

「………馬鹿正直に答えると毎回一緒に………は無理かもしれない。けど、シロコさんが求めた時には必ずシロコさんと一緒にその言葉を言えるように努力はする」

 

納得できるような100%の答えを出せたのかは分からない

 

けど、シロコさんは俺の返答に安心してくれたのか暴れていた身体と荒かった息は少しずつ落ち着いていった

 

しゅせん、しゅせん、と子が親に甘える様に何度も胸元に顔を擦り付けられながら名を呼ばれる

 

その度に〝うん〟と言葉を返し、ひたすら背を撫で続ける

 

 

「っ…しゅ……せん…」

 

 

そんなことを繰り返しているとシロコさんの声がか細くなり、ゆったりとその目を閉じていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……大丈夫でしたか》

 

「……俺は大丈夫だ……俺はな」

 

 

スクールバッグを拾うと、中からプラナの心配する声が聞こえてくる

 

その声に答えながら視線を壁にもたれ掛かって眠っているシロコさんに向ける

 

 

「……この世界で暮らしていく内に心の傷が自然と癒えていけばと思っていたけど………俺の考えが甘かった」

 

 

シロコさんの心の傷の深さは此方の想定を遥かに上回っていた………けど、今回の暴走はそれだけが原因ではない

 

暴走のトリガーは〝大切な人を失う〟という状況だった、先程の言葉からそれは明らかだ………つまり

 

 

「……そうか………俺も対策委員会や先生と同じくらい〝大切な人〟って思われていたのか」

 

 

元より自分の身を疎かにするつもりはないけど………今回の件で改めてその決意を固める事にした

 

 

「……そうだ、プラナも大丈夫か?」

 

《私も……ですか?》

 

「その……今の一連の流れで……前の世界の嫌な事を思い出したりとか……」

 

 

シロコさん同様、プラナも先生を失った時のトラウマが甦って深く傷ついていないか………それが気掛かりだった

 

無表情でいる事が多いけど、この子だって感情があるからな……

 

 

《……問題ありません、シッテムの箱も私自身も平常時の状態を維持しています》

 

「そういうことじゃ………まあ、大丈夫ならそれでいいけど」

 

《………………ですが》

 

「ん?」

 

《酒泉さんがいなくなるのは…………私も嫌です》

 

「……おう」

 

 

それだけ言い残すとプラナは口を閉ざした

 

………こりゃ、益々2人を置いてく訳にはいかなくなったな

 

 

「…………あ、そうだ。さっさと空崎さんに連絡しないと」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────そう………まさか今更になってそんな連中が襲ってくるなんてね」

 

『俺の〝眼〟が回復した後で良かったですよ……戦力でも集めてたから遅れたんですかね?』

 

 

午前中に別れた後輩から着信が届き、胸を踊らせながら通話に出たら肝を冷やすような報告が私の耳に入ってきた

 

自分から首を突っ込んだ訳でもないのに事件に巻き込まれるのは最早呪われているのではないかとすら思ってしまう

 

 

「……それで、怪我は?」

 

『ノーダメっす、完全試合でした………つっても、殆どシロコさんが倒しちゃいましたけどね』

 

「………よかった」

 

 

そこらの人間には遅れは取らないであろう事を知っていながらも安堵の言葉が出てくる

 

彼の身体は弾丸1つで簡単に撃ち抜かれてしまう程度の耐久力しかない、故に相手がどれほど格下だったとしても油断はできない

 

 

「……今から現場に風紀委員を送るから、その子達と一緒に今回の騒動の元凶達を連行してきてくれる?」

 

『ああー……その事なんですけど……こっちに風紀委員が到着したら一旦帰宅してもいいですか?眠っちゃったシロコさんを自宅まで送らないといけなくて……』

 

「………そうだった」

 

 

事の経緯は全て酒泉から聞いた

 

敵の数も敵の武器も敵の狙いも………戦闘後、砂狼シロコと何があったのかも

 

『その後も先生に連絡して何が起きたのか事細かく説明しないと………隠蔽するのは俺を信じてシロコさんを任せてくれた人達にも悪いですし』

 

「………分かった、取り調べはこっちでやっておくから酒泉は先生や連邦生徒会への事情説明をお願い」

 

『はい………あの、空崎さん』

 

「……何?」

 

『……仕事増やしてすいませんでした』

 

「……気にしないで、酒泉も砂狼シロコも悪くないから」

 

『………ありがとうございます』

 

 

ブツリ、と通話が途切れる

……今回の件は2人は悪くない、全て逆恨みで襲ってきた不良生徒達の責任だ

 

だから砂狼シロコに対しては恨みも怒りも抱いていない………そう……抱いて……無いけど……

 

 

「……今の酒泉が支えたい人は……私じゃなくて砂狼シロコなんだ」

 

 

ちょっとだけ、嫉妬はしているのかもしれない

 

 

「……もしかして、昔の約束が酒泉の邪魔をしているのかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい………待ってたよ、酒泉」

 

「……失礼します」

 

 

シャーレのオフィス前の扉をノックすると中から先生の声が聞こえてきた

 

それから部屋に入ると、丁度コーヒーを淹れている先生が立っていた

 

 

「とりあえずそこのソファで座ってて、コーヒー持ってくから………あ、いつも通り砂糖入りだからね」

 

「ありがとうございます……」

 

 

言われた通りソファに座って部屋をキョロキョロと見渡していると、デスクの上に積まれている書類の束に視線が誘導される

 

空崎さんへの連絡が済んだ後、先生にも連絡したが………その時先生は〝直接話が聞きたい〟と伝えてきた

 

恐らく先生は仕事を中断してまで時間を作ってくれたのだろう

 

 

「突然呼び出しちゃってごめんね?でも重要な話はこうして会って直接聞きたかったからさ」

 

「いえ、俺もそうした方がいいと思ってたので……」

 

 

先生は謝罪してくるが、むしろ此方の方が申し訳ない

 

シロコさんを任されたにも関わらず、俺の考えが足りなかったばかりに早速こんな事態を起こしてしまうなんて………せめて俺の〝眼〟が治った事が完全に周知されてから出掛けるべきだった

 

そうすれば奴等も〝仕返ししよう〟だなんて下らない考えは起きなかったはずだ

 

 

「……さて、まずは………改めてシロコの状態から確認しようか、あの子はどうしてる?」

 

「今は家で疲れ果てたようにグッスリしてますよ………一応ベッドの近くにシッテムの箱を置いてきました、何かあればプラナに報告してもらいます」

 

 

家まで背負っていったが、その間に起きる気配は一切感じなかった

 

………ベッドに乗せた後シャーレに行こうとしたら突然手を握られたけど、あれは無意識の行動だろうな

 

「……酒泉、シロコが君を襲った不良生徒達にトドメを刺そうとしたというのは………事実なんだよね?」

 

「……はい、事実です………でも!シロコさんは俺を護る為に────」

 

「落ち着いて、私はその件で酒泉を叱る為にここに呼んだ訳じゃないよ。むしろ酒泉のことは褒めようと思ってたんだよ?よくシロコを止めてくれた………ってね」

 

「……俺を?」

 

「実際に手を出しちゃった後だと連邦生徒会から厳しい処分が下っていたかもしれないけど、酒泉がシロコを止めてくれたお陰で辛うじて正当防衛の範囲に収まったからさ」

 

 

そう言いながら先生は自身のデスクから数枚の紙を取り出し、それを俺の目の前のテーブルに置いてきた

 

 

「……これは……」

 

「連邦生徒会に提出する報告書だよ、ここに今回の事の経緯とそれによって生じた被害、今後同じ事が起きない為の対策を書いてくれるかな?」

 

 

……まあ、無罪放免……とはいかないだろう

 

攻撃してきたのは不良生徒達の方が先だとはいえ、シロコさん側に殺意があったのも事実だしこの問題を放置する訳にはいかないだろう

 

 

「酒泉がここに向かっている間にリンちゃんへの報告は電話でしておいたからさ、それさえ書いてくれたら今度私が直接リンちゃんに渡しておくよ」

 

「……あの……これを書いたらシロコさんは……」

 

「心配しないで、手を出していないなら幾らでも庇い様はあるから………それに数発弾を撃ち込もうとしただけで処分が下されるなら今頃キヴォトスの生徒は全員檻の中になってるよ?」

 

「……あの、先生……」

 

「ん?」

 

「人を撃とうとしたら捕まるのは当たり前の事では……?」

 

「……ヤバい、私も相当キヴォトスに毒されてるかも」

 

そうだ、そもそも人に平然と銃を向けられるこの世界がおかしいんだ

 

………実際には人を撃たなかったシロコさんがアウトなら、日頃から俺達風紀委員に〝ぶっ殺してやる!〟って叫びながら銃口向けて襲ってくるゲヘナの問題児共も全員アウトだよな

 

 

「……ていうか、キヴォトスの外出身の私ですらこんな風にキヴォトスに毒されかけてるのに酒泉はよく自分の価値観を保っていられるよね」

 

「え?」

 

「いや、酒泉ってキヴォトスの生まれのはずなのにキヴォトスの価値観に囚われてないなーって思って………」

 

「あー……じ、実は昔から外の世界に憧れてるところがありまして……いつか行ってみたいと思って外の世界のルールとか勉強してたんですよ」

 

「そうなの?じゃあ、もしキヴォトスの外に旅行に行く日がきたら私がオススメの場所を案内しようか?」

 

「そ、そっすねー……その時はよろしくお願いします……」

 

 

〝前世の法律が身体に染み込んでいるから〟なんて答える訳にもいかず、咄嗟に思い付いた適当な理由で誤魔化す

 

……でも、少しだけ興味があるのは事実だ

 

 

「そ、それよりも!他にも俺がやるべき事とかありますか?」

 

「うん?他には特にないよ?話はもう直接聞かせてもらったし、後はその報告書を書いてくれるだけでいいよ」

 

「それ以外にです!俺が原因でこんな事件が起きたんですから、先生に任せっきりで俺だけ楽しようだなんて……」

 

「酒泉、駄目だよ」

 

 

先生はソファから立ち上がる俺の肩を押さえると、真剣な表情で見つめてきた

 

 

「酒泉が今するべきなのは私の仕事を手伝うことなんかじゃない、少しでも早く報告書を完成させて少しでも早くシロコが待っている家に帰ること………違うかい?」

 

「っ……」

 

「………私はその気持ちだけで十分だからさ、今はあの子の側に居ることを考えてあげて」

 

「……分かりました」

 

 

先生に諭され、大人しく目の前の報告書と向き合う事にした

 

………一応、シロコさんが寝てるベッドの近くに書き置きは残してきたけど………先生の言った通りさっさと帰って顔を見せてあげよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー…………ん?なんだ、起きてたのか?」

 

「……あ……酒泉……お、おかえり……」

 

 

報告書を書き終えてそれを先生に渡してから帰宅すると、玄関でシロコさんがウロウロしていた

 

 

「どうした?どっか出掛けるところか?」

 

「そ、そうじゃなくて……酒泉を待ってて……」

 

「……ずっと玄関でか?」

 

「………うん」

 

「……書き置きは読んだか?」

 

「読んだ……けど……」

 

 

……その上で俺の帰りをずっとここで待ってたのか

 

 

「……心配するな、俺は絶対に帰ってくるからさ」

 

「あ……う、うん……ねえ、酒泉────」

 

「シロコさん、さっきの事なら謝らないでくれ………あれはシロコさんを戦わせてしまった俺の責任だ」

 

 

顔を合わせた時からどこかオズオズとしているシロコさんにハッキリと伝える

 

だが、シロコさんの表情はそれでも曇ったままだ

 

 

「……あ、あの……私……わたし……は……」

 

「………」

 

「もう……もう、失いたく……なくて……そ、それで……」

 

「………シロコさん、幾らでも待つから……ゆっくり喋ろうか」

 

 

吃らせながらも必死に言葉を紡ごうとするシロコさんを何とか落ち着かせようと頭を撫でる

 

すると、シロコさんは数回深呼吸をした後に恐る恐る口を開いた

 

 

「……酒泉と……酒泉と一緒に暮らし始めてから……〝また〟毎日が楽しくなって……」

 

「私がお世話になった人達とは別の人だと分かってても………ここには先生も対策委員会の皆も居て……」

 

「皆と別れた後も酒泉が〝おかえり〟って言ってくれて………1人で待ってても〝ただいま〟って帰ってきてくれて………」

 

「もう寒いのはなくなって、あったかくなったけど……しゅ、酒泉が……酒泉がアイツらに狙われた時……ま、また……さむく……なるんじゃないかって……」

 

 

目の端から少しずつ流れる涙を見ながらも、シロコさんの言葉を聞き続ける

 

 

「そ……そした、ら……怖く……なって……」

 

「あいつらを倒さないと……酒泉をまもらないといけないって………!」

 

「も、もう……ひとりはいやだったから……!」

 

「ひとりでまつのもひとりでたべるのもっ!ぜんぶいやだったからっ!」

 

 

シロコさんはあの戦いの後と同じ様に泣きじゃくる

 

この姿を見ていると過酷な運命を背負わされた彼女もどこまで行っても〝子供〟なんだなと実感する

 

 

「……その恐怖、分かるよ………二度も誰かを失うなんて嫌だよなぁ……」

 

「…ぅ……っ……」

 

「……俺がシロコさんと交わした約束なんて所詮は口だけのもの………シロコさんにとってはそれだけじゃ不安なのかもしれない」

 

「……う、ん……っ」

 

「実力だってその約束を確実に守れると言い切れるほど伴っていない、シロコさんより弱い俺じゃ案外簡単に命の危機に晒されるかもしれない」

 

「……ぁ……や、やだ……しなないで……」

 

「ああ、死なない」

 

 

縋る様な目で見つめてくるシロコさんを見つめ返し、堂々と宣言する

 

 

「他の人達にも聞けば分かるが俺はこれまでに何度も死の淵を越えてきた実績がある、どれほど身体が傷付こうと最後には必ず生きて帰って来た」

 

「……ほん、とう……に?」

 

「ああ……まあ、だから……何が言いたいかって………つまりだな…………俺って結構しぶといから、あんま心配すんな」

 

 

わしゃわしゃと雑にシロコさんの頭を撫でながらそう言うと、シロコさんは自分の服で涙を拭って立ち上がった

 

そのままスッと自身の小指を差し出し、涙声のまま俺の指に近づけた

 

 

「じゃあ……もう一度約束して……今度は口約束じゃなくて……」

 

「指切りげんまんか………ああ、分かった」

 

 

ゆーびきーりげんまん、とガキンチョの頃みたいに元気よく歌う

 

 

「嘘吐いたら………墓から掘り起こしてでも針を千本飲ませる」

 

「ヒェ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、こんな感じでシロコさんを落ち着かせる事に成功しました」

 

『……そう、報告ありがとう』

 

 

一先ず事態は解決し、今日の出来事を空崎さんに報告しようと電話を掛けた

 

 

『……あの子にとって酒泉の危機はトラウマの起爆剤のようなもの、これからはより慎重に自分の身を案じてね』

 

「はい、気をつけます…………はぁ」

 

『……随分とお疲れだね』

 

「そりゃ、まあ……」

 

 

今日1日だけで色んな事があったからなぁ……久しぶりに肝を冷やした気がする

 

そんな俺を心配してか〝大丈夫?〟という空崎さんの声が聞こえてきた

 

 

『………酒泉、私は酒泉の目が回復したと判断して戦闘許可を出したけど……やっぱりもう少し待機期間を延長した方が良いと思う。暫く砂狼シロコの側に居てあげて、彼女のメンタルが安定したらもう一度戦闘許可を出すから』

 

「空崎さん、シロコさんの心配してくれたんですね……ありがとうございます」

 

『……だって、酒泉も心配なんでしょ?そんな状態で仕事されても皆の足を引っ張られるかもしれないし』

 

「うっ……お、仰る通りです……」

 

 

結構キッパリと言い切られてしまうが、空崎さんの言ってることは事実だ

 

シロコさんのメンタルが回復し切っていない内から戦闘に参加して怪我でもしようものなら今度こそ………彼女の心は壊れてしまうかもしれない

 

……空崎さんは色々と考えてくれてるなぁ

 

 

 

「空崎さん………ありがとうございます」

 

『……突然どうしたの?お礼を言われるような事をした覚えはないけど……』

 

「気にしないでください、俺が勝手に感謝してるだけなんで………じゃあ、そろそろこの辺で」

 

『そうだね、報告もしっかり聞いた事だし………また明日、風紀委員会で』

 

「了解です……じゃあ、おやすみなさい」

 

『うん、おやすみ…………あ、それと最後にもう1つだけ。昔私が言った〝卒業した後も支えてほしい〟って約束、もう忘れていいから』

 

「分かりました、じゃあ今度こそ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────え?」

 

『これからは砂狼シロコのことを支えてあげてね……じゃあ、そういう事だから』

 

 

 

 




次回で本編は最終回になります、今後の〝アリウス潰すゾ!!!〟については次回の後書きで触れるつもりですのでそちらも読んでいただけると幸いです………
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。