「ですからっ!!!お金なら払うと言っているのですよ!?」
「金金って言うんじゃねえよ超人のくせにオォン!?」
矯正局に設けられた面会室から二人の男女の言い争いが聞こえてくる、それを間近で聞かされている監視役の生徒が心底帰りたそうな顔をしているがどうやら二人の眼中にはないらしい
「───ったく!急に呼び出してきたかと思えばろくに要件も伝えず〝協力しなさい〟の一点張りとは……内容を教えてくれる前から頷くわけないでしょ」
「内容に関しては先程から何度もお伝えしてるでしょう?〝私の代わりにペットに餌を与えてほしい〟と」
「……こっちだってアンタの伝えたい事は分かってるよ」
〝ペット〟というのは恐らく彼女が飼い慣らしていた〝狐〟のこと、詳しい内容は彼女達に直接会って聞いてこいという事だろう
ただ、それはつまり───連邦生徒会の監視下にあるこの状況では堂々と伝えられないような依頼内容であると宣言しているようなものだった
酒泉はその依頼内容を〝堂々と〟〝この場で〟〝監視役の目の前で〟ハッキリ言えやと何度も目の前の少女に───不知火カヤに返している
要するに───
「何も悪いこと企んでないなら監視役の前でも正直に目的語れるよなぁ?」
「ぐっ……そ、それは……」
「はてさて、超人様は俺に金を積んで何をやらせようとしたのかにゃ~?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!」
「その表情が見たかったぁ!!!やっぱレンポウコモノエセチョウジンのぐぬぬ顔は癌によく効くなぁ!!!」
〝おーい!こいつ何か企んでますよー!〟とわざとらしく声を上げる酒泉から勘弁してほしそうな表情で目を逸らす監視役の生徒
悪巧みを未然に防いでくれるのはありがたいが極力自分は関わりたくないという、我関せずと似たような考え方の彼女は勘弁してくれと心の中で呟いた
「つーかまだあの人達のこと利用しようとしてんすか?相変わらず性根腐ってますねー」
「貴方だけには言われたくないです!……それに、今回の依頼に関しては彼女達も結構乗り気なんですよ?」
「……あんたのペット達が?」
「ええ……まったく、自分達を裁く為の証拠を自分達で確保しに行くというのに何を喜んでいるのだか」
自分達を裁く、つまりは自首
確かに立場だけ見ればFOX小隊はカヤと共謀して悪事を企てた身ではある
(そういやFOX小隊って捕まった後はどうなったんだろうな……聖園さんみたいに条件付きで解放されたりしたのだろうか)
酒泉が所持しているブルーアーカイブのメインストーリーの記憶はカルバノグ二章まで、そこから先は完全に未知の領域である
これから先どんな事件が起きるのか、どんな戦いに巻き込まれるのか、どんな生徒と出会うのか、何もかもが不明のまま第二の人生を歩んでいく事になる
「……依頼の話に戻りますけど、不知火さんのペットの性格とか見てからじゃないと世話をするかどうかは決めらんないんでとりあえず一度会いに行ってから考えさせてください」
「ふふっ……その言葉を待っていました、将来再び防衛室長に返り咲くであろう私に貸しを作っておこうというのは懸命な判断ですよ」
「うるせえな黙ってろよ文無し野郎」
「い、今だけです!それに回収されたのは汚職に関係しているお金と汚職絡みで浪費された分だけですから!」
FOX小隊の原作後の境遇、殆ど赤の他人同然である自分に協力してほしい理由
監視役の前で公言できない〝依頼〟の内容なんてどうせ真っ黒だろうと決めつけながら、酒泉は自分の中の好奇心を満たす為に一先ずFOX小隊に会う事を決意した
「……ん?そういや不知火さん、アンタ最初に〝金なら払う〟って言ってたけどそんな余裕あるんすか?」
「……ま、まあ……全財産没収された訳ではありませんし?」
「……一応聞いておきますけど、まさか薄給で危険な仕事させようとしてる訳じゃないですよね?」
「……………………そんなことありませんよ、ええ」
「監視さああああああああん!!!こいつ俺に怪しい仕事依頼しようとして────」
「ああああああああ!!!分かりました!分かりましたよもう!私が復職できたら何でも一つ頼み事を聞いてあげますから!!!」
「っしゃあ!キヴォトス全域対象スイーツ無料券(無期限)発行!」
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そんなこんなで〝不知火カヤのペット〟ことFOX小隊と会う為に現在山を散策しております、どうも折川酒泉です
不知火カヤに指定された場所に向かうとそこまで大きくはなさそうな山の前まで辿り着く、その入り口にはバリケードと共に〝関係者以外立ち入り禁止!〟という看板が設置されていた
防衛室、もしくは連邦生徒会そのものの私有地なのだろうかと考えながら適当に罠を避けて足を進める
「…………いや、物騒すぎだろ」
急に飛んできたナイフを適当に指二本で挟みながらツッコむ
この山、さっきから自動タレットが隠されていたり地雷が設置されていたり足元の紐に引っ掛かると木に吊るされている唐辛子スプレーが噴出するようになっていたりと物騒すぎる
もし誰かがうっかり罠に掛かって被害に遇ったらどうすんだ……って思ったけどキヴォトスの住民ならそう簡単に死にはしないか
「……まあ、罠が仕掛けられてるって事は事前に不知火さんから教えられてたけどさ」
流石に多すぎる、と愚痴りながら数メートル先の地面にそこら辺の石を全力で叩きつけて地雷を起動させる
頼られたのが鉛弾を撃たれ慣れてる俺で良かった、こんな危険な場所に先生を入らせる訳にはいかないからな
「……中々会えないな」
反応してくれるのは罠ばかりで一向に現れないFOX小隊、もしや不知火さんから話が行ってないのではと心配になってきた
一応、山を歩いている最中に幾つか風景に溶け込むように塗装されている小型監視カメラを発見したのでわざと〝来ましたよー〟と手を振ってアピールはしたが────
「おん?」
ぬかるんだ土、乱雑に転がっている石ころ、頬に先端が当たるくらい高くなってきた雑草
いかにも整備が行き届いてなさそうな場所まで辿り着き、これまで以上に足元に気を付けながら先に進もうとしたところで自分が今見ている光景に違和感を覚えた
「……誰かいるのか?」
俺が声を掛けたのは少々奥に潜むだけで人間一人分は隠せてしまえるであろう雑草の中、俺の眼はそこに潜んでいる〝なにか〟を捉えていた
どうする?隠れているのが悪意ある人間とかだったら襲われても返り討ちにして拘束すればいいだけだが、もし襲ってきたのが野生動物とかだった場合は人の森で勝手に射殺する訳にも……
「……まあ、なんとかなるか」
素手で銃持った不良生徒相手にするよりはナイフで熊の相手をする方が楽ではあるだろう
何より俺のナイフは弾丸を何度弾いても滅多に欠けたりしない超硬質ナイフ、もやし生活と引き換えに作ってもらったこいつなら熊や熊にも有効打を与えられるだろう
それでビビらせてなんとか帰ってもらう事ができれば……でもあまり動物を怖がらせる様な真似もしたくないので出来れば人間であってくれ
そんな願いを込めながら雑草を注視していると早速その〝なにか〟が姿を現した
「すまない、少々戯れが過ぎただろうか」
「……七度さん?」
その正体は七度ユキノ、丁度俺が合流しようとしていたFOX小隊の隊長
こうして面と向かって話すのは空が赤くなったあの日以来だが、パッと見だと特に変わった様子は無さそう……というか共闘したあの日以外一切関わりが無いので変化があっても気づけないだろう
「なんだ、脅かさないでくださいよ」
「脅かすつもりでやったからな」
「……意外とお茶目なんすね」
俺の知り合う狐の生徒全員さぁ!意外とわんぱくなんだけどぉ!
「悪戯目的ではない、瞬時の判断力を確認しようとしただけだ。……その必要は無かったがな」
「あー……実力テスト的な?」
「不快にさせてしまったのならすまない……だが、そちらも態々正面から堂々と来なくても不知火防衛室長に教えてもらった隠しルートを使えばよかっただろう。そうすれば罠が仕掛けられてる道を避けながらもっと楽に進めただろうに」
「……え?そんなルートあるんすか?」
「……まさか彼女から何も教えられてないのか?」
「……いえす」
「なるほど、それでいちいち罠を潰しながら正面突破してきたのか。てっきり自分の実力を私達に見せつけていたのかと……」
「んな面倒な事しませんよ……ったく!あのポンコツ、大事な部分伝え忘れやがって」
あのレンポウコモノエセチョウジン許さねえ、次会ったらぜってーアホ毛引っこ抜く、そんで鉢植えに植えて育ちきった立派なアホ毛でアイスラッガーごっこしてやる
マジでいい加減にしてくれよ、カヤピクミンは何が出来るんだよ。謀反か?謀反が得意なのか?んなもん連れ歩きたくねーわ
「もしかしたら不知火室長は君が他にも弱味を握っていると危惧して暗殺でも企んでいたのかもしれないな、それか前科持ちである私達と関わらせる事で共犯に仕立てあげようとしているとか」
「はいっクズ確定、ぶっ殺します」
「落ち着け、ただの想像だ。実際には〝ちょっと困ればいい〟程度の些細な恨みなのかもしれないし、そうでなくても単純に伝え忘れただけという可能性もある」
「むしろその方が残念ですよ……仮にも防衛室長ではあったんですから報連相はしっかりするべきでしょ」
どんな理由にせよこんな物騒な山に足を運ばされた時点で何もせず許してやる道理は無い……いやまあ、ここに行く事を選んだのは俺の判断だけどさ
でもこんなに罠が仕掛けてあるって事前に知らされてたらもっと装備を固めてから行ってたし、それ以前に罠の無いルートとやらを教えてくれていたら無駄な労力を使う事すらなかっただろう
「……あの、もしかして不知火さんが俺を頼った理由ってただこの山を使って嫌がらせしたかっただけだったりします?もしそうなら俺の中での不知火さんの評価が一気にゲヘナの議長レベルまで落ちるんですけど」
「安心してくれ、相応の理由ならある……が、それを話すのは後だ。先ずは私達の拠点に移動しよう」
「拠点?……もしかして七度さん達ってこの山で暮らしてるんですか?」
「ああ」
大した事ではないとばかりにあっさり言ってのける七度さん、実際にそんな驚く事ではないのかもしれないが原作を知っている身からすれば多少気になる話ではあった
俺の記憶が正しければFOX小隊はもっと設備の整った施設で生活していた筈、不知火カヤが〝FOX小隊の居場所は残せ〟という俺との約束を破っていなければその施設はまだ使用できる筈だ
「……なんでこんな場所で?」
「後輩達が寒風に打たれながらSRTの復興を目指しているというのに、私達だけ室内でぬくぬくと過ごしていては格好がつかないだろう」
後輩達、というのはおそらく公園で暮らしているRABBIT小隊の事だろう
確か原作では逆にRABBIT小隊の面々を自分達の拠点に招待していたが……ここでは自分達も後輩と同じ境遇に身を置く事にしたのか
「じゃあその施設は今は誰も使ってないんですね」
「いや、それが……実はこのまま空家にしておくのも勿体ないと思って後輩達に譲る事にしたんだ。でも……中々来てくれなくてな」
「へー、遠慮しちゃってるんですかね?」
「いや、恐らく警戒しているのだろう。FOXの名を騙って誘き寄せようとしている……と思われているのかもしれない」
「名を騙る?……待ってください、直接RABBIT小隊と会って話した訳じゃないんですか?」
「ああ、手紙で〝このポイントに来てくれ〟と送っただけだ」
「……なんで直接会わないんですか?」
「…………合わせる顔が無い」
その瞬間、まるで仮面の様に張り付けられていた七度さんの真顔がほんの一瞬だけしょんと申し訳なさそうに歪んだ
〝合わせる顔がない〟というのはやはり今まで行ってきた行動への後ろめたさが原因だろうか
「そんな気にしなくても大丈夫ですよ、後輩ってもんは案外先輩の情けないところもあっさり受け止めてくれるもんですから」
「は、ハッキリ言うな……」
「俺なんて後輩に情けない姿見せすぎて少しネクタイが崩れてるだけで〝先輩は私が居ないとダメダメなんですからじっとしててください〟って勝手に直されるくらい呆れられてるんですよ?それに比べたらちょっと弱音吐くくらいなんですか」
「そ、そうか……」
「なんなら俺より頭が良いから中学生の時のそいつに高校の問題を教えてもらったことすらありますよ」
「どうして得意気なんだ?」
だらしない先輩ですまないとネタ混じりに呟けば〝一生だらしないままでもいいですよ〟と完全に期待されていない返事をされ、これからも頼らせてくれと伝えれば本当に渋々といった様な間を空けられて〝……………………はい〟と返される、しかもちょっと顔を赤くしてキレていた様な気もする
俺に比べたら七度さんの一つや二つのミスなんてどうってことないだろう、こっちなんか出会ったその日から後輩に呆れられ続けてるんだぞ
「仕方ない、今回の任務を終えたら顔を見せに行くとしよう。直接話さないといけない事も山程あるからな」
「……七度さん、ちょっと雰囲気変わりました?」
「どうだろうな……だが、不知火室長が捕らえられたあの日から考える時間が増えたのは確かだ」
何を考える時間なのか、そんな野暮な質問をしてしまいそうになるが、その直前に七度さんが笑みを浮かべた事に驚いて言葉を止めてしまう
ただしその笑みは歓喜だとか幸福だとかそういったものではなく、どちらかと言えば自嘲気味の笑顔だった
「折川酒泉、君は確か前に〝切っ掛け一つあれば道具から人間に戻れるかもしれない〟と、私にそう言ったな」
「はい」
「不知火室長の下を離れてから幾度も自分の在り方について考えてきたが……やはり私は自分の事を道具だとしか思えない」
あの日共闘しただけでほぼ赤の他人同然である俺の言葉をしっかり受け止めてくれていたのかと、此方としてはむしろその事に驚かされた
不知火さんの企みに加担する必要が無くなった事で過去を振り替える機会が増えたのだろうか
「人は迷う、故にいざという時に冷静な判断が下せなくなる。それが原因で任務に失敗し、その事で生じる被害が拡大してしまうくらいなら私は意思を持たない道具でいい」
「俺は良い考え方だと思いますよ、情に流されずに行動できる人間も必要だと思いますからね」
「無論、不知火室長の〝武器〟だった頃の自分を肯定する訳ではないが」
勿論俺だって七度さんの考え方を否定するつもりはない、むしろ隊に一人は冷酷な判断を下せる人間が居るというのは良いことだと思う
キヴォトスが情に任せた綺麗事で問題全部解決できるような優しい世界なら七度さんの考え方は間違っていると否定できるが、残念な事にこの世界も前世と変わらず取捨選択が必要な厳しい世界だ
だからこそこの人は自分の正義を捨ててでもSRTを復興させるという道を選んだのだし
「まあ、これからどうするにせよ次の持ち主を選ぶ時は人間性とか色々見てから決めた方がいいですよ。ちゃんと道具を大切にしてくれる人に使われないとすぐに壊れてしまいますからね」
「……心配しているのか?」
「いや、なんというか……自分の事を道具だの武器だの言う人ってちょっと危ういんで…………間違ってもリスカとかはしないでくださいよ?」
「あ、ああ……」
……なんか、キヴォトスって自分の事を道具とか武器とか兵器とか名乗る人多くないか?更に言うなら道具こそ大切にしてあげなくちゃいけないという事を理解していない人も多すぎる
今の言葉は別に誰かさん達を想起しながら言ったわけではない、だから俺の脳内でミサイルやらスーパーノヴァをぶっぱするのはやめてください
「……絶対ですよ?全ては虚しいとか言い出さないでくださいね?自傷行為は全部駄目ですよ?」
「随分念を押してくるな……そんなに心配なら君が私の持ち主になってみるか?そうすれば好きなように管理できるぞ」
「いや、俺は〝道具のメンテナンスもまともに出来ない駄目な持ち主〟らしいんでやめておきます」
というよりメンテナンスが必要無いくらいには健全に回復してきてるしあんま会わなくても問題無いというか……
そもそも道具契約ってババアぶっ倒すまでのつもりで結んだだけだしなーと心の中で誰かに言い訳しながら、そういえばもう一つ七度さんに聞きたい事があったなと思い出した
「話を長引かせてしまってすまなかった、早急に向かうとしよう」
「そっすね、早いとこ皆さんにも挨拶したいですし」
「そうしてやってくれ、皆歓迎会の準備をするほど楽しみに待っているからな」
……歓迎会?
「あの……一応聞いておきますけどその歓迎会ってよくあるパーティー的な普通の歓迎会ですよね?」
「ああ、歓迎会だ」
「……物騒な意味じゃない、平和な歓迎会ですよね?」
「ああ、歓迎会だ」
「……鉛弾が転がったり火花が散ったりしませんよね?」
「ああ、歓迎会だ」
「………………FOX小隊流の、とかじゃないですよね?」
「ああ、歓迎会だ」
「……」
「ニコが作るいなり寿司は絶品だ、君に礼がしたいと気合いを入れて作っていたから是非食べてあげてくれ」
「あ、よかった……食いもん出るって事は普通の歓迎会なんですね!」
「ああ、歓迎会だ」
「どうして内容に触れられるとそれしか言わなくなるんです?」