『責任感が強いっていうのは良い事なんだろうけど、でもユキノの場合はそれが強すぎるっていうか……何でも一人で抱え込もうとしちゃうところがあるから』
『何かミスがあれば〝私の責任だ〟って、道を外しそうになった時も〝私の罪だ〟って。小隊なんだから私達に分けてくれてもいいのにね?』
電話越しから聞こえてくるニコさんの困った様な声、その声色には寂しさかそれに似たものも含まれている様な気もした
……やはり組織のリーダーというのはどこも似たり寄ったりなのだろう、そもそも責任感ある者くらいしかリーダーという役職に就こうとはしないだろうし当然の事ではあるが
『もし……もし私達が今も防衛室長の下で働いているままだったら……私達は罪をもっと沢山重ねていて、その内取り返しがつかない様な大きな悪事にまで手を染めていたかもしれない。……時々そんな考えが浮かんでくる事があるんだ』
「……お、大袈裟っすよ」
驚いた、突然俺の脳から〝ブルーアーカイブ〟の記憶でも読み取ったのかと
それが本来の歴史だと知っているが故にニコさんの言葉が現実味強く聞こえてしまう
『うん、分かってる。実際にそうなっていない以上はただの妄想に過ぎないって理解してはいるんだけどね?……でも、もしかしたらなっていた可能性もあるんじゃないかなって』
『酒泉君には本当に感謝してるんだよ?このまま私達が誰にも止められずに進み続けていたら、きっと……ユキノは〝自分が隊長だから〟ってその罪を一人で背負おうとして、そのまま押し潰されちゃっていたかもしれないから』
『だから、改めて言わせてほしいな……私達を助けてくれてありがとうって』
……この学園都市は性質上、良くも悪くも子供が大人と同等かそれ以上の権力を有する事が多々ある
だからこそか、まだ学生の身でしかない子供達がそこらの会社で勤めているプロジェクトリーダー並の責任感を持ってしまうのは
「……考えすぎです。俺が何もしなかったとしてもニコさん達が悪事に手を染める事はなかったでしょうし、仮にその段階まで近付いていたとしてもどうせ誰かが途中でその計画を止めてましたよ」
『例えば……酒泉君とか?』
「嫌ですよ、面倒事は御免です」
『そう言う割にはすんなり私達に協力してくれたよね』
「…………」
『ふふっ……酒泉君って可愛いところあるよね。懐は深いけど、その事で感謝されたり褒められたりしたらツンツンしちゃうところとか』
ニコさんの微笑む様な声色とは真逆に、自分の顔が一杯食わされた後の様にばつが悪くなっていくのを感じる
野郎に〝可愛い〟なんて褒め言葉にならん、男の子ってのはどれだけスカそうと結局皆女の子から〝カッコイイ〟って言ってもらいたい生き物なのだから
「……可愛いのはニコさんの方じゃないですか?笑顔も素敵ですし、なんか性格もお日様みたいにぽかぽかしてますし」
『そうかなぁ?あまり自分でそう思った事はないけど……でも、酒泉君に〝可愛い〟って思ってもらえるのは嬉しいかな』
「っ……そ、そうすか?俺としては本心言っただけなんすけどね。可愛いし家庭的だしで……あーあ、ニコさんみたいな美人がお嫁さんだときっと人生楽しくなるんだろうなー、将来の旦那さんが羨ましいなー」
『じゃあ楽しくなるかどうか酒泉君が確かめてみる?……なんてね?』
「………………」
『あれ?もう〝可愛い〟とか言ってくれないの?』
「……参りました」
自分ばかりからかわれるのは面白くないと思い反撃してみたがいとも簡単にあしらわれてしまった、これが先輩の余裕というやつか
少しぐらい照れてくれてもいいのに……やっぱこういうのって先生みたいな大人の余裕がある人じゃないと効果が無いのかね、つまり俺みたいなクソガキが何を言ったところで勝てる訳がないと
俺はもう……戦わん……(敵前逃亡)
「……もういいですぅー、どうせ俺なんて未だに思春期なクソガキですよーだ」
『あはは……ごめんね?あまりにも必死に反撃しようとしてくるからつい突っつきすぎちゃって……』
「……あんま男の事からかい過ぎない方がいいっすよ、俺は世辞が分かる方ですけど世の中には本気で受け取ってくるオッサンとかうじゃうじゃいるんすから」
『心配しなくても大丈夫だよ、酒泉君以外にはしないから』
「そういうとこやぞ」
ニコさんってさ、前世で俺が通ってた学校に居たら絶対男子生徒勘違いさせるタイプになってたよな
誰にでも笑顔で優しくて、お母さん気質で世話も焼いてくれて、そんで気があると勘違いして告白してきた男子に向かって〝まずはありがとう〟から始まる言葉で情け容赦なく振るんだ
……って、何の話をしてるんだ俺は
「こほん……えーと、それで……だいぶ話が逸れちゃいましたけど、要件ってのは以上ですかね?」
『あ、うん、ごめんね?長話しちゃって』
「いえ、今日は特にこれといった仕事も無いんで……」
〝また〟と言い残して通話ボタンを切ろうとする……が、その直前に伝え忘れていた事があるのを思い出して指を止める
「あの、ニコさん」
『うん?どうしたの?』
「さっきニコさんは〝自分達が大きな悪事に手を染めていたかもしれない〟って言ってましたけど……本当にそうなるくらい追い詰められる事があったらちゃんと周りの人に相談してくださいね?そしたら俺も力にな……れる事は少ないと思いますけど……」
『急に弱気になっちゃったね』
戦闘的な意味では力になれる自信はあるが、それ以外の権力が絡む事になると俺に出来る事なんて一気に限られてくるからな……一般風紀委員は黙っていろ!
「し、仕方ないでしょ……俺に出来る事なんて、アンタらが迷いそうになった時にケツひっぱたく事くらいなんすから」
『……酒泉くーん?それ、女の子に言ったらセクハラになっちゃうよ?』
「え?……あっ!?し、失礼しましたぁ!?」
しまった、対不良用のきたねぇ言葉使いが自然と漏れ出てしまった
これも全部ゲヘナの野蛮な連中のせいだ!アイツらが日頃から口汚く罵ってこなけりゃこっちの身に染み付く事もなかったのによぉ!
『ふふふ……そっか、じゃあ私達も酒泉君にお尻叩かれないように気を付けないとね?』
「ぐっ……そ、その……マジですみませんでした……」
『そんなに本気で落ち込まなくていいんだよ?私のも冗談なんだから……それじゃあ、また今度ね』
「は、はい……また今度……」
己の失態を噛み締めながら終了ボタンを押して通話を切ろうとする
しかし今度はニコさんの方から〝あっ〟という何かを思い出したような声が聞こえ、咄嗟に指を止めた
『酒泉君、さっき〝あまり男をからかわない方がいい〟って言ってたけど……酒泉君も気を付けないと駄目だよ?』
「え?」
『あまり可愛いとか連呼すると、お世辞だと分かってても意識しちゃう女の子だっているんだからね?……こっちだって、余裕がある訳じゃないんだよ?』
「は、はぁ……以後気を付けます」
『うん、そうした方がいいよ……それじゃあ、今度こそまたね』
「はい、作戦当日はよろしくお願いします」
会話を終え、今度こそ通話ボタンを切る
急に静かになる室内、なんとなく周囲を見渡すとタンスから出したての部屋着が見つかり、そういえば着替え中であった事を思い出す
ぷりゃなはスヤスヤ中だがシロコさんは腹を空かせて待っている筈、腹の虫を鳴らしている家族の姿を思い浮かべた俺は後で畳むつもりで既に着ている服を雑に床に放り投げ、何のデザインも施されていない黒色のジャージを着てリビングに向かった
さーて、おいなりさんおいなりさん!ニコさんの作ってくれたおいなりさんめちゃくちゃ美味いんだよなー
「シロコさーん、お待たせ───」
「……あ」
「───ん?」
その前に手洗いをと台所へ向かおうとした途中、テーブルの上に皿に乗せられたおいなりさんが見えた
───ただし、その数7個
「……んん?」
あれれ~?おかしいぞ~?
米粒が付着しているシロコさんの口元を見るに、シロコさんは俺が来る前においなりさんを食べたって事になるよなー?
だとしたら残ってる7個はプラナの分だから……あれれ~?俺の6個は~?
「……その、美味しかったから」
うんうんそうだね、その気持ち分かるよニコさんの作ってくれておいなりさん美味しいもんね
俺が電話してたせいで待たせすぎちゃったのも悪いのかもしれないね、うんうん
「───それは」
───てなるかボケェ!あんな短時間で13個も食ってんじゃねえぞおおおおおお!!!
「それは俺のおいなりさんだあああああああああああああああ!!!!!」
(給食部部長のコメント)ハッキリ言ってあの隊員は女狐、料理が得意なお嫁さん枠はとっくに埋まってんだから話になんねーよ