「どこだ!どこに隠れた!」
「まだ遠くまでは逃げていないはずだ………アリウスの方に連絡して周辺を包囲させろ」
ちょっと遠出したら武装集団に襲われました
いやぁ……人気者すぎて困っちゃうなぁ……
「恐らくこの辺りに………っ!居たぞ!」
叫ぶと同時に俺の隠れていた廃れた倉庫部屋に銃口を向けるカイザーの兵士
攻撃を回避する為に俺は既に撃ち抜かれている脚に力を込め、痛みに耐えながら必死に走る
「今だ!一斉に撃て!」
しかし、その先には一般人と同じような服装に変装したアリウス生達が待ち構えていた
横に跳んで咄嗟に進路を変更し────着地の際に脚の痛みに耐えきれずバランスを崩す
が、片手で倒れそうな身体を支えながらもう片方の手でアサルトライフルを構え、敵の銃を握る手を撃ち抜く
「まだ抵抗する体力が残っていたのか……!」
敵が手を押さえている隙に再び身を隠せそうな場所を探し、そこに入り込む
どうせすぐに見つかるだろうが、ちょっとでも時間を稼いでその間にも打開策を考えなければ
せっかくルンルン気分で遠出したのに、まさかその道中で襲われることになるとは………カイザーからもベアトリーチェからも恨みを買いすぎたか?
自分から人目の少ない場所を探しに行ってたし、奴等からしたら絶好のチャンスだったんだろうな
………クソッ……最悪な遠足になっちまった
でも、それ以上に最悪なのは先生に助けを求めそうになってしまったことだ
敵から一時的に逃れた俺は路地裏に身を隠し、周囲を警戒しながら─────気づいたら先生に連絡しようとしていた
その事に気づいた時には既に遅く、そのまま流れるように通話ボタンを押してしまった
コールが鳴るより前にすぐに終了ボタンを押して中断させるが、その直後に一発の弾丸が視界の奥から飛び込んできた
咄嗟に身を屈めて回避するが、その時の勢いでスマホを地面に落としてしまった
それを回収する暇もなく、此方に向かってきた敵から逃れる為にとにかく色んな小道を経由してここまで逃げ込んできた
………何をやっているんだ、俺は
アビドス、エデン、パヴァーヌ、カルバノグ
それらを無事に終えて色彩襲来のフラグも避けることができた
それなのにここで先生を巻き込んで重傷を負わせてしまったら………最悪、死なせてしまったら………
……せっかくハッピーエンドに近づいたのに、それを台無しにするような真似をしてどうする
テメェが助かりたいが為だけに先生を巻き込むなよ
死ぬなら一人で死ね、中途半端
「……そこに隠れているのは分かっている、これ以上怪我したくないなら大人しく投降するんだな」
周辺を取り囲むような足音が聞こえる
恐らく、このまま飛び出したとしても蜂の巣にされるだけだろう
「まだ抵抗するつもりなら貴様の両手両足を撃ち抜く、上からは〝死んでいなければそれでいい〟と言われているからな」
〝上からは〟………か、そもそもどうしてカイザーとアリウスが手を組んでいるんだ?
さっき考えた通りベアトリーチェとカイザーから恨みを買ったからか?それとも他の理由が?
……まあ、それは今考えても仕方ないことか、とりあえずもうちょっとだけ頑張ってみよう
「……そうか、それが貴様の答えか」
敵の要求に応じず、無言で銃を構える
今から数秒、または十数秒後、俺は集中砲火を食らう
だが、敵の話を聞く限り殺される心配はないだろう、精々行動不能になるまで痛め付けられるぐらいだ
……まあ、出血多量だけが心配だけど
「総員、構えろ」
カチャッという音が周囲から聞こえる
〝せめて楽に気絶できますように〟と自分の為に祈りながら、最後のスモークグレネードを構える
やれることはやった、心残りは無い────いや、一つだけあった
………どうか、先生が助けにきませんように
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通話履歴、応答無し
モモトーク、全て未読状態
インターホン、反応無し
酒泉の家の鍵はしっかりと掛けられている
先生は折川酒泉の自宅の周辺をウロウロと歩き回りながら、未だ反応のないモモトークを開いていた
(全く連絡が来ないなんて……流石におかしいよね……)
数日前の会話通りの行動を取っているのなら、酒泉は土日のどっちかで何処か遠くへ出掛けているはず
だとしても、月曜日になっても帰ってきていないとは考えられない………そもそも酒泉が無言で学校もシャーレもサボるなんてあり得ない
(鬱陶しく思われたくなくて土日はモモトークを送らないようにしてたけど………失敗だったかな)
先生は酒泉の休日に水を差してしまう事を申し訳なく思って連絡しないようにしていたが、それが裏目に出て今のような状況になってしまった事を後悔した
放課後の時間帯になっても全く酒泉からの反応がなく、先生は自ら直接ゲヘナ学園に出向いて酒泉を探しに行った
『酒泉?……居ないけど?』
『そういえば今日はまだ見てないね……』
酒泉のクラスメイトに話を聞いてみたが、返ってきたのは全て同じような話ばかり
最近仲が深まったらしいヒナが所属している風紀委員会にも尋ねてみたが……
『……酒泉?会ってないけど………まさか、彼に何かあったの?』
どうやら折川酒泉は風紀委員会にも顔を出していないらしい
心配そうに先生を見つめるヒナに事情を話すと、彼女は暫く何かを考え込んだ
『風邪を引いて寝込んでいる……とかは?それで先生に連絡できないほど辛い高熱が出たとか……………後で酒泉の家に行ってみよっかな』
ヒナの言ってた通り酒泉が自宅から出られない可能性も考慮して、先生は直接話を聞きに行くことにした
そして現在19時30分、事態は全く進展していない
当番の生徒に事情を説明してシャーレの仕事を切り上げたは良いものの、解決の糸口は何一つ見つかっていない状況だった
最悪の場合、ヴェリタスに頼んで酒泉の持っている端末から居場所を特定してもらおうとも考えているが………
「それは最後の手段にしよう……本物のストーカーっぽいし……」
必要以上に踏み込んで引かれるのを恐れ、未だその手段に踏み出せずにいた
「どうしよう、家に入ろうにも鍵がかかってるし……いや、そもそも勝手に家に入るなんて……」
「……先生?」
「で、でも……生徒の安全を確認する為なら仕方ないよね?今は非常時だし……別に問題ないよね?」
「先生、こんな所で何をしているの?」
「よ、よし……これは酒泉の為……酒泉の為だから────」
「……えい」
「きゃっ………一体誰────え?ヒナ?」
玄関前でぶつぶつと呟いていた先生の首に何者かがスポーツ飲料の入ったペットボトルをピタッとくっつける
突然の出来事に先生が咄嗟に後ろを振り向くと、そこには買い物袋をぶら下げたヒナが立っていた
「どうしてヒナがここに……?」
「その………さっきゲヘナで話したみたいに、もし酒泉が風邪を引いてたらと思って………」
「……看病する為に?」
頬を染めながら無言でコクリと頷くヒナ
袋の中には先程のスポーツ飲料の他に栄養補助ゼリーや冷えピタ、そしてお粥でも作るのかというラインナップの食材が入っていた
「しまった……私も看病用の物を買ってからここに来ればよかった……」
「それなら私がやるから大丈夫」
「そ、そう?それならいいんだけど……」
小さく胸を張るヒナを見て微笑ましさと同時にモヤモヤした何かを抱く先生
しかし、酒泉の姿を直接見ないことには本当に風邪を引いているのかも分からない
………とはいえ、危険な事に巻き込まれているよりはそちらの方がマシだろうが
「それで……酒泉は?家に居た?」
「ううん、インターホンもノックも全く反応無し。モモトークも未読のまま」
「………確かに物音一つもしないね」
ヒナは玄関の扉に耳を当てるが、家の中からは生活音が一切聞こえてこない
「先生、どうする?」
「うーん……もう少しだけ待ってみて、それでも反応がないなら……その……扉を無理やり────」
「あのぉ………さっきからずっと酒泉君の家の周りをウロウロしてますけど、何かあったんですか?」
「……えっ?」
恐る恐る尋ねるような声が聞こえ、後ろを振り向く
そこには怪しむような目で先生を見つめる機械の身体の住民の姿が
「えっと……酒泉君の知り合い……ですか?」
「知り合いっていうか……ご近所ですけど……」
ジッと目を細めて先生をより強く睨む住民
夜中にずっと周辺を彷徨いていた先生を不審者だと勘違いした彼は、直接目的を聞き出そうと先生に話しかけたのだった
先生もそれを察したのか、慌てて弁明をする
「あの、私は決して怪しい者ではなくてですね………実は酒泉君の先生なんです」
「はぁ、先生………え?それってあの〝シャーレ〟の?」
「はい、そうです」
そう言って先生はシャーレの教員証を取り出して住民に見せる
すると、住民は焦りながら頭を下げはじめた
「ご、ごめんなさい………まさか先生だとは……」
「いえ、私の方こそ紛らわしい行動を取ってしまってすいませんでした」
「………あの、結局どうして酒泉君の家の周りを歩き回ってたんですか?」
「えっと……実は今日一日中酒泉君と連絡が取れなくて、何か知ってる事とかあればお教えしてほしいんですけど……」
「知ってること、ですか……うーん……私も最後に会ったのは金曜の夜なので、詳しいことは何も……」
「……金曜の夜?」
「はい、帰宅中の彼と偶然出会って軽く挨拶してからそのまま別れたので………」
住民との会話中に嫌な予感が頭を過り、冷や汗を流す先生
ただの杞憂であってくれ、そう願いながら尋ねる
「あの……土曜日か日曜日、どちらかで酒泉君を見かけたりは……」
「うーん………してませんね。休日の早朝は洗濯物を取り込んでいる時とかよくランニング中の彼を見かけるんですけど、先週はそれもありませんでしたね」
「……い、一度も?」
「はい」
考えすぎか………そんな思考が少しずつ頭から消えていく代わりに〝最悪の可能性〟が新たに浮かび上がる
ヒナも先生と同じ考えなのか、隣で顔を青ざめる
「……ヒナ」
「了解」
先生の一言でヒナはデストロイヤーを構え────そのまま引き金を引いて酒泉の家の扉をぶち破った
「は、はい!?貴女達何をしているんですか!?」
「ごめんなさい!後で事情を説明しますから!」
住民の驚愕する声を置き去りに家の中に入っていく先生とヒナ
酒泉の名前を叫びながら各部屋を探していく途中で取り込まれていない乾き切った洗濯済みの洋服や捨てられていない纏められたゴミ袋などを見つけた
寝室には綺麗に畳まれている制服やノートの入ったスクールバッグが置かれており、起きてすぐに登校の準備ができるようにされていた…………にも関わらず、酒泉は登校していない
「ヒナ!酒泉は!?」
「駄目……どこにも居ない」
全ての部屋を回り終えた二人はリビングで合流し、状況を確認する
「家の中はほんの数日程度放置されたような感じがするけど………もしかして何処かに泊まりに行ったとか?」
「だとしても先生に連絡しない理由は?」
「だよね………休むにしても流石に一言くらい入れると思うけど……」
「行き先さえ分かれば直接迎えに行けるんだけど……」
「……それなら、そこにあるノートPCでも見てみる?」
先生が指差した先のテーブルには真っ白なノートPCが置かれていた
「……なるほど、もしかしたら出掛け先のことを事前に調べているかもしれないってことね」
「うん、だから検索履歴を辿れば………」
「……もしノートPCじゃなくてスマートフォン等の携帯端末で調べていたら?」
「その時はヴェリタス………私の知り合いに頼んでなんとかしてみるよ」
目を逸らしながら答える先生
ヒナはそんな彼女を見て何をどうするつもりなのか尋ねたくなったが、今はそれどころではないとノートPCに向き直る
「……よし、開いた」
「履歴の中にあるそれっぽいサイトは全部確認していこう」
早速一番新しい検索履歴を開くと、表示されたのはとある植物園のサイトだった
聞いたことのない名前にネット初期のような少々古いホームページ、このことからあまり有名な施設ではないと先生は判断した
(あまり人目のつかない場所………やっぱりヒナの為に調べてたんだね)
先週の会話を思い出し、もしかしたらと考えていた先生は〝これなら酒泉の居場所を特定できるかもしれない〟と歓喜する
他にも目ぼしいサイトを見つけては片っ端から写真を撮り、少しずつ情報を集めていく
条件は色んな施設やお店のサイト、範囲は金曜日から日曜日までの三日間の間に調べたもの
それらの中から更にブックマークと照らし合わせ、情報をより鮮明にしていく
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「よし、ある程度集まったかな?………協力ありがとね、ヒナ」
「気にしないで、私も酒泉のことが心配だし………次はどうするの?調べた場所にこのまま向かうの?」
「うん、とりあえずすぐにでも車を出して……」
「それなら私もついていくわ」
「……いいの?」
「万が一に備えて戦力はあった方がいいでしょ?」
「……うん、それじゃ行こっか!」
駆け足で家から出ていく二人
外で待っていた近隣住民がそれを困惑しながら見つめる
「あの……酒泉君に何かあったんですか?警察とか呼んだ方がいいのでは……」
「警察………そうだ!ヴァルキューレにも今のうちに連絡を!」
先生は焦りながら鞄からスマホを取り出して画面を開く
「……あれ?連絡?」
「どうしたの?先生」
「あ、いや……ちょっと待ってね」
すると、画面に映し出されたのは複数の着信履歴とモモトークのメッセージ
酒泉のことに集中しすぎた先生は鞄の中で震えるスマホの存在に気づかずノートPCを触り続けていた
一体何事かとモモトークを開き、最新のメッセージを確認する
送り主は………
「……ナギサ?」
《助けてください、ミカさんが姿を消しました》
「…………………はい?」
ちなみにノートPCをいじられた際にパソコン内の〝酒泉コレクション〟も見られています、つまりどっちにしろ酒泉君は死にます